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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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商品の行方

「あ?じゃああんたらが今日商談に来るっていう魔術師やったんか!?」


「あぁ・・・どうも面倒なことに巻き込まれたみたいだけどな・・・っといたいた・・・大丈夫ですか?」


康太は負傷している人物を発見すると自らに身体能力強化をかけてから真理のいる場所へと運ぶべく背負って移動し始めた。


「お前らもこの辺りにいる人たちを運んでくれ・・・ってそう言えば自己紹介もしてなかったな。俺は『ブライトビー』魔術協会所属の魔術師だ」


「え・・・あぁ・・・俺らも魔術師・・・けど四法都連盟の所属や・・・『土御門』のハレ・・・あっちはメイや」


「・・・初めまして。よろしく」


ハレとメイ。先程小百合が晴と明と呼んでいたが、どうやら本名の読み方を変えるだけなのがこの京都での魔術師の呼び方らしい。特に四法都連盟の重役である四つの家の所属では。


そして土御門。その苗字に康太は反応する。


今回の商談相手と同じ苗字という事は恐らく土御門の関係者。所謂親戚である可能性が高そうだった。


「お前達は何でここに?遊びにでも来たのか?」


「アホ、おじさんから連絡があって手伝いが必要だっていうから行ったら無茶苦茶になっとって・・・俺らもまだ何がおこっとんのかわかっとらんのや・・・」


「こっちも来たばかりだったの・・・だから細かいことは・・・」


どうやらこの二人は今回の商談相手の親戚で、商談に対して手伝いが欲しくて駆り出されてきたらしい。


そして運悪く、いやこの場合は運よく現場に居合わせたのだろう。


これなら早くこの事態が土御門の家に伝わりそうだ。


晴と明も負傷者を運びながら真理の元へと移動させると、すでに治療を終えたこの家の妻らしき人物が苦しそうな表情をしながらため息をついている。


「ごめんなさい・・・あなたたちを巻き込んで・・・」


「気にしないでください。こういう事が起きるのは想定済みです・・・負傷者はそのあたりに転がしておけ・・・あと晴、明、お前達は家に連絡を付けろ。藤原の人間が昭利さんをかどわかしたらしい」


「・・・ていうかあんたは何なんや・・・俺らの事しっとんのか・・・?」


「・・・会ったことはある。お前達が子供の頃だから覚えていないだろうがな」


そう言いながら小百合は悠々と家の奥へと歩いていく。状況を正確に把握しようにもこの状況では無理だと判断して別の情報源を探しに行ったのだろう。負傷者ばかり残されたこちらとしては状況がさっぱりわからない。


だが今は負傷者の対応くらいしかできることはなさそうだった。


「姉さん、とりあえず負傷者この辺りに置いておきますね。他にもいないか探してきます」


「わかりました。気を付けてくださいね、まだ他にも敵がいないとも限りません」


「了解です。奥さんはこの場で休んでいてください」


康太はその場を後にして早々に周囲の警戒を含めた負傷者の救出を始める。襲撃されてどれくらいの時間が経過しているのかはわからないが、どちらにせよ康太たちにとってあまり良い状況ではないのは確かだ。


まず間違いなく面倒事に巻き込まれた。


康太が家の敷地内を探し回っていると敷地内にあった蔵の門が開いているのを見つける。


誰かが開けたのか、それとも火事場泥棒でもいるのか。後者は考えにくいなと思いながら警戒しているとそこにいたのは師匠である小百合だった。


「師匠、どうしたんですか?」


「・・・あぁお前か・・・どうにもな・・・今回、随分と用意周到に用意されていたようだな・・・」


「・・・どういうことです?」


「ここにあったものがかなり無くなっている。強盗と誘拐と言えば話は早いか?」


「・・・この中に何かあったんですか?」


康太が解析の魔術で蔵の中を見てみると、棚や物を置くべき場所はあってもそこに何か特別なものがあるわけではなかった。


むしろこれだけ立派な蔵なのにおいてあるのは雑品ばかり。そこまで大仰に構えるものでもないように思えてしまうのだ。


「私の記憶が確かなら、あの人は基本的にこの場所にいくつも商品を保管してあった。隠し扉や地下などを駆使してはいたがな・・・そのどれもが無くなっている」


「・・・俺らが来るタイミングに合わせてやってきたってことですか?」


「可能性はある・・・まったく・・・本当に厄介なことを・・・」


「・・・相手はさっき言ってた藤原の家で間違いないんですか?」


「詩織さん・・・この家の奥さんの話では襲撃してきた人間の中に知っている顔が居たそうだ。まず間違いないだろう」


先程負傷していた人も魔術師で、なおかつ状況を冷静に判断できる人間だとするならばその判断は間違いではないだろう。


犯人は十中八九藤原家の人間で間違いない。だが問題はそこから先の部分なのだ。


「・・・家同士の争いになりますかね?」


今回の被害者は土御門、そして加害者が藤原となると康太たちではなく家同士の争いになりかねない。そうなると一個人が口を出していい状況ではなくなる。


「どうだろうな?土御門の本家が腰を上げるか・・・あるいは見殺しか・・・どちらにせよ単純な話にはならないだろうな」


「・・・部外者が口出しする事はないと?」


「バカを言うな。むしろ私たちは今回の件の関係者だ。口は出さずとも手を出す理由はある。というかできた」


照明の少ない蔵の中でもわかるほどに、小百合の目が強い殺意を持っていることが康太も理解できる。


小百合がこの状態になってしまったらもうどうしようもない。康太はため息を吐きながら負傷者を再び探し出した。これはもう諦めるほかないなと思いながら。


「この辺りにいた負傷者はこれで全員のはずです・・・姉さん、大丈夫ですか?」


「えぇ、全員そこまで大した怪我ではありませんでしたからね。それより・・・あっちの方が心配ですよ・・・」


真理が視線を向けた先には一つの部屋があった。ふすまを挟んだ向こう側では先程まで一緒にいた晴と明が声を上げていた。


『んなあほな!おじさんが攫われたんですよ!何を悠長な・・・!』


『父さん、そんな事言わずに・・・なんとかならんの?』


恐らく携帯で土御門の家の方に電話をかけているのだろうが、どうにもあまりよろしくない状況になっているようだった。


互いに立場のある家同士、恐らく余計に手を出しにくい状況にあるのだろう。

たとえ一方的に攻撃されているとしても、だからと言ってやり返せばさらに大きな戦いになりかねない。


恐らく今土御門の家はかなりの緊張状態にあると思われる。


「やはりこういうことになっていたか」


「師匠・・・この人で負傷者は最後です」


「あぁ、御苦労・・・だがこれからもう一仕事することになるぞ」


「・・・わかってますよ。もう諦めました」


「・・・あぁ、やっぱりそう言う話になりますか」


先程の小百合を見ていた康太と、小百合が今纏っている空気からいろいろと察した真理はすでに諦めた表情になっている。


もうどうにでもなれというあきらめの境地だ。小百合を師匠にしてしまった時点でこういうことになるのはわかりきっていた。


小百合は真理が負傷者の応急処置を終えるのを確認すると晴と明が声を上げている襖の向こう側へと向かっていく。


康太と真理もその後に続いていくと、襖を越えた瞬間その場にいた人間の視線が小百合に集中する。


その場にいたのはこの家にいた昭利の妻である詩織。そしてその親戚の晴と明だ。


「やはり本家は重い腰を上げられませんか」


「・・・仕方ないのよ。本家が腰を上げれば藤原の家と正面切って戦わなければいけなくなる。全面戦争だけは避けなければ・・・」


巻き込まれるのは何も家の人間だけではない。その下部の組織も全て巻き込んだ大きな戦闘になるだろう。


それはもはや戦闘ではなく戦争と言ってもいいほどの規模になるだろう。


「そんな!こっちはやられとんのですよ!黙って大人しくしてるなんておかしいでしょう!」


「そうです、せめておじさんは取り返さないと!」


「そう言うのは本家の人間の交渉に任せるべきでしょう。私たちが手を出せば余計に面倒なことになります。むしろ相手はそれを狙っている節すらあります」


「でもおばさんは藤原の人間が犯人だってみとるんでしょ?それなら!」


「私一人の証言と、藤原家全員の証言、どちらが重いと思うの?」


この会話を聞いて康太はようやくこの状況がどういうものなのかわかりつつあった。


恐らく藤原の人間は小百合が商談を持ちかけた情報をどこかで入手したのだろう。商談当日に昭利を襲い物資を奪うと同時に昭利を誘拐。恐らくは誰にも見られずにそれを成功させるのが最高の状況だったのだろうが、その場に手伝いにやってきていた晴と明がそれを防ぐ結果になった。


複数の目撃者を作るよりも撤退することを優先したのだろう。そこに丁度良く小百合たちが現れた。


そして藤原の人間は土御門の家が手を出せばそれを理由に反撃し、手を出さなくても自分たちに非は無いと言い張るつもりなのだろう。


見方を変えればただの犯罪、そして難癖をつけるチンピラのような手口だ。どうにも気に入らないやり方だなと康太が眉間にしわを寄せていると、どうやらその考えは小百合や真理も同じだったらしく康太と同じように不愉快そうな表情をしている。


「それで詩織さん、我々はどこに商品を受け取りに行けばいいでしょうか?」


この状況に置いて全く関係がないように思える言葉を小百合が放ったことで、その場にいたほとんどの人間が目を丸くする。


康太と真理は一瞬だけ目を見開き、そして小百合が言いたいであろうことを察して小さくため息を吐く。


「・・・ごめんね小百合ちゃん・・・あなたが頼んでいた商品も・・・その・・・奪われてしまったようで・・・残っているのはほんの少ししか・・・」


「それでは困りますね。少なくとも発注した数は無いと損をしてしまいます」


「・・・おい・・・この状況になにのんきに話しとんのや!お前俺らのおじさんが心配やないんか!」


晴が食って掛かる中明がそれを止めると、小百合は一瞬だけ二人を見てから再び視線を詩織に移す。


「答えてください詩織さん。どこに行けば私たちが求める量の商品がありますか?教えていただければ『我々』がそれを回収しに行きましょう」


小百合がわずかに秘めた敵意、そしてその敵意が自分たちに向けられているものではないという事を察した詩織は、小百合が自分たちになにを言いたいのかを理解した。


土御門の家は戦争を回避するために直接藤原の家に干渉することは難しい。交渉以外の手段で昭利を取り戻すことは難しいだろうということを理解している。


だが、土御門の家とも藤原の家とも全く関係のない小百合と、その弟子二人なら話は別だ。


魔術協会の所属とはいえ、協会内でもだいぶ異端な存在である小百合なら協会との摩擦も最小限に抑えられる。


つまり小百合は自分たちで直接昭利を助けに行こうとしているのだ。


土曜日なので二回分投稿


関西弁とか使ったことあまりないので違和感満載かもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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