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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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土御門の背景

「話がつきました。少し時間がかかりますけど、調べてくれるそうです」


「そうか、じゃあ移動するぞ。お前達は今日何で来た?」


「え?・・・自転車ですけど・・・」


中学生という事もあり誰かに送ってもらうか自転車で自分の足で来るかの二択しかないというのは地味に不便だ。特にこの辺りは交通の便もあまり良くない。


近くのバス停も本数も少ないという事もあり中学生には通いにくい場所だろう。


「ならトラックの中に自転車ごと入れ。さっさとここから移動するぞ」


「あの・・・移動っていったってどこに・・・?まさか藤原の本家とか言いませんよね?」


「情報を収集する前提なのに本家に突っ込んでどうする。まぁそれも選択肢のうちの一つかもしれんがとりあえずそのひとつ前の段階だ」


本家に突撃する選択肢があるのかと、晴と明は眉間にしわを寄せて小百合のことを信じられないといった表情で見つめているが、康太と真理としては安堵するばかりだった。


少なくとも今は本家に突撃するようなことはしないようだし、この間に装備を新たにそろえることくらいはできるかもしれない。


「今明さんの知り合いに本家の様子を窺っているという事は・・・こっちは情報屋を利用するんですか?」


「そう言う事だ。どの程度の情報があるかはわからんが接触しておいて損はないだろう」


情報屋という言葉が出てきたことで康太は首をかしげる。


文字通り言葉通り情報をやり取りする店だというのはわかる。だがこの京都で、しかも京都を牛耳っている四法都連盟の情報を売るような人間がいるとも思えないのだ。


「この辺りの情報屋ってことですよね?身内の情報を売るような真似しますか?」


「身内の情報屋を使うわけがないだろう。私たちが使うのはフリーの情報屋だ。協会の人間はこの辺りには少ないが、この辺りにもフリーの魔術師というのは存在してる。その中で情報を売り買いする奴がいるからそこに行く」


どの場所にもはぐれ者というか組織に属さないやからというものは存在するものだ。そして閉鎖的な場所であればあるほど情報は高く売ることができる。そう言う意味では情報屋というのはこういった場所ではかなりもうけを出すことができるだろう。


当然その分危険も増えるだろうが。


「この辺りにいるんですか?」


「京都の南西部だな。前に一度利用したことがある。以前幸彦兄さんがいろいろと世話を焼いたそうだから多少割引もできるかもしれないな」


門を内側から開け、トラックの中に晴と明、そして二人が乗ってきた自転車を載せると小百合はトラックのエンジンをかけた。


中学生を荷物扱いというのは多少気が引けたが、この状況では仕方がない。トラックではなくワゴンだったなら全員座らせることができたのだろうがと思っていると、真理だけは席に座らなかった。


「師匠、私は二人の様子を見ておきます。何か情報があれば康太君の方に伝えます。何かあった時のためにもなりますし」


「・・・わかった、そっちは任せる。あの二人は丁重に扱えよ」


「師匠にだけは言われたくありませんね。それじゃ」


晴に思いきりアイアンクローをしていた小百合が丁重などという言葉を使っても全く説得力がないが、真理としても小百合がここまで気を使う相手というのも珍しく、あの二人に対して何かしらの行動をとることが自分たちの首を絞めることになるという事はわかっているようだった。


康太も小百合がこういう事を言うのが珍しく目を丸くしていた。


「あの・・・師匠、聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「あの二人って土御門の家の人間なんですよね?師匠はどうやってあの二人と知り合ったんですか?」


運転を始めた小百合にそう聞くと、彼女は目を細めて小さく息を吐いた。昔のことを思い出しているのか、その目は前を向いているのに見るべきものを見ていないようなそんな感じがある。


「私が昔師匠と一緒に商品の仕入れのためにこちらに来たことがあったというのは知っているな?あの二人にはそのときあった。昔から魔術師としての素質が高くてな、土御門の人間も師匠とのつながりを作っておきたいと思っていたんだろう、師匠だけではなく私たち込みで紹介された」


私達というのが小百合、奏、幸彦の三人のことを指すという事は理解できた。恐らく魔術師としての素質が高く、優秀であるということがわかった段階である程度協会の魔術師ともコネを作っておきたかったのだろう。


しかも小百合の師匠である智代はかなりの実力者だ。作っておいて損があるような人間関係ではない。


「あの二人の素質ってそんなに高いんですか?そこまで強いような感じはしませんでしたけど・・・」


「恐らくまだ戦闘能力自体ならお前の方がずっと上だろう。素質の高さのせいで土御門の人間も育て方がだいぶ甘くなっているのかもしれんな。だが素質だけなら恐らく文よりも高い」


「・・・文よりもって・・・あいつ確かAランクでしたよね・・・?ってことはA+ですか?」


「多分な。晴明の名を与えられたのは伊達ではないという事だ。今はまだ未熟さが目立つが、高校・・・いや大学生くらいになれば本格的に頭角を現してくるだろう。もっとも実戦を正しく積めばの話だが」


いくら素質があっても、才能があってもそれを正しく開花させられなければ宝の持ち腐れだ。


練習だけでは実際の戦闘では役に立たない。実際に戦って初めて経験となり自らの実力を高めることができるのだ。あの二人にはまだそれが足りないらしい。


「にしても・・・あの二人がそんなに素質が高いとは・・・ひょっとしてここに来てたのも偶然じゃなかったりするんですかね?」


「さあな、そのあたりはわからんがあの妙な状況は間違いなくあの二人が原因だろうな」


「・・・妙な状況?」


小百合の言葉に康太は首をかしげる。戦闘が行われたという時点ですでにだいぶ妙な状況なのだが、小百合にはあの状況が不可思議なものに見えたらしい。


一体なんだろうかと考えながら二人と真理のいるトラックの後ろに視線を向けるが、何か魔術でも仕掛けたのだろうかという風にしか考えることができなかった。


「気づかなかったか?目撃者がいたというのにそれを何の対処もせずにその場から完全に撤退していた。恐らく戦闘して物資と昭利さんを運び出すのがタイミング的にギリギリだったんだろうな」


「・・・そう言えば・・・ばれないようにするためなら目撃者とかは全員連れていったほうが楽ですもんね・・・でもなんでそんな・・・もしかして藤原の家と土御門の家を衝突させるのが理由ですかね?」


「その可能性もあるが正直可能性は薄いな。まぁそのあたりは情報屋に行ってからはっきりさせるが・・・問題はどうしてそのタイミングで引き上げたかという事だ。その原因があの二人という事だな」


「・・・あの二人が何かしたってことですか?」


再びトラックの荷物のある場所に視線を向けるが、小百合は首を振っていた。あの二人は何もしていない。だというのにあの場の敵は引きあげていった。その意味が康太はよく理解できずにいる。


その場にいるだけで抑止力になるなどとという事があり得るのだろうかと不思議に思えてしまったのだ。


「あの二人は少々特殊だ。その場にいるだけで面倒事を引き上げないと厄介なことになる。たとえたくらみがばれてしまったとしても、あの二人を戦闘に巻き込まないメリットの方が大きいんだ」


「あの場にいただけで?そんなことあり得ますか?」


「ある。さっきも言ったがあの二人は特別だ。分家の人間とはいえその素質は土御門の家の中でも突出している。わかりやすく言えばあの二人のバックには土御門の本家がついているという事だ」


土御門の本家がバックについている。その意味を考えた時に康太はようやく先ほどの言葉の意味を理解した。


要するにあの二人に危害を加えようものなら土御門の家そのものが動くという事だ。


今回攫われたのが昭利ではなくあの二人だったのなら土御門の家は迷う事なく動いたのだろう。家の宝ともいうべき次世代を担う魔術師。それがあの二人なのだ。


「なるほど・・・あぁ、ってことは今回の相手は少なくとも藤原の家と土御門の家を正面衝突させるのが目的ではないってことですね?もしそうなら丁度良くやってきたあの二人に何かしらやったでしょうし」


「そう言う事だ。だが可能性がないというわけではない。正面衝突ではなくある程度亀裂を作ることが目的なのかもしれんし、あの場に目撃者を残したのも何かしらの意味があったのかもしれん。ただ単にあの二人が来たから引きあげたという可能性も否めん」


判断材料が多すぎて絞り切れんなと言いながら小百合はハンドルを切る。ここまで聞いてようやく康太も今の状況を正確に把握しつつあった。


と言っても小百合のいうように判断材料が多すぎてどの推察が正しいのか、どの仮定が正解なのかもわかっていないが、今ある事実だけを考えるのなら今の状況を変えるにしろ把握するにしろ情報を入手することを優先するのは間違いではないように思う。


小百合があの二人を丁重に扱えなどと言ったのはそう言うわけなのだなと康太が先程の台詞にようやく納得できるだけの理由を見つけ疑問が一つ解けた中、ここで一つ康太の中に不安が生じる。


「あの・・・今あの二人はトラックの荷物扱いしてますよね?」


「あぁそうだな。それがどうかしたか?」


「このあとあの二人何処まで連れていくんですか?」


「さあな。あの二人は私達に勝手についてきているだけだ。あいつらがついて来たくなくなるまでついてくるんじゃないか?」


「・・・それって土御門の本家の人間ににらまれたりしませんかね?最悪俺ら戦闘になったりするんでしょ?」


あの二人のバックには土御門の本家がついている。その言葉を正しく解釈するのであればもし二人に何かあれば土御門の家が動くという事でもある。


今回あの二人がついてきているのは小百合を止めるためだ。詩織がどのような思惑をもってあの二人を小百合につけたのかはわからない。土御門がバックについている二人をつけることで小百合の動きを極端に制限する足かせの代わりとして付けた可能性もあるが、どちらにしろその程度では小百合が止まらないのは康太も真理も理解していた。


「・・・まぁそのあたりはあいつらも魔術師だ。自分の身は自分で守るだろう」


「・・・もし守れなくて怪我とかしたら?」


「・・・すべての責任を今回の犯人に背負ってもらおう。私たちは何もしていない、あいつらが勝手に犯人にやられただけ、そう言うことにしておけ」


もうどうしようもないなと思いながら康太は可能な限りあの二人も守らなければならなくなったと今回の仕事の難易度がどんどん上がっていく状況に頭を抱えてしまっていた。


ただ商談するだけだったはずなのに何でこんなことにと思いながら康太は大きくため息をついていた。


荷物を受け取るはずがとんだお荷物を抱えてしまった。こんな状況で戦闘にはなりたくないなと思いながら康太は敵と遭遇しないように祈っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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