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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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京都のお家事情

「その藤原のはぐれ者どもの詳細はわかるか?拠点、数、武装、傾向、知っている限りすべて話せ」


「はいはい。そのはぐれ者ってのは藤原の『ミキクラ』歳は三十五、藤原の家の中でも中堅クラスの実力は持っていた奴や。まぁ実力はあっても人望の方は微妙やったらしいけど」


「そのはぐれ者についていく輩は少ないという事か」


「まぁそこまで多くはないわな。総勢十五人、しかもその中で藤原の人間はミキクラ以外には一人だけ、それ以外は下部組織に奴もいればフリーの奴もおる。ある程度実力もある奴もいればほぼ素人同然の奴もおる。文字通り烏合の衆って感じやな」


「・・・そんな輩に昭利さんが簡単に誘拐されるとも思えんが・・・あの人がその程度の輩に後れを取るとは思えん」


小百合の知る土御門昭利という男は戦いを好むタイプの人間ではないにせよ戦うことができないタイプの人間ではなかった。


仕方がない時は自ら魔術を行使して戦ったこともあったし、何より小百合自身も何度か手合わせをしたことがある。そんな人間が数だけ用意した魔術師相手に後れを取るとは思えなかったのだ。


それに昭利だけならまだしもあの場には警戒に当たっていた他の魔術師も多くいた。主に索敵が得意な魔術師だけだったのかもしれないがそれにしてもほぼ一方的にやられるというのは違和感を覚える。


「何かしら事情があったんと違うかな?お前の言う通り後れを取るような人やない。どんな事情があるのかはわからんが油断できる奴らやないってことは覚えとけ」


「ふむ・・・で?そのミキクラとやらの実力は?」


「さっきも言ったとおり中堅どころってところやな。お前なら負けることはあらへんやろ。ただ懐に入るのは苦労するかもしれんな。射撃系魔術と予知の魔術を組み合わせて上手く距離を取るタイプや」


典型的な京都魔術師って感じやなと付け足しながらアカヒソラソラはため息を吐く。


京都の魔術師が得意とするのは未来予知だ。それこそ時代をいくつもさかのぼって陰陽師という存在がいたころから使い古されてきた魔術もある。


そう言った未来予知を駆使して相手の動きを知り、同時に攻撃することで相手と距離をとり続ける。それが京都の魔術師の定石ともいえる戦い方の様だ。


だがその程度なら小百合が後れを取ることはないと康太も真理も確信していた。


小百合はそう言った相手とも戦闘経験がある。自分たちがフォローできるかはさておき負けることはまずないだろう。


「十五人の内もう一人藤原がいると言っていたな?そいつは?」


「こっちの方は藤原の中でも割と有名な方やな。藤原のカツキチ、ごっつい体した典型的なインファイターやけど射撃戦もできる。近接と中距離を使い分けられるいい魔術師や。ぶっちゃけ実力はこっちの方が上かも知れんな」


「・・・だが頭目はあくまでミキクラなんだろう?」


「せや・・・何であんなのに付き従ってんのかわからんくらいやけどな。まぁとにかくそんなところや。他の連中の情報も一応教えとくか?実力それぞれ把握できてるのは五人くらいやけど」


フリーの人間を引き連れているという事もあって情報自体が少ないのか、申し訳なさそうにしているが小百合は首を横に振った。


「私はいらん。私はミキクラを相手にする。他の連中は弟子二人に任せることにする」


「ちょ・・・お前正気か?十五人の内十四人を二人で相手しろいう事やろ?さすがにスパルタすぎるやろ」


「今回のこいつらの仕事は私の露払いだ。それにそれだけのことができるように鍛えてきた。何も一人ずつ相手にしろとは言わん、連携すればそれくらいできるだろう」


お前らの師匠こんなこと言ってるけど本当にいいのかと考えているのがわかるくらいにアカヒソラソラは康太と真理の方を見てくる。


もはや小百合の無茶ぶりは慣れたものだ。それに最初からこういうことになることはわかりきっていた。今さらそれをやれと言われても何も変わらない。


「どうせなら俺たちはその周りの連中の情報が欲しいですね。どんな奴がいるのかわかればどいつを優先的に倒せばいいのか把握できますし」


「そうですね。聞けばある程度実力のある人もいればほぼ素人の人間もいるとか・・・それなら実力者を最初に倒して後の掃除をするというのが楽でしょうか」


小百合の無茶ぶりに全く動じずにすでにどう行動するかを決めようとしている弟子二人に、アカヒソラソラと晴と明は目を丸くしていた。


普通はこういう反応をするものなのだなと康太と真理はいまさらながら自分たちの置かれた環境の悪さに苦笑いしてしまうが、それももう何度したかわからない笑いだった。


「なんというか・・・お前の弟子らしいというか・・・不憫やなぁ・・・わかった。こっちの情報に関しては欠落も結構あるし、サービスしとくわ」


「本当ですか?ありがとうございます」


「なんかすいません・・・ありがとうございます」


「ええんや・・・これからも頑張るんやで?こんなのが師匠やといろいろ苦労するやろ?何かあったら俺に連絡しいや」


そう言いながら康太と真理に自分の連絡先を教えるアカヒソラソラを見て小百合が眉間にしわを寄せているのはもはや言うまでもないだろう。


目の前にいる人間に対してこんなのよばわりというのはあまりにも失礼だ。


もっとも、小百合相手だからいいと思っている節があるのかもしれないが、どちらにせよ小百合が不機嫌になるだけの材料はそろってしまったのは言うまでもない。


自分の待遇の悪さというか、周りの扱いの悪さについて一度考えるべきかもしれないなと小百合は料理を口にしながら舌打ちしていた。


康太たちが魔術師の情報を教わっていると、その場にいた明の携帯が震えだす。どうやら着信の様で相手が誰か見たとたんに明は焦りながら通話を開始していた。


「というわけや・・・参考になったか?」


「・・・えぇ、ありがとうございます。とりあえずその五人に関しては対抗策が練れそうです・・・あとは残りの連中か・・・」


「問題を後回しにするというのは趣味ではありませんが・・・この場合致し方ありませんね。とりあえず潰せるものから順次潰していきましょう」


康太と真理が相手への対策を練っている中、電話をしていた明が全員の方を見渡して何やら合図をしてくる。


一体なんだろうかと思っていると通話を終わらせ、一息ついた後で口を開いた。


「あの・・・藤原の家の今の状況が大まかにですがわかりました」


「・・・あぁ、さっき言っていた仲のいい奴からの情報か。それで?向こうは今どういう状況なんだ?」


アカヒソラソラによってあらかたの事情は察しているが、家の内部がどのような考えを持っているのかまではわかっていない。


その状況がわかればいろいろと利用できそうなだけに知るだけの価値はある。


「さっき情報屋さんが言っていたように、そのミキクラ一派が本家の意向に反して勝手に行動を起こすことが多くなってて、本家も頭を痛めているそうです。無理やり手を出そうにも今は他の家ともいろいろもめていて手が回らなくて・・・」


「・・・そのあたりはこいつから聞いた情報通りだな。それで?それ以外には何か言っていたか?」


「はい、本家にももうおじさんが連れていかれたってことは伝わってるらしくて、かなりの騒ぎになっているらしいです。うちの家と本格的に争いを起こしたくないから可能な限り秘密裏に、あるいは自然に解決するのが好ましいと思っているらしくて・・・」


「秘密裏・・・か・・・もうすでに土御門の本家の方には話が通っているというのに悠長なことだ」


すでに土御門の本家に知られている内容にもかかわらず秘密裏に事を終わらせようという時点でだいぶ反応が遅い。


そして何より自然に解決するという考えが随分と甘い。康太はこの状況が自然に解決するとは思えなかったのだ。


「藤原の本家は今回の件を完全に無視するつもりの様です。もし何かあってもミキクラ一派はすでに藤原の人間ではないと主張して土御門からの責任を逃れるつもりなんだとか」


「まるで政治家のやり取りのようだな・・・静観していたところで事態が変わるわけでもあるまいし」


「藤原とうちの家の正面衝突を避けたいと思っているのは向こうも同じようです。だからこそそれぞれの家ではない第三者が解決してくれることを向こうも望んでいるのだとか」


「・・・まるで私達にその役を押し付けようとしているかのようだな」


「・・・はい・・・たぶん向こうもこっちの・・・あなたたちの事情をある程度キャッチしているんだと思います」


明の言葉で小百合も、そして康太も真理も今の状況と藤原の家が何を考えているのかを理解しつつあった。


つまり今回の件、藤原の本家は何も関与していない、あるいは存在そのものを知らなかったことにするつもりなのだろう。


自ら対処すればその責任を取らされかねない。だが自分たちが関与する前に土御門の家とも違う第三者が解決してしまえばすべてなかったことに、あるいはそんなものは知らんと突っぱねることができると思っているのだろう。


だが実際どちらの家も正面衝突はしたくない。互いに派兵すればその場で戦いが起きる可能性は低くない。


だからこそ互いに手が出しにくい状況だ。しかももし手を出せば藤原の家なんかは先程から話しに出ていた加茂の家からの横やりを受ける可能性だってある。


そうなってくると話がよりややこしくなる。だからこそこの場で唯一何処の勢力にも属していない魔術師の存在が必要不可欠なのだ。


そして都合よくその魔術師はここにいる。小百合という魔術協会においてもあまり立場がなく、なのに実力はある『デブリス・クラリス』が。


「まったく不愉快だ。いっそのこと攻撃対象をそのはぐれ者どもから藤原の家全体に変えてやろうか・・・」


「そんなことしたら俺らの身がもちません。ていうか一応土御門も藤原も邪魔するつもりがないってわかっていいじゃないですか。むしろその方が余計なこと考えなくて済む分楽ですよ」


「そうですね、変に援軍とかあるとそれが敵かどうか把握するのが面倒ですし、私達だけの方が戦い自体は楽に進められると思いますよ?」


戦いにおいて最も危惧するべきなのは戦いの途中で現れる第三勢力の存在である。


伏兵と言い換えてもいいかもしれないが、すでに存在している敵兵の存在よりも姿を隠していた存在の方が戦況に与える影響は大きい。


それが味方であればうれしいのだが、生憎今回の場合敵にもなりえるからこそ面倒なのだ。今回の状況ではまず伏兵が敵か味方かを判断しなければならない。そう言う意味では最初から邪魔が入らないというだけありがたいことだった。


「まぁ確かに、藤原の家が干渉してこないというのは吉報でもある。今夜のうちに仕掛けるか・・・こちらの準備も整えたい」


「本気なんやな・・・ほんとに同情するわ・・・」


「それはどっちにだ?こいつらにか?それともそのはぐれ者たちにか?」


「んなもん決まっとるやろ。どっちもや」


その言葉に違いないなとその場にいた全員が同意する中、小百合だけはため息をついていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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