表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
30/1515

部活とブライトビー

「それならいつかお前にきちんとした装備を作ってやらなければならないな・・・お前としては何が使いたい?」


急には作れないがと小百合が言う中、康太は何がいいかと考え始めていた。


装備を作ると言われて最初に思いつくのは刀剣の類だろう。そしてせっかく技術があるのだから銃弾などもよいのではないかと思えてしまった。


だがそれでは魔術師としての装備の意味がない気がする。普通に戦って、というか普通に武器を使ってそれで終わりだ。


「師匠としては何がいいと思います?銃とかじゃさすがにちょっとあれですし・・・」


「ふむ・・・お前の魔術との相性がいいものが好ましいな。それなら・・・槍はどうだ?」


「槍・・・ですか?」


槍と言われれば刀剣の類の中でも長いリーチを持つものだ。棒の先に刃がついていると言えば単純でわかりやすいだろう。その扱いは比較的簡単そうに見えて実は難しい。


特に間合いと懐に入られたときの対処が最も困難と言っていいだろう。


「斬撃、打撃、刺突、そして投擲もこなせる武器だ。扱いに慣れればそれなりに戦力になるぞ。お前の魔術との相性もいい」


自分の魔術との相性を考えたうえでそういう装備も考えなければいけないのかと康太は考え始めてしまう。


確かにただ武器を装備して戦うのでは魔術師ではなくただの戦士だ。現代において戦士など役職ですらないただの暴徒、それならきちんと魔術師としての特性を活かしたいところである。


「ちなみにここの地下に槍ってありますか?」


「あるにはあるが・・・さすがに今日いきなり槍を使うというのは無理だ。道具の扱いというのは間違えばそれだけ自分の身を危険にさらす。今日はその棒切れで我慢しておけ。」


木刀を棒切れ扱いするあたり魔術に対しての効果は全くないということがわかる。本当に叩いて殴る程度の事しかできなさそうだった。


だが康太の魔術との相性は決して悪くない。それなりに役には立つだろう。


「槍かぁ・・・師匠槍って扱えますか?」


「私は一通り武具の類は扱えるぞ。ナイフからミニガンまでなんでもござれだ」


「・・・ちなみにどこで習ったんですか?」


「・・・ちょっと師匠にな・・・」


素人でも最低限のナイフの扱いを学ぶことくらいはできるだろう。ナイフはほとんど徒手空拳に近い使い方をする。


だがミニガンというのは一般人に扱えるような代物ではない。そもそも一般人では実物を見る事すらできないだろう。


そんなものを扱える小百合も小百合だが、そんなことを教え込んだ小百合の師匠も恐ろしい人物だ。


数多の武具の扱い方をあらかた叩き込むなど本当に魔術師として育成するつもりがあるのか疑問視してしまうほどの教育である。


「姉さんはどんな装備使ってるんですか?やっぱ剣とか?」


「いえ、私はボウガンとかですよ。方陣術を仕込むのに丁度よくて」


ボウガンというのは文字通り矢を打ち出す銃の事だ。引き金を引くことで矢を射出することができ、通常の矢よりも射撃精度が高いのが特徴である。


無論矢である以上威力にも射程距離にも限度があるが、むしろ真理にとってはそれがいいのだろう。


「こいつは名前の通り大抵何でもできるからな。あらゆる方面で役に立つ武器を模索した結果がこれだ」


「・・・それひょっとしなくても褒めてませんよね?」


真理の名前の通りというと、術師名のジョアの事だろう。確か小百合の名づけの理由としては器用貧乏という意味だったはずだ。


真理は苦笑してしまっているが何でもできるというのは康太にとっては羨ましくもあった。


なにせ自分はちょっとした魔術を使えるようになった程度だ。それだけ技術がある人間というのは尊敬の対象である。


「姉さんって魔術と方陣術両方使えるんですか?」


「え?いや私は・・・その・・・一応精霊術も使えますよ。三つとも使えるんです」


「え?!すごいじゃないですか!」


魔術、精霊術、方陣術すべてを扱えるという時点でもはや器用貧乏ではなく万能という言葉が似合うのではないかと思えてしまう。それだけのことができるのなら何が来ても怖くない。それだけの才能が自分にも欲しかったと感動するばかりである。


「方陣術に関しては後々お前にも教えていく予定だ。だがそれはまだ後の話、お前はまだ魔術師になったばかりだ。お前は今は目の前の戦いに集中しろ」


小百合の言葉に康太は姿勢を正す。


彼女の言う通り康太はまだ魔術師になったばかりなのだ。そう焦る必要はない。

今はただ目の前の戦いに集中すればいいだけの話である。


もっともそれが一番の問題になっているのだが。


「ちなみに地下に武器ってどれくらいありますか?」


「単純な武器ならいくつか。術などの因子を組み込んだものは数も種類も限られる」


「いくつか見ていいですか?使えそうなものがありそうですし」


使えそうなもの。その言葉に康太もすでに戦闘がいつ行われてもいいように備えているのだなと小百合は笑みを浮かべていた。


魔術師としての第一歩、初めての魔術師としての戦い。


とりあえず師匠に恥をかかせないようにしなければいけないなと康太は意気込んでいた。


後は死なないようにさえ気を付けていればいいだろう。それ以外の事はとりあえず無視するべき項目である。














翌日、部活勧誘会という各部活の勧誘目的の行事というか催しを終えた後、クラスの全員が部活動への入部希望用紙を配布されていた。


三鳥高校はどこかしらの部に所属しなければいけないというわけではないが、比較的部活動が盛んであるためにほとんどの人間がどこかしらの部活に入るようだった。


康太が陸上部を選択すると、どうやらこのクラスにも自分以外に数人陸上部を選択する人間がいるようだった。


康太のクラスでは康太以外に青山と島村という男子生徒が陸上部に入るようで、すでに三人集まって話し合っていた。


「島村って中学も陸上やってたのか?」


「うん、俺は中距離と長距離、あとハードル」


「あーなるほど、道理で知らないわけだ・・・俺は短距離と走り幅跳び」


陸上部というのは何か一つの項目だけをやっていればいいというものではなく、たいていの人間が二つか三つの競技を並行して行う事がほとんどだ。


逆に言えばそれだけいくつもの競技があるためにその分多くの選手が存在する。その為同じ年代の選手間でも知らない人間というのはかなりいるのである。


「八篠と青山って同中だったの?」


「いや、俺らは塾が同じってだけだ」


「陸上の大会とかで何度か顔合わせたけど・・・そこまでの成績じゃなかったからなぁ・・・」


余計な事言うなよと茶化しながら三人はとりあえず体操服に着替えていた。


今日は午前中に部活動の勧誘会、午後には体力測定があるのだ。


それぞれの身体能力を確認するという意味でも必要なのだろうが、正直今日この日に行われるというのはタイミングが悪かった。


なにせ今日の夜は魔術師との戦闘を控えているのだ。小百合からも魔力の無駄遣いのような放出はやめるように言及されている。


今日の項目に千五百メートル走がなかっただけでもありがたいと思うべきだろう。不幸中の幸いとはこの事だろうか。


この学校の構造は大まかながら理解した。頭の中にその見取り図も入れてある。あとは実際どのような行動をとるのが最適であるかを考えるだけだ。


「二人は何で陸上やってるの?他にも部活あるのに。」


「俺は球技が苦手だから」


「チームプレイが苦手だから」


それぞれ康太と青山の言葉である。基本的にスポーツというのは個人競技かチームごとの競技に大別される。


だがその中でも個人で戦うのに団体戦という枠組みがあるようなスポーツも存在する。


例えばシングルテニスや卓球、剣道や柔道などがそれにあたる。


個人戦でありながらチームでの戦いになる。そのチームプレイというのが苦手という人間も存在するのだ。


康太はただ単に球技が苦手というだけの理由だが、青山はチームプレイというのが苦手だった。


人付き合いはむしろ得意な方なのだが、サッカーや野球といったチームでプレイするスポーツはどうも苦手だったのである。


「文化部に入ろうとかは思わなかったの?他にもいろいろあるのに」


「いやせっかくだから体動かしたいし」


「何より何に入れってのさ。楽器できないし絵が上手いってわけでもないし」


せっかくの高校の部活なのだ、何かしらの運動系の部活に入って損はないと思ったのである。


なにせ中学の頃からやっていたのだ。そこまで才能があるというわけではないにしろそれなりの実力は持っている。


それならしっかりと運動していた方が楽しいと思ったのだ。


これで何かしらの才能があったのならそれはそれで楽しいだろうし、何よりそれを活かすべきだとも思うが、生憎自分に何の才能があるかなど二人は考えたこともなかったのである。


「そういうものかな・・・俺なんかは入るなら陸上って決めてたけど・・・」


「島村は何で陸上に?」


「走るのが好きだから」


何とも端的ながらしっかりとした理由である。


確かに走ることが好きな人間というのはいる。走った後の疲れた感じが好きという人間もいるだろうが、走ること自体に楽しさを見出す人間もいるのだ。


この島村も同じような人種なのだろう。


「うぇー・・・やっぱ長距離を選ぶ人間は走るのが好きなんだな」


「まったくだな。信じられん」


「え!?なんで!?別にいいじゃないか!ていうか走るの嫌いなの?」


嫌いってわけじゃないけどと康太と青山が複雑そうな顔をする。


もちろん嫌いというわけではない。嫌いならそもそも陸上という競技そのものをやっていない。


だが長距離走を選択するほど自分たちは走ることが好きにはなれなかったのだ。


長距離というのははっきり言って拷問のそれに近いとさえ思えてしまう二人にとっては、中距離と長距離という半ば走ることだけをするような競技を選択している島村は別種の人間のように思えたのだ。


同じ陸上部でもやはり差は出るのだなと思いながら三人は運動靴に履き替えて身体測定の場所へと向かう。


握力、短距離、上体起こし、ソフトボール投げ、反復横跳び、立ち幅跳び、長座体前屈、千五百メートル走。その中でも今日は短距離とソフトボール投げ、反復横跳びと立ち幅跳びを行う。人数が多いとある程度分けないと測定できないというのがあるのが難儀なところである。














結果的に言えば、中学の頃よりは随分と結果はよくなっていた。


魔術の鍛錬をしながらもしっかりと体を鍛えていたというのが幸いしたと言えるだろう。


魔術師たるもの体を鍛えなくてはどうするというのが小百合の考えらしい。正拳突きに加え他にもいろいろとトレーニングをやらされたのはいい思い出である。


普通魔術師や魔法使いというと肉弾戦は弱かったり貧弱だったりすると思うのだが、どうやら小百合の中ではそう言うわけではないらしい。


無駄な筋肉をつけるというよりは全体的に筋肉をつけて動きやすくするというのが目的らしいのだが、陸上をやっている身としては複雑な気分である。


陸上競技の場合無駄な筋肉を可能な限り削いで早く動くことが求められるのだが、この場合は仕方がないだろう。


なにせ魔術師として戦う以上最悪死ぬ可能性だってあるのだ。


スポーツでいい結果を残せないからと言って死ぬわけではない。そう言う意味では死活問題な魔術師側の都合を優先する方が正しいと思われる。


理に適っているか否かは正直まだ納得しかねている部分もあるのだが。


なにせ魔術師に筋肉が必要なのかと疑問に思ってしまうのだ。


自分の覚えている魔術を考えれば必要だというのは十分に理解できる。だが他の人間がこんな風に体を鍛えている光景ははっきり言って想像できなかった。


基本的に自分の実力が不足している分を筋力で補うというのはまだわかるが、魔術師としてある意味すでに円熟している小百合や真理もしっかりと鍛えていることもあったのだ。


もしかしたら現実の魔術師は筋骨隆々な人間が多いのだろうかと思い至るのだが、康太は軽く首を横に振った。


魔術協会の日本支部に行った時周りにいる魔術師を見たが、そこまで筋肉質な人間はいなかったように思う。


やはり小百合の指導が特殊なだけだなと思いながら康太は青山と島村に別れを告げ一度小百合のいる店へと向かうことにした。


今日魔術師として戦うのだ。その上で必要なことを話し合っておいて損はないと思ったのである。


なにせ魔術師としての戦い方は教わったものの、魔術師としての立ち振る舞いなどは一切教わっていないのだ。


周囲の人間に見つからないようにするにはどうするか、どのように行動するべきなのかなど全く知らないのである。


唯一知っているとすれば顔を仮面で隠すくらいだろうか。


素性を隠すという意味であれば何ら不思議はない。一般人に妙な力を使う人間がいると知られたらそれだけでパニックになりそうなものだ。


だからこそ小百合は自分を魔術師にしようとしたのだ。いや正確には殺そうとしたというのが最初なのだが。


「師匠、いますか?」


小百合の店に到着する頃にはすでに夕方になっていた。午後の授業で体力測定をしたというのが原因でもあるが、やはり学校が終わった後に来るとこれくらいの時間になってしまうだろう。


相変わらず怪しい『まさる』マネキンを一瞥しながら建物の中に入ると店の中に何やら妙なものが置かれていた。


ダンボール箱のようなのだが、通路のど真ん中においてあるそれを見て康太は眉をひそめてしまっていた。


どこかからか郵送されたものだろうかと首をかしげていると店の奥の居住スペースから小百合が現れる。


「丁度良かった。それを奥まで運んでくれるか?運ぶのが面倒でな。」


「はぁ・・・これ一体なんです・・・?」


康太がダンボールを持つとなかなか重い。どれくらいの重さだろうか、両手で持ってしっかり支えないとふらついてしまいそうである。


確かにこれは小百合がもつには少し辛いかもしれない。


「何のことはない。以前注文していたものが届いただけだ。それは地下に置くから階段の横に置いておいてくれ。」


地下に置くという事はこの中に入っているのは魔術的な要素を持った道具であるという事だ。


地下に配置された数々の道具はすべて魔術的な意味を含めたものばかり。その中に入るという事はつまりそう言う事である。


一体どういうものを注文したのか気になるが、それよりもまず先に聞いておかねばならないことがある。


「師匠・・・今日の夜の事なんですけど。」


「わかっている。こちらでも準備はしてあるからそこまで心配するな。とりあえずお前の装備をそこにまとめておいた。あとで確認しろ。」


康太は言われた通り階段のすぐ近くにダンボールを置くと、小百合の指さした方向に視線を向ける。


その先には黒い布と仮面、そして武器代わりの木刀が置いてあった。


黒い布を広げると、それが黒い外套であることがわかる。フードがついており、一見すればローブのようにも見えるそれはいかにも魔術師らしい外見だと言えるだろう。


そして仮面は以前自分がつけたものとは少しデザインが異なっている。


以前はシンプルなただの白い仮面だったのだが、今は甲殻のような溝が掘られており、目の部分には中心部に一つレンズのようなものが取り付けられている。


小百合の仮面が亀裂の入ったデザインであるように、これが自分のデザインなのだという事がすぐに理解できた。


誤字報告五件分、評価者人数55人突破したので三回分投稿


今回の仮面のデザイン三つほど描いたので活動報告にあげようかと


こういう時に本当に絵描きのセンスが欲しい、文才もないんだけども・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ