魔術師装束
「これ・・・何をモチーフにしたんですか?」
「蜂とレンズらしい。私としてはモノアイの様でなかなかいいセンスだと思っているが」
「・・・確かにモノアイっぽいですね」
ロボットなどでよくある単眼の機構によくありそうな外見だ。虫の甲殻を模したデザインと相まって機械的に見えなくもない。
実際に装着してみると、中心部にレンズのようなものが取り付けられているのにもかかわらず特に問題なく向こう側を覗くことができていた。
恐らくこのレンズもどきはあくまで飾りであって実際にレンズと同様の効果は持っていないようだった。
自分の術師名であるブライトビーと起源であるレンズのようなものを参考にして作られたのだろう。
小百合が身に着けているような砕けたデザインの仮面と似たようなものだろう。仮面で個人を判別するためには個性が必要だという事がよくわかる。
このレンズは動かないのだろうかと思って触ってみたのだが、どうやら本当にただの飾りとしての機能しかないらしく、まったく動くことはなかった。
なんというか非常に残念な気持ちである。
「本当ならそのレンズの部分をもっと主張しても良かったと思うんだがな・・・ついでに言えば動けば最高だった」
「確かにこれが動けばすごいかっこいいですけど・・・でも仮面ですし無理でしょ・・・それにあんまり大きくすると視界にも影響しちゃいますし・・・」
今はサイズを調整してある上に視界の邪魔にならないように工夫してあるからいいものの、これがさらに自己主張するとだとそれなりに目立つ、動くなら最高だがそれはそれで邪魔になりそうだった。
「ちなみにこれ作ったのって師匠ですか?」
「バカを言うな。私がそんなことできるか。そう言うのを作るのを専門にしている奴がいるんだ。ある程度特徴とモチーフを伝えるとやってくれる」
「へぇ・・・悪くないですね・・・」
悪くないだろう?と小百合もこの出来にはどうやら納得しているようだった。
今度これを作ってくれた人に礼を言っておくべきだろうなと思いながら康太は仮面を外して目の部分の中心にあるレンズもどきを見つめる。
確かにモノアイのように見える。まるでモビルスーツだと思いながら康太は小百合が作ったプラモを探していた。
「この部分にライトとかつけたらそれなりに便利じゃないですかね?」
「・・・確かにそれも面白いな。今度それを作った奴の所に連れて行ってやる。必要なら自分で言ってみるといい。それなりに気を配ってくれるだろう。」
この仮面のレンズ部分がライト代わりになればそれはそれで有用になる。仮面が光るというのはいろいろとあれかもしれないが実用性とかっこよさを求めるのであればいろいろと試してみたいというのが人情だろう。
なにせこれから魔術師として活動するうえで必ずつけることになる仮面なのだ。
「ていうか師匠ってひょっとしてモノアイ好きだったりします?」
「そうだな、こっちの方が機械っぽくて好みだ。お前はモノアイよりデュアルアイ派か?」
「いえ、俺はラインアイ派です。機械なんだから人間みたいな目よりこう・・・ゴーグルの向こう側から見てるような感じが好きです。」
小百合が作ったプラモは量産型が多いがもっと言えばモノアイのものが目立つ。完全に彼女の趣味なのだなというのがうかがえる。
これはあくまで好みの話なのだが、康太はせっかく機械なのだから二つの目があるよりももっと別な目である方が良い気がしたのだ。
量産型などでよく見られるが、ラインアイなどは特にそれに当たる。小百合の好きなモノアイも捨てがたいが、やはり量産型はラインアイであるべきだと考えていた。
「ふむ・・・確かにお前はクゥエルを買ってきていたしな・・・」
「ちなみに師匠は何が好きなんです?」
「私か?私は水陸両用型が結構好みだ。あまり理解されんがな」
水陸両用型というと有名なのはアッガイやズゴックやザクマリナーなどだろうかと考えている中、話が盛大に脱線しているということを思い出した康太は首を横に振る。
モビルスーツの話をしたいわけではないのだ、今確認したいのは装備に加えて今後の魔術師としての活動に関してである。
「その話は置いておいて・・・このコートとかは何か意味が?やっぱり魔術師として必須ですか?」
「必須というわけではないが・・・まぁあったほうがいいだろうな。自分の姿を隠すという意味でもそうだが、何より丈夫だ。多少の事では傷つかん」
何やら特殊な素材でできているのだろうかと黒い外套を羽織ってみると特に変わったところは無いように見える。
魔術的な要素があるようにも見えない。方陣術が仕込んであるかとも思ったのだがそう言うわけでもないようだった。
そもそも方陣術が仕込んであったところで自分はまだ発動すらできないのだが。
「それで師匠、俺は今日の夜どうすれば?」
「学校までは私と真理が送り届けてやる。そこから先はお前の仕事だ。相手を叩き潰せばそれでいい」
「・・・学校に誰か残ってた場合は?」
時間指定は二十一時だ。まず間違いなく誰かが残っているだろう。もし運よく学校の先生や生徒が残っていないとしても必ず宿直の仕事で誰かが残っているとみて間違いない。
それらに見つからないようにするにはどうすればいいだろうか。人に見つからないようにする魔術など康太は一切使えないのだ。
「それに関しては相手が気を使っているだろうが、まぁ万が一を考えて私たちが控えている。それも安心していい」
私達というよりは真理が控えているからといったほうが正しいだろう。なにせ小百合は主に破壊に通じる魔術しか使えないのだ。だからこそ前に自分にばれたわけで。
そんなことを考えながらとりあえず康太は魔術師としての装備一式を身に着けていた。
黒い外套に仮面、そしてベルトに取り付ける形で装備した木刀。
これだけ見ると康太は一体なんなのかと疑問に思えてくるが、小百合はその姿を見てなかなか悪くはないなと思っているようで口元に手を当てながら笑っていた。
「ふむ・・・馬子にも衣裳といったところか、それなりに似合っているぞ。」
「・・・どうも・・・でもこの木刀はなんだか締まらないですね・・・」
「そのあたりは仕方がない。装備をそろえるのはまだ時間がかかるだろう。今はそれで我慢しろ」
小百合の言葉ももっともだ。魔術師になってまだ一年どころか半年も経っていないのにこれだけの装備を持てているだけ十分だと思うべきだろう。
なにより実戦を一度も体験していないというのに装備だけ立派なものを持っていても仕方がない。
小百合曰く槍が康太の魔術にあっているとのことだったが、槍なんて扱ったことはない。そのあたりも訓練していかなければならないだろう。
「師匠、失礼します・・・って・・・なに・・・?誰・・・?」
「あ・・・姉さん」
店の中に入ってきたのは真理だった。
仮面をつけているうえに魔術師がよく使っている外套まで羽織っていることで康太であるとわからなかったのだろう。店に入った時は不思議そうな表情をしていたが康太の声を聴いて仮面をつけてそこに立っているのが誰なのか理解した様だった。
「ひょっとして康太君?よく似合ってますよ!もう専用装備できたんですね」
「はい、今ちょうど見せてもらったところで」
仮面を外して兄弟子である真理に挨拶するとそれを見ていた小百合も何やら誇らしげにしていた。
この装備を発注したのは恐らく小百合なのだろう。そのデザインを気に入っていると言っていたこともあって康太に似合っているというのは褒められているように感じるのかもしれない。
「にしても仮面は師匠の趣味全開ですね。これちゃんと康太君の意見聞いて作りました?」
「いや、私の独断だ。こいつもそこそこ気に入っているようだぞ?」
真理は心配しながら康太に本当に?と聞いてくる。兄弟子として無茶苦茶な師匠の行動が心配なのだろう。
魔術師として身に着けるものなのだ、自分の気に入ったデザインをつけるに越したことはない。
なにせそれが自分の顔の代わりになるのだから。
「ところで姉さん今日は大学はいいんですか?」
「えぇ、今日は君のサポートに入ります。と言っても送り迎えだけですけどね。実際まだいろいろと必要な魔術も覚えていないでしょうし・・・というか教えていないでしょうし」
真理は小百合の方をじろりと見るが、当の小百合は全く気にした様子もなく堂々としていた。
恐らく真理の言っている必要な魔術というのは記憶操作や暗示、あるいは人避けの作用がある魔術の事だろう。
魔術師として行動する以上、一般人の目に晒されるわけにはいかない。その為に魔術師はたいていそう言った隠匿するための魔術を学ぶのだという。
ただ小百合の場合そう言った魔術の才能がなく、破壊に関しての魔術以外はほとんど覚えていないという。
一点突破しすぎて他の部分が疎かになってしまっているのである。こうなってくると非常に不便だ。
「今回は間に合いませんでしたが、可能な限り普通の魔術師になれるように私もいろいろ教えていきますから、頑張っていきましょう。」
「はい!よろしくお願いします」
「お前ら妙に仲良いな」
同じ師匠を持つものとして苦労を分かち合うという意味では康太と真理はある意味同じ境遇の人間だ、いろいろと思うところがあるのである。
魔術師としては異端の小百合が師匠な時点でこの苦労を味わうことは半ば必然だったのかもわからない。
「でも姉さんは師匠に教わらないでどうやって普通の魔術を覚えたんですか?師匠は破壊の魔術しかできないって言ってましたけど・・・」
「そのあたりはほぼ独学です、時々同期の魔術師に教わったりしてたんです。少なくとも師匠にそのあたりの期待はしない方がいいですね」
「あ・・・そうなんですか・・・」
てっきり小百合の魔術のダメな部分を改良して何とかしたのかと思っていたのだが、まさかほぼ自力で修得していたとは思わなかった。
真理の努力には本当に頭が下がる思いである。
「でもそうなると師匠には一体何を教わったんです?」
「主に破壊ばかりです。まぁそれもかなり有用ではあるんですが・・・如何せん危なっかしくて・・・」
あぁやっぱりと康太は小百合の方を見る。
破壊の権化
言葉にすればかっこよく聞こえるかもしれないが、実際はそれしかできないという汎用性に欠ける魔術師なのだ。
他の魔術師からしたら恐れられる存在だろうが、師匠とするには明らかに欠陥のある魔術師なのである。
あの時小百合の弟子であるということがわかった時にあらゆる人間が自分に同情のまなざしを向けたのはそう言う意味があったのだ。
今さらながらそんなことを理解した康太は小さくため息をついていた。
評価者人数が60人突破したので二回分投稿
ゴールデンウィークが終わる・・・終わってしまう・・・!また一週間まとめて予約投稿の日々に戻ってしまう・・・!
これからもお楽しみいただければ幸いです