情報を扱うもの
康太たちがやってきたのは京都の南西部のある店だった。
一見すれば居酒屋のような外見をしており、まだ昼間だというのに営業中の札が出ている。どうやら酒もすでに出しているようで、そう言う店なのだなと納得しながら康太たちは一度トラックを適当な場所に駐車させると中に入っていった。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「五人だ、個室を用意してくれるか?」
「かしこまりました。喫煙席と禁煙席どちらがよろしいでしょうか?」
「禁煙だ。タバコは酒と一緒には遠慮したくてな」
何事もないただの会話のように聞こえたが康太と真理は小百合のこの台詞に違和感を覚える。
そもそも小百合はタバコなど吸っていなかった。酒とたばこは一緒にはダメなんてそんなことを言う人間ではない。
「かしこまりました。お通しはいかがいたしますか?」
「甘いものをくれ、できればあんこを使ったものがいい」
「かしこまりました。では奥の部屋へどうぞ」
小百合が訳の分からない問答をした後で通された部屋は六人が座ることのできる部屋だった。
一体先程の問答に何の意味があるのかと疑問を持ちながらのれんのようなもので外から遮られた部屋に入りそれぞれ席に座ると盆に水の入ったグラスを持った人物が現れる。体格からして男性だろうがその人物は顔を布のようなもので隠しており彼がまともな店員ではないという事はすぐにわかった。
「やぁ久しぶり。こっちに来るとは思うとらんかったわ。お前の事やから敵に突撃しとんのかとばかり」
「私の弟子に止められてな・・・それにしても相変わらず妙な合言葉だ。もう少しまともなものはないのか?」
「何いうとんの?お酒にあんこは鉄板やん?お前相変わらずセンスないな」
「黙れ。すでに事情は察しているようだな?」
「当たり前や。なんだか面倒なことに・・・まぁいつもの事か?」
ぬかせと小百合が悪態をつきながら男性から水の入ったグラスを奪い取ると入っていた氷をかみ砕きながらにらみつけ本題に入ろうとしていたが、それを後ろから入ってきた女性店員が遮った。
入り口で小百合に応対した女性だった。康太たち全員を一瞥した後で小さくため息をつくと持ってきた料理を男性に渡す。
「店長、お店の方三十分はしめとくんでさっさと終わらせてくださいよ?」
「それはお客さん次第や。まぁこいつのことやからさっさと終わるやろ」
男性は受け取った料理を康太たちの座っているテーブルに出しながら自分自身も座ると頬杖を突きながらかっかっかと妙な笑いをして見せる。
「さて・・・まずは自己紹介しとこか。お久しぶりと初めまして、デブリス・クラリスの弟子達・・・っと、あと土御門の双子ちゃんもやね。妙な組み合わせやけど・・・今回のことに関していえば当然か・・・俺は『アカヒソラソラ』・・・一応言っとくけど術師名やで?」
アカヒでもソラでも好きに呼んだってやと何が面白いのか笑いながらそう言う中、小百合は眉間にしわを寄せながら出してきた料理を箸でつまんでいる。
「あの・・・師匠・・・この人が情報屋なんですか?」
「あぁ一応な。こいつの店で合言葉を言うのがここで情報を買う合図なんだ。もう少しまともなものなら良かったんだが・・・」
「誰もが使うような言葉やったら誤解してまうやろ?そのあたりは自負しとる・・・とまぁそんな話はええんや。自己紹介したんやから君らも自己紹介してえな」
自己紹介と言われて康太たちは互いの顔を見合わせた後で、まだ名乗っていない中で一番年齢の高い真理に視線を向ける。
「初めまして。デブリス・クラリスの一番弟子『ジョア・T・アモン』です」
「あぁ君がジョアちゃんか。なるほどなるほど。なかなかの別嬪さんやな。いろいろ噂になるのも分かる気ぃするわ。ってことはそっちのが」
「えと・・・デブリス・クラリスの二番弟子『ブライトビー』です」
「ふぅん・・・なるほど君が・・・なかなかの有名人やで?もう界隈で君の名を知らんのは潜りってレベルでな」
「え?・・・なんで?」
康太が本当にわからないといった表情をしたからか、アカヒソラソラは高笑いしながら何言うとんのやと康太の背中を軽く叩く。
「君自分がどれだけすごいことしたかわかってないん?協会で数百年は解決できなかったのをほぼ単騎で解決。これだけの人材噂にならん方がおかしいやろ」
「そう・・・なんですか?」
「・・・ふぅん・・・なるほど・・・謙遜ではなさそうやな・・・おいクラリス、お前一体どういう教育してきたんや?」
康太の反応から、これが嘘でも演技でもましてや謙遜でもないと理解したのか、アカヒソラソラは訝しむような声を出して小百合の方に目を向ける。
「それをお前に言うとでも思ったのか?こいつの事はいい。さっさと本題に入るぞ。時間も限られているようだしな」
小百合が店の外の方に視線を向ける。店を一時的に閉めている状態だ。平日という事もあって客の入りは少ないだろうが、だれかきて閉まっているという事がわかったら少し面倒なことになる。
彼としても客を早いところ入れて稼ぎたいと思うのが道理だろう。
「それもそうやな・・・それで?今回はどんな商品をお望みで?」
商品。彼、アカヒソラソラは情報を商品として扱っている。特に協会、そして連盟の情報を扱っている。
今回のことに関してもすでに知っているようで、小百合の方をまっすぐに見つめ、なおかつ小百合の口から何が欲しいのかを聞き出そうとしているようだった。
「今の藤原の家の詳しい事情、特に土御門の家との関係と土御門『テルリ』とのかかわりなどをすべてだ」
土御門テルリ。それが今回の被害者である土御門昭利の事であるのは間違いないだろう。
晴と明がそれぞれハレとメイと名乗っているように、それぞれ苗字と自分の名を読み替えたものを術師名のような形で使っているようだった。
ほぼ本名のような気がするが、術師名というのは魔術協会の流儀に則ったものだ。魔術協会の勢力圏外のここ京都では割と普通なことなのかもしれない。
「すべて・・・すべてと来たか・・・お前自分が言っとることわかっとんのか?」
「お前なら私に必要な情報を選別できるだろうが。そう言う意味での全てだ。関わりのありそうなものは全部教えろ」
「・・・はぁ・・・ったくその無茶苦茶っぷりは相変わらずやな・・・まぁええわ・・・えっと・・・どこから話したもんかな・・・」
アカヒソラソラはため息をついて頭を軽く掻きむしった後で全員の顔を一度眺めると頬杖を止め真っ直ぐに小百合に向き直る。
「まず、今回お前達・・・いや土御門テルリが襲撃された件に藤原の本家は関わっていない。いや正確には関わろうとしていなかったというのが正しいな」
「関わろうとしていなかった・・・というのはどういう意味だ?」
「最近この近辺が妙にぎすぎすしとんのはお前も知っとるやろ?各家のごたごた・・・というか主に二つの家が妙にもめるようになっとるんや。一つは加茂、そしてもう一つが藤原や」
加茂というのは四法都連盟を治める四つの家の一つだ。つまりその二つの家が妙にぎすぎすしているからこの辺り一帯の魔術師が警戒を高める羽目になっているのだろう。
二つの家だけと言ってもそれぞれのチームが勝手に動いたりすれば他の二つの家も反応せざるを得ない。その為かそれとも他に理由があるのか、どちらにせよ今この京都は非常に不安定な状況にあるのだ。
「それで?関わろうとしないというのは・・・加茂との戦闘を控えているからという事か?」
「まぁ敵を増やしたくないってのも理由の一つや・・問題は藤原の家が面倒事を外にも内にも抱えとるってことやな」
「・・・内・・・?つまり身内同士で争っているということか?」
「その表現は正しくもあり間違ってもいるな。正確にはいう事を聞かんようになった一派がおるんや。本家の連中の意向を無視して勝手に動いとる輩がおる。今妙にぎすぎすするようになってまったのも、そいつらの影響がないとは言えんわな」
組織というのは当然人間の集合体だ。人間がそれだけ多く存在すれば考えが異なるものだって出てくる。
トップの考えを理解したうえでその考えを否定し自らの意志を貫こうとする所謂はぐれ者や半端ものも出てくるだろう。
今回の面倒事はそう言った輩が原因になっている可能性が大きい。
「藤原の人間の仕業ではあれど、藤原本家の意向ではない、そう言う事か」
「現状間違いないやろな。あぁ一応言っとくけどこれは俺の推論や。情報料には含まんから安心してや」
推測とはいわば不確定な情報だ。情報を売買する情報屋としては不確定な情報を提供することはできないのだろう。
彼が提供したのはあくまで藤原の家とその周りの家の状況と今回の事件との関連性に関してだ。
情報屋としてきっちりしていながらも一種のサービスのようなものが垣間見れる。小百合との仲はそこまで浅いというわけではなさそうだ。
「本家の人間は土御門まで敵に回したくはないが、そのはぐれ者どもが勝手に事をやらかした・・・普通に考えれば身内の不始末は身内が片付けるのが道理だが・・・」
「それがそう言うわけにもいかん。そいつらが攫ったのは土御門のテルリや。ただでさえ本家に反抗してる人間が、本家の人間に攻撃でもされてみぃ・・・人質になにするかわかったもんやない。それにそのはぐれ者どもに恨みのある加茂の家の連中を押さえるのに藤原は必死になっとる。今のところ余分な兵隊は出せんのや」
今回の被害者の土御門昭利は土御門の家でもなかなかの発言力がある人間だという。そんな人間を攫っておいて怪我、あるいはもし死なせでもしたら藤原の家は土御門の家に大きな借りを作ることになるだろう。
しかもそのはぐれ者たちのせいもあって加茂の家まで敵対しかけているような状態だ。互いに余計なことをしないように抑えるのが精一杯なのだろう。
土御門の家もそんなぎすぎすしている状態で藤原と一戦交えるようなことはしたくないと考えている。
互いに互いの家の状況を知っているために事態がややこしいことになっている。それぞれが解決したい、あるいは状況を変えたいと思っているからこそ事態が進まない。
組織間での戦いでは度々ある勘違いだが、ここまで見事にはまると恐ろしいものがある。
「まったく・・・ただ商談に来ただけだというのに・・・なんだってこんなことに・・・」
「俺としては狙ってこっちに来てんのかと思ったわ。お前何時も面倒な時期にやってきよる。本当に何も知らんかったんか?」
「ただ単に商品の在庫が尽きたからこっちに来ただけだ。京都の都合なんぞ知らんし知りたくもない」
小百合としても面倒に巻き込まれるのはごめんだと思っているようだが、巻き込まれてしまったからには仕方がない。自分のやりたいようにやるだけだとため息をついてからアカヒソラソラの方を見る。
誤字報告を五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




