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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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ライブ直前

朝食をとった後康太たちは活動を開始していた。ようやく日も昇り周囲が明るくなったのだが、早朝という事もあってまだ涼しさが残っている。


既にライブ会場の周りにかなりの人間が集結しつつある。そして当然だがそれに対応するために警備員の人間もそれなりの数が動員されていた。


やはり本番という事もありある程度この状況は予期できていたたのだろう。昨夜から引き続き警備している警備員もいれば、応援として招集された人物も多くいるようだった。


「さて・・・仕込みをやっていきますか・・・魔力の装填ってどれくらいで終わる?」


「この人数だとそうね・・・ライブが始まる前までには確実に終わるわ。そこまで時間もかからないからあんたはライブ会場の裏手の見えるところにいてくれる?」


「了解・・・俺ほとんどできることないな」


「そうでもないわよ?裏手に行く前に警備員の人に魔力入れるついでに方陣術も発動していくから周囲にいる人で内包してる魔力が多くなればあんたに連絡入れるから」


「わかった・・・やっぱお前の負担おおきいよな・・・」


「そうね、次はもっと働いてくれるとうれしいわ」


康太がもっと多種多様な魔術を扱うことができればもっと仕事を分担することができるのだが、攻撃的な魔術しか覚えていない康太ではこういう仕事はほとんど役立たずとなってしまう。


こういう時もっといろいろな魔術を覚えておくべきだなと実感する。


康太と文は警備員の人に話を聞くふりをしながら周囲を警備している人間全員に魔力を注いでいく。


今のところこの辺りにいる人間全員はただの人間であるようだった。少なくとも魔力が多い人間も魔力を多く内包した人間も確認されていない。


一安心と言えば一安心だが、これから来るかもしれないことを考えるとまだ安心できるとは言えないだろう。


「そう言えば方陣術の仕込みはいいけどさ・・・全部の杭一つ一つに魔力注いでいくのか?面倒じゃないか?」


「そんな面倒なことするわけないじゃない。あらかじめ決めておいた起点の場所に魔力を注ぐだけよ。長野の時もそうしたでしょ?」


「・・・あー・・・そう言えば・・・」


康太は覚えていなかったようだが文の方陣術は基本的に一つの起点となる術式に魔力を注ぎ込むことで他の方陣術もすべて発動するようにできている。


その分術式が複雑になってしまうのが欠点ではあるが、事前にそう言うものを準備できるのだからそうするに越したことはない。


「あんたもそろそろ方陣術くらい覚えたほうがいいんじゃない?真理さんに言えば教えてもらえるでしょ?」


「んー・・・教えてくれるかな・・・まだ普通の魔術もあんまり覚えてないのに・・・ていうか覚えても使えるかどうかが問題なんだよ」


「・・・あ、そっか、あんた魔力の微調整とか覚えてないんだっけ?」


「あぁ。属性の変化は楽にできるようになってきたけどその微調整?っていうのはよくわからん」


「魔力の調整っていうか・・・そうね・・・今のあんたが知らないことは・・・波長に関しては知ってる?」


「あぁ、魔力にある特徴の一つなんだろ?あるのは知ってるけど変更の仕方は知らん」


「まぁそうよね、属性変換覚えたばっかじゃ仕方ないか・・・」


方陣術というのはその術の発動に適切な魔力が必要となる。適切な魔力とは量であり、属性であり波長であるのだ。


今までそう言う話を聞いたことはあるのだが康太は自分の使っている魔力の波長などと言われてもいまいち理解できなかった。


電気で言うヘルツ数のようなものであるという事は理解している。だがそれをどのように変化させるのかということに関しては全く知識がないのだ。


「方陣術を覚えるのは魔力の調整ができるようになってからかしらね・・・量と属性の変化ができてるんだから後はそこだけなんだけどなぁ・・・」


「そもそもその波長?の調整に何の意味があるんだ?方陣術使う以外になんか使い道あるのか?」


康太は今まで波長など全く意識せずに魔力を扱い、魔術を発動してきた。今さらそんなものがあるとわかってもその必要性を感じないのだ。


方陣術に必要だという事はわかってもその為だけの技術となると正直あまり修得する意欲がわいてこない。


「だいぶざっくり言っちゃうけど、一応あんたの体の中で波長の変化っていうのはやれてると思うわよ?大抵の魔術には適切な波長があるし」


「え?そうなのか?」


「最初はほとんど体が無意識の状態でやっちゃうけどね。体の内部に術式があるなら無意識でやってくれるんだけど、体の外部にある術式に関しては勝手にやってくれないから今まで無意識でやってたことを意識してできるようにしなきゃいけないのよ」


「そうだったのか・・・ひょっとして別の魔術を同時に発動しにくいのってそう言う理由があったりするのか?」


「物分かりが早くて何より。まぁ集中とかそう言うのもあるんだろうけど別種類の魔術を同時に行おうとするとその無意識の処理能力が若干下がっちゃうのよね。もちろん訓練でどうにでもなるからあんたもできるようになるでしょうけど」


康太は今現在同じ魔術であれば複数同時に扱える。だが別種類の魔術となると今は二つが限界だ。文のようにいくつもの魔術を同時に扱えるようになるにはまだまだ訓練が足りないという事だろう。














ライブが始まる約一時間前、文はすべてのスタッフに魔力を注ぎ終えすでに索敵できる環境を作り出していた。


康太と文は観客席を一望できる関係者席に一度向かい、観客席の状況を確認していた。


見渡す限り人、人、人。


ライブの満員というのがどういう意味を持っているのかは理解しているつもりだったがここまで人が集まると壮観というものである。


日も高くなってきて徐々に気温も上がってきた中で康太は一度飲み物などを大量に購入しておいた。


今のところ魔力を異常に蓄えた人間は確認されていない。これからライブが始まってどうなるかはわからないが今のところ安定していると見るべきだろう。


康太はとりあえず日よけ対策として持ってきた麦わら帽子を文に被らせ、自分は先程買ったグッズの帽子をかぶり周囲の様子を確認していた。


「これだけ人が集まればそりゃ誰かが入り込んでも分かるわけないよな。ここまでとはちょっと予想外だった」


「そうね、これでもライブの規模としては少ない方なんでしょ?アイドル業界の凄さを思い知るわね・・・ていうかあんたは何でその帽子買ってるのよ」


「だってこういう場所に来ておいてそう言うグッズ何も持ってない方が不自然だろ?こういうのは必要なんだよ」


「・・・いくらしたの?」


「千八百円」


「・・・ただ文字がプリントしてあるだけの帽子が約二千円・・・なかなかあこぎな商売って感じがするわ」


「そう言うなよ。某ネズミ—ランドの中の商品みたいなもんだろ?名前そのものに価値があるとかそう言うの」


「なるほど、そう考えるとそこまでおかしいこともないかも・・・イベント関係だとどうしても財布の紐が緩くなるのを利用した商売方法ね」


「・・・なんか妙に辛辣だけど文ってアイドルとかそう言うのってあんまり好きじゃないのか?」


「アイドルだけじゃなくて芸能人とかそう言うのがそもそも好きじゃないわね。もちろん尊敬できる人も中にはいるわよ?でもほとんどの人は・・・こうなんて言うか・・・絶妙に好きになれないというか・・・」


文の尊敬できる芸能人が一体誰なのか興味はあるが、芸能人関係のほとんどが好きになれないというのも珍しい。


普通の女子高生であればテレビなどに映っている華々しい活躍をしている人々にあこがれるものではないだろうかと思ってしまうのだ。


「でもなんでだ?テレビとかに出て目立ってたりしたら普通はあこがれるもんじゃないのか?」


「んー・・・でもあぁいう人達って不特定多数の人たちを対象にしてるでしょ?仕事の時点で仕方ないのかもしれないけどあぁいうのって嘘くさく見えちゃうのよね」


そんなの見てもあこがれるわけないじゃないと付け足しながら文は康太が買ってきた飲み物を口に含む。


確かに芸能人などはその仕事柄多くの人に笑顔を振りまき、多くの人に見られることを仕事としている。


作り笑顔や自らのキャラを作ったりすることもあるだろう。そう言うのが文にとってはあまり好ましく思えないようだった。


自分自身が普段から一般人を装っているからこそそう言う風に思うのだろうか。幼いころから一般人を演じてきた人間はやはり見どころが違うというべきだろうか。


「やっぱ普段から猫被ってる人間は違うな。いろいろと」


「それって間違いなく褒めてないわよね?私だって好きで猫被ってるわけじゃないわよ?可能なら普通にしてたいんだから」


「ちなみに今は?猫被ってるのか?」


「あんた相手に被る猫はもう売り切れよ。再入荷の予定もないわ」


「そりゃよかった。今の状態で猫被ってるっていうなら本性はどんなのだろうかってちょっと心配だったわ」


「本性って・・・私が性悪みたいな言い方止めてくれる?」


「猫被ってるって意味では性悪じゃね?」


「私は仕方なくかぶってるの。魔術師として一般人に潜り込みやすくするには演技の一つも必要でしょうが」


「俺は必要ないけど?」


「あんたは一般人としての期間が長かったでしょうが・・・とにかく、そう言う風に誰彼構わず好かれるような人柄を演じてる人は好きになれないのよ。そう言うの見ててわかっちゃうから」


自分が演技しているからこそ他人の演技も分かりやすい。なんというか重みのあるセリフだ。


十年以上演技を続けている彼女としては他人の演技を見破ることくらいは容易にできてしまうのだろう。


「ちなみに今回の目標は?昨日会った感じだとあれは演技か?それとも素か?」


「・・・途中まではほぼ素だったわね。途中から演技が入ったってところかしら・・・ファン用の対応に切り替えたってところじゃない?」


アイドルとしては正しい姿でしょと言いながら文は目を細めている。どうやら昨日会った段階で森本奈央はそこまで好きになれないカテゴリーに入ってしまったようだった。


難儀な性格だなと思いながら康太はライブの開始を今か今かと待ちわびていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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