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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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その男の絶望

「さて・・・とりあえず起こすか・・・」


奏が何やら魔術師の体に触り一瞬だけ目を細めると魔術師の体が大きく痙攣し、次の瞬間おおきくせき込み始める。


一体何をしたのかと疑問に思っていたが今の一瞬で相手はすでに覚醒した。覚醒してしまったのだ。


目を覚まさなければこのようなことを味わう事もなかっただろうにと同情しながら康太はDの慟哭を操り続ける。


魔術師はせき込みながら自らの視界の変化に気付いていた。記憶が酷く曖昧でいったい何がどうなったのかもよく覚えていない。


分かるのは体の節々の痛みと、目の前が妙に暗いことだった。


天井から漏れる電球の光が布袋の隙間を縫って自分の目に届いている。そのことに気付くのに酷く時間がかかったのは言うまでもない。


一体ここはどこか、今何時なのか、自分はどうなったのか、体はどうなっているのか。


様々な疑問が浮かぶたびにその体に刻まれた痛みが不安と恐怖を駆り立てていく。近くにある人の気配がさらにその二つの感情を後押ししていた。


だがそのあたりは彼も魔術師だ、自らに起こっているこの急激な状況の変化を一つずつ、だが確実に解消しつつあった。


一体なぜこのような状況になっているのか。その答えは混乱がゆっくりと収まっていき記憶を徐々にたどっていくことで解消された。


槍を持った魔術師との戦闘、そしてその中で受けた傷。記憶の最後のあたりだけはあいまいだが自分があの槍を持った魔術師に負けたのはすぐに納得できた。


そして戦闘のさなか、槍を持った魔術師が言っていた言葉を思い出していた。自分に聞くことがあると。


そのことを思い出したことによってこの状況の半分以上の回答を得ることができる。


ここはどこか尋問に適した場所で、今ここにいるのは恐らく先の槍使いの魔術師、そしてその仲間達。


そして理解したくないであろう最悪の未来まで理解し、その体に強烈に拒否反応に近い汗が流れ出る。


これから自分がどうなるのか、何をされるのか。


腕も足も腰も、動かさなければ逃げられない部位はほとんどが拘束されてしまっている。


しかも先程から魔力を補充しようとしているのに補充したそばから魔力が失われていっている。それが先程戦闘した槍使いの仕業であると気づくのに時間は必要なかった。


逃げられない、この状況から、この絶望から。


半ばあきらめの境地に至る中で、袋の向こう側から声が聞こえてくる。それは女性の声だった。


「さて魔術師・・・いろいろと聞きたいことがあるが・・・まずはお前の名前を聞いておこうか?」


名前、それが本名のことを指しているのか術師名のことを指しているのか一瞬迷ったが、本名を言うことに対するメリットはない。


相手が魔術師であることが確定しているのだ、ここは術師名を名乗るべきだろうと震える唇を何とか律しながら声を出そうとする。


「・・・イェ・・・イェ・リシェイ」


「変わった名だな・・・私がお前に聞きたいことが何であるか、お前はどの程度予想できている?」


有無を言わせずに自分のききたいことだけを問いかけるのではなく、あえて自発的に話をさせることで情報を得る。


声の主がどのような相手なのか理解できないが、ここは素直に答えておいた方が身のためだろうとゆっくりと息を吸って呼吸を整える。


「・・・あの時戦った・・・槍使いの魔術師・・・あいつが俺に聞きたいことがあると言っていた・・・恐らくそのことだろう」


嘘は言っていない。あの魔術師が何を目的としていたのか、何を聞きたがっていたのか知らないのだから。


情報をすべて出さず、なおかつ嘘も言わず、何とかして相手が求めているものを把握したかった。


自らの身の危険と情報、どちらをとるかなど比べるまでもない。


「ふむ・・・ではその槍使いの魔術師が何を聞きたかったか、そこが焦点になるだろう。まずはお前の意見を聞こう。何を聞かれると思った?」


試されているのか、それともすでに聞きたいことは知り終えて自分のことをいたぶりたいだけなのか、聞こえる声の主がどのようなことを考えているのかわからずに体が震える。


これから起こるのではないかということに対して何も対抗できない自分自身が恨めしく、襲い来る恐怖に対して何もできない自分の境遇に絶望していた。


「い、行き慣れない土地だったから、その縄張りを荒らしてしまった可能性がある。何を目的に行動したかを聞きたかったのかもしれない・・・」


「そうか、お前は縄張りを荒らしたのかもしれないな。では一体お前は何をしていたんだ?ただ通り過ぎただけなら魔術師もそこまでは干渉しないだろう。何をしていて、何をしようとして交戦が始まった?」


「・・・それは・・・」


答えられないわけではない。その答えはすでに用意してある。すぐに答えてその理由や背後関係など全ても話すことができる。


だがこれを言ってはいけないと体の奥底にある何かが告げている。これを答えたら終わると、全てが終わると。


「・・・答えられないならそれでいい・・・答えられるようにするまでだ・・・さぁ・・・せいぜいいい声で啼いてくれ」


「い、いや!待っ」


待ってくれと、今答えるからと、その言葉を紡ぐ前にそれは行われた。男の喉から言葉にならない絶叫が響き部屋の中を満たすのに時間はかからなかった。


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