未来予知と占い
「なるほど・・・陰陽師の時代から、もしかしたらそのもっと前から魔術の組織として続いてたから魔術協会が入ってきても西の一帯には協会の人員が少なかったのか」
「そう言う事です。今でも陰陽師特有の術を有している人は多く存在しますよ?特に先にあげた四つの家の人たちは全員と言ってもいいでしょう」
つまり早い話が今回関わる四法都連盟の人間は全員陰陽師の家系であるという事である。
長いことそう言うつながりがあったために、現地では独自のコミュニティが形成され、あとからやってきた魔術協会が入る隙がなかったのだ。
もちろん組織の規模的には魔術協会の方が大きく、また勢力も多いのだろうが独自の文化と技術を持っているという意味では四法都連盟もなかなかに興味深い部分がある。特に陰陽師という言葉に康太は強く心惹かれていた。
「陰陽師か・・・式神とかそう言うの使えるんですかね?」
「さ、さぁ・・・私はそう言った類のものは見たことはありませんが・・・もしかしたらあるのかもしれませんね」
式神というと陰陽師が使う紙を媒介にした特殊な使い魔のことを指す。そう言ったものが実際にあるのであれば康太もぜひ使ってみたいものだ。
ルーツが違うとはいえ魔術は魔術。恐らく康太でも使えるようになるだろう。時間はかかるかもしれないが。
「式神はさておき、陰陽師の主な能力、というか魔術は主に未来予知です。悪い事象が起こる未来を読み、その原因を把握して未来を変える。つまり悪いことが起こる可能性を取り除くのが得意分野ですね」
「なるほど・・・占いの強化版みたいなものですね」
「そう言ってしまうとなんだか身もふたもない感じがしてしまいますが・・・大体合っています。その術は今もなお途切れることなく脈々と受け継がれているんですよ?」
「へぇ・・・じゃあ俺らの未来とかも占ってもらえるんですかね?」
「どうでしょう・・・お金をとられるかもしれませんが・・・できなくはないかと思います・・・ですがどの程度の未来を読むことができるかはわかりませんよ?」
「あぁ・・・やっぱ未来予知って言っても万能じゃないんですね」
未来予知というととても便利そうに聞こえるが実際にその効果は万能とは程遠いものである。
観察者効果というものがあり、その事象を観察することそのものが結果に影響を及ぼすというものである。
例えば未来を予知した場合、見える未来は現在において未来を知るものがいない場合の未来だ。だが未来予知の魔術によって未来を見てその情報を知った時点で未来が変わってしまう可能性だって否めない。
更には未来を変えるための特定の行動をした時点で未来が変わり、先程見た未来とは全く違う未来が見えることもある。
未来とは決して地続きのものではない。一つ一つの行動が選択肢になって無限に近い分かれ道を作り出す膨大なものなのだ。
もちろん、未来を見たことによって、最終的に見えた未来に収束するような場合もある。その為未来予知というのはあくまである程度の指標でしかないのだ。
もちろん精度の高い未来予知の術式によってみた未来は大抵当たるらしいが、それも回避しようと思えば回避できるものなのである。
「万能というのがどの程度の事を言うのかはわかりませんが、数分後、数十秒後のことを見るような術式もあれば、数年後数十年後先の未来を見ることだってできます。もちろん遠い未来であればあるほど外れる可能性は高くなるらしいですが」
「やっぱそのあたりは占いと同レベルですかね・・・?」
「そうでもないですよ?占いと違って明確にその可能性が提示されるわけですから、場合によっては現在の努力を促すことになります。占いより危機感があるだけに本人のためにはなりますよ」
「・・・やっぱ占いの強化版みたいな感じですね」
「・・・まぁ確かにそれは否めませんが・・・」
康太と真理がそんなことを話していると小百合が小さくため息を吐く。運転をしながらだがこちらの会話に意識を向けていたのだろう。
「お前達は未来予知の魔術を甘く見過ぎだ。あれはそんなに甘いものではないぞ」
「え?そうですか?でも実際占い以上の効果は・・・」
「ある。少なくともそんじょそこらの占いとはレベルが違う。なにせ何も起きていないのに、何もしていないのにこちらの手の内を暴かれかねないんだぞ?」
小百合の言葉に康太と真理はその意味の重さを理解していた。
康太たち魔術師にとって自らが所有する魔術や装備の情報が相手に漏れるというのは手の内が暴かれるということに等しい。
こちらがまだその魔術を使っていなくても、相手にはその魔術を見ぬかれ、情報として入手される可能性があるのだ。
何もしなくても情報戦において既に劣勢に立たされる。それが未来予知の魔術における戦闘の基本と言えるのかもしれない。
「それにだ、こちらの行動や攻撃を読まれるというのは実際厄介だ。攻撃は避けられるしこちらには攻撃を当ててくるし・・・正直何度もやりあいたい相手ではない」
「まぁ・・・そうか、こっちの攻撃を全部読まれてたらすぐに対応されちゃうもんな・・・」
「そう言う意味では確かに脅威ですけど・・・そこまで詳しく予知できますかね?」
「それに慣れた相手ならな・・・もちろん後れを取ることは許さんぞ。対策もないわけではないしな」
未来予知への対策と言われても、戦うことが前提になってしまっていることに対して康太と真理は若干眉をひそめていたが、そう言う状況になることも想定しておけという事なのだろうとあきらめの境地に至っていた。




