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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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不運の連続

康太はいつも使っている大きな通りまでやってくると、小さく安堵の息をついてから先程まで歩いていた小道の方を一瞬眺めた。


先程のあれは一体なんだったのだろうか。周囲の人間が騒いでいないところを見るとやはり気のせいだったのだろうか。そう思えてしまうのだ。


だがあの焼け焦げた防護ネット、あれが確実に炎が出ていたことを証明している。


気のせいではないならやはり不良の悪戯か何かだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、康太はコンビニの前に差し掛かる。そして通り過ぎかけた時、そう言えば今日は雑誌の発売日だったということを思いだし踵を返してコンビニの中に入ろうとする。


次の瞬間、先程まで康太が歩いていた、いや歩こうとしていた場所に車が一台突っ込んだ。


大きな音が辺りに響いた。ガラスが砕ける音に加え車がひしゃげる音、そしてクラクションが何らかの誤作動を起こしたのか鳴り響き、近くからは悲鳴も上がっている。


コンビニの横にある建物は不動産屋だった、窓に張り付けられている案内の紙ごと突き破り店内にまで車が進入してしまっていた。


なんという衝撃的な場面に出くわしてしまったのだろう、康太はそんなことを考えながら数十秒間そこから動くことができなかった。


自分が見ているのが何かの見間違いではないのだろうかと思えるような凄惨な光景に、開いた口がふさがらずに放心することしかできなかった。


康太が呆けている間にも周囲の人が警察や救急車を呼んだり、車の運転手を助け出したりとせわしなく動き始めている。


あの車が突っ込んだ場所は、雑誌のことを思い出すことがなければ康太が歩き続けるはずだったルートだ。もしあの時コンビニに進路を変更していなかったら。そう思うと背筋が凍り付くようだった。


周囲が野次馬で満ちていく中、康太はとりあえずさっさとその場から離れることにした。特に悪いこともしていない上にあの場にいても何ができるわけでもないのだ。警察も救急車も到着し、あの場で自分はただの野次馬Aでしかない。


それならさっさと帰ってあの衝撃的な光景を忘れてしまおう、そう思ったのである。


全く驚いた、あんな状況に出くわすとは思っていなかったのである。一生に一度あるかないかだろうなと、先程の状況を思い出しながら帰り道を歩き続ける。


先程の事故の喧騒もどこへやら。随分と静かになった街を見て康太は小さくため息をつく。


少し歩くだけでもう別世界のようだった。無理もないだろう、時間が時間なのだ。すでに日は完全に落ち、店も徐々に閉まり始めている。そんな時間帯で人が歩いていること自体が珍しい。


「あ、八篠!」


そんな風に歩いていると康太は不意に後ろから声を掛けられる。どこか聞いたことのある声に立ち止って振り返るとそこには塾で一緒の同級生がいた。


どうやら彼もどこか寄り道をしていたようだ。康太が「おー」と返事をすると後ろから鈍い衝撃音が聞こえて来た。


何か重たいものが落下するかのような音。岩を砕くような音に康太は動きを止めていた。

自分の方を見ている同級生も唖然とした表情を浮かべている、一体何が起きたのか。


それを確認するために背後を確認すると、そこには何かの鉄の柱が存在した。


それが何かのフェンスを支える柱であると気づくのにはかなり時間がかかった。一体どこから落下したのかはわからないが、地面に深々と突き刺さっていた。


康太はすぐに上を向く。工事の途中で落ちたのだろうかとも思ったが上の方で工事をしているような建物は無い。少なくとも康太の肉眼では確認できない。


あるのは比較的高めのビル群のみだ、そのビル群の屋上に配置されているフェンスの一部が落ちたのだろうかとも思ったのだが、こんな柱の部分だけが都合よく落ちるだろうか。


そもそもこういうフェンスは人が落下しないために取り付けられているものだ。落ちそうになるような施工をするとは考えられない。


なのに今ここに、確かに落下してきている。その事実だけがその場に突き刺さっていた。


「・・・う・・・あ・・・」


「お、おい八篠!大丈夫かよ!?」


同級生が駆け寄る中、康太はその場にへたり込んでしまっていた。腰が抜けてしまったのである。無理もない、あの場でもし同級生が自分を呼び止めなかったらこの鉄の柱が自分の頭の上に落ちてきていたかもしれないのだ。


「と・・・とりあえずなんだ?け、警察・・・?そうだ警察!さっき向こうで事故あっただろ!?今すぐ呼べば来てくれる!」


同級生が携帯で警察に連絡する中、康太は放心し続けてしまっていた。


さっきの事故の光景を見て、一生に一度あるかないかだろうなとそう思っていたのに、今目の前でさらにおかしい何かが起きた。


一体何が起こっているのかもわからないなか、同級生が呼んだ警察官がこの場に駆けつけ二人から事情を聞こうとしていた。


と言っても康太はほとんど放心してしまっていて自分でも何を言ったのかほとんど覚えていなかった。


実際にそれを見ていた同級生が何とか状況を説明してくれたおかげでそこまで大事にはならなかったが、現場にこうして鉄の柱が残っているという事もあって二人はすぐに解放され警察官に家まで送ってもらえることになった。


一体どういうことなのだろうか。普通なら滅多に遭遇しないようなことに一日で三度も遭遇した。いや一日ではない、一時間も経たずに三度もだ。


ビルから火が出たように見えたり、車が建物に突っ込んだり、自分のすぐ近くに鉄の柱が落ちてきたり。


警察が自分を送ってきたことで両親は何があったのかとかなり動揺しているようだったが、送ってくれた警察官がちょっとした事故に巻き込まれたのだと説明してくれたおかげで特に大騒ぎにはならずに済んだ。


康太はもう何も考える気になれずに、そのまま早めに寝ることにしたのだ。


自分の部屋に行き、ベッドに横たわり、雨戸も閉めずにそのまま眠りにつこうとした。


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