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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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下準備と四つの家

「話がついたぞ。明後日に出発する。商談は明々後日だ」


「随分早く決まりましたね。しかも明後日とは・・・今日が火曜日だから・・・木金で行動・・・帰る時には土曜日・・・高速道路が混みそうですね」


「そのあたりは仕方あるまい。急いで向こうの宿をとるぞ。安宿でいいな?」


「せっかく京都なんだからちょっといい所泊まりましょうよ。旅館とか」


「無駄な出費だ。お前が自分で出すというのなら考えなくもないがな」


京都に向かうのにビジネスホテルというのもなんだか味気ない。もちろん旅館などに泊まればその分諸経費がかかってきてしまうのは百も承知だが、どうせ泊まるのならそれなりに有名な場所に泊まりたいと思うのは必然的だろう。


だが小百合のいうように無駄な出費と思うのもまた確かだ。普通に寝泊まりする分には適当なホテルで過ごすだけで十分だ。それ以上のものを望めば贅沢の部類に入ってしまう。


特に今回は旅行が目的ではなく商談が目的だ。商売をしに行くというのにわざわざ無駄な出費をしようとする者はいない。


「明日は私は出かける。いろいろと準備があるから今日明日の訓練は無しだ。お前達も明日の内にいろいろと準備をしておけ」


「了解です。と言っても大体のものはここに置いてありますけどね・・・」


「そうだろうがな・・・まぁ一応だ。せっかく空いた一日なんだからきっちりと準備してこい」


何があるかわからないからなと告げて小百合は部屋の奥の方へと引っ込んでいった。恐らくこれから必要なものを調達しに行くのだろう。


訓練がないとわかった以上ここにいる意味はない。康太も帰り支度を始めていると真理はどうしたものかと悩み始めていた。


「姉さん、どうかしたんですか?」


「・・・あ、いえ・・・今回京都に行くのはいいんですけど・・・向こうの情勢とかどうなっているのかちょっと気になって・・・」


「情勢?なんか問題が発生してるかもってことですか?」


情勢というとなんだか危険な雰囲気がしてきそうな感じがするのは気のせいではないだろう。


実際真理が思い浮かべているのはそう言う事でもある。


「その可能性はあります。先にも言いましたがあのあたりは主に四つの家が統治してますから、その家同士での小競り合いの度合いによっては・・・」


「面倒に巻き込まれる可能性がある・・・ということですね?」


「そうなんです。なのでそれによっては装備を変えたほうがいいかなと・・・でもあまりにも重装備で行くと戦いに来たのではと勘違いされそうで・・・」


今回康太たちはあくまで商談に向かうのだ。明らかに重装備で固めてやってくれば戦いに来たのではないかと勘違いする輩も出てくるだろう。


だがだからと言って不安定な情勢の中軽装で突っ込めば当然痛い目を見ることになる。


装備の度合いによって相手がどのように感じるか、そして自分がどのように立ち回ることができるかが変化してくるのだ。これはかなり重要なことでもある。


「いつもみたいに協会で情報収集とかできたりしないんですか?」


「協会内の事情であればそれなりに探れますが・・・今回は協会の外側の話です。ある程度の噂は伝わってきているかもしれませんがあくまで噂、信憑性に欠けるという意味ではあまり信頼できない情報ですね」


真理が今まで情報を仕入れることができたのはそれが協会内の話だったからこそなのだ。デブリス・クラリスの弟子で不憫なジョア。そう言う認識を持たれているからこそ周りの人間も同情的になっていろいろと便宜を図ってくれる。


今までの真理の立ち回りが積み重なった結果なのだろう。だが今回はそう言うわけにもいかないのだ。


なにせ協会内の事ではなく、協会外の事。そもそも知っている人物が少ないのだ。


真理曰く四法都連盟の中にも連絡役として魔術協会に所属している魔術師はいるそうなのだが、そう言った人物が都合よく現れて都合よく事情を教えてくれるとも考えにくい。


そうなるとどうしても人づてに伝わった信憑性に薄いうわさ話程度のものになってしまうのである。


実際にその場に行く康太たちとしては信憑性の薄い情報を頼りにするわけにはいかないのだ。


「なんだ・・・危険地帯で露払いみたいな仕事だって言ってたから装備たくさん持っていこうと思ってたんですけど・・・無理そうですかね・・・?」


「もちろん装備が見つからなければいいんですけど・・・康太君の装備ってそこまでたくさんありましたっけ?」


「いろいろと仕込んでありますからね。見つかることはないでしょうけどそれなりに重装備になっちゃいます。ばれたら戦う意思があるぞって明言してるようなもんですよ」


小百合との訓練をしているうちにいろいろと魔術を応用したり、あるいは戦闘で役に立つ装備などを思いついては実際に作れないかと考えを巡らせるのが最近の康太の趣味になりつつある。


奏のコネによってそう言った装備を作れる人材とも知り合いになれたために、金と案さえ出せばある程度の物は作ってくれるのだ。


その為に新しい案が浮かんできたらすぐに依頼を出して装備を作ってもらっている。さすがに追加注文はすべて自分の金で作っている。奏に毎回金を出してもらうのは康太の良心が許さなかった。


「まぁとりあえず、見つかりにくく、なおかつそこまで攻撃的ではないものを持っていきましょう。今回はあくまで商談。向こうと小競り合いをするわけではないですから」


「了解です。そうとなったら選別しておかなきゃな。忙しくなってきたぞ」


康太がだんだんと戦闘専門の方向に向かっているような気がして真理は不安そうにその様子を眺めていた。


そろそろ別な魔術も教えなければならないだろうかと考えながら自分も装備を整えておくことにする。












「え?京都!?なにあんた京都行くの!?」


「おう、明日から行ってくる。お土産は期待すんなよ?割と今回いろいろな意味で大変みたいだから」


翌日、康太はエアリスの下にいつも通り訓練にやってきていた。


もうすでに明日からの京都商談に必要なものは用意してある。康太の装備が比較的軽いものばかりだったのもその理由の一つだが、康太自身が持っていくものは宿泊道具と戦うための道具だけというのもある。


小百合や真理はいろいろと準備がありそうだが、こういう時はできることが少なくてありがたいと思うべきだろう。


「よくもまぁ・・・前に私たちが教えたこと忘れたの?」


「四法都連盟だろ?姉さんから聞いたよ。いろいろとややこしい事情があるかもって言ってたな。面倒に巻き込まれないように注意するよ」


「・・・巻き込まれないとでも思ってるの?」


「いいや?間違いなく巻き込まれるだろうな。いいんだよ、そう言う気構えで行くって話だ。実際どうなるかはもはやお察しだ」


康太としては小百合が一緒に行動する時点で何かしらの面倒に巻き込まれるであろうことはほぼ確定なのだ。


問題はそのプロセス。どれだけましな状況にできるのかという意味で巻き込まれないように努めるべきなのだ。


最悪一歩手前の状況で綱渡りなんてまっぴらごめんなのだ。地雷原でタップダンスを踊るような状況にならないように可能な限り面倒事の種を排除していく必要がある。


もっともそのあたりの事情を全く知らない康太からすれば、どれが厄介ごとの種なのかさえも判別できないのだが。


「商品の仕入れとはいえ・・・いったい誰に会いに行くのよ?そのあたりも分かってないわけ?」


「えっと・・・たしかその四法都連盟の四つの家の中の一つの・・・誰かに会いに行くことはわかってる。なんかすごい人らしいぞ」


「・・・ごめん、全然わかんない。苗字とかわかんないの?」


「知らねえよ。そもそも魔術師なのに本名ばらすとかあるのか?」


「・・・あぁそうか・・・そのあたりの事情も知らないか・・・京都の四法都連盟はちょっと特殊なの。あんたが今言った四つの家は特にね。ほとんどの人間が名字だけは明かしてるのよ」


苗字を明かす。それがどういう意味を持つかくらい康太でもわかる。


四つの家に所属しているぞという証明でもあり、同時に自らの出自を明かすようなものだ。それは魔術師にとって大きなマイナスではないかと思えてしまう。


少なくとも康太のような比較的珍しい苗字などだと簡単に特定されかねない。


「そう言えばその四つの家のことについて知らなかったな・・・文は知ってるか?」


「一応ね・・・土御門、藤原、芦谷、加茂の四つよ。名前くらいは覚えておきなさい。どの家の誰に接触するかは知らないけど」


「ん・・・師匠の師匠の知り合いって言ってたからな・・・エアリスさんは何か知らないかな・・・?」


エアリスに聞こうかと普段彼女がいる机の方に目を向けるが今彼女はいない。


丁度協会からの依頼で行動中なのだ。そのお供として倉敷も一緒に行動している。あの二人はさりげなく一緒に行動することが増えて来たなと思いながら康太はため息をついていた。


「まぁあんたがそれを知ってもどうしようもないでしょ?どこの誰に会うって言われても分からないでしょうし」


「そうなんだけどさ・・・ちなみにその家によっての特色とかわかるか?」


「私もそこまでは・・・知ってるのは名前くらいのものよ。基本的に協会と関わり合いのない人達なんだから」


四法都連盟は魔術協会とは基本的に関わりを持たない。最低限の摩擦を防ぐための要員、つまりは連絡係として何人か協会に所属させているとはいえ不干渉を貫くのが基本のスタンスなのだ。


その方針に異を唱えるわけではないが、もう少しこちらに干渉してきてくれた方が情報が多くなるのにと康太は少しだけもったいなさを感じていた。


「でも四つの家が仕切ってるって言ってもさ、そうやって苗字聞いてみると普通の名前だよな。そこまで凄いってイメージ湧かない」


「そりゃ所属してるのが日本人なんだから当たり前でしょ。別に苗字がすごいんじゃなくてその人たちがすごいんだから」


「そうなんだけどさ、なんかこうもっと物々しい苗字とかしてるのかと思ってたよ。パッと思いつかないけどすごく中二っぽい感じの」


「いったいどんな苗字よ・・・なんとなく言いたいことはわかるけどさ」


組織を取り仕切る四つの家。しかもかなりの実力者となればやはりそれなりにしっかりとした名称や略称などがついていてもおかしくないが、康太が気になったのはそれが本名であるという点なのだ。


どうせならもっとかっこいい苗字なら箔がついただろうに、普通過ぎて拍子抜けしてしまうのである。


全国の同じ苗字の方々に謝れと言いたくなるような言いぐさだが、文自身その言葉を理解できないわけでもなかった。


「今はいいけど、あんた向こうに行ってそんな事言わないようにしなさいよ?」


「わかってるって。喧嘩売るようなことはしない。そもそも話をしたくもない。可能なら接触だってしたくない」


関わることがなければ面倒に巻き込まれることもない。単純な話だがそう簡単にはいかないことくらい康太も理解していた。


だからこそ面倒なのだと内心ため息をつく。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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