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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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康太奮闘

康太たちが廃屋の並ぶ地帯に入り込むと、康太たちは自身に向けられる二つの敵意に気が付くことができた。


この時点で康太と真理はよかったと安堵しながらその視線の先をたどっていく。

建物の脇、横道と言えばいいだろうか、それぞれ一人ずつがこちらにゆっくりとやってきているのがわかる。


今までの魔術師と同様能面に近い仮面をつけており、彼らが京都の魔術師であるということがわかる。


「ジョア、ビー、任せるぞ」


「了解です。師匠は先に行っていてください」


「あんまり先に行き過ぎないでくださいよ?追いつくの面倒なんで」


「わかった。ではのんびり歩いていくことにしようか」


小百合が言葉通り少しゆっくり目に歩いていこうとした瞬間、両脇にいた魔術師二人が小百合にめがけて攻撃を仕掛ける。片方は念動力を使い周囲の廃材を小百合めがけて飛ばし、もう片方は小型ではあるが竜巻を発生させそこに僅かにではあるが氷の刃を混ぜ込み周囲のものを切り刻みながら小百合へと向かわせる。


だが小百合は最初からその攻撃に反応するつもりはなかった。


全く眼中にないとでもいうかのように真っ直ぐに、ゆっくりと歩を進める。


そしてその攻撃と小百合の間に康太と真理は自らの体を滑り込ませた。


康太は障壁の魔術と自らの槍を駆使して襲い掛かる木材をすべて打ちおとし、真理は襲い掛かる氷の礫を含んだ竜巻に向けて、炎を混ぜ込んだ竜巻を発生させ完全に相殺してみせた。


「なに勝手にうちの師匠に手ぇ出してんだコラ」


「申し訳ありませんがお相手は私達がさせていただきます」


康太は念動力を使った魔術師を、真理は竜巻を使った魔術師をそれぞれ睨みながら互いに小百合に近づけさせないようにそれぞれの相手に肉薄する。


小百合の近くにいられるとわざわざ小百合を守るために魔術を行使しなければいけない。それは非常に面倒だ。


康太が肉薄しようと走る中、相手は距離をとりながらこちらに向けて近くにある石や廃材などを念動力によって投擲してきた。


しかも自身の肉体も念動力によって操作しているのだろう、ただ後方へ動いているだけなのに明らかに重力を無視した挙動をとっている。


だがそれもずっとではない。要所要所で跳躍したり、着地点をずらしたり後方への加速などに利用している程度だ。


こちらへの攻撃に処理を割いている分自分への動作は最低限に抑えていると考えて間違いないだろう。


襲い掛かる廃材を回避しながら康太は何とかして近づこうと槍を駆使しながら廃屋の屋根や壁を足場代わりに駆けまわっていた。


相手との距離がそこまで離れているというわけではない。康太が攻撃を意図的にしていないのは未だ康太に向けられている視線が原因である。


こちらを観察されているのだ。


先程までメインで戦っていたのが康太だからこそ、そしてあの黒い瘴気を出し四人を一気に片づけたという事実を持っているからだろうか、先程から康太の方に強い視線を感じる。


もしかしたら真理の方にも同様の視線がへばりついているのかもしれないが、この視線を浴びながら自分の手の内を晒すような真似は可能ならしたくなかった。


なにせまだ主力級は二人以上残っているのだ。まだこの場では実力を見せることはあっても手の内は見せたくない。


だがいつまでもこうして追いかけっこというのは性に合わない。となれば康太がやるべきことは一つだ。


視覚的に何をしているのかわからない行動をとればいい。


康太は意識を集中しながら相手の一挙一動を観察し、自らの懐に手を入れその手にナイフを握り込む。


相手の位置とその動き、そして相手の体の位置を正確に把握しながら康太は外套の中でほんのわずかにナイフを突き立てるような動きをした。


相手の魔術師が着地しようとした次の瞬間、康太が追っていた魔術師の足から血が滲みだす。


遠隔動作によって着地するその位置、そしてその関節に向けて康太はナイフを突き立てた。


遠隔動作は自らの肉体だけではなく、その肉体がもつ道具にも適用される、再現の魔術の遠隔版のようなものなのだ。


ただ動いている敵に対して確実に当てることができるかどうかは賭けだった。だがこれで相手は動きを止めた。


康太は肉体強化の魔術を自らに施し一気に距離をつめようとする。


だが正体不明の攻撃を受けて相手もただ黙って康太を近づけさせるつもりはないようだった。


周囲にある廃屋を巻き込みながら自身の周りに強引かつ無茶苦茶な防壁を作り出して見せた。


腐った木や錆びた鉄材などもあるために見た目はだいぶ悪いがそれでも物理攻撃を多用する康太にとってかなり厄介な部類のものであることに違いはない。


あの魔術師を包み込むように作られた防壁、ちょっとやそっとでは破壊できそうにはないが破壊する必要すら康太にはなかった。


康太は自らの盾の一部分を外すと防壁に押し付ける。


次の瞬間康太の盾の中から少し大きめの鉄球が木々の防壁に向かってまるで散弾銃のように放たれていた。


康太の新装備である『ハニカムの盾』の仕掛けとは実にシンプルだ。この盾はいくつかの装甲を重ねるようにして成り立っている。そしてその装甲の中でいくつかの正六角形の内側には蓄積の仕込みを終え進行する部分をほぼ正面に向けた鉄球が装着されている。


以前使った地雷型の鉄球マットと原理は似ている。そして盾の中に仕込まれている鉄球の種類は大きく分けて三つ。


小型の対人用。中型の対生物用。そして大型の対物用だ。


鉄球の大きさが大きくなればなるほど中心の六角形の構造内部に仕込まれている。


今回は腐っていたり廃材があるという事もあって中型の対生物用のものを使ったが、どうやらその効果は覿面だったらしい。


念動力によってドーム状に展開されていた廃材の盾が周囲へとまき散らされていくと、その先には肩と足から血を流している魔術師の姿を見つけることができた。


廃材や錆びた鉄材によって放たれた鉄球のほとんどは防がれてしまったようだが、そのうちのいくつかは威力が減衰されながらも相手の体にしっかりと命中したらしい。


康太からすればあまり良い成果とは言えないかもしれないが、相手の足に命中したというのは僥倖だった。


これで相手は足に二か所の負傷をしたことになる。念動力の移動を差し引いてもすでに機動力で完全に康太が勝っている。


相手もそれがわかっているのか、周囲の廃屋で使われていた木材を無茶苦茶に周囲にまき散らし、まるで竜巻のように回転させている。


どうやら徹底的に康太を近づけさせないつもりのようだ。相手も康太が近接戦闘、あるいは接近することでしか決定的な一撃を放つことができないと勘付いているのかもしれない。


実際康太は近接戦闘の方が得意だし、近接攻撃による決定打しか持たないのも事実だ。


だが相手がこうして足を止めているのであればやりようはいくらでもある。


まだ視線は向けられている。こちらの手の内を明かさずに相手を倒すならここが勝負どころだ。


康太はDの慟哭を発動し体の中から黒い瘴気を噴出させる。


廃材の暴風雨の中心部へと黒い瘴気を集中させると同時に康太は自分の周りにも黒い瘴気を纏わせ始めた。


見えていようといなかろうと、この時点で既に康太たちがやろうとしたことは成功している。


康太は意識をほんの少し集中すると黒い瘴気を使って相手の魔力を吸い取り始めた。


魔力を吸いとる。魔術師にとってこれほど相手に圧力をかける行動もないだろう。


魔術を使うものにとって最も使用頻度の高い魔力を奪われているのだ。奪われる方からすれば相手にとってアドバンテージを与えていると同時に、自分自身が不利な状況に追い込まれているということに他ならない。


戦闘において、互いの魔術師が取る手段というのは相手の能力や特性に応じて変化するものだ。接近戦が得意な相手であれば距離をとろうとし、逆に遠距離戦が得意な相手であり、自分よりも遠距離戦が得意なようであれば攪乱のために機動力を用いて戦おうとする。


康太が取ったこの行動は、どの相手にも通用する万能策と言えるだろう。


それは魔術師相手であれば実質的なアドバンテージになると同時に、相手に心理的な圧迫感を与えることができる。


もし相手が無傷の状態であれば、魔力を吸い取られるその距離を把握しようと康太から離れようとするのだろう。


だが既に足を負傷した魔術師にとって康太から逃げることは、距離をとることは容易ではない。


ここから離れたいのに離れることができず、しかも黒い瘴気のせいで康太の姿が見えずどこを攻撃すればいいのかもわからない。


さらに言えば広範囲な魔術で辺り一帯を攻撃したところで無駄な魔力を消費すれば自分自身の首を絞めることになりかねない。


だからと言ってこのまま相手を近づけさせないだけでは状況は変わらない。だからこそ次の一手を確実に打つ必要がある。


どこにいるかわからない敵に対して、確実に自分にとって有利になる攻撃。そしてなおかつ自分のこの不利な状況を覆すことができるような攻撃。


相手が取る行動は実にシンプルだった。


魔力を奪う魔術というのは皆一様に制限が大きい。その中でも最も大きな制限は効果範囲の短さだ。


ほんの数メートル。長くても十メートルに満たない距離で魔力を奪うしかないその特性をこの魔術師は知っていた。


だからこそこの一帯に康太がいると確信していた。


故に魔術師は自分の周囲にあった廃屋の密度を若干下げてでも、廃屋による豪風雨の範囲を広げ三百六十度すべての範囲に攻撃を仕掛けていた。


距離と範囲が広がったことで若干消費魔力は増えるが、それでもまだ供給の方が勝っている。


だいぶギリギリの綱渡りになるがそれでも康太を追い詰めることができるのであれば取るだけの価値はある手段だ。


少し余裕ができたなら応援を呼ぶことも考える必要があるだろう。


だが当然、康太がそんなことをさせるはずがなかった。


相手は攻防一体の動作の密度を下げた。これこそ康太が望んでいた状況である。


相手の視界を奪う事で自分の位置を悟らせないようにする。相手が索敵用の魔術を有していたのであればそれはそれで炸裂障壁の魔術を使うつもりだったが、相手がそう言う類の魔術を持っていなかったのは幸いだった。


康太は意識を集中して自分の体に肉体強化の魔術をかけると大きく深呼吸した。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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