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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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ライブ一日目

昼食を一気に腹の中に押し込んでから康太は再び会場の裏側へと向かっていた。


ちょうどそろそろお昼の時間帯になる。一度ライブが終わり、昼休憩になるころだ。


こうなるとスタッフたちは昼食をとりながら、あるいは食べる暇さえ惜しんで次のライブのために動き続けることになるだろう。


その時間帯に運び込まれる物資などに注意しなければならない。


大体のものはあらかじめ運び込んであるだろうが、中にはギリギリの搬送になってしまうものなどもあるだろう。


または入れ替えなどをしなければいけないようなこともあるはずだ。そうなってくると人手はいくらあっても足りないはず。


搬送の内容までは知ることはできない。なにせ搬送の都合は現場だけでなく搬送先から現場までの交通量などにも関係してくるのだ。


昼前の搬送が一番怪しいとはいえもうすでに侵入されている可能性だってあるのだ。


万が一のことを考え裏手の方で警戒しておいて損はない。


そして気を配らなければいけないのは妨害工作を行う人間だけではない。今回の護衛対象である森本奈央にも見つからないようにしておいた方がいいだろう。


彼女が今回の昼休みにどこで待機するのかは聞いていないが、もしこの辺りをうろつくようなことがあればそれに応じて移動しなければならない。


やはり二人ではどうしても人員が足りないなと康太は眉を顰めながら先程まで聞こえていた音楽が徐々に鳴りを潜め、森本奈央のマイクトークが始まるのを聞いていた。


どうやら昼までのライブはすべて終了したようだ。これで昼休憩をはさんで午後からのライブに備えることになる。


するとマネージャーが会場の裏側の一角にイスとテーブルを用意しているのが見える。どうやらあの場所で休むらしい。


この場で休んでくれるのであればこちらとしてもありがたい。それを邪魔するようなことはしないように康太はその場所から見えないようなところに移動することにした。


「文、目標がお昼休憩に入った。首尾はどうだ?」


『こっちは問題なしよ。侵入者らしき影も魔力を入れ過ぎた人も確認できないわ。今のところは順調ってところかしら?』


「一応順調だな・・・まぁこれからどうなるかわからないけど・・・いつ来るかわからない相手に対して行動するってのはいろいろと面倒なもんだな」


『それが今回の依頼内容なんだから仕方ないでしょ。これからこういう事増えるかもしれないし慣れておきなさい』


護衛というのはその性質上、待機することが多くなる仕事だ。


護衛対象が移動するときも用事を済ますときも基本的に何が起こってもいいように警戒しておかなければならないのが護衛というものだ。


康太は今まで攻撃対象や戦闘するための相手が待っていたり特定の場所での戦闘しかこなしたことがない。


こういった待ちの姿勢で警戒を続けるというのは未経験なのだ。


護衛という内容さえなければもう少し楽に構えることができていたのだろうが、奏の依頼の中には幸か不幸か護衛というものも含まれてしまっている。


多少面倒ではあるが耐えるしかない。


もし自由にできたなら自分も観客席でライブを普通に楽しむのだがと思いながら康太はため息を吐きながら飲み物を口に含む。


午前が終わり、これから午後になろうという時間だけあって周囲は非常に強い熱気で満ちている。


この暑さは太陽から降り注ぐものだけではないと康太は理解していた。


開けている場所とはいえこれだけ人が大勢押し寄せているのだ。人間の体温が発する熱のせいである程度気温が上昇しているのかもしれない。


それに風がないことも原因に挙げられるだろう。風がないせいで妙に気温が高く感じてしまう。


いっそのこと魔術を使って涼んでやろうかとも思ったが、こんなことで魔術の存在が露見してもつまらない。


熱中症対策は必要以上に講じているのだ。最低限の我慢は必要である。


「ところで文、観客の動きはどうだ?目標はもう裏に引っこんできてるけど」


『少しずつだけど席を離れていってるわね。これから食事に行こうって人もいるし、もう食事を買ってある人もいるわ。どっちにしろあの席では食べないみたい。近くに公園もあるしそっちで食べるんじゃないかしら?』


「まぁあんな直射日光の当たる場所では食べたくないか・・・ある程度観客がいなくなったら一休みしてくれてもいいぞ?」


『私が休んだら誰が侵入者の警戒するのよ。あんたできないでしょ?』


康太としてはずっと文が働き詰めになってしまう事が申し訳なかったのだが、実際康太が魔力探知による索敵ができない時点で文が働くしかないのだ。


交代要員の事を考えておかなかった康太の不備とはいえ申し訳なさで頭が上がらなくなってくる。


『でもそうね・・・昼が終わって少ししたらちょっと休ませてもらうかも。さすがにずっと索敵張り続けるってのは結構疲れるわ』


「ん・・・その時間ならたぶんもう大丈夫だろうな。このまま一日目は何事もないことを祈るよ」


『そうね。とりあえずそれまではあんたにも買い物とか行ってもらうと思うから、そのあたりは任せるわよ』


「了解、パシリは任せろ」


嫌な言い方するわねと文は怪訝な声を出しながらそれでも少し笑っているようだった。少しでも文を癒せたのならいいのだがと康太は裏側の監視に集中することにした。












昼休みの時間を終え、予定通りの時間から午後のライブはスタートされた。


ずっと裏側で見張っていたが康太の目には侵入者はいない。文の索敵にもそれらしい人物はいなかった。


ただ康太が魔力を吸うために何度か観客席の方に意識を向けたが、その間も文曰く不審な人影はなかったそうだ。


今日一日は何とか無事に終わったと思うべきだろうか。


夕方、康太たちは最後の曲をそれぞれの場所で聞いていた。康太はライブ会場の裏で、文は関係者用の観客席で。


最後の曲は夕焼けに似合うバラードだった。昼までのような大きな歓声はなく、皆一様に静かにその曲を聞いていた。


曲が終わると歓声とともに大きな拍手、それが今日のライブの終了を告げていた。


『康太、ライブの終了よ。目標が移動したらこっちも移動するわ・・・もう魔力に関しては心配しなくてもいいでしょうからね』


「了解、ここで待ってるから終わったら来い。目標の移動と同時に俺たちも移動しよう。打ち上げとかが行われた場合侵入する必要があるけどな」


『目標が未成年の事を考えるとそこまで遅くはならないでしょ。それに明日も明後日もあるのよ?休ませる方が大事だわ。目標とマネージャーはすぐにホテルに戻るんじゃないかしら?』


「そうしてくれるとこっちとしてはありがたいな」


康太も文も一日じっとしていたとはいえずっと警戒態勢を張っていたために肉体的にも精神的にもだいぶ疲労している。


無論ずっと歌い踊り続けた森本奈央に比べれば微々たるものだろうが、これを三日間続けるとなると地味につらい。


まずは一日目が終了したことを喜ぶべきだろうか、どちらにせよ康太たちの仕事はまだ終わっていない。気を緩めるには早いのは確かである。


『とりあえず康太もお疲れさま。ずっとそっちで立ってるの疲れたでしょ?』


「文ほど疲れちゃいないよ。途中で休んだりもしてたしな。目標が移動したら魔力感知は解いても問題ないと思うぞ?」


『そうするわ。さすがに一日ずっとこうしてるのは疲れるものね。いい経験になったわ』


普段から索敵用の魔術を一日中発動していることなどないだろう。今回の事で索敵を維持するのがどれだけ負担になるかを理解できただけ文は収穫があったと思っているようだった。


日頃普通にできる事でもそれを一日続けて使い続けるとどれだけ疲れるのか、文は今までやったことすらなかったことを今日経験したのだ。


面倒ではあるとはいえこれも一種の経験だ。この経験が後に役立つこともあるかもしれない。


「とりあえず今日目標が部屋に行ったら一度奏さんに連絡を入れよう。報告の意味も含めて軽く状況を話さないとな」


『今のところは問題なしでいいと思うけどね・・・まぁそのあたりは直接依頼を受けたあんたが好きにしなさい。こっちとしては早々に休みたいところだけどね・・・』


昨日魔術師と接触したこともあって今日の睡眠時間は圧倒的に足りていない。その状況で集中を保てたのだからさすが文というべきか。


康太としても今日は早めに休んでおきたい。そしてそれは今日一日歌い続けた森本奈央も同じだろう。


そうこうしていると森本奈央がステージを降りライブ会場の裏側へとやってくる。マネージャーがすぐに飲み物を与えると彼女はすぐに椅子に座り荒く息を吐き始めた。


表にいる間は外見上呼吸さえも気を使っているのだろう。


なんというかさすがというほかないプロ根性である。


「文、目標を視認した。こっちに来てもいいぞ」


『了解、移動するわ。一応そっちも警戒しておきなさいよ?』


「わかってるって。観客の流れにも注意だな」


観客がライブの終了と同時に動き出したこの状況が一、二を争うほどに面倒な状況であると言えるだろう。


軽く変装するだろうがホテルに戻るときに目標とファンが接触する可能性もある。


一応康太たちは彼女の護衛なのだ。ある程度の火の粉は払ってやらなければならない。それがたとえファンであっても。


「お待たせ・・・お疲れさま」


「お疲れ、お互いにな。今日はこのまま何事もなく終わってほしいもんだけど・・・」


文がやってきたのを確認して康太は小さく息を吐きながら視線を目標である森本奈央に向ける。


彼女の方からこちらは見えないがこちらからは彼女が見える絶妙な位置取りに文は少しだけ感心していた。


「なんだ、堂々と監視してるかと思ったけどそうでもないのね」


「あのな・・・これでも師匠に毎日鍛えられてるんだぞ?視線の向きと視界に関してはそれなりに気を使うさ・・・っていうかお前俺をなんだと思ってんだよ」


「ごめんごめん・・・今回みたいな状況だと正直あんたのことは素人に毛が生えた程度にしか考えてなかったんだけど・・・考えを改めるわ」


戦闘以外では基本的に康太はほとんど役には立たない。それは康太も認めるところではあるがそこまでひどい評価だったとはと少しだけ肩を落としていた。


だが実際こういう状況では康太はほとんど役に立たない。事実今日康太は見張りと買出しくらいしか役に立っていないのだ。この評価は割と正当なものであるだけに康太はかなり落ち込んでいた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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