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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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康太の成長

「動くなよ。お前には聞きたいことが山ほどあるんだ」


「・・・こ・・・の・・・!」


「暴れんな!こちとら誰かを捕まえるのとかあまり得意じゃないんだよ・・・!余計な怪我したくなきゃ・・・!」


康太が片腕の関節を極め、もう片方の腕で首筋にナイフを当てている状況ではほとんど詰みの状態に近かっただろう。


実際この状態ならほとんどの人間が抵抗をあきらめて降参する。だが目の前にいる魔術師は未だ諦める気配はなかった。


首に添えられたナイフにわざと首筋を触れさせると、康太が握っているナイフが急に何者かに動かされているかのように力を加えられる。


それが魔術であると瞬時に気付いた康太は舌打ちをしながら掴んでいる腕をさらに強く捻りあげる。


「抵抗すんなって言ったろ!これ以上抵抗するなら腕を折るぞ!」


腕を捻りあげられることで骨と筋肉に強い負荷をかけて威圧すると、魔術師は一度大人しくなる。


さすがにそこまで抵抗する気も無くなったのだろうかと康太がほんのわずかに気を緩めるとその隙を見逃さずに魔術師は開いている片方の腕で懐から大量の釘を周囲に放り投げ康太めがけて突撃させる。


ほぼゼロ距離の状態では自分もろとも巻き添えにした攻撃だ。はっきり言って正気の沙汰ではない。


だがそのような攻撃を受ける程康太は警戒を解いてはいなかった。


自らの周りに炸裂障壁の魔術を発動し、球体に近い形の障壁を展開する。


だが一瞬、魔術師から目を逸らせたのがいけなかった。


康太が掴んでいる腕に違和感を覚えると同時に、康太の腹部に軽い衝撃が走り魔術師は康太の拘束から抜け出していた。


どうやって抜け出したのか、その答えは康太の手の内にあった。


腕に付けていた金属のプロテクター、魔術師は自分の腕からプロテクターを操り外すことで半ば強引に康太の拘束から逃れると同時に康太に蹴りを放ち強引に距離をとったのだ。


してやられた。


どういうわけかこの魔術師は康太から徹底的に逃げようとしている。それだけの理由があるのかただ単に逃げることに特化しているのか。


どちらにせよこの魔術師を捉えるには気絶させるほかない。魔力は吸い続けているためある程度のアドバンテージはある。だがそれもある程度でしかない。


逃げ出そうとしている魔術師は康太への牽制も忘れていない。康太めがけて小さな金属を連続で飛翔させると同時に自分の体を金属の板のようなものを取り出すことで防御している。


康太は反省するよりも早く自らの魔術師の外套を体に巻きつけるように防御すると襲い掛かってくる釘の弾丸を半ば強引に防いでいた。


もちろん少し頑丈な程度の布で飛んでくる釘をすべて完全に防げるはずもない。何発かは康太の体に浅く刺さっていたがそんなことを気にするだけの余裕は今康太にはない。


康太は防御と同時に遠隔動作の魔術を発動し逃げようとする魔術師の首根っこを掴んで体勢を無理やりに崩す。


両腕両足を潰す覚悟でなければあの魔術師は捕えられない。康太は覚悟を決めて槍を振りかぶる。


体勢を崩したところに思い切り康太は槍を投擲、それと同時に再現の魔術を発動し同じく槍の投擲を連続で発動した。


再現の槍の投擲は魔術師の体を守っていた鉄の板に直撃し弾き飛ばしていく。


そして一直線に襲い掛かる槍の一撃を前に、魔術師はもう一本の腕に残っていたプロテクターで何とか防御するもその体は大きく流されてしまう。


弾かれた槍が空中に大きく投げ出されたところで康太は再び遠隔動作の魔術を発動する。


投げ出された槍を掴み、崩れた体勢をさらに崩すべく足元にめがけて槍を振った。


右足の関節部に的確に吸い込まれた刃は、その体から血を流させ相手の機動力を削いだことを証明していた。


だがこれだけでは終わらない。康太は移動しながら槍を操りプロテクターが無くなった腕に槍を深々と突き立てる。


低い悲鳴が康太の耳に届く中、相手の負傷具合を確認して一度遠隔動作の魔術を解除し今度は分解の魔術を発動する。


槍の先端部分だけを切り離し、槍をただの棍に変化させると再び遠隔動作で操り、今度はその顔面に思い切りたたきつけた。


相手の動きが一瞬止まるのを康太は見逃さなかった。


魔術師の下までたどり着いた康太は自らの体で棍を握ると魔術師の外套の内側にある腹部のプロテクターを視認する。


解析の魔術によりそのプロテクターの構造を理解すると同時に分解の魔術でプロテクターを無理やり分解し腹部を完全に無防備の状態にしてしまう。


棍で相手の体を引き留めながら、康太は拳を腰まで引き、息を吸ってから呪文を唱える。


拳の乱打呪文『ラッシュ』


一発一発の威力は本当にただ殴る程度の威力しかないが、それでも何発何十発と殴られれば話は別だ。


康太の全力の拳を何十もその体で受けたことで魔術師は苦悶の声を上げながら口から吐瀉物をぶちまけていた。


ダメージは十分、だがまだ終わらない。康太は棍を軸に体を回転させると魔術師の体を思い切り地面に叩き付けた。


先程とは違い完全に組み伏せた体勢で康太は相手の無事な方の足の関節にナイフを突き立て完全に相手の機動力を殺す。


まず確実に足を狙う事。以前兄弟子である真理から教わったことだ。


遠隔動作の魔術によって康太は相手の死角からの攻撃の方法が増えた。これでだいぶ楽に戦えるようになるだろう。


惜しむらくは遠くになればなるほど必要な魔力が多くなるという点だ。康太の魔力と必要な魔力量を考えると、まともに使える距離はせいぜい十メートルから十五メートルと言ったところだろうか。


「もう諦めろ。お前には洗いざらい吐いてもらうぞ・・・もういろいろ吐き散らしてるけどな・・・」


仮面越しに吐瀉物が地面に流れるのを見ながら、康太は僅かに眉をひそめていた。


この魔術師は何故金属を操作するという魔術以外発動しなかったのか、それが気になったのだ。


あの金属の操作、あの魔術の効果はおおよそ把握している。


外的要因による衝撃が加わり使用者の操作を離れるまで金属に力を加えることができる魔術。


恐らく軽いものであればあるほど消費魔力も少ないだろう。先程からずっと釘などの軽いものしか操ってこなかったのはそれだけ魔力の消費が心配だったからに他ならないのは理解できる。


だがこの状況になるまで自らの魔術を温存しておく意味があるとは思えなかったのだ。


そう、康太はこの時気付いていない。そして恐らくこれからも気づくことはないだろうがこの魔術師は康太と似たタイプの魔術師なのである。


供給口が弱く、魔力の貯蔵量も放出口も康太に比べるとそこまで多くない。


そう、康太にとっては珍しく格下相手の戦いだったという事だ。


康太のDの慟哭の効果でただでさえ少ない魔力をさらに吸い取られたせいで魔力が少なくなり、小さな魔術しか使えなかったのである。


相手の魔力を吸い上げる。その魔術の効果の高さと実益の多さに康太はまだ気づけていない。まだ便利程度にしか思っていないのだ。


対魔術師戦においてこれほどアドバンテージを握れる魔術は他にない。


事実康太は格下とはいえ魔術師相手にほぼ無傷に近い形で勝利している。釘が何本か体に刺さっているが、それもほぼかすり傷のようなものだ。


「ベル、こっちは終わった。そっちはどうだ?」


『こっちも無事に駅まで送り届けたわ・・・怪我一つさせてないから安心しなさい。それでさっきの奴は?』


「今俺の下でもがいてるよ。さっさとこっちに来てくれ。こいつからいろいろ事情を聞きだす。目的と背後関係含めてな」


『わかったわ・・・一応聞いておくけどどれくらい痛めつけたの?』


「足を潰して片腕突き刺したくらいだ。そこまでボロボロにはしてないよ」


『・・・それって十分・・・あぁもういいわ。ちょっと待ってて、今そっち行くから』


文にとっては四肢のほとんどを潰されている状況は十分すぎるほどに痛めつけているのではないかと言いたくなるが、小百合の弟子である康太にそんなことを言っても仕方がないだろう。


この魔術師が何を理由にしているのかは知らないがこのことをまず奏の報告する必要があった。


康太は文との通話を切ると奏の方に通話を始める。


『もしもし、私だ・・・依頼は完遂できたか?』


「そのことでご報告が。目標はしっかりと駅まで護送しましたが目標を狙った魔術師が一人います」


『・・・なんだと?あの子に怪我は?』


「怪我一つありません。ちょっと怖い目にはあったかもしれませんがベルがアフターケアしてくれていることでしょう」


森本奈央に怪我一つないという事を聞いて安心したのか、奏は小さく息を吐く。携帯の向こう側とはいえ僅かに笑みを浮かべているのが見えるようである。


『そうか・・・わかった・・・それでその魔術師の特徴は?』


「そのことなんですが、襲ってきた魔術師の捕縛に成功しました。これから尋問する予定なんですが・・・」


『ほう?生かしたままか?』


「はい、意識もなんとかあるようです。多少痛めつけましたが」

『加減ができる程度には実力をつけたという事か。いいだろう。そいつを連れて協会に来い。その時に今回の依頼の評価とそいつの尋問を行う。ベルも一緒か?』


「今は別行動で・・・あ、今ちょうど来ました」


康太が奏と話しているとちょうど文が康太のいる建物の屋上へとやってくる。


康太が組み伏せている魔術師を一瞥し小さくため息を吐きながら康太の電話相手が奏であることを察すると電話が終わるのを静かに待っていた。


『ならいい、すぐに協会に向かえ。私もすぐに行く。決して逃がすなよ?』


「わかっています。それではまたあとで」


康太が通話を切ると同時に文はゆっくりと近づき捕縛されている魔術師の方を見る。仮面の下から漏れている液体が吐瀉物であるとわかると露骨に嫌そうな態度をとっていた。


「よくもまぁ・・・それで?これからどうするの?」


「こいつを連れて協会に行く。そこでサリーさんの依頼の評価とこいつの尋問を行うそうだ。逃がさないようにだってさ」


「まぁそうなるでしょうね・・・運がないわねこの人」


よもや康太や奏を敵に回してしまうとは思わなかっただろう。眼下にいる魔術師に同情せざるを得ない。文はほんのわずかに覚えた同情と一緒に康太たちは敵にしないようにしようと心に決めていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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