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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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不審な人物

しっかりとした睡眠をとり、万全の態勢を整えたライブ二日目、康太たちは先日と同じように夜明けと共に行動を開始していた。


あらかじめ食材や飲み物を大量に買い込み、同じく調達しておいたクーラーボックスに入れて観客席に置くとほぼ先日と同じ配置につく。


文は関係者用の観客席に、康太はライブ会場の裏側に配置することで各所を監視できるようにしていた。


余計な動きをする必要がないためにあとは問題が起きるのを待つだけだ。


問題が起きるのを待つだけといったが今回確認しておくべき内容は大きく分けて三つだけだ。


まずは観客の魔力の動向。


これはこの場所がマナが非常に不安定なせいで魔術師としての修業をしていない一般人でもごくまれに魔力を体の中で作り出してしまうため、魔力が溜まりすぎないように康太がすい出してやる必要がある。


無意識のうちとはいえ勝手に魔力を作り出してしまうのだから人間の体とは不思議なものである。


次に今回の護衛対象である森本奈央の護衛。


これは観客のそれと違い一日中気を付けなければいけない。彼女がどこかに行くのならその後についていき、彼女が何かしようとするならその動向を確認する。


護衛である時点で仕方のないことではあるが常に彼女に周りに危害を加えようとする人間がいないかチェックしなければいけないのだ。これはこれで気苦労の絶えない状況と言えるだろう。


最後にライブの妨害を行う人間の排除。


これは今回のライブ中に限った話だが、この近辺でライブを行ったとき何度か同じような手口でライブに対する妨害工作が行われたのだとか。


昼過ぎになってからそれらが発覚するあたり昼前当たりに侵入していると思われる。この不審者の侵入を防ぐ、あるいは捕縛することが今回康太が最も注意を傾けていることでもあった。


観客と護衛対象に関しては文がすでに対応してくれている。康太が対応するべきなのはライブ会場の裏側から侵入しようとする人物だ。


一応ライブ会場の裏側も文の索敵の範囲内ではあるが、目視によってその存在が確認できるという利点は大きい。


康太の場合すでに現場にいるのだ。即時対応、状況によっては警備員に引き渡すことだって可能だろう。


ただ問題として、妨害工作を行っていない状況では近づいてくるのが仮に今までの件の犯人だとしても連行し捕縛するということができない。


恐らく警備の人間としては厳重注意で終わってしまうだろう。


そうなったら康太の出番だ。康太があくまで個人的に因縁をつけて近づけなくさせればそれでいい。


もし仮に相手を病院送りにしたとしても、このライブの安全が守れるのであれば安いものだろう。


場合によっては魔術を使ってでも相手を気絶させ救急車で搬送すればいいだけだ。そうすれば入院や経過観察を含めて一日二日は出てくることはできない。そうなればライブの安全は守られる。


今後のライブでは同じことを起こすかもしれないがそのあたりは知ったことではない。康太はあくまでこのライブを守るという依頼を受けただけだ。それ以外、これから先に起こるライブの不幸に関してまで関与するつもりはない。


『康太、聞こえてるわね?観客席に魔力の反応あり。対処してくれる?』


「了解。場所の指定頼む」


康太はライブ会場の裏手から少しだけ移動して目的の観客がギリギリ射程範囲に入る位置に移動する。


何回も同じことを繰り返したからか、遠くにいる目標でも時間をかけ集中すれば問題なく狙えるようになっていた。


康太が使うDの慟哭は今まで使ってきた魔術とは少々毛色が異なる。すべての制御権を康太が握っているのではないために感覚的な操作しかできないのだが、何回も繰り返してきたことでその感覚はかなり研ぎ澄まされていた。


康太の体の中から黒い瘴気が吹き出し、魔力を吸い上げるために移動を開始する。


普通ならこの光景を目にして観客は怯えるかもしれない。だが幸か不幸かこの黒い瘴気は普通の人間には見えないのだ。


魔術師としての視覚に目覚めていないとこの黒い瘴気は見えない。そう、今こうしている間にもこちらを監視している二人の魔術師には見えているのだろう。

康太はその視線に気づいていた。


気付いたのは昨日の夕方頃、確信はなかったが今は確信をもって言える。見られていると。


「文、今この前会った二人の魔術師に見られてるっぽい。場所の捕捉できるか?」


『え?近くにそれらしい反応はないけど・・・何でそう思うの?』


「ほんの少し嫌な感覚がした。本当に一瞬だけど敵意を向けられた感じだ。方角は南東・・・距離まではわからない」


『余裕があったら調べてみましょうか・・・でも今はもう敵意は向けられてないのよね?』


「・・・一応な・・・」


相手が今まで敵意を向けていなかったからか気付くのがだいぶ遅れた。自分に絡みつく視線に気づくのにはまだ時間がかかってしまう。敵意や殺意が含まれていれば割とわかりやすいのだがと康太は目を細めて自分を見ている誰かの方に目を向けた。


文句があるなら言いに来い。そう言う意味を含めた瞳を向けたつもりだった。


『見られてるのはいいけど、邪魔をするようなつもりはないのね?それならこっちに集中して。そろそろ昼に近くなるんだから』


「わかってる。警戒は怠らないよ・・・っと・・・そうこうしてる間にトラックが来たな。文、一度そっちの方に警戒を向けてくれ。一応俺も待機しておく」


『了解よ。スタッフが向かってるわね・・・こういう時だとどうしても緊張するわ』


トラックによる物資の運搬。中には消耗品もあるためにある程度は頻繁に運び込まなければいけないのはわかるがそれにしたってタイミングを考えてほしいものだと康太はため息を吐く。


そんな中、康太はある人物の方に目を向けた。それはトラックの運転手と荷物の確認などをしているスタッフのやや後ろ、荷物が置かれつつある場所で手伝いをしている人間だ。


やや小太り気味で汗を拭くためのタオルを首から下げ、そしてキャップを深くかぶっている。他のスタッフと比べるとそこまでおかしな風貌ではない。康太がその視線を向けたのは単なる疑問だった。


あんなスタッフはいただろうか?


ライブ会場の設営というだけあってこの場所にいたのはほとんどが肉体派、要するになかなか筋肉質な男たちだ。


照明や音響などを取り仕切っている者たちのほとんどがある程度機材を動かすこともできるように体を作り上げている。


唯一この中である程度肥満体形なのは責任者的なポジションの人間の数人だけだ。


だがそれ以外の人間でやや肥満体形の人間などいただろうか。そんな疑問から康太はその男に意識を向けた。


康太は目を細めた後、ポケットの中に入れておいた単眼鏡を取り出してその男の姿を確認する。


荷物を並べて近くにいるスタッフに幾つか言葉を飛ばしているように見える。その体にスタッフがつけているべき証明書はついていない。


もしかしたらポケットの中に入れているのかもしれないが、怪しい人物であることに変わりはない。


「文、怪しいやつ発見。荷物の近くにいるちょっと小太りの奴だ。チェックしてくれるか?」


『了解・・・魔力反応はないわね・・・バイト含めスタッフには全員魔力を入れてあるはずだから・・・ビンゴかしら?』


「追加の人員補充の話も俺の所には来てない・・・一応名簿確認してみる。ビンゴなら・・・ちょっと手荒いことになるかもな」


『警察沙汰はやめなさいよ?ただでさえ面倒は起こさないようにって言われてるんだから』


「わかってる。そのあたりはうまいことやるさ」


康太は帽子を深めにかぶり、荷物をこちらに運び込もうとしている小太りの男に小走りで近づく。


相手の目線は下を向いたまま。あまり人に顔を見せないようにしているようだ。あからさまにとは言わないがこちらを警戒しているのがよくわかる。


荷物を運ぶ足取りもしっかりしている。適度に周囲の様子も確認しているようで明らかになれた動きである。


「お疲れ様です。その荷物何処に運びますか?」


「ん・・・?あぁ、これは裏手に置いておけって。まだ向こうにたくさんあるから手伝ってくれるか?」


声は三十代くらいだろうか。康太が声をかけたことで若干表情を変えたがそれも本当に一瞬。すぐに何事もないかのような振りをしている。


スタッフが話しかけても同じように対応しただろう。こうすれば自分から荷物の方に意識を向けることができる。現に仕事があるのだから不思議なことではない。


荷物を抱えていることでスタッフの証明であるカードがないこともうまく隠せている。本格的に手慣れた動きであるのは間違いない。


「わかりました。あとスタッフ用のカードみせてもらえますか?それ無いといれちゃいけないってことになったらしくて」


そう言いながら康太は昨日入手した今回のスタッフの一覧とボールペンを取り出してチェックする振りをする。


「・・・へぇ、そんなことするのか?」


「えぇ・・・なんか荷物のチェックと一緒にしろって言われて・・・何でかはわからないんですけど」


康太はあくまでバイトの振りをしている。ここで引き下がるならそれでよし。康太を言いくるめて強行しようとするのなら、その時は覚悟してもらうしかない。


「今急いでるんだけど、荷物運び終わってからにしてもらえるか?」


「あ、じゃあ俺が見ますよ。首からかけてますよね?カード」


ちょっと失礼しますねと言って荷物を少し持ち上げるふりをすると目の前にいる男は荷物を持ったまま康太から距離をとった。


この反応は間違いないだろう。ビンゴだ。


「・・・なんですか?名前と番号見ないと入れられないんですけど」


「あ、悪い悪い、ちょっとくすぐったくてね。ちょっと待ってくれ・・・えっと・・・どこにやったかな・・・落したかな・・・?」


目の前の男性は一度荷物を置いてカードを探すふりをしている。それが演技であるということは既に康太も分かっていた。


さてどうしたものかと康太は目を細め、覚悟を決める。ポケットの中に入れてある文と通話状態の携帯を三回ノックして合図にすると文は事情を察したのかわかったから早くやりなさいとオッケーを出してくれた。


康太は相手が探している振りをしている間にDの慟哭を発動、目の前の男の魔力を、いや魔力がないために生命力をギリギリまで吸い取っていく。


「あ・・・?あれ・・・?うぅ・・・」


目の前の男性が徐々に力なく倒れていくのを確認すると心配する振りをしてその体を何度かゆすり、近くにいた警備員に救急車を呼んでもらうことにした。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿



これからもお楽しみいただければ幸いです

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