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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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手に入れたもの

八月も半ばを過ぎ、もうすぐ夏休みも終わりになろうという頃、康太は全力で走っていた。


まだ暑く、蝉も自分たちの時間を謳歌しているかのように騒ぎ立てている中、康太はそれらを振り切るかのように走っていた。


自分の額から滴る汗も、酸素を求め続ける全身の細胞も気にしないかのように康太はある場所を目指す。


タンクトップに短パン、そして麦わら帽子をかぶったマサルマネキンを一瞥しながらやってきたのは康太の師匠である小百合の経営する店だった。


「やった!やりましたよ師匠!」


「・・・そんな大声を出さなくても聞こえている・・・一体なんだ?」


店の扉を勢いよく開きなだれ込むように店内に入ってきた康太の歓喜の声を一蹴しながら小百合は不機嫌そうに康太の方を見る。


室内で空調を効かせ、さらに扇風機まで回しているというのに彼女の体からは汗が滲み出ている。


無理もない、店内と直結している居間ではどうしても冷やす効率は普通の部屋に比べると下がってしまうのだ。


魔術でも使って温度を下げない限りこの暑さを何とかするのは難しいだろう。

だがそんな暑さでさえも、夏の辛さでさえも今の康太にとっては些細なことだった。


「見てください!免許ゲットです!合宿行った甲斐ありましたよ!」


「・・・あぁ、そう言えば免許の短期合宿に行ってきたんだったか?」


「えぇ、これでバイクとか買えば公道走れる!さすがに夜の間に練習とかしておきたいですけど・・・」


免許をとったとはいえまだ公道で走るような技術を持っているわけではない。バイクの運転が自転車のそれに若干似ているとはいえはっきり言って完全に別物と言ってもいいような操作法なのだ。


康太が公道で堂々とバイクを走らせることができるようになるまで恐らくまだ時間がかかるだろう。


だがそれでもバイクを運転できるようになったというのは大きな利点だった。


わざわざ走る必要もなく速く動くことができるのだ。文明の利器とはすばらしいと自分の免許証を見ながら康太は感動していた。


「どれ見せてみろ・・・やっぱりこういった写真は胡散臭く写るな・・・指名手配犯の様だぞ・・・お前の写真写りの悪さのせいか?」


「それ誰だっておんなじじゃないですか?師匠のはどんな感じの写りなんです?」


「私のはこんな感じだ」


小百合は自分の免許証を取り出して康太に見せる。小百合の写真も康太に負けず劣らず指名手配犯のような写りになっている。


こういう写真は公的な身分証明になるのだからもう少し綺麗に撮ってくれてもいいのにと思いながらも康太は今のこの免許があるだけで満足しかけていた。


「それで?免許はいいが肝心のバイクはいつ買うんだ?早めに買っておいた方がいいんじゃないのか?」


「あぁ・・・そのことなんですけど・・・なんかこう良い感じのバイクがないんですよね・・・俺の年齢だと運転できるバイクも限りがありますし・・・幸いいろいろあって金はあるんで妥協してバイク買った後にカスタムするのもありかなと・・・」


康太は魔術師としていろいろ活動をしている間にその報酬として金銭を受け取っている。その金銭を元手に免許取得の合宿にもいったわけだが、同じようにバイクを買って自分で改造するという事も視野に入れていた。


まだ大きな改造はできないが、少なくとも色合いなどに関してはある程度何とかなるだろう。必要なら店に頼んで塗装してもらうのも手だ。


もちろんそれ相応の金がかかるが、自分で気に入って使うためならある程度の出費は仕方がないというものである。


「ふむ・・・そのあたりは好きにするといい。だがお前がバイクを運転できるようになると・・・いろいろ仕事に使えそうだな・・・」


「・・・あの、運転できると言ってもまだ運転技術自体はそこまで高くないんで・・・あまり変なことは頼まないでくださいね?」


「その辺はわかっている。それにあまりお前に変なことをさせると真理の奴がうるさいからな・・・ある程度は自重してやる」


普段から康太のことを大事にしてくれている兄弟子の真理のおかげで小百合から康太への無茶ぶりはだいぶ軽減されていると言って良いだろう。


本当に真理には頭が上がらないと思いながらふと気づく。この時間なら真理がいてもおかしくないのだがこの場には真理がいなかったのだ。


「そう言えば姉さんは?今日はまだ来てないんですか?」


「真理の奴なら下にいるぞ。今下の在庫確認中だ。暇ならお前も手伝ってやれ」


「了解しました。それじゃ行ってきます」


真理だけに働かせるわけにはいかないと康太は荷物を置いて地下への階段を駆け足で降りていく。


この店の在庫の確認というと簡単に聞こえるが、その数はかなりのものだ。


なにせ魔術に必要な道具や薬品などが大抵揃っているのだから。その数も量も並大抵のものではない。


一人でやらせないで小百合も手伝うべきなのではないかと康太はふと思ったが、自分の師匠がそんな面倒なことを自分からやるはずがないなとため息を吐きながら即座に自己完結する。


なんというか残念な師匠を持ったものだと今さらながら強く後悔していた。


「あれ?康太君、久しぶりですね」


「お久しぶりです姉さん。免許取れましたよ!あと手伝いに来ました!」


免許を高々と見せつけながら康太は近くにあった商品のチェックリストを手に取ってその棚の場所へと移動していく。


「やったじゃないですか!今日はお祝でもしますか?それともバイクを買いにお店に行きますか?」


「それもいいですけど、まずはこれを片付けちゃいましょう。結構な量有りますよこれ・・・バイクとかはいつでも見に行けますから」


見に行くという時点でまだ買うという考えが浮かんでいないのか、それともそう簡単に自分の気に入るバイクが手に入るとも思っていないのか、康太は商品のリストと実際にそれらが置いてある棚を見比べて一つずつチェックを付けていく。


数が膨大なだけに定期的に何があるのかをチェックしておかなければ商売が成り立たない。もちろん売買した数などは記録して管理してあるが、いつ何が消費されたかなども正確に知っておかなければならないのだ。


商品を常に絶やさずに保管しておくことはこういった商いにとって重要なことでもある。特に魔術に関わることならなおさらだ。用途不明で唐突になくなったなど笑いものにもならない。


「あぁそう言えば、協会から康太君・・・ブライトビー宛の荷物が届いていましたよ?結構な荷物でしたけど」


「お!とうとう届きましたか!待ってた甲斐があったってもんです」


真理が向けた視線の先をたどると何やら布に巻かれた物体があるのが康太の目にも見える。


あれが一体なんなのか真理は理解できていなかった。それなりに重量もあったために康太が一体何を頼んだのか不思議でならなかったのである。


これで通販などだったのなら特に疑問も持たなかっただろうしそこまで気にすることもなかっただろう。


だがその荷物は魔術協会から届けられたものだ。康太が個人的に魔術協会を通じて何かを注文したとは考えにくい。


なにせ魔術的な道具のほとんどはこの店に置いてあるのだ。今さら協会に何かしらを頼むという事がそもそもないのである。


「ちなみにそれって何なんですか?ブライトビーという名前を使っているという事は魔術関係だというのはわかるんですけど・・・」


「ふふふ・・・実は前に奏さんのコネで自分の装備を作ってもらえることになりまして・・・これはその完成品なんですよ。いろいろと要望とかデザインとか試作のは見せてもらってたんですけど遂に完成ってわけです」


「ほう・・・康太君の装備ですか・・・という事は魔術師の外套ですか?それにしては妙に重かったですが・・・」


今回届いたのは康太が頼んでいた自分の装備。真理は真っ先に魔術師としての外套を思いつく。


魔術師としての個人の区別を容易にするため、そしてファッションの一環として自分の外套をある程度改造するのはよくあることだ。


康太もそれをどこかの誰かに頼んだのだろうという事は理解できるのだが、それにしては届けられた荷物が妙に重かった。


となれば外套だけではなく別のものも一緒に作ってもらったと思うべきだろう。


「外套だけじゃなくて実は武器の類も一緒に作ってもらったんですよ。全体的に蜂っぽさをイメージできるような感じに」


「へぇ・・・じゃあ今使っている槍はお払い箱ですか?」


「いえ、ぶっちゃけ今回作ってもらった武器は今の『竹箒』の改造版みたいなもんなんですよね。いやオプションパーツみたいなもんなのかな・・・?それと防具とかもあるんで今の槍はそのまま使っていきますよ」


あれも結構気に入ってますからねと康太は言いながら商品の数量を確認し次々とチェックしていく。


実際今康太が使っている竹箒もだいぶ使い古し、それなり以上に愛着も湧いてしまっている。


今さらあれを捨てようとは思えなかった。自分が初めて本格的に使った武器であり、今まで自分と共に戦ってきた相棒なのだ。新しい武器が手に入ったからと言って易々と捨てることはできない。


こうなったら少なくとも今使っている竹箒が壊れるまで使い続けるつもりだった。


「でもあの槍もだいぶ傷んできましたからね・・・手入れしているとはいえそろそろ限界かもわかりませんね」


「まぁ・・・確かに・・・もともと組み立て式で耐久力はあまり高くないですからね。今まで良く頑張ってくれた方ですよ。まぁ壊れたらその部位を作り直してもらえばいいだけですけど」


康太が使っている槍『竹箒』は竹のデザインをしており、いくつかのパーツを節の部分を接合することで槍の形を成す組み立て式の槍である。


その為部分的に破損してもその部分を切り離すことで継続して使用することができるのだ。


元より壊れることを想定していたためか、替えのパーツはいくつかある。康太が頻繁に手入れをしているとはいえ長く使用していればがたが来るのも当然だ。そろそろ新しいパーツに切り替えていくべきなのかもわからない。


思えば槍を使い始めて長いこと戦ってきた。魔術に晒されたり相手へ攻撃したりとその活躍は数知れない。


普段の手入れだけではなく本格的な手直しをするべきなのかもわからない。康太は商品のチェックをしながらそんなことを考えていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


今回から十話スタート。ようやく二桁ですよ。長かった気がします


これからもお楽しみいただければ幸いです

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