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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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活動開始

森本奈央十八歳女性。職業アイドル。


歌手を目指してアイドル事務所に入り、持ち前の歌唱力と表情、そしてダイナミックな踊りを駆使して観客を魅了する。


歌もそうだがライブの時に見せる魅力的な動きと演出がファンを作っていき、デビュー三年目にして単独全国ツアーを行えるだけの実力を身に着けた所謂天才。


CDの売り上げ自体もかなり高く、ファンを飽きさせない曲調に加えちょっとしたアクセントやキャッチコピーがあるのが特徴の高校生アイドル。


今年度で高校を卒業し大学に進学するという話があるが、現段階でどうするかはまだ決めていないとのこと。


テレビなどで出演する際は基本的には真面目かつ突っ込み気質なタイプなのだが、明朗な表情や感情に加え時々天然ボケなどが入りよく周りの芸人などに突っ込まれたりとリアクションもある程度取れるいわば万能型。


テレビ側としても起用しやすい人物だといえるだろう。


最近では声優などの仕事も手掛けているようだ。こちらの方はまだ硬さがあるものの芸人や俳優などがやる所謂素人じみた声優の演技よりはましな演技をするとおおむね好評であるらしい。


良い意味でも悪い意味でも万能。器用貧乏というには少々スペックが高いまさに天才というにふさわしい人材だと言えるだろう。


「ファンの中でもなかなかに評価が高く、目立ったスキャンダルなどもなく現在上昇中のアイドル・・・ねぇ・・・」


「その資料そんなことまで書いてあるの?」


「あぁ、よく作ってあるよこれ。各CDの売り上げからライブの参加者や興行収入まで全部書いてある。これ企業秘密なんじゃないのか普通?」


仕込みの杭打ちを終えた康太が読んでいたのは奏が渡してきた今回の護衛対象森本奈央に対しての資料である。


顔写真に加えて詳細すぎる内容に康太は若干冷や汗をかきながらそれを文に渡して自分たちの視界内にいるその人物を注視していた。


スタッフの人たちに挨拶しながら自分がこれから行うライブ会場の様子を眺めているようだった。


なるほど奏が目をかけるのも納得できる。一見してそう思えるほど彼女は美人だった。


可愛いというよりは美人というべき外見をしている。ライブ本番ではないというのにあの場だけテレビの中から切り取ったようだ。


何度か曲も聞いたしライブの映像も見たが、やはり映像と実際に見るのとでは受ける印象は天と地ほどの違いがある。


「第一印象は?」


「とっても美人なお姉さん」


「正直すぎるのもどうかと思うけど・・・大まか同意ね。奏さんが気にかけるのも分かる気がするわ」


どうやら文も同じような感想を抱いたのだろう。護衛対象である森本奈央の方を見ながらため息をついていた。


文も十分美人な方だと思うのだが、やはりアイドルをする人間というのは外見だけではない何かがあるのだろうか。


画面越しでは感じ取ることができなかった独特の空気を纏っている。


なんと表現するのが適切か正直康太自身言葉を選ぶのに非常に苦労していたが、彼女の居る空間だけ色が鮮やかになっていると言えばいいのだろうか。少なくとも他の人間にはない何かを持っているのは確かである。


アイドルもどきの有象無象とは違う。所謂カリスマを持ち、一人でも大衆を魅了するだけの力を持っている本当の意味でのアイドルというものなのだろう。


「あぁいうの見ると男はお近づきになりたいとか思うものなんじゃないの?実際護衛中にいい感じになったりとか期待する?」


「そうなればありがたいけどそうなりたくはないな。お前で既にいろいろと学習さしてもらってるし」


「へぇ・・・どんなこと?」


「綺麗な花には棘があるってな・・・あぁいうのに関わるとろくなことにならんって俺の勘が言ってる」


自分のことを暗に綺麗だと言ってくれるのは文は素直に嬉しかったが、同時に自分がそれだけ棘を持ち碌なことにならないという結果をもたらしているという事実に若干眉間にしわを寄せてしまう。


「へぇ・・・私ってそんなにあんたに迷惑かけたっけ?」


「あってすぐに戦うことになった時点で碌なことになってないだろ?間違ってはいない」


「それ以外に何かあった?」


「いいや?それ以外は凄く世話になってる。それこそ返しきれないくらいに恩があるけど・・・あぁいうアイドルに関わっていい予感はするか?」


自分のことを大まかに正しく評価していることを理解し、文は眉間に寄せていた皺を元に戻すと康太の視線の先にいる森本奈央の方を向く。


同性である文から見ても美人だと断言できるだけの女性を見て文は小さくため息を吐いた。


「いい予感はしないわね。あぁいうのの周りには大抵それを餌にしたがってる輩がいるもんよ・・・あんたの言う通り碌なことにはならないでしょうね」


「だろ?今回は可能な限り関わり合いにならないように遠くから見守るに限る。お前の魔術でなんかマーキングとかできないのか?索敵しやすくなるようなの」


「できなくはないけど・・・直接接触して少しの間触れなきゃいけないわね・・・握手でもできればいいんでしょうけど・・・」


「そこまで近づかなきゃダメか・・・ちょっとハードル高いな」


握手となるときちんと近づいてしっかりとあいさつしなければならないだろう。


遠くから見守ると言っておきながらそれはあまり良策とは言えない。だが護衛対象をしっかり確認できるというのはそれだけで大きなメリットだ。どうにかしたほうがいいかもしれないなと思いながら康太と文は思案を重ねていた。



「とりあえず侵入するか。第一接触目標マネージャー。第二目標は周辺の状況確認。あと客席部分の杭の設置も可能ならってところか?」


「これだけ作業してる人がいると客席部分は難しいかもしれないわね。そっちは夜の闇に紛れて、あるいは作業を手伝うふりをしながらやりましょ。まずは第一目標と第二目標だけ達成する感じでいったほうがいいかも」


文のいうように現段階でライブ会場周辺、特に観客席部分にいる作業者たちはすでに観客席の設営にも入っている。


軽く椅子を配置する程度だが各椅子の配置を決めたりそれぞれの間隔や位置取り、通路などの確認を決めたりと各場所にバラバラではあるが位置しながら作業を行っている。


この中で杭を打ち込んでいくのはなかなかに苦労するだろう。見られても魔術で誤魔化せばいいとはいえ余計な手間は省くべきだ。


「了解。んじゃとりあえず潜入しますか」


「そうね・・・どうやって入り込む?堂々と入る?」


「堂々と入ったらさすがにばれそうだからな・・・丁度いいところに仕事もありそうだし手伝うついでに入っていこうぜ」


康太が視線を向ける先にはトラックで荷物を運び込んでいる業者の姿がある。段ボールや機材などが搬入されていく中でスタッフがその内容の確認をしてサインなどをしている。


あれを使えばうまく、そして最低限の苦労で内部に侵入できそうだった。


「よしそれじゃ行きましょうか。荷物は大丈夫?」


「問題なし。中に入り込んだらどっか適当におかせてもらおう。とられて困るものもほとんどないしな」


康太はすでに槍を腰のベルトに装着している状態だ。装備自体で残っているのは魔術師用の外套と仮面だけ。この程度なら取られても見られてもそこまで困るものではない。


万が一のことを考えて文に魔術くらいかけておいてもらうべきかもしれないがそれも必要ない可能性もある。


そして康太と文は荷物の下に駆け足でやってくると可能な限り笑顔を見せながら荷物の確認をしているスタッフに声をかけた。


「お疲れ様です。これ何処に運べばいいですか?」


「ん?あぁバイトの人?裏の方に運んでくれればいいよ・・・っていうか君ら証明書付けてないけど・・・」


康太と文はすぐに互いの顔を見合わせた後でスタッフの首元に目を向けた。そこにはスタッフであることを証明する名刺のようなものが紐に付けられ垂れ下がっている。どうやらあれがスタッフやバイトである証明のようだった。


「向こうの係りの人に話したら今忙しいらしくて・・・とりあえず荷物の搬送終わったら渡してくれるって言ってたんですけど・・・」


康太はそう言いながら暗示の魔術を発動した。


文も隣にいるという事で万が一発動に失敗した場合でもフォローは任せられるために安心して行使したが、どうやらうまく発動したようでスタッフの一人は康太の言葉に安心して笑顔を作っていた。


「あぁ・・・まぁ今忙しいからね・・・しょうがないな・・・これ、予備のカードとホルダーね。一応担当の人に自分の貰っておいて。これは担当の人に渡してくれればいいから」


「ありがとうございます。それじゃ運んじゃいますね。文は軽いのを。俺は重いの運ぶから」


「わかったわ」


「無理しないようにね。あと絶対落さないように」


「「わかりましたー」」


康太と文はそれぞれ荷物を持ち運び出しながらスタッフの近くを後にした。


受け取った証明証とそのホルダーを首からかけながら堂々とライブ会場の裏手へと移動していく。


「なかなかうまく発動できるようになってきたじゃない?」


「だいぶ練習したからな。初めて覚えてから半年・・・?とかそのくらいかかってんだぞ?そりゃできるようにならなきゃ姉さんに顔向けできないっての」


「バイトのふりっていうのも割といい案だと思うわよ?なかなか機転が利いてるわ」


「これでバイト代も出ればいいんだけどな。そのあたりは我慢しよう」


こういったライブの設営作業などはよく大学生などに短期のバイトとして募集がかかる。現に今もすでに大学生らしき人物が何人か作業を行っているように見える。


康太たちはまだ高校生ではあるが背伸びすれば大学生に見えなくもないだろう。


もし疑われるようならば童顔なんですとでも言っておけば問題はない。


少なくともこの段階で潜入することには成功している。


康太たちは裏手に回りながらステージの上でいろいろと確認している森本奈央の姿を見つける。


どうやら照明や脚本家などの人物と打ち合わせをしているようだ。だがその近くに先程までいっしょにいたマネージャーの姿はない。


「さて、目標は今どこにいるのやら」


「マネージャーなら基本的には裏手じゃない?衣装とかのチェックをしてるんだと思うわ。とりあえず中に入り込むわよ」


「了解。この荷物も一応おいておかなきゃな。潜入・・・というか荷物を運びながら探すとしよう」


康太たちは今のところまだ部外者だ。マネージャーに正規の入場許可を貰わなければ不法侵入と同じことである。


子供だからその程度は許してくれると思うが最悪の場合魔術を使ってごまかす必要がある。


荷物を持ちながらステージの裏手へと移動するとそこは表以上に雑多な状況だった。照明や音響、さらに衣装や設備用の骨組み等々、挙げればきりがない。もしかしたら何もしなくても入り込めたのではないかと思えるほどの騒がしさで満ちている。


「・・・いた・・・康太、見つけたわ」


「オッケー・・・じゃあ接触するか」


裏手を荷物を持ちながら移動していた康太と文はようやく見つけた森本奈央のマネージャーを見つけると徐々に接近していく。


当の本人は何やら責任者らしき人物と打ち合わせをしているようだった。曲の名前を出しながら衣装を手に持って何やら注文を出したり受けたりしているらしい。こういった裏側を見れるというのもなかなかに貴重な経験だ。


「お話し中すいません。森本さんのマネージャーさんですよね?」


「え?あぁそうだけど・・・なんだい?今忙しいんだけど」


「お届け物です。これを預かってきました」


康太はそう言って奏から預かった名刺と紹介状をマネージャーに渡す。

マネージャーは一体なんだろうかと一瞬眉をひそめたが、そこに書かれている奏の名前を見た瞬間に目を見開いた。


既に話が通っていたのは知っていたがここまで露骨な反応をするとは思っていなかっただけに康太と文は若干意外だった。


「あ・・・す、すいません、ちょっと急用ができました。二十・・・いえ十分後にまたここで打ち合わせでいいでしょうか?」


「こちらはいいですけど・・・急ぎでお願いしますよ?」


「す、すいません・・・君たち、こっちに・・・!」


マネージャーは責任者らしき人物に謝罪を入れると顔色を変えて康太と文の背を押してステージの裏側へと二人を連れていった。


関係者であることは理解できたのだろうが、ここまでする必要があるのだろうかと康太は首をかしげる。


もしかしたら奏が妙なことを言ったのかもしれないと思いながら康太と文はされるがままにマネージャーにつれられるままに移動していた。


「えっと・・・この紹介状にある限り・・・君たちが草野社長から頼まれた・・・ってことでいいのかな?」


「そうです。よければいろいろと協力してくれるとありがたいです」


今回の依頼を直接受けた康太が代表で対応する中、マネージャーは康太と文を若干の疑いのまなざしを向けながら見比べていた。


無理もないだろう、一応社長である奏の紹介でやってきたのが一見ただの高校生の子供なのだ。


一体どんなことをその紹介状に書いてあるのかは知らないが余計なことを書いていないように願うばかりである。


「・・・君たちはバイトでここに?その首からかけてるの、スタッフ用のものだよね?」


「あぁ・・・勝手に入ると怒られるかと思ったのでバイトを装って侵入しました。これは後でちゃんとした身分証明証を用意してください。それくらいできますよね?」


「それは・・・できるけど・・・君たちで大丈夫なのかい?一応あの子のボディガードもやってもらおうと思ってるんだけど・・・」


今回の依頼内容は森本奈央の護衛と一般客、及びスタッフなどの体調関連での対処だ。魔術師としてはどちらかというと後者の方が大事なのだが前者の依頼もやっておかなければいけないのは間違いない。


だが恐らくマネージャーの方には護衛の方の話しか通っていないのだろう。


それはそれで好都合だがと考えながら康太は笑みを作る。


「大丈夫ですよ。奏さんの顔に泥を塗るような真似はしません。あと一つ頼みがあるんですけど、本人に俺たちを引き合わせてくれませんか?」


「え?でも本人には伝えない方がって・・・」


「なにも護衛のことを伝える必要はありませんよ。マネージャーさんの知り合いでライブ始まる前に握手だけでもしたくてやってきたみたいに言えばそこまで不信感は抱かれないでしょう?俺だってアイドルと握手くらいしてみたいですもん」


それくらいの役得があってもいいでしょ?と康太は笑って見せる。


今回護衛として森本奈央をマークするなら文のマーキングを付けておきたい。過度な接触は避けるべきではあるがこうしてマネージャーの協力を得られるのであれば数十秒間程度の接触はできると考えていい。


文ならその短い間に彼女にマーキングを施すことくらいはできるだろう。


「でもそれは今すぐにはできないよ?今は忙しいから・・・」


「ライブが始まるまでで構いません。俺たちはあなたたちが宿泊するのと同じホテルを予約してますからその時にでも言ってくだされば時間はそちらに合わせます。飽くまであなたの個人的な知り合いだからという風に言っておいてください。その方が印象に残らない」


「・・・はぁ・・・それでいいなら・・・」


康太のやり取りを見て文は内心サムズアップしていたが、康太の話し方を見て少しこういった対処ができるようになったのだなと感心する。


魔術師であるという事は隠しながら上手いこと相手を誘導できている。特に自分たちの欲求と混ぜることで高校生として不自然ではないように振る舞っている。

少し普通とは違うかもしれないがそれでも十分マネージャーは了承してくれるようだった。


「一応だけど、身分証明書を見せてくれるかな?紹介状には名前は書いてあるけど写真は載ってないから」


「いいですよ。これが俺のです、あとこれ俺の携帯番号。ここに電話してくれれば対応しますんで」


「こっちが私のです」


そう言って康太と文が自分の学生証と自分の携帯番号の書かれた紙を見せるとマネージャーは今度こそ納得したのか頷いてから不承不承ながら康太と文に協力することを約束してくれた。


これで第一段階はクリア。次はライブ会場にする仕込みを終わらせれば前日にできることは終了に近い。


日曜日、誤字報告五件分で合計三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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