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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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暗示と理屈

「あらゆるものを破壊する、それだけで大抵の事はこなせるものだ。あとはその使い方次第、結局はそれだけだ」


「師匠の魔術は攻撃的過ぎるんですよ・・・もう少しマイルドにですね・・・」


小百合に対して真理がいろいろと言おうとしているのだが、小百合としては聞く耳持たないらしい。欠伸をしながら真理の小言を聞き流してしまっていた。


自分はまだこの常識的な兄弟子がいるだけありがたいなと心底思っていた。


「ていうか師匠の師匠は何を思って破壊の魔術ばっかり教えたんですか?なんか意味があったとか?」


「いや、あの人は普通の魔術も私に教えようとしたぞ。ただ得意になったのが破壊ばかりというだけであって」


小百合の師匠も恐らくかなり苦労しただろう。なにせ普通の魔術を教えようとしても破壊をもたらす魔術ばかり得意になっていくのだから。


途中でそれに特化した魔術を教えたほうが良いと思うのも無理はないかもしれない。


「それにお前はそんなことを気にできる立場か。今はこれからの事だけを考えていればいい」


「まぁそうなんですけど・・・もうどうしようもないですし、当たって砕けますよ」


「砕けちゃだめだと思うけど・・・」


真理のいう事ももっともだが、はっきり言って康太の勝ち筋はかなり限定されてしまっているのだ。


なにせ相手は格上でしかも自分の覚えている魔術は二つのみ。相手は恐らく自分の倍どころか十倍近い量の魔術を修得していると思われる。


まともな戦い方をしても勝ち目はない。ならどうすればいいか、まともに戦わないことこそ勝利の条件なのだ。


もっとも相手がそれをさせてくれるかは微妙なところだが。


「良くも悪くもお前は私の弟子としてそれなりに有名になりつつある。相手はまず間違いなく警戒してくるはずだ」


「警戒って・・・どういう?」


「お前の魔術がどのようなものかを確認しようとしてくるという事だ」


魔術師において互いの手の内を把握しようとするのは常套手段。つまり相手は小百合の弟子である康太の魔術が一体なんであるかを把握しようとしてくる。


相手の初手は警戒からくる様子見。小百合の読みが正しいかどうかはさておき、頭に入れておいていいだろう。


「お前は魔術の引き出しが少ない。相手にどのような魔術かを悟られないように動くのが第一だな」


「って言っても俺実戦すら初めてなんですけど・・・どう動けば・・・」


「そんなものは自分で考えろ。私が教えるのは魔術と技術だけだ、その扱い方は自分で考えて自分で学べ」


明らかな放任主義に康太は兄弟子である真理に救いを求めようとしたが、彼女は同情したような表情をして優しく肩に手を置く。


その目は自分の時もこうだったよと言っているようだ。恐らく真理も小百合から口止めをされているのだろう。


考えてみれば当然かもしれない。どんな魔術を所有しているとしても結局使うのは自分なのだ。その扱い方は自分で学ばなければならない。


そう言う意味ではこの状況はおあつらえ向きと言っていいだろう。


たった二つしかない魔術を攻略されないように行動する。一体どうしろというのかと康太は頭を悩ませてしまうが、方法がないわけではないのだ。


問題はそれを自分が実行できるかどうかという点のみである。


「ちなみに姉さんの初めての実戦っていつですか?」


「私?私は中学生の頃だったかな・・・康太君と同じ魔術を二つ覚えたあたりだったよ」


その言葉に康太は師匠である小百合の方を見る。もしかしてこの無理難題を突き付けるのは小百合の趣味なのだろうかとさえ思えてしまう。


だが確かに二つの魔術を使う事で戦略的な幅は広がるし、なおかつそれをばれないようにつかうという訓練にもなる。


それを実戦でやらせるあたりスパルタすぎるような気がするが、もはやこの人の弟子になった時点でそれはよくわかっているはずだと康太は首を垂れる。


「移動中もこの格好ですか?さすがに目立つんですけど・・・?」


「いや、移動中は私服に着替えろ。一度家に戻って夕食を食べてこい。あと真理を連れていけ、家族に暗示を掛けさせる」


その言葉に康太は目を見開く。


家族は可能な限り巻き込みたくない。少なくとも魔術師になどしたくないのだ。どのような暗示をかけるのかは知らないが、康太としては了承しかねる内容だった。


「あの・・・それって必要なことですか?」


「当たり前だ。高校一年生が夜に家の外を出歩いていたら普通に補導される上に、お前のご両親も心配するだろう。だからお前は家にいるという暗示をかけるんだ」


「・・・あー・・・なるほど・・・」


康太はまだ高校一年生になったばかりだ。そんな歳で夜にでかければ両親は不審に思うだろう。


何をしていたのか、どこに行っていたのか。


そう言った疑問を持たせないために康太が家にいるという暗示をかけることで魔術がばれることを防いでいるのだ。


こういう隠匿作業を行っていると本当にばれてはいけないことなのだなと実感する。


そして同時に自分が現場を見てしまったのは本当に運が悪かったのだなと、自分の運のなさを恨んでいた。


「それじゃあ行きましょうか。康太君のおうちはこの近くですか?」


「それなりに近いです。歩くと・・・二十分くらいかな・・・?」


まさか女性を家に招くことになるとはと康太は少しだけ緊張していた。しかも話によると真理は女子大生だ。年上のお姉さんというのは男子高校生である康太からすれば非常に興味のある対象である。


もっとも自分に姉がいるという事もあって年上に対するあこがれというのは実はそこまでないのだが。


装備などは店においてとりあえず康太の家に向かうことにした二人は、並んで駅の近くの道を歩いていた。


康太は制服のまま、真理は私服であるために二人の関係が一体なんであるかは一見すれば分からないだろう。


「あの姉さん・・・暗示ってどうやってかけるんですか?」


「ん?どうやってって・・・」


「その・・・危なかったりは・・・?」


康太の言葉に、一体何を心配しているのかを理解した真理は薄く笑いながら大丈夫ですよと康太の背中を軽く叩く。


康太はつまり自分の家族に危険がないかを心配しているのだ。自分の魔術との邂逅があまりにも衝撃的だったためにそう思っても仕方がないだろう。


だが今回かける魔術はそこまで危険なものではないのだ。


「安心してください。暗示という魔術は簡単です。理屈で言えば・・・そうですね・・・」


真理は周囲を見渡してあぁあの人を見てくださいと視線を向ける。そこにはコンビニがあり、その通りの近くに一人の男性がいる。


誰かと喋っているようなのだが、その人物の視線の先は丁度コンビニが邪魔になって見ることはできなかった。


「彼は一人でしゃべっていると思いますか?それとも誰かがいると思いますか?」


「・・・携帯も持ってないし・・・誰かいるんじゃないですか?」


「そう、これが暗示の基本的な理屈です。」


真理の言葉に康太は眉をひそめていた。あの場所にいる男性が誰かと喋っている。それだけでどうして暗示が成り立つのか不思議だった。


「今康太君は男性が見えないどこかを向いて喋っているというところしか見ていないのに『あの男性は誰かと話している』という風に認識しましたよね?実際には見えていないはずなのにその場にいないかもしれない人物を想像したはずです」


「はい・・・そりゃ一人で話してたら変な人ですし・・・」


「それこそ暗示の基礎です。要するに人間の思い込みなどを利用したものなんですよ」


真理の言葉に康太はようやくその理屈を理解できる。


人間とは必ずと言っていいほどに勘違いを起こす生き物である。知識や常識、色合いなど、本来見えないはずの景色でさえも脳の中で勝手に補完するだけの能力が備わっている。


先程コンビニの近くにいる男性がただ口を動かして喋っているような動作を見ただけで、康太はあの男性の視線の先に『誰かがいる』と認識してしまった。


もしかしたらその場には誰もいなかったかもしれないのに。


勘違いというよりは、思い込みといったほうが正確かもしれない。人間の当り前の考えを利用した認識の操作、それが暗示。


「ひょっとしてですけど・・・あんまりにも突拍子のないものは暗示でも操作できなかったりしますか?」


「良くお分かりで。確かに明らかに逸脱した暗示はかけられません。例えばいきなり人を殺せだとかあまりにも日常からかけ離れているものをかけるには相当面倒な手順を踏む必要があります。ですが今回は『康太君が夜に家にいる』という内容ですから、そこまで難しくはありません」


真理の言葉に康太はほんのわずかにではあるが戦慄していた。


面倒な手順を踏む必要がある。つまり手順さえ踏めば暗示によって人を殺させることも可能なのだという事実。


それは魔術師である以上必ず通らなければいけないものなのかもしれないが、人の死というものは康太にとっては絶対的な禁忌のように思えて仕方がなかった。


だがとりあえず暗示の理屈は理解した。普通の人間がもつ常識とでもいえばいいだろうか、そう言うものを利用した意識や認識の操作というべきだろう。


「・・・弱い洗脳って感じ・・・なのかな・・・?日常に近ければ近い程効きやすい」


「そうですね、大体考え方としてはあってます。ただ暗示は魔術師には効きが悪いんです。それだけは覚えておいてください」


「へ?どうしてですか?」


魔術師には暗示は効きにくい。魔術におけることはいくつか学んできたがその理由がいまいち理解できなかった。


魔術師にも暗示が効けばそれはそれで強いだろうが、効きにくいのであれば使い勝手は案外悪いのかもしれない。


「暗示というのは術によって人間の意識に介入するものです。魔術師は基本的に五感も知識も常識も魔術師のそれになっていることが多いので、ある程度抵抗できるんです」


「あー・・・そう言えば師匠も似たようなことを言っていたような・・・」


手品のタネがわかっている人間が騙されにくくなるのと同じですねと真理は軽く説明してくれる。


以前康太が方陣術の技術を応用して書かれた手紙を読めなかったように、魔術師は鍛錬することで独特の感覚を手に入れる。


暗示はその人間の所謂無意識に干渉する魔術、魔術師として精度が高ければ高い程それに対する抵抗も可能だという事である。


「ですが、当然ながらそれは抵抗しやすくなるというだけの話であって必ず抵抗できるわけではありません。中には魔術師さえも騙す暗示の使い手もいます。そのレベルになるともはや暗示というよりは催眠や洗脳に近いでしょうね」


術者以外にもはや解くことができないほどの強い暗示。それらをかけることができる魔術師も存在する。


手品のタネを知っていても、相手の技術が高ければ見破れないこともある。それは圧倒的な技術力を持って成すものだ。使い手には高度な技術とそれを培うための訓練を必要とするがそれを手に入れてさえしまえばどんなものでも欺くことができるだろう。


「まぁそんなレベルの魔術を修得している人はほとんどいません。一般人にかける程度の魔術であればそれなりの時間をかければ習得できますよ」


「でもそれなら師匠は何で使えないんです?それくらいなら・・・」


「あの人は相手のことを考えずに力任せでやりますから・・・暗示にならないんです・・・」


「・・・あぁ・・・なるほど・・・」


小百合が力任せに魔術を発動しているというのは容易に想像できる。なにせあの小百合なのだから。


付き合いが短いとはいえ小百合のイメージがこんなにも暴力的になってしまうのは自分のせいではないだろうと康太は苦笑してしまっていた。


ブックマーク件数が400件超えたので二回分投稿


仮面に関するご意見をたくさんいただいたので頑張って描こうと努力しています。蜂とオレンジとレンズ(モノアイ)ってだけ決まってるんですがいいデザインが思いつかないので時間がかかりますが


これからもお楽しみいただければ幸いです

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