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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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今回の行き先

康太たちは部活が終わった後、女子たちと共にプールの話し合いをし予定を立てるとそれぞれ必要なものをリストアップしていた。


各個人で必要なものもそうだが、ある程度の人数で行くとなると荷物の置き場所なども考えなければならないからである。


大きなプールでは専用のロッカーなどもあるとはいえ、すぐに取り出したい荷物などはどこかに置いておかなければいけない。そう言うもののためにある程度物資を調達しておく必要がある。


と言ってもリストアップしたもののほとんどが各員の家などにあったりするので、それを持ち寄ることにした。


康太は以前のライブ関係の仕事で買っておいたクーラーボックス。夏の間は世話になるだろうと思って買ったのがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。


文はそれらを敷くためのレジャーシート。ある程度その場でのんびりするためにも荷物を確保するためにも必要だと判断されたのである。


話し合いを終えた後康太と文はそれぞれ帰路につくことにした。と言っても康太の場合まだ寄る所があるのだが。


「師匠、来ましたよ」


「来たか。今日は遅かったな」


「ちょっと同級生といろいろ話してまして」


そう、寄るところというのはつまり小百合の所である。


当たり前と言えば当たり前になってしまったこの習慣のようなもの、康太はもはや家にいる時間よりも外出している時間の方が長くなってしまっているのではないかと思い始めていた。


「今日も訓練ですか?部活後なので軽くでお願いしたいんですけど・・・」


「お前にそんなものを選ぶ権利があると思っているのか?いやそんなことより、この商品の数は間違いないのか?」


小百合が見ていたのは先日康太と真理が行った商品の数量チェックに使った書類である。


そこには各商品の数量が記載されており、数に誤りがあるものは正しい数が添削に近い形で記されている。


小百合が指差すところを見てみると、それは康太がチェックしたところだった。

そして康太は自分の記憶を頼りにその商品の数が正しいかどうかを思い出そうとする。


「えぇ・・・その数で間違いなかったと思いますよ。そのあたりの商品全体的に使われてたんでちゃんと数えてましたし・・・」


「・・・そうか・・・まったく・・・そうなるとまた向こうに仕入れに行かなければいかんな・・・」


「仕入れに行くって・・・電話でお願いして送ってもらえばいいんじゃないんですか?」


連絡が容易にとることができるようになっている現代において、わざわざ現地に足を運んで商品の仕入れを行うというのは効率的ではない。


ほとんどが運送業者や専用の輸送チームを使って店頭まで商品を運んでもらっているような状況だ。


それに宅配などもあるのだからわざわざ向かわなくてもいいのではないかと思えてしまう。


「普通のものならそれでもいいが・・・これは少々高価でな・・・下手に運送業などに頼んで傷つけられると厄介だ・・・それに挨拶もしておくべきだろう。これを取り扱っているのは師匠の代から世話になっている、所謂老舗だ」


商品の中には扱いが難しく、特定の魔術師しか作り出せないようなものもある。そう言ったものは小百合の師匠である智代がそのコネを利用して話をつけたものが多い。


そうなると電話でお願いしますだけでは少々礼儀を欠いている。だから実際に赴いて商談という形にするのが一番適切であるらしい。


理由も理屈も理解したが、問題はそこがどこにあるのかという点である。


「ちなみにその商品ってどこに取りに行くんです?近いんですか?」


「・・・いや、地味に遠い。商品を運ぶことを考えると車での移動だから・・・相当時間がかかるな・・・トラックも用意しなければいけないし・・・あぁもう面倒だ・・・」


地味に遠い。


小百合の認識している遠いがどのレベルなのかは知らないが、物資の輸送という事もあって協会の門を使う事も難しいだろう。


しかもトラックを用意するレベルで大量に運び込むとなるとかなりの大仕事だ。康太が今まで関わってきた中で一番の商談かもしれない。


「トラックって・・・そこまでたくさん仕入れるんですか?」


「場所が場所だし、何より何度も足を運びたいところではないからな。仕入れるときは一気に仕入れて保管しておくのが一番だ」


行きはまだいいが帰りは気を付けて運ばなければなと小百合はため息を吐きながらいくつかの書類に目を通しながらパソコンで何やら手続きを始める。


康太は先日自分がチェックした商品の項目を見ながら一体何を仕入れるのだろうかと疑問符を飛ばしていた。


どの商品が足りないのか一見してみてもほとんどわからない。実際はいけばわかるのだろうが問題はそれをどれくらいの量仕入れるのかという事である。


「ちなみに師匠、今回の仕入先ってどこなんですか?」


「あぁ・・・今回は今までで一番遠いぞ。しかもかなり車に揺られることになるから酔い止めも一応持っていけ」


「俺が一緒に行くことは確定なんですね・・・それで、場所は?」


恐らく真理も一緒なんだろうなと思いながら康太がそう聞くと、小百合はパソコンを操る手を止めて康太の方に向き直る。


「今回の行き先は、京都だ」


京都、文字通り京の都。日本において東京に並び『都』という名で呼ばれるかつての日本の首都。


歴史において度々その名前を目にし、現在に至ってもその姿をおぼろげながらに残している。修学旅行や秋口の旅行先の定番の場所となっている日本有数の観光地である。


「京都!そりゃ楽しみですね!いろいろついでに見て回りたいところとかあるんですけどいいですか?」


「・・・あぁそうか・・・お前はそう言う反応をするんだったな・・・すっかり忘れていたよ・・・まったく無知とは恐ろしいものだ・・・」


「・・・え?京都って言ったらやつはしとか寺とか有名じゃないですか。何でそんないやそうなんですか?」


小百合の表情と声音は明らかに楽しみとはかけ離れたものだ。京都に行けるというのになぜこんなにも嫌そうな顔をしているのか康太は理解できない。


確かに車での移動は少々面倒かもしれないが、それにしたってここまで嫌がるというのは少々異常だ。


康太だったら跳び上がるほどとまではいかなくともお土産のリストを作るくらいには楽しみにできる場所である。


「あー・・・どう説明したもんか・・・お前日本にいる魔術師がどういう派閥を持っているかとか知っているか?」


「いいえ知りません。ていうか派閥なんてあるんですか?」


話をしようとしていた前提すら把握していなかった康太の反応に小百合は頭を抱えてしまうが、ここで康太は一つ思い出す。


それは以前奏に聞いた魔術師の組織についての話だ。


西の方には魔術協会に参加していない魔術師が多いと聞く。なんという組織だったかは忘れたが別の組織が存在しているようなことも言っていた。


「ひょっとして西の方にある魔術協会とは別の組織の話ですか?」


「なんだ知っているじゃないか。誰から聞いた?」


「前に奏さんと文からそれらしいことを。なんて言ったかな・・・何とか同盟?」


「四法都連盟だ・・・京都は魔術協会に所属する魔術師もいるにはいるが、向こうではもっぱら連盟が幅を利かせている。協会の魔術師としては動きにくいんだよ」


今まで小百合が協会の魔術師として動いたことなど数えるほどしかなかったように思うのだがと康太が考えていると、その考えを読んだのか小百合がわずかに目を細めて睨みつける。


「商品の仕入れとはいえ大きく金が動く。それに連盟の中でもかなり有力な人物に直接会いに行くんだ。ある程度根回しをしないと面倒なことになりかねん」


「・・・今回の仕入先の人ってその連盟の人なんですか?」


「あぁ・・・師匠の古なじみでな。それなりにすごい人だぞ」


それなりにすごい人。と言われてもはっきり言って全くイメージできない。


小百合の説明の雑さに康太は眉をひそめてしまう。もう少し詳細に話をしてくれるつもりはないのだろうかとため息さえついてしまっていた。


「で・・・その人に会いに行くのに邪魔が入るかもしれないってことですか?」


「そう言う事だ。なにせ相手が相手だ。あらかじめアポを取っても末端まで話が通らない可能性がある。お前達の役目は要するにそこまでの露払いだ」


露払いというと聞こえがいいかもしれないが要するに邪魔な人間をすべて排除しておけという事だ。


小百合もだいぶ穏便に事を運ぼうとはしているようだがやろうとしていることは突撃と何ら変わらない。


アポを取ろうとするあたりまだましと言ったところだろうか。


「露払いはいいですけど・・・今回は俺と姉さんと師匠だけですか?」


「一応そのつもりだ。可能なら幸彦兄さんにも手を借りたかったが・・・何やら別の予定のためにスケジュールを詰めているらしくてな・・・今回はいない」


幸彦が何かの予定のためにスケジュールを詰めているという事を聞いて康太は心当たりがあり冷や汗をかく。


間違いなく来週の自分たちのプールについての事だろう。幸彦は社会人だ。夏休みとはいえ一日予定を空けるために恐らく普段の仕事を早めに終わらせたり他の仕事を別の日に回したりといろいろと根回しをしているのだろう。


本当に悪いことをしたなと思いながら少し視線を逸らせてから笑いしていると、小百合は小さくため息を吐く。


「そ、それでいつ行くんですか?来週の木曜日は俺予定入ってるんですけど」


「それなら問題ない。遅くても今週中には仕入れに行く。もとより向こうにアポをとったとしてもあっちは基本隠居生活をしている暇人だ。時間の都合はいくらでもつく」


「・・・一応聞きますけどすごい人なんですよね?」


「あぁすごい人だぞ。くれぐれも失礼のないようにな」


そのすごい人を暇人呼ばわりしている小百合は失礼に当たらないのだろうかと眉を顰めるが、小百合にそんなことを言っても今さらだろう。


失礼のないようにさせるあたり、小百合が気を使っているという事は理解できる。


つまりはそれだけの相手なのだ。


小百合の師匠である智代と同等程度の魔術師という認識で間違いないだろう。


そもそもその四法都連盟の中でも実力者という時点でわかりきっていたことだ。

どの程度の規模の組織なのかは康太も理解していないが、組織の上位に入る実力者というのは総じて高い能力を持っているものである。


今回は戦いに行くわけではないとはいえ、下手な行動をとれば面倒なことになるのは間違いないだろう。



「師匠、一応チェックしてきましたけど、やっぱり数に間違いはありませんでしたよ・・・って康太君、来てたんですか。今日はちょっと遅かったですね」


康太と小百合がそんな話をしていると真理が地下からやってくる。どうやら今回の件の原因にもなっていた商品の数の確認を行っていたようだ。


わざわざ康太に聞いて、ついでに真理にチェックまでやらせていたということに康太は呆れてしまう。


たまには自分で動けばいいのにと思いながら康太は真理がいたことに安堵していた。


「すいません姉さん。なんか二度手間をさせてしまったようで」


「え?あぁ商品の事ですか?構いませんよ。師匠の雑な扱いはいつもの事ですから」


「余計なことを言うな・・・やはり行かなければいかんか・・・仕方ない。先方に連絡を入れておくか・・・」


小百合が携帯電話をもって席を立つと、入れ替わりになるように真理がちゃぶ台の近くに座って小百合が眺めていた書類に確定の二文字を書き記す。


それを見た康太はとりあえず聞きたいことを聞くことにした。


「あの、姉さん。四法都連盟ってどんな組織なんですか?」


「・・・また唐突ですね・・・今回の仕入れ先に関して師匠に説明されたんですか?」


「連盟の話は奏さんや文から聞いてましたけど、詳しいことは・・・師匠に聞いても全く分かりませんでしたし・・・」


康太の困った表情に真理はまぁそうでしょうねとこれまた困った表情を浮かべながらどう説明したものか悩み、適当な紙を持ってきて四つの丸を書いて見せる。


「京都を活動の中心とした四法都連盟は、四つの家とそれに連なる十六の組織によって成り立っています。その歴史は古く、日本に魔術協会が進出する前にはすでにその基盤ができていたのだとか」


「へぇ・・・所謂陰陽師とかそう言う時代からですか?」


「察しがいいですね。丁度そのあたりの頃です。細かく説明すると魔術のルーツとかの話になるんですが、今は置いておきましょう」


魔術のルーツという話は非常に興味深い話だが、今はこれから向かう京都、特に商談をしに行く件の相手がどのような存在なのかを知っておきたい。


危険な相手ならそれ相応の準備が必要だろうし、他の魔術師からの干渉がないとも限らない。


予め情報は知っておいて損はないのだ。


「先も言いましたが、主に四つの家が取り仕切っているというだけあってその四つの家の力は絶大です。そして十六の組織・・・まぁそれぞれの家の下にさらに四つの組織ができていると考えてください」


「はぁ・・・そんなに組織があったら組織間での争いとかめんどくさそうですね」


「それはもはやお察しです。協会内でも派閥がありますけど、どの組織でも大きくなれば必然的に対立とかは起きてくるものです・・・まぁそれはさておいて・・・今回商談しに行く相手はその四つの家の一つの方なんです」


「・・・トップ四の一つですか・・・」


トップなのに四という数字を使っているあたり矛盾が生じているのは康太も理解していたが、実際その四つの家の優劣など知らないのだ。とりあえず組織の中で偉い四つの家の人間に会いに行くとなれば緊張してしまうのも仕方のない話だろう。


「とはいっても既にご隠居されていますし、別にその家の家長だったというわけでもありません。ただやはり魔術師としての実力やコネに関しては相当のものをお持ちです。隠居した現在においても組織内における発言力も相当なものでしょう」


何故自分たちが会う人間はこうも面倒そうな人物ばかりなのだろうかと康太は頭を痛めるが、そんな人物に会いに行けるという事を幸運に思うべきなのかもしれない。


「なんか師匠曰く、俺らは露払いをしろとか言ってたんですけど・・・大丈夫なんですかね・・・?」


「・・・まぁ、ある程度上の方が話を通しても、下が勝手に動くというのは組織間においてはよくあることです。そう言った面倒を払いのけるのが私たちの仕事ですね」


例え直系の上司が命令しても、下部の組織がすべて思い通りに動くとは限らないのだ。


命令や指示の解釈の違いによって勝手に動いたり、逆にそれを利用して自分たちの動きをまるで上司からの命令であるかのようにしたりと、なかなかに面倒な手段を使うものは総じて存在する。


康太たちの役割はそう言ったことに巻き込まれないように、そして商品を守る、あるいは自分たちの身を守るために襲い掛かる火の粉を払いのけるというものなのだ。


「なんか俺の中でモヒカン頭のヒャッハーが襲い掛かってくるイメージがわいてきたんですけど・・・京都とかそっちの方って魔境になってたりしませんよね?」


「そこは安心してください。厳かな雰囲気の良い街ですよ。少々行き過ぎた行動をとる場合もありますが、上下関係には厳しい組織ですし、ある程度話を通しておけばある程度は行動できるでしょう」


真理が妙にある程度という言葉を多用することに康太は若干ではあるが違和感を覚えていた。


恐らくそのある程度のラインを越えたら向こうは容赦しないのだろう。


康太たちが、いや正確には小百合がそのかつての幹部のような存在とのホットラインを持っているからこそ比較的安全に向かうことができるのかもしれない。


逆に言えばそう言った手段がなければ魔術師として京都に入るのは非常に危険だという事だろう。


「て事は俺もう京都に旅行とか行かない方がいいんですかね・・・?」


「そんなことありませんよ、魔術師として向かわない限りは安全です・・・たぶん」


たぶんをつけるあたり真理も確証が持てないのだろう。せっかく日本でも有数の観光地なのにもったいないなと思いながら康太は少しだけ残念そうにしていた。


日曜日、そして誤字報告を五件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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