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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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潜入前の準備

翌日、康太と文は奏の依頼をこなすべく準備に入っていた。


準備と言っても文の方陣術用の術式を作るくらいで、後は康太がDの慟哭を上手く扱えるように練習するくらいしかできることはなかった。


康太もそろそろ方陣術を覚えるべきなのかもしれないが、まだ師匠である小百合から許可は下りない。


まだ属性魔術だって満足に扱えていないのにそれよりも難易度の高い方陣術を練習したところで使えるはずがないという理屈なのだろう。


理解できるし納得できるだけの理由であるために康太も何も言えなかった。


そして康太はDの慟哭を上手く扱えるようになるために練習する合間に今回行くライブの詳細などを調べていた。


具体的には向かう場所、地形的な話もあるしその期間と周囲の店や建物の配置、そしてそのアイドルについての詳細だ。


これから行くライブなのにそこで歌うアイドルについて何も知らないというのはさすがにまずいと思ったのだ。


基本的にライブというのはそれを行うアイドルやグループ、歌手などが好きな人間が行くのがほとんどだ。


何も知らない人間が何も知らずに無感動でその場に立っているだけだと目立つとまでは言わずとも違和感は覚えられるかもしれない。


とりあえず康太は今回歌われると思われる曲やそのコールについて覚えようとインターネットを駆使して学習していた。


当然場所は小百合の店だ。近くには何やら書類仕事をしている小百合と店の掃除をしている真理の姿がある。


小百合などは時々音楽に合わせてコールの練習などをしていると白い目で見てくるが、これも仕事に必要なことだと割り切っているのか文句を言うつもりはないようだった。


「こんにちは。康太、来たわよ・・・真理さん、小百合さんこんにちは」


「お、来たか。待ってたぞ」


「こんにちは文さん。今お茶を入れますね」


店の中の若干の静寂を破ったのは今回康太と同行する文だった。何やら大きめのカバンを持っており何か持ってきたのだということは容易に想像できる。


それは今回のライブで使用するためのものなのだ。康太は事前の打ち合わせとして文をこの場に呼んだのである。


真理が気を利かせて冷たい茶を出す中、文はちゃぶ台の近くの床に地図を広げる。その地図にはいくつか印がしてありそれと同じ数だけの杭のようなものがカバンの中には入っていた。


「お、今回は紙じゃないんだな」


「今回は場所が屋外だからね。ちゃんと固定できるものとなるとこういうものの方がいいかなって・・・であんたは何見てるのよ・・・」


「ん?いや今回行くライブの下調べ。この人が歌う曲とか調べてたんだよ。割と普通の曲もあってびっくりだ」


「普通の曲の定義がわかんないけど・・・そんなの調べる意味あるの?」


「あるよ。お前ライブに行ってるのに歌の一つも知らないんじゃ絶対浮くぞ?目立つかは知らないけど不審な目で見られるぞ」


そう言うものかしらと文は訝しみながらパソコンに映し出されている動画を眺める。そこには歌いながら踊ったりしている女性の姿がある。その姿を見て文は難しそうな表情をした。


「こういうのって偏見かもしれないけどさ・・・アイドルが歌う曲ってどうしても・・・なんていうかあからさまに可愛さを意識したものってイメージがあるのよね・・・だからどうも好きになれないのよ・・・」


「言いたいことはわかるけどさ・・・さっきも言ったけどこの人の歌は割と普通なのもあるぞ?歌手とアイドルの中間みたいな感じ?」


康太がパソコンを操って別の動画を見せると先程までの『いかにもアイドル』という歌とは打って変わって歌唱力が重視される曲になる。


しかもこのアイドルはしっかりとその歌唱力でこの曲を歌いあげている。それを見た文はへぇ・・・と僅かに感心した様子だった。


「でもこんなの覚える必要ある?なんなら魔術で私達の存在気付かれないようにすることくらいできるけど?」


「お前な、一般人が大量にいる中でそんな魔術連発してどうするんだよ。魔術は必要な時だけ使えばいいだろ?自分で何とかできることは自分で何とかするべきだ」


「・・・んー・・・そうなのかしら・・・真理さんはどう思います?」


唐突に話を振られ真理は少し困った表情をしていたが、少し考えるようなそぶりをしてから薄く微笑む。


「確かに文さんのいうように魔術で解決することはできるでしょうが、大勢の中の一部の認識を変えると大きな流れの中に綻びを作ることになりますね。それなら康太君のいうように自分で学習して行動したほうが現場で余計な手間暇は減ると思いますよ?」


「そう・・・でしょうか・・・?なんだかより面倒な気が・・・」


「もちろん我を忘れてライブに集中しすぎるというのも問題ですけど、お二人の場合でしたら大丈夫でしょう。今回の依頼はその性質上『潜入工作』に近いものがあります。これも必要な準備の一つですよ」


潜入工作って聞くとなんだかとてもかっこいい響きですねと康太はまんざらでもないようだったが実際にはとても面倒の間違いだ。


潜入するということは当然他の人間にばれてはいけないという事でもある。魔術師にとって隠密活動は基本だが康太にそれができるのかはっきり言って疑問なのだ。


「で、こっちの話に戻るけど、この杭をライブ会場のこの位置に差し込んでおいてほしいわけよ。可能な限り目立たないように深く」


「オッケー。その準備はこっちでするよ。回収できるようにした方がいいか?」


「ん・・・どうしようかしら・・・一応方陣術は一般人には見えないようにしたけど・・・証拠が残るのはちょっとなぁ・・・」


康太の蓄積の魔術を使えばほとんど時間的なロスはなしにこの杭を地面に打ち込むことは可能だ。


だが問題はその威力の調整が難しいことである。その為深くまでめり込むとどうしても回収が難しくなってしまうのだ。


一般人に見られてもその杭が何であるのかを理解することはできないかもしれないが、魔術師に発見された場合文の術式を解析される可能性がある。


今回使う魔術はそこまで珍しいものではないらしいがそれでも自分の手の内を晒すようなことは可能な限りしたくないというのが本音だろう。


「じゃあ杭に紙とか土に分解されるようなものを巻き付けるのはダメか?それなら時間経過で勝手に分解されるだろ?」


「んー・・・悪くはないんだけど・・・そうすると魔力の補充が面倒なのよね・・・まぁでもやりようによってはできなくもないかな・・・」


方陣術というのは術式を組み込んだ物質に魔力を流し込むことで発動する。術式に内包した魔力の量によって持続時間などを変えることができるが、その分術式も複雑になる。


さらにいえばその魔力の残存量がゼロになれば術は自然と効果を発揮しなくなる。


普段発動している魔術がコンセント式だとすれば、方陣術は電池式の発動と言えばわかりやすいだろうか。


三日間という時間を発動し続ける魔術というとかなりの魔力量が必要になる。しかもカバーしなければいけない広さもそれなり以上だ。そうなってくると魔力をいくら注いでも長持ちすることはない。三日間の間に何度か魔力の補給をしなければ方陣術の維持をするのは難しいだろう。


「方陣術を帯状にして・・・それを巻き付けて末端だけ地面から出るようにすれば・・・うん・・・できなくはないかも・・・康太、杭の頭が地面からほんの少し見えるように打ち込むことできる?」


「何度か練習すればたぶんできると思う。今のうちに仕込みしておくか」


杭にかける力を一定にすれば、当然打ち込まれる力も同じになる。地面の硬さが均一であれば同じような状態で埋めることができる。


今回のライブ会場の現場は芝が敷き詰められている場所だ。恐らく地面の硬さはどの場所でも均一であると思っていい。あらかじめ杭にかける力をすべて均一にしておけばそこまで苦労することはないだろう。


「じゃあ杭は回収しないんだな?その方が俺としては楽だけど」


「回収できるなら回収したいけど・・・そんなことできるの?打ち込まれた杭を抜くのって案外面倒よ?」


「やりようはあるって。師匠、ちょっと下行ってきますね」


「あぁ、好きにしろ」


康太は文を引き連れて店の下にある魔術師としての空間へと移動していく。


地下の中は夏だというのに若干肌寒さがある。地下だからこそ気温が低いのだろうかと文は康太の後に続いていた。


そして康太は板と釘を取り出すと何度か金づちで叩くような動作をして見せた。


「この板が地面でこの釘が杭な。こうして魔術を発動すると」


康太は釘をまっすぐに立てた後で蓄積の魔術を発動する。すると釘に込められた物理エネルギーが一度に襲い掛かり、釘は板に深々とめり込んでいた。


これを取り出すには専用の道具がない限り無理だろう。そう思えるほどに深々とめり込んでいる。


「で?これをどうするのよ?土だったら土属性の魔術を使えば行けるかもしれないけど・・・私土属性苦手よ?」


「わかってるって。これをこうすればっと」


康太が再び蓄積の魔術を発動すると今度は釘が勢いよく板から飛び出してくる。だが完全には抜けずに若干刺さったままだ。


その現象を見た文は康太が何をしたのかを瞬時に理解する。魔術の理屈を理解しているからこその把握の早さはさすがというべきか。


「あぁ・・・なるほどね。釘の先端にも蓄積させてたわけだ」


「そう言う事。ただこれやると尖った部分が大抵つぶれるから二度と使い物にならないけどな。そう言う意味では一回限りしか使えない」


康太がバールを使って釘を引き抜くと、その言葉の通り釘の先端部分は完全につぶれてしまっている。


無理をすれば使えないこともないかもしれないが普通の釘よりも圧倒的に使いにくいのは間違いないだろう。


「これを使えば杭も一応引き抜くことはできると思うぞ。まぁ手間もかかるし土も落とさなきゃいけないしでいろいろ面倒ではあるけどな」


「んー・・・どうしたものかしらね・・・ここに一応土で分解されるタイプの紙とか布ってあるわよね?」


「たぶんな。俺はあまり把握してないけど一応そう言う商品ばっかり扱ってるわけだし・・・ちょっと待ってろ」


康太は魔術用品の一覧が書かれている冊子を近くの棚から持ってくる。その中にある方陣術用の商品の項目を探し出して文の方に持ってきた。


自分で見てわかるのなら良かったのだが、生憎こういうものは使ったことがないために文に見てもらうしかない。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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