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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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残りの戦力

康太は同時に二種類の魔術を扱うという事を未だ苦手としていた。正直言えば集中を維持しなければまだ複数同時に別の魔術を扱うのは少々手間取ってしまう。

だが今はそう言う事を言っていられる状況でもないのだ。


意識を集中し、自らが纏っている魔術師の外套に蓄積の魔術をかけると一直線に廃材の暴風雨の中へと突っ込んでいく。


体に当たりそうな部分は槍や盾を駆使して防御し、防御しきれない部分は外套が直接受け止めていく。


魔術によって物理エネルギーを蓄積する状態にある外套は康太の体に打撃を通すこともなく康太を難なく暴風雨の中心へと誘導した。


暗闇の中、さらに黒い瘴気に囲まれた空間でも、相手は康太が自分の下に突っ込んできたという事を理解したのだろう。


周囲の廃材を操って攻撃しようとするも、康太はすでに相手の懐に入り込んでいる。

この状況で範囲攻撃をすれば自分自身も巻き込みかねない。そして何よりあの攻撃の中を突っ切ってきたという事実と、目の前に槍を持った魔術師がいるという視覚的な恐怖が相手の動揺を誘った。


こうなってしまえば、もう康太の思うつぼだ。自らの槍を操り相手の脚部へと斬りかかり深刻なダメージを与えると遠隔動作の魔術を用いて魔術師を引き寄せ、再現の魔術を発動しその体に何十もの拳を叩き込んでいく。


体に何十発も拳を受け、その何発かが急所に命中したのか、魔術師は首を大きく前後させるとそのまま意識を失いその場に倒れ込む。


それと同時に周囲に舞っていた廃材が念動力による制御を失い、舞っていたスピードのまま周囲へと投げ出されていく。


主力と言えどこの程度かと康太は若干安堵しながらその場を後にし小百合の元へと走り出す。康太がこのように比較的迷わずに行動できたのは事前に情報を得ていたのが大きいだろう。ある程度対策をしてなおかつある程度予測できていたからこそ戦術を立てやすかった。そう言う意味では情報量の違いこそが今回の戦いの大きな差だったと言っていい。


どの程度小百合が進んでいるのかはわからないが、あまり先に進んでいないことを祈りながら先程まで自分たちがいた道にやってくるとそこには数十メートルほど進んだ小百合が真理と共に歩いていた。


どうやら真理の方も早々に勝負をつけて戻っていたようだ。


「遅かったな。真理は一分もかからなかったぞ」


「さすが姉さんですね。自分の方はちょっと手間取りました」


「そうでもありませんよ。相手が本気を出す前に倒すことができたというだけの話です。ラッキーでしたね」


魔術師の戦闘というのは運が良ければ一瞬で終わる。特に相手が真理や小百合と言った普通ではない魔術師を相手にした場合そう言う事が起きる。


魔術師は良くも悪くも戦いを神聖化、あるいは儀式的なものととらえる節がある。言い換えてしまえば決闘にも近い状況だと勘違いする場合があるのだ。


相手とこちらが魔術を放ちあい、自分と相手の魔術師としての格を競い合う。完全な格上格下ならばこういった図式は成り立たないだろうが、相手が同格であればあるほど自らの魔術を競いたがる。それが魔術師だ。


もっとも、小百合をはじめとするその弟子二人にはその図式は成り立たない。何故なら相手を倒すことを至上目的としている戦い方をするために相手が本気を出す前に、不意打ちに近い形で戦闘を終わらせることが多々あるからである。


相手からすれば邪道などと揶揄されることもあるかもしれないが、戦いにおいて不意打ちやだまし討ちなどはむしろ常套手段だ。


そう言うところは魔術師の悪いところでもあり、康太たちからすれば有難いところでもある。


「あと主力三人・・・次は二人ですかね?」


「たぶんそうでしょうね。師匠には今度は下がっていてもらったほうがいいかもしれません。先に進まれると相手も別の手を打ってきそうなので」


「私は先に行くぞ。お前達ががんばればなんとかなるだろうが」


あくまで自分は自分で勝手に動くから露払いは全てお前達に任せるというスタンスを変えないつもりらしい。


康太と真理は互いに目を合わせた後でため息をついてしまう。


今度でてくるのは先程と同じく二人だろう。もしかしたら三人出てくるかもしれないがその場合はあらかじめ打ち合わせておいた通り二人を真理が担当し、残る一人を康太が担当することになる。


速攻で康太が一人を片付け、真理の援護に行くというのが理想だろうが、相手がどのように動くかによってはある程度立ち回りを変えなければいけないだろう。


特に小百合が勝手に動く場合は小百合の護衛も務めなければならない。


自分より強い人を護衛するなどどういうことだと康太は嫌になりつつもこちらに向けられる視線を感じながら目を細めた。


「姉さん、そっちの方もずっと見られてましたか?」


「えぇ、こちらも変わらず見られていましたよ?そのおかげでどの魔術を見せようか迷ってしまいましたが、とりあえず見られても困らない類の魔術を見せました・・・ビーは?」


「俺は見ても分からないようにしました。あと二人しかいないならもう手の内を隠す必要もないかなと・・・」


先程康太が見せたのは肉体強化、蓄積、再現、遠隔動作の四つだ。だがその四つの中で確実に見られた魔術というのは実は存在しない。


なにせあの廃材の暴風雨の中心で見せたものもあれば、何をしていたのか見てもわからない類の魔術ばかりだ。


もともと康太の使う魔術は見ても何をしているのかわからないものばかりだ。相手に情報を与えないような使い方をすればはっきり言って何をどうしているのかわかる人間は一握りしかいないだろう。


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