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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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物資の購入

「これが方陣術で使える道具だ。いろいろあるけど・・・使えそうなのあるか?」


康太は方陣術で使う道具の記載のされたページを文に見せるが、文も名前と内容だけでは判断しにくいようだった。


食い入るように冊子を見つめているが恐らくこのままだと決まらないだろう。


「とりあえず現物見てみるか?その方が試しやすいだろうし」


「見るのはいいけど試してもいいの?一応商品なんでしょ?」


「方陣術試した後にそれ消せばいいだろ?そのくらいなら大丈夫だろたぶん」


康太はまだ方陣術を使えないためにそのあたりはよくわからないが、一回くらい試すなら問題ないと思っていた。


今探すのは杭に巻き付けられる土に分解される性質を持った布あるいは紙。もしくは杭そのものが土に分解されるものだ。


普通に杭を回収するのであればただの方陣術用の杭でも問題はないのだろうが、康太が先程行った回収方法だとどうしても杭そのものが使い捨てになる可能性が高い。


数日間の発動のために杭を使い捨てにするというのは正直あまり気が進まなかった。


当然だが紙や布よりも杭の方が高い。使い捨てにするのなら当然紙や布の方だ。方陣術を無視したただの杭であれば使い捨てにしてもそれほど惜しくはない。


用意するのが簡単なのは前者だろうか。康太は方陣術用の道具が置かれている棚の方へと移動すると視線を上下左右に動かしながらそれらを探し始めていた。


「えっと・・・あぁあった。とりあえずこれだな。土で分解される布。ただ師匠曰く方陣術との相性はそこまで良くないらしい」


とりあえず試してみてくれと言いながら康太は文にその布を渡す。


特殊な繊維でできているのか手触りに若干の違和感を覚えるが文はその一部に方陣術を作り出そうとしていた。


「・・・あー・・・確かになんかこう・・・やりにくさはあるわね・・・時間をかければちゃんと作れるけど・・・」


「今回は事前準備できるから時間の問題はないとして、どうなんだ?いけそうか?無理なら別のものを探すけど」


「無理ではないわよ・・・でも他のもちょっと見ておきたいかも・・・お願いできる?」


「はいよ。ちょっと待っててくれ・・・あとのはどこにあったかなっと・・・」


康太は文に渡すべく次の商品を探し始める。方陣術の媒介というのは本人の向き不向きや特性も関わってくるが、大抵使いやすいものと使いにくいものが存在する。


どのようなものが使いやすく使いにくいのか、方陣術を使ったことがない康太としては理解が及ばないが今回は可能な限り文に活動しやすい環境を整えてもらうべきだと思ったのだ。


なにせ康太はDの慟哭を発動するだけだが文の場合いろんなことに気を使わなければいけないのだから。


少なくとも康太よりも何倍も仕事を強いられているのは間違いない。自分がメインの仕事だというのにこの差はさすがに申し訳ないなと思いながら康太は商品を探していた。


「それにしてもあんたもここに馴染んできたわね・・・もうすっかり魔術師の一員って感じよ?」


「そりゃ嬉しいな。少しは魔術師らしくなったってことか?」


この二月から魔術師になり、まだ半年しか経っていないというのに康太のその姿は普通の魔術師と同じように見えた。


まだ考え方は未熟だし実力もあまりあるとは言えないが、それでも文は一種の心強さを感じていた。


なんというか、今までは信頼という意味でのみ背中を任せられるという感じだったが、今は実力面でも背中を任せられるように感じたのだ。


実際に任せることができるかどうかは別問題だが康太ならば問題はないのではないかと思い始めている。


まだ半年だというのにこの成長。確かに康太には一種の才能があるのかもしれないなと思っていると康太が商品を見つけて文に差し出してくる。


「次はこいつだな。今度は紙だ。破らないように気を付けてくれよ?」


「はいはい・・・あ、こっちのほうがいい感じね」


「えっとそいつは・・・さっきの布よりはちょっと高いな・・・支払いとかは・・・必要経費ってことで奏さん出してくれるかな・・・?」


「そのあたりは領収書出せば対応してくれるんじゃない?・・・っていうかこの店領収書出してくれるの?」


「出そうと思えば・・・ただかなり適当だぞ?レシートもあってないようなもんだし。大抵こういうのは取引の契約書で出しちゃうからな」


そもそも魔術師用の道具をわざわざ少量買っていくような魔術師はほとんどいない。


今まで何度か魔術師がこの店に買いに来たことはあるが、以前方陣術用に購入した朝比奈と同じように大抵は大量購入だった。


その為に契約書という形で契約を交わし、現物を特定の場所に持っていったり店まで魔術師が受け取りに来たりという形での売買方式だった。


今回のように必要な分だけ購入というのは珍しいのである。


普段康太と文はこの店に頻繁に来ているためにこういうことができるが大抵の魔術師はわざわざこんな店にやってきたりはしないのだ。


ただでさえデブリス・クラリスという面倒極まる魔術師が経営しているのだ。可能な限り来たくないというのが本音だろう。


康太だってここが小百合の店でなければここまで入り浸ることもなかっただろう。


「でも表は普通に店やってるわよね?あれ使っちゃだめなの?」


「あー・・・一応あっちとこっちは別で会計してるらしいんだよな。こっちはレジもないし何より公的に店として成り立ってないし」


康太は詳しいことは知らないが表のオカルトショップもどきと魔術師用の店は完全に別の会計ということになっているらしい。


もっとも表の店にはほとんど客も来ないために必要ないと思うのだが、そう言う手続きも必要なようだ。


「んー・・・これでいいわね。あとはこれを必要な数だけ買って・・・あ、一応小百合さんに言っておいた方がいいわよね?」


「そうだな。とりあえずこれの料金と数と種類と名前と・・・あー・・・書類あっちだ。ちょっとそれもって先に行っててくれるか?必要な紙にいろいろ書いてくるから」


康太はその場に文をおいて別の場所へと小走りで向かっていった。恐らく購入に必要な書類を取りに行ったのだろう。


この店はいろいろと雑に見えてそう言うところはしっかりしているのだなと文は感心しながら康太から受け取った布を必要な分だけ手に取って小百合たちの居る一階へと向かった。


「おや、もういいんですか?」


「はい。あと小百合さんこれを購入したいんですけど」


ちゃぶ台の上に先程の布を置くと、小百合はその方向に視線を向けて枚数を確認しているようだった。


「ん・・・依頼で必要なものか?」


「はい、方陣術でいくつかやりたい魔術があって」


「わかった。請求はお前に出せばいいのか?それとも康太に出しておくべきか?」


「私が使うものですから私でいいですよ。康太が出すって言いかねないですけど、一応私の装備ですし」


本来であればこの依頼を主に頼まれた康太が出すべきなのかもしれないが、この方陣術を使うのはあくまで文だ。自分が使うものを他人に払わせるというのは魔術師として、いや個人的にあまり容認できることではない。


何よりあまり大きな出費でもない。報酬に比べれば些細なものだ。


「・・・ふむ・・・まぁ一応経費扱いにしておくぞ。奏姉さんに言えば出してくれるはずだ・・・書類は・・・」


「あ、それは康太がもってくるそうです」


「お待たせ。師匠、これお願いします」


文が丁度そのことについて言い終えたところで康太が書類を持って地下から駆けあがってくる。


既に必要事項を記入し終え、後は小百合がサインするだけで契約は完了する状態になっていた。


「慌ただしいやつだ・・・うん・・・よし、了承だ。問題ない。真理、こいつをしまっておけ」


「了解です。やっぱり夏となると買う人も多いですね」


「物入りになるからな。年度末に比べればまだましだろう」


夏というのは多くの魔術師が活発に動き回る時期だ。その為に必要なものを買い足したりする者が多い。


年度末になれば新しい年度に入るという事もあり一斉に買い足したりすることもあるためそれはそれで忙しくなる。


個人で店をやっているものとしてはなかなか面倒でもあり嬉しくもある。まさにうれしい悲鳴というやつである。


「この店って割と儲かってるんですか?ファイル見る限り結構書類ありましたけど」


「まぁな。いろいろと買い足しに来るやつはいる。もっとも大抵は電話やら書類やらをこっちに回してくるだけで直接ここにやってくるのは珍しいがな」


この場所の立地の問題もあるのだろうが、基本的に魔術師はこの店にやってくることはない。


たまにやってくるのはごく少数。あとは大抵書類上で手続きをして受け取りの時だけ小百合と対面するくらいだ。


康太がこの店にやってくる魔術師が少ないと認識しているのはそれが原因でもある。


大抵真理が協会に顔を出した時にこの店への注文書をまとめて受け取っているのだ。


康太や小百合と違い真理は比較的頻繁に協会に顔を出している。いろいろとやらなければいけないことがあるからなのだがそのあたりは適材適所というものだろう。


小百合は協会内であまりいい顔はされないし康太は康太で今悪い意味で目を付けられてしまっている。


一番無難かつ何も問題を起こしていない真理が行くほかないのである。


逆に言えば今この店で一番重要なのはそう言った依頼を持ってくる真理なのだ。彼女が居なければこの店はたちいかなくなるだろう。


「支払いは何時にする?お前なら別に何時でも構わんが」


「あー・・・今持ち合わせがないですね・・・ちょっと降ろしてきます」


「え?なんだよお前が出すつもりだったのか?俺の依頼なんだし俺が出すぞ?」


「私が使う装備なんだから私が出すのが道理でしょうが・・・それに大した額でもないし」


「えー・・・そう言うわけにもいかんだろ。とりあえずちょっと待ってろ」


康太はそう言ってちゃぶ台のある部屋の一角、押し入れの中に頭を突っ込み始める。


そして数十秒間何やら動いた後その奥から一万円札を何枚か持ってくる。


「ちょ・・・それどっから持ってきたのよ」


「俺の金庫からだよ。ここに置いてあるんだ。大抵なんかあったとき用に数十万は置いてあるんだよ」


この店に入り浸ることが多くなったために康太は口座とは別にこの場所に自分の金庫をおかせてもらっているのである。


そこには常に数十万単位の金が入っている。万が一金が要りようになった時にすぐ取り出せるようにしているのだ。


いちいち金を降ろしに行くよりもずっと楽なのである。


「これで支払いお願いします。文はその気になった時に俺に支払え。その方がいろいろ楽だろ?」


「・・・なんか癪だけど・・・まぁいいわ」


小百合への支払いが康太への支払いになっただけの事だ。もし奏が経費として出してくれるのであればそれも必要なくなる。そう言う意味ではこの対応は適切かつ妥当だと思わざるを得ない。


今回で三百話になったのでお祝い二回分投稿


結構早いものですね。このままの調子で続けられたらいいなぁ


これからもお楽しみいただければ幸いです

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