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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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やむを得ない行動

救急車で搬送された男性を見送りながら康太はため息をついていた。話をしていたところ急に気分が悪くなったらしく倒れた。救急隊員にはそう伝えたところ熱中症ではないかと思われたようだった。


『大丈夫なわけ?かなりギリギリまでいったみたいだけど?』


「あれくらいなら大丈夫だ。少なくとも死なない。点滴うってしばらくゆっくりしてれば治るだろ」


問題はそっちじゃないなと告げて康太は視線を移す。


その先には先日会ったと思われる魔術師が二名、こちらに接近してきていた。


二人とも私服でこちらに若干ながら敵意を放っている。仮面の下はあんな顔だったのかという感想を抱く暇もなく、二人は康太の眼前に迫っていた。


「今の行動に対して弁解することはあるか?明らかに一般人に対して攻撃したように見えたが?」


「何のことです?あの人はただ熱中症で倒れただけでしょう?」


二人の位置から康太とあの男性の位置をつぶさに観察できるとは思えない。恐らく木々やどちらかの体が邪魔になって詳細な部分を見れなかったはずだ。


だからこそ康太はどうにかごまかせないかと笑みを作っていた。


「こっちもバカじゃねえんだ、お前が何かしたのはわかってんだよ。あの黒いの明らかに魔術だろうが」


どうやら物理的な手段ではなく魔術的な手段を用いて康太の様子を窺っていたのだろう。相手が魔術師であるのだからこの程度は想定済みではあったがだからと言って康太は別に悪いことをしたつもりはない。


魔術の露見の可能性は限りなく低い。これだけの暑さだ、熱中症で倒れても何も不思議はない。それに話していた時に急に気分が悪くなったという証言もしてある。暴行の証拠も何もないのだ。


一般人に対しての対応としては十分すぎる。問題なのは康太が一般人に対して魔術を使ったという点である。しかも暗示などの魔術ではなく、明らかに身体に異常をきたすことのできる危険な魔術だったことが問題となっているのだ。


「俺らの依頼を完遂するためにやったことです。あの男は何か工作活動を行おうとしていた可能性がある。だから排除した・・・と言っても命に別状はありませんけど」


康太にしてみれば非常に穏便に事を済ませたつもりだ。魔術の露見の可能性も低く相手を傷つけてもいない。


百点とは言えなくとも及第点をはるかに超える対応であると自負していた。


「万が一のことがあったらどうする?それにあの人が本当にただの一般人だった場合は?何者かに依頼されてただやってきただけだとしたら?」


「その時は申し訳ないけど不用意に近づいたのが悪いってことで。少なくともあの状況ではあぁするのが正解だと思ってます」


「・・・お前本気で言ってんのか?」


魔術師両名の追及に対して康太は毅然とした態度で応じていた。康太は悪びれる素振りは一切ない。当然の対応だったと言わんばかりだ。


魔術によって人をこん睡させる。康太がやったのはそう言う事だ。一歩間違えば命の危険がある。


もし使えるのであれば催眠や強力な暗示をかけてこの場から遠ざけたり、何か別の方法をとるべきだったのだ。


だが康太はそれをしなかった。いやできなかったというべきか。


自らがもつ魔術の中で最も確実で、目立たない魔術を行使したつもりだ。その点に関しては一切の後悔はない。


たとえ先程の人間が本当に件の妨害工作と全く無関係な人間だったとしても。


「俺の今の優先事項は依頼の完遂です。その為に必要であれば仕方がないでしょう。命を奪うというのは俺もしたくありませんがそれ以外の事なら大抵何でもやりますよ」


そうでもしなければならない状況であることくらいはわかる。康太はただでさえ取れる手段が少ないのだ。そんな悠長なことをしていられる余裕はない。


何より小百合の教えでもある。使えるものは何でも使えと。


「・・・そこまでする価値があるのか?少なくともただ警備をしているだけに見えるが」


「それを知る必要はありません。もし邪魔をするというのなら」


康太はそこで言葉を区切り帽子の奥から二人の魔術師を見つめる。


敵意はまだ見せていない。だがそれもやむなしだという、覚悟を決めた目だった。


「やりたくはありませんが仕方ない。あなたたちでも排除させてもらいます」


こちらは戦いたくない。そう言う意思を見せながらも戦う準備ができているという事を言葉と意思に乗せて二人の魔術師に向けて放つ。


奥底に宿る底知れない瞳、目の前にいる二人にとっては目の前にいる少年が不気味に映っただろう。


危険な行動は慎むように警告するべきだ。もし警告を無視するようなら実力行使に出る用意もあった。


だが二人の中の何かが警鐘を鳴らしている。


こいつに手を出すなと。


ブライトビーの名前は魔術協会の中でも何度も目にし耳にした。その中で最も目立ったのが封印指定となっている事件を解決したこと。そしてもう一つはデブリス・クラリスの弟子であるという事。


先日まではデブリス・クラリスの弟子になってしまった哀れな少年だとばかり思っていた。だがその評価をこの場で二人は訂正する。


この少年はなるべくしてデブリス・クラリスの弟子になったのだと。それだけの危険な存在であると。


「・・・わかった・・・こちらに敵対する意思はない・・・邪魔もしない」


「おい、いいのかよ?やりすぎな感はあるんだぜ?」


「あったとしても、俺らで止めるにはちょっと騒ぎになる。この場ではどうしようもないだろう?」


三人が魔術師であり人避けの魔術を使えたとしても、この場ではほとんど無意味のようなものだ。


なにせ周囲には大勢の人、しかもライブ目当てに集まっている人間ばかりだ。そんな中で人避けの魔術を使っても正しく効力は発揮されないだろう。


しかも先程救急車が来た関係で周囲の野次馬たちは先程までの比ではなくなっている。警備の人間が大勢集まって対応しだいぶ沈静化してきているとはいえそれでも人の目はかなりある。


そんな状況で戦闘をしようものならまず間違いなく面倒なことになる。


この状況では警告しかできない。戦闘をしようにも目立たないように互いに使う魔術を選ぶ必要がある。


そう言う意味では康太は大きなアドバンテージを握っていることになるだろう。幸か不幸か康太が使える魔術は無属性ばかり。一見目立たない魔術であれば二人に対して攻撃することは可能だ。


すでに二人は康太の射程距離の中に入っている。合図を待たずに発動できるだけの集中状態は保っている。


相手が戦闘をするつもりだったらの話だが。


「昨日今日と、あの魔術を使って人が倒れたのはこれが初めて。しかも今回は意図的にそうなるようにしたようだし・・・ここでやるメリットはないよ」


「だけどよ・・・もしもがあったら面倒だぞ?」


どちらの言い分にも理がある。だからこそ互いに意見が割れているのだろうが、康太としてはこれ以上この二人に時間を割いているだけの余裕はなかった。


ただでさえすべての監視を文に任せている状況なのだ。少しでも彼女に楽をさせるためには少しでも早く自分の持ち場に戻らなければならない。


「話は以上ですか?これ以上は無駄なので俺は戻らせてもらいます」


「あ、おい、話はまだ」


康太の肩を掴もうとした瞬間、康太はその手を逆に掴んで僅かに力を込める。


これ以上は待ってやらない、そう言う意味を込めて先程の言葉を言ったつもりだった。だがそれだけでは足りなかったようだ。


康太は僅かに視線を向け、今度は明確に敵意と殺意を向けて二人の魔術師を睨む。


「もうこちらに話すことはないと言っているんです。これ以上邪魔をするというのなら・・・こちらも相応の対応をとらせてもらいます」


康太の眼光とその言葉が効果を発揮したのか、掴みかかろうとしていた魔術師は一歩引いて警戒態勢をとっていた。


攻撃されてもおかしくない。それほどの殺気を向けたつもりだった。


小百合に巻き込まれる形でいくらでも危険な目には遭っている。そして彼女たちとの訓練で嫌というほど場数は踏まされている。


既に康太は一般的な魔術師の経験のそれを超え始めているのだ。いやもう超えているのかもしれない。


常に実戦に近い形での訓練は康太に普通ではできない数の経験を積ませている。それが身に着くのはまだまだ先の事だが、既に康太はその片鱗を見せ始めているのだ。


普通の人間ではもちえることのない、威圧感と存在感。そして奥底に眠る危険性。


康太にとってそれが良いことであるかどうかはさておき、この状況においてはそれは役に立っていた。


『もう済んだわけ?』


「あぁ、平和的に解決したよ。これで邪魔が入ることは無くなるだろ」


『平和的・・・ね・・・本当に平和的に済ませたんでしょうね?』


「もちろんだ。俺は平和主義者だからな」


携帯をポケットの中に入れていたために文は康太たちの会話までは聞き取れなかったのだろう。


先程までの康太の会話を聞いていれば間違いなく文は難癖をつけていただろうが、鬼の居ぬ間にという言葉もある。ある程度は見逃してもらっても損はないだろう。


きっと先ほどの会話を聞いていたら平和主義者が聞いてあきれると文は言うだろう。だが康太は本心から平和を願っている。


脅しも威圧も戦闘にならないための手段だ。今回康太は一回も攻撃の魔術を使っていないのだから平和的に解決したと言えるだろう。


徐々にではあるが康太は小百合たちに感化されている。


封印指定の、デビットの事件がきっかけとなってそれは加速しているようにも見える。


文にとってはそれが不安であり心配でもあった。


「それよりそっちは大丈夫か?水とか必要なら買い出し行くぞ?」


『大丈夫よ、こっちはまだたくさんあるわ・・・それよりそっちは大丈夫なわけ?立ちっぱなしだときついでしょ?』


「大丈夫だよ、この程度師匠との訓練に比べれば苦痛でもないって。水分もちゃんととってるし問題なし」


まだこれから問題が起こるかもしれないのだから気は抜けない。


先程の男が本当に無関係である可能性だって否めないのだ。これで何事もなければそれでよし。まだ何かあるようならまた対応するだけの話だ。


少しだけ増えた野次馬を前に康太はため息をつきながら警戒を続けていた。今回の依頼はしっかりこなすぞという意気込みと共に。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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