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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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いざ京都へ

翌日、康太は小百合の店の近くまでやってきていた。


時間は朝の五時。夜が明けてまだ一時間も経過していないような時間だ。朝靄と僅かに肌寒い空気が康太の肌を僅かに刺激する中、康太は店の近くの道を歩いていた。


道路の混み具合にも影響されるが、現在位置から京都まで大体六時間かかるのだ。休憩時間なども挟めばもっと時間がかかってしまう。昼過ぎに向こうに到着してチェックイン。そしていろいろと準備を済ませてから翌日の商談に移るという形だ。この時間の集合は致し方がないというものだろう。


「康太君、おはようございます。時間どおりですね」


「おはようございます姉さん・・・さすがに姉さんや師匠を無駄に待たせるわけにはいきませんからね・・一番下っ端の俺が重役出勤じゃ笑えませんよ」


「ふふ、そうかもしれませんね。恐らく師匠ももうすぐ来るでしょうから、それまで待っていましょう」


二人の荷物はそこまで多くは無い。普通の旅行鞄一つに加え手荷物で済むような量しかもってきていない。


当然と言えば当然だろう。康太に関しては衣服と財布と携帯の充電器、あと携帯ゲーム機と魔術師としての道具くらいしか入っていないのだ。そもそも大荷物になるようなことがないのである。


真理の荷物は康太よりも少し多い程度だ。恐らくは康太と同じく衣服と宿泊道具、そして魔術師としての道具くらいしか持ってきていないのだろう。


そもそも自分たちの今回の役割は露払いだ。他に重要な書類などがあるわけでもないために荷物は必然的に少なくなるのである。


そうこうしていると康太たちの近くに大型のトラックが停車する。もしかしたら邪魔になるだろうかと康太たちが少し距離をとるとフロントガラスの向こうに小百合がいるのが見受けられた。


「お前達、早く乗れ。忘れ物がなければ出発するぞ」


「師匠、おはようございます・・・っていうかこんなにでかいトラックで行くんですか・・・?」


「当たり前だ。今回も積めるだけ積んでいくからな。さっさと乗れ」


「失礼します・・・ってこれ三人乗れますか?」


「乗れるから早くしろ。早いところ出発したいんだ」


さすがに路肩に停車している状態をいつまでも続けておくわけにもいかない。早朝で人も車も少ないとはいえこのまま停車していては迷惑になりかねない。


康太と真理はトラックに乗り込むと小百合は慣れた手つきで大きなハンドルを操りながら発車していた。


どうやらこのトラックの座席部分は最初から三人が乗ることができる設計になっているようで座席が三つあった。恐らく三人が乗るためだけにこのトラックを調達してきたのだろう。


「高速に乗る前に一度コンビニで買い出しをしておくぞ。今のうちに欲しいものとかは買っておけ。あとトイレとかも済ませておけよ」


「わかりました。ていうかこんなでかい車初めて乗りましたよ。師匠こういうの慣れてるんですか?」


「それなりにな。まだあの店が師匠の持ち物だった頃からこういうのに乗って仕入れの手伝いをしていたものだ。もっとも運転自体は免許が取れる歳になってからだがな」


大型の免許というのは普通免許と違って年齢制限が若干高くなる場合がある。そう言ったものをとれる歳という事は二十歳かそこらから運転し始めたという事だろう。


それでも七年近く運転しているのであればそれなりの実力になっている。恐らく今回は安心して任せていいだろう。


「あれ・・・?でもじゃあ今回って師匠はずっと運転ですか?」


「仕方がないだろう、お前達は大型の免許を持っていないんだ。私が運転するしかあるまい」


「普通の車だったら代わることもできたんですが・・・残念ながら私も大型はもっていないんですよね・・・」


真理が申し訳なさそうに苦笑する中小百合は小さくため息を吐く。さっさとお前達も大型の免許を取れという意味がその溜息には凝縮されていた。


仕方がないとはいえ一人で六時間以上ずっと運転しっぱなしというのはなかなかにつらいだろう。


可能なら代わってやりたいところだが康太としても無免許運転はしたくない。それにそもそも康太は車の運転の方法すらうまく理解していないのだ。


バイクの免許はとったし車を運転するための知識はあるが、実際に動かしていないためにできるかどうかは微妙なところである。


そんな不確かな状況でこれほどの大きな車を動かすのは嫌だった。


「にしても六時間か・・・何してましょうか?」


「俺ゲームもってきてますけど、姉さんはなんか持ってきてないんですか?」


「ゲームですか・・・私でもできるのありますかね?」


「同じ機種の奴であればソフト一つでできる奴とかありますよ?ゲーム機もってきてないんですか?」


「一応一つだけですけど・・・あ、これならできそうですね」


「お前ら自分たちの師匠が運転している中で遊ぶつもりか?」


小百合の言葉に康太と真理は顔を見合わせて怪訝な表情をする。


「だって他に出来ること無いじゃないですか」


「そうですよ、昼間から動くような魔術師もいないでしょうし、高速に乗ったらそれこそ寝るか勉強するか遊ぶかくらいしかできることありませんよ」


「師匠をねぎらうとかそう言う気持ちはお前らには無いのか・・・」


「・・・頑張ってください師匠」


「事故は起こさないでくださいね師匠」


「・・・お前達にこんなことを言った私がバカだったよ」


自分の弟子達の言葉を受けながら小百合は眉間にしわを寄せて運転を続けることになる。一度きっちりと指導したほうがいいかもしれないなと思いながら小百合は変わり続ける景色を自分の目に収め続けていた。


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