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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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京都の事情

「・・・以上が俺の知る全てだ・・・」


「・・・なるほど・・・ありがとうございます。おかげでいろいろ分かりました」


聞くべきことをすべて聞き終えた真理は満足そうに笑みを浮かべながら今まで与え続けていた威圧感を取り払い、康太に視線を送りようやく遠隔動作による拘束を完全に解除させた。


これほど長く一つの魔術を発動し続けていたのは初めてだったために康太もだいぶ疲れただろうがそれに見合う情報は得ることができた。


今回の接触は十分実入りの大きなものになっただろう。


「それでは私たちは失礼します。一応もう一度言っておきますけど、監視とかしないでくださいね?」


もしもう一度監視したら・・・と言葉を切って真理は笑みを浮かべる。その笑みが脅しの意味を含めていることは近くにいた康太もよく理解できた。


そしてそれは今回被害者となった魔術師もよく理解しているだろう。少なくとも今日は監視の目からは逃れることができるだろう。


問題は明日からなのだが、とりあえず今日はこれで良しとするようだった。


支払いを済ませて店を出ると、康太は小さく息を吐いて先程まで自分たちの居た店を振り返る。


「なかなかいい情報を貰えましたね」


「えぇ。ようやく現状の正しい把握ができました。でも随分と面倒なことになっているようですね」


先程接触した魔術師から得ることができた情報は多かった。この京都付近における情報に乏しい康太たちにとってはかなり重要な情報であると言っても過言ではない。


先程接触した魔術師は四法都連盟の中の下部組織であるチームの一員で、この辺りの警戒と索敵を担当していたらしい。


あらかじめ予想していた通り、いくつかのグループが交代で索敵を請け負っていたようなのだが、少々事情が変わってきているようだった。


普段は四法都連盟の下部組織全体で順番に、あるいは地域を分ける形で分担されていた索敵が最近になって若干変化しているらしい。


具体的には、四法都連盟の本丸ともいうべき四つの家の中で少々ごたごたが起き、それぞれの下部組織もそれに呼応するかのように連携を止めているのだとか。


そのせいで本来索敵をやるべき場所が別の組織に回されていたり、同じ連盟の中でも戦闘が多発していたりと少々どころかだいぶ厄介な状況になっているのだとか。


「組織内での派閥争い・・・っていうか家同士の面倒事に周りの組織が巻き込まれてるって感じですかね?」


「たぶんそうでしょうね。組織の中での立ち位置を決めるためなのか・・・それとも他の家でのごたごたに乗じて何か仕掛けるつもりなのか・・・どちらにせよ私達には関係ありません。向こうがそう思ってくれるかどうかは別問題ですが」


四法都連盟の中での上下関係だとか家同士の対立だとか確執だとかは康太たちには全く関係ないし興味もない。


だが相手からすればこのごたごたしている状況にやってきた複数の魔術師が怪しいと考えるのはごく自然の考えだ。


もしかしたら他の家が外部から雇った魔術師だとか思われかねない。そうなってくるとこちらの魔術師との戦闘もかなり多くなる可能性が高い。


今回はまだ比較的やる気のないチームの索敵に引っかかったからまだよかったが、各家の中で好戦的な部類のチームの索敵に引っかかっていたら即戦闘になっていたかもわからない。


そう考えると康太たちは運がよかった部類なのだろう。


「どうしてこう師匠と一緒に行動するときには面倒事があるんでしょうね・・・もう少し何とかしてほしいものです」


「こればっかりは仕方がないと思いますよ?巻き込まれる前にさっさと商談終わらせて帰りましょう。それに越したことはありません」


「そうですね・・・明日商談を終えてすぐに帰ることができればいいのですが・・・そう簡単にはいきそうにないですよね・・・」


「まぁそうでしょうね・・・間違いなく面倒になると思いますよ・・・」


康太も真理も小百合と一緒に行動しているという時点で面倒事がやってくるという事は容易に想像できた。


この辺りは魔術協会の勢力圏ではないために小百合を敵視している人間が攻撃を仕掛けてくるということはないだろうが、小百合はたぐいまれなるトラブルメーカーだ。


この京都でも恐らくその特性は生きている。まるで吸引力の変わらないただ一つの掃除機のようにトラブルを自らの周りに吸い込んでくるだろう。


当然弟子である康太と真理もそのトラブルに巻き込まれることになる。


拒否権はなく、小百合に命じられたとおり露払いをするほかないのだ。


康太たちがやるべきことは可能な限り摩擦を少なくしながら今回の商談を成功に導くことである。


それがどれだけ難しいことなのか、康太と真理も理解はしているつもりだった。


「とりあえずこのことを師匠に話しましょうか。それでどんな反応をするかはまた別として、伝えておくべきでしょう」


「俺達よりも京都の事情とかには強そうですもんね・・・もしかしたら知っててもどうでもいいとかいうかもしれませんけど」


「あぁ、確かに言いそうですね・・・まったく・・・今回一緒に幸彦さんが来てくれていたらどれだけよかったことか・・・」


今回幸彦が一緒に来ていないことに真理は大きく嘆きながらため息をついていた。その原因の一端が自分にあるとはとても言い出せずに、康太はそうですねと言いながら視線を逸らせて苦笑いするのが精一杯だった。













「なるほど・・・そう言う事情があったか」


「今回の相手は下っ端も下っ端だったようであまり情報は得られませんでしたが、今の京都が普段とは違う状況であるというのは間違いなさそうです」


「ん・・・また妙なことになってきたな・・・どこの家とどこの家がにらみ合っているのかにもよって状況がまた変わるぞ・・・」


さすがの小百合も京都の異常事態を前にどうでもいいというようなことはないようだったが眉間にしわを寄せて面倒くさそうにしているのは変わらない。


こちらの事情に深入りしたくないと思っているのは小百合も同様なのだろう。そう言う意味では今回は小百合も被害者なのかもわからない。


「そう言えば今回俺らが接触するのってどの家なんでしたっけ?」


「今回は土御門の家だ。四法都連盟の家の中でも比較的有名な方だな」


「土御門の家は昔、有名な陰陽師を輩出していますからね。安倍清明と言えば康太君も知っているのでは?」


「あぁ、聞いたことあります。すごい陰陽師だったんでしたっけ?」


安倍清明。大陰陽師としてその名は歴史の中でも時折目にすることがあるだろう。


幾つかの漫画やアニメの作品の中でもその名を聞く機会は多い。それだけ有名な陰陽師であったのだ。


その子孫がこの京都にいるという事なのだろうが康太は一つ違和感を覚える。


「あれ・・・?でも接触するのは土御門なんですよね?苗字違いません?」


「もともとは安倍の名前を使っていたようですが、途中から姓を変えたというのが通説ですね。私もそこまで日本史に明るいわけではないので正確なところはわかりませんが、土御門の家が安倍清明の末裔であるというのが一応の魔術師としての事実です」


かつての大陰陽師の時代から多くの時を経て、それでもなお安倍清明の子孫は日本の朝廷などに仕えつづけた。室町時代を境に安倍ではなく土御門の姓を名乗るようになり明治維新の後には子爵の位を授けられるほどに長い歴史を持つ家なのだ。


そう言う意味では日本の中で魔術師の中でもかなりの立場と歴史を持つ家であるというのがわかる。


恐らく四法都連盟の中での立場も相当高いものになっているだろう。


「京都には古くから続く魔術師の家系がいくつもあるが、その中でも有名なのが土御門の家だ。もっともその下部組織の中でもかなり有名な魔術師の家は多いがな」


「そう考えると四法都連盟ってかなりすごい集団なんですね・・・ただの地方自治体レベルだと思ってました」


「どのような理由があれ、魔術協会が手を出しにくい存在になっているわけですからね。魔術師が弟子をとるとかそう言うレベルの継承ではなく、代々脈々と続いてきた歴史を含んだ者たちです。しかも一人や二人ではなく、そう言った人が何人もいます。所謂生まれついての魔術師のエリートと言ったところでしょうか」


魔術師のエリート。そう言われると康太は真っ先に文を思い出すが、あれだけのスペックを持った魔術師が何人も何十人もいるのが当たり前なのがこの京都なのだろうかと、康太は若干辟易していた。


だが先ほどのような大したことない魔術師がいるのも事実だ。恐らくそう言う人間が多いというだけでどこにも才能のない人間はいるのだろう。


思えばいくら血が繋がっていたとしても魔術師として必要な才能に恵まれるとは限らないのだ。


中には魔術師の才能がなく一般人として育てられた者もいるだろう。そう考えると家が有名すぎるのも考え物だなと康太は首をかしげてしまっていた。


「とにかく、そんな家の厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。さっさと商談を終わらせてさっさと帰るぞ。京都の面倒に巻き込まれるとろくなことにならん」


「・・・その口ぶりだと前に巻き込まれたことがあるみたいですね」


「あぁ・・・昔師匠と一緒に来た時にな・・・あの時は家を襲う別のグループとの戦闘に巻き込まれた・・・しかもそれを手引きしたのではないかと家のものに疑われたりと厄介極まりない」


師匠が止めなければ暴れていたところだと小百合は悪態をつきながら額に手を当てて大きくため息をついていた。


彼女も自分のトラブルを吸い寄せる体質は参っているのだろう。毎度毎度そんな面倒事に巻き込まれては辟易するのも無理はない。


それに巻き込まれる弟子の康太たちも辟易しているところなのだが、ここまで嫌そうな顔をされては小言の一つも言えなかった。


「もう少し詳細な情報があれば楽になるんですけどね・・・あの人がせめて下っ端より上等だったらよかったんですけど」


「いや、変に事情を知っていると逆に怪しまれかねない。むしろ何も知らない方がいいだろう。知っていたせいで巻き込まれるなんてことになりたくはない」


好奇心は猫をも殺すという言葉があるが、知ってしまったが故に巻き込まれるという事もないわけではない。


今回の場合家と家同士の諍いなのだ。そんなものに首を突っ込んで面倒に巻き込まれるなんてまっぴらごめんである。


藪をつついて蛇を出す、ではないがこの京都では藪をつついて鬼を出しかねないのだ。


鬼が出るか蛇が出るかではなく、まず間違いなく鬼が出てくる。


魔術師が行きたくないという場所の中でもかなり高い順位に入るこの京都では知ろうとするだけでも危険を伴うのだ。


「真理、康太、分かっていると思うが可能な限り邪魔者は排除しろ。さっさと終わらせたいのに邪魔が入ってはかなわん」


「わかってます、努力しますよ」


「頑張ります」


真理と康太は苦笑しながらも小百合の意見に同意していた。早いこと仕事を終わらせなければ厄介なことになると二人も理解できていたのである。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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