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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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依頼の背景

「さて・・・ではどこから話そうか・・・」


奏たちがやってきたのは完全個室の高級レストランだった。今回話す内容は魔術師の事でもあるがそれ以上に奏の会社としての都合もかかわってきている。そう言う意味では誰に聞かれるかわからない場所よりもこういった個室の方が気が楽なのだろう。


康太や文としてもこういう場の方が多少は気が楽だ。なにせ周りの目というものが存在しないのだから。


「とりあえず今回の依頼の背景を教えてもらっていいですか?一般人への対処はまぁいいんですけど、そのアイドルに対しての護衛の意味と奏さんとの関係を知りたいです」


先程写真に写っていた女性。康太も文もどこかしらのテレビで見たことがある顔だったが詳細までは知らないのだ。


彼女と奏がどのような形でかかわっているのか、そしてどのような裏があってわざわざ護衛を必要としているのか。


その二点が今回康太たちが最も知りたい項目だった。


「ふむ・・・ではまずこの依頼の背景から説明しようか。私の会社がいろいろな事業に手を出しているのは知っているな?」


「はい・・・まぁそれなりには・・・」


康太も奏の会社の実情は知らないが東京のど真ん中と言っても過言ではないような位置にあれだけ大きなビルを構えているのだ。それなり以上手広く、そして深くあらゆる事業に関わっているのは容易に想像できる。


確かな利益を収めているのは確かだが、それがどのような事業と実績なのかまでは理解が及ばない。


「数年前私の会社はあるグループを買収してな。その関係で所謂アイドルグループのプロデュースもすることになった・・・まぁ実際の所は必要経費などの出資などでこちらから深くかかわることはあまりないんだがな」


「へぇ・・・でもそう言うのって普通業界関係の人間がするんじゃないんですか?そんないきなり全く関係ない企業とかがやっても・・・」


「まぁ普通はそうなんだろうが・・・うちの会社はテレビ局のスポンサーもいくつかかねているからな。そういうつてで所属している子たちを表に出しやすい。これは所謂大人の事情というやつだな」


テレビというものは基本的に視聴率で決まるという話くらいは康太も理解している。だが本当にテレビ番組を運営するうえで必要なのはその前の段階、つまりはスポンサーの存在があってこそなのだ。


コマーシャルなどはその番組を作るために資金を出資したスポンサーが自社の商品や活動内容などを広報する場でもある。だからこそより多くの人に見てもらう事で広報の意味が増す。その為にテレビ局側は良い番組を作ろうとする。これが一般的なテレビ番組とスポンサーのあり方だ。


ここで重要なのはスポンサーはあくまで金を出す側であるという事だ。テレビ番組の内容を大きく変えることは難しいだろうが、その出演者を少し変化させる、あるいは追加させることくらいはできる。


今までアイドルなどのプロデュースをしていた会社を買収し子会社とすることでそう言った若い可能性の芽でもある新米アイドルたちに日の目を見やすくさせる。奏がやったのはそう言う事だ。


「奏さんの所がそこまで手を伸ばしてるってのはわかりましたけど・・・それでなんで護衛なんて話に?」


「確か今ライブツアー中なんですよね?それだけの人なら当然それなりに警備員も入れてるんじゃ・・・」


康太たちは運ばれてきた料理を口に運びながら奏との話を続けていた。


マナーは多少悪いかもしれないがここに来た理由はあくまでこういった話をするためだ。食事よりもそっちの方を優先してしまうのは仕方のないことだろう。


そして康太の疑問も文の言葉も正当なものだった。確かにアイドルなのだから良くも悪くも注目される。そして多くの人間に認知されるという事はそれだけ多くの感情を向けられる対象になるという事だ。


世の中どのような人間がいるかもわからない。全く関係のないことで腹を立てたり恨みを持ったりするものだ。


だが当然それだけ多くの人間に認知され、なおかつライブツアーまで行えるだけの人間ならばそれ相応の措置が必要になる。


現場にいる警備員の数もそれなり以上のものになるだろう。一般人があふれてアイドルが何か被害を被るという事は可能な限り避けるはずだ。


だがそれはあくまで当然の措置。わざわざ康太たち魔術師が出るような幕ではないように思えたのだ。


例え万が一の保険だったとしても、やや対応が大げさなように思える。


「うむ・・・まぁ当然の疑問だろうな。これにもいろいろ事情があってな・・・まだ一般に話は通っていないだろうがやや面倒な輩がいてな」


「面倒な輩って・・・魔術師ですか?」


「いや魔術師ではないと思われる・・・何度か別の事務所の人間が被害を受けている。内容は嫌がらせレベルではあるんだが・・・このライブツアーがあの子にとっての分かれ道になる。なるべく万全を期しておきたい」


「嫌がらせって・・・どのレベルですか?誹謗中傷とか?」


「その程度であればよかったんだがな・・・衣装や照明などといったものの破壊、あるいは使い物にならなくしたりと悪質極まりない」


「それって普通に犯罪なんじゃ・・・」


「あぁ、だから業界内でも躍起になって犯人を捜しているんだが・・・どうにもまだ捕まらないらしくてな・・・」


奏曰く、今までいくつかのグループが同じような被害に遭っているのだという。被害に遭った場所は大体関東近辺。そのあたりでライブやイベントをやると必ずと言って良い程何か破壊されたりイベントの進行に支障が生じるのだという。


だがイベント進行というものは必ずしも予定通りに行くわけではない。ある程度ベテランであればアドリブを入れたり状況に応じて対応も可能だろうが、今回対象となりそうなそのアイドルはベテランというにはあまりにも経験不足なのだとか。


「普通の警備とかだけじゃ不安が残るってことですか?」


「あぁ・・・普通なら私の懇意にしている警備会社やら信頼のおける人材を現場に回す。今回もそうするつもりだが私個人としてはもう一手打ちたい。なにせ今まで犯人の手がかりすらつかめていない。不安材料が多いからというわけではないが、余計な邪魔は入れたくないんだ」


ライブ会場というのは大きなドームなどで行わない限り基本的に仮設、設営と撤去をハイスピードでこなさなければいけないためにそこまで警備体制が整っていない。


監視カメラがあるわけでもないしシステム的な防衛がされているわけでもない。何よりライブ会場は広い。その気になればいくらでも忍び込むことができるだろう。


夜間を通して行われている作業でも、作業者の振りをして入り込むことは容易だ。仮に何か身分証明のようなものが必要でも誰かがつけているのを見て模倣し、荷物を運んでいる振りでもすれば簡単に通過できる場所はいくらでもある。


人の出入りも多く敷地も広い。普通の警備では限界がある。いくら奏が懇意にしていて信頼しているとしても数日間やるとなるとどうしても綻びが生まれてしまう。


そこで奏は康太に目を付けたのだ。


「それで私達・・・いえ康太に依頼を持ってきたってわけですか」


「タイミング的に丁度良かったというのもある。康太の事情が事情だっただけにな。少々回りくどいかもしれんが私としても康太の事は気がかりだった」


ライブの期間が迫っていたというのもあったのだが、奏としては康太の境遇に関しても気がかりだったのだ。


封印指定の魔術をその身に宿してしまったという事もあって康太の協会内での立場は非常に不安定だ。


ただでさえ小百合の、デブリス・クラリスの弟子というあまり良くない印象を与えているというのにこれ以上悪印象を与えるようなものが増えるのはよくないと判断したのだ。


その為まずは康太の中に宿る魔術が危険ではないと、暴走はひとまず起きそうにないと判断させるための材料として今回の依頼を利用したのである。


奏自身にもメリットがあり、康太にも当然メリットがある。両者にメリットがあるこれ程の依頼を即席で用意するあたり奏はやり手だなと感心してしまう。


「そうなると私は完全に巻き込まれた形ですね・・・今回のこれに私絶対必要ってわけでもないですし」


「それに関しての文句は康太に言ってくれ。君を連れるにふさわしいと思ったから康太も君を選んだ。私個人としては康太の判断は間違ったものではないと思うが・・・依頼料に関しては私の方で多少融通はするぞ?」


「いえそんな・・・奏さんにはお世話になってますし。なによりここで恩を売っておくのも悪くないかなと」


「そんな堂々と言うような言葉ではないように思うが・・・まぁ実直な人間は嫌いではない。そのたくらみに乗ってやろう」


奏としては回りくどいやり取りよりは直接的なものの方が好みなのだろう。文もそれを理解しているのかあえて奏に自分の思惑を伝えたように思う。


なんというか案外この二人は相性が良いのではないかと料理を口に放り続けている康太は思っていた。


「そう言えばさっきも言いましたけど、やっぱその人にはばれない方がいいんですよね?護衛してるってこと」


「その方がいいだろうな。ライブなどでナーバスになっている可能性だってある。なるべく不安にさせない方がいい」


「なによ康太、不満でもあるの?」


「いや不満自体はない。ただでライブ行けるってのも結構役得だしな。ただそう言う事があるかもって向こう側に伝えておいた方がいいんじゃないかなと思って」


康太のいいたいことを理解したのか、奏は口元に手を当てて悩みだしてしまう。

先程の話を聞く限りライブなどに対しての妨害が行われているのは関東近辺でのみの話だという。逆に言えばこのライブツアーで関東近辺を出てしまえばそう言った被害はもう起きないと思っていいだろう。


何より予め起きるかもしれないということがわかっているのだからある程度スタッフたちにはその旨を伝えておいた方が良いのではないかと思えるのだ。


具体的には妨害が行われるかもしれないという事と、康太たちがアイドルの護衛をするという事を。もちろん本人には伝えない形で。


「関係者はある程度今回の件に関しては気を使っている。当然だが業界内では多少話題になっているからな・・・あの子本人がそのことを知っているかどうかは微妙だが・・・」


「でも確かに伝えるっていうのも一つの手でしょうね。護衛をするっていうのを伝えるかはさておき、そう言った妨害が起きるかもっていうことくらいは伝えておいた方がいいと思いますよ。あらかじめ話を聞いておけばある程度気持ちも楽になりますし」


いきなりスケジュールを変えるなどと言われても気持ちの切り替えなどを素早くできるような人間は限られている。あらかじめ起きる可能性を考慮していた方が気持ちの切り替えも早く済むだろう。


アドリブではなく問題をあらかじめ知らせておくことがデメリットになるとは思えなかった。


「ふむ・・・そのことに関してはうちの人間と相談しておこう・・・本人には直接妨害があるかもというより機材搬送の遅れやらがあるかもしれないと言っておいた方がショックは少ないかもしれないな」


康太と文の案を理解したうえでなるべく支障がないような形で修正案を瞬時に思いつくことができるあたりさすがだなと思いながら康太と文は奏のことを感心した様子で眺めていた。


康太たちのような素人の考えも偏見なく見てくれる。奏自身康太たちのことを高く評価しているのか、それとも身内だからこそそこまで厳しく見ないのかどちらかはわからないが二人にとっては嬉しくもあった。


大人に自分の言葉をしっかり受け止めてもらえるというのは良いものである。


「それにしてもそのライブの邪魔してくる奴って本当に魔術師じゃないんですか?そんなことしてばれないのってなかなかすごいことですよ?」


一度ならまだしも二度三度と似たようなことがあったにもかかわらず足取りすらつかめていないというのはやや不思議な点が残る。


無論ライブ最中という事もあって万全の警備体制を敷けていなかったというのが原因の一つだろうが、それにしたって魔術師ではないのだろうかという疑問と不安は残る。


「もちろん魔術師である可能性がゼロとは言わん。だが魔術師がわざわざ術を使ってそんな面倒なことをするとも考えにくい」


特定の誰かを狙っているなら話は別だがなと言いながら奏も自分が頼んだ料理を口に放り込んでいく。


特定の誰かや特定のグループのみを対象にした妨害工作であるのであれば、魔術師であろうとそれなりの意味か目的があったのかもしれない。だが実際に狙われているのは関東近辺で行われたライブ全般だ。


特に決まったグループが被害に遭っているというわけでもなく、特定の誰かに直接被害があったというわけではない。


あくまでライブの中そう言った工作活動が行われたというだけの話だ。


明確な目的があるとも思えないその行動に魔術師がわざわざ行動するとは思えないというのが奏の考えのようだった。


「そう言うのって大抵悪戯とかストレス発散とかそう言うのが目的よね?確かに普通の魔術師ならそう言う事はしないかな・・・」


「そうなのか?むしろ普通の人には使えない力使ってヒャッハーしてるもんだと思ってたけど」


「・・・魔術師になりたてだったらそれもあり得るかもしれないけどね。魔術は隠匿するべきっていう魔術師の常識を理解してるならそんな無駄な行動はとらないわよ」


魔術師にとって魔術は隠匿するべきものである。それは魔術師のほとんどに共通している認識であり常識だ。


むしろそれを知らない魔術師の方が少数も少数。いないのではないかと思えるほどだ。


だが当然常識というものがあるように非常識というものも存在する。康太はどちらかというと非常識側の魔術師だが、康太に近しい、あるいは似ている魔術師がいないとも限らないのである。


「今さら思ったんだけどさ・・・そう言う魔術師の常識って誰が教えてくれるんだ?魔術協会がそう言う講習みたいなの開いてたりするのか?」


「そんなことするわけないでしょ?基本的には師匠が教えるものよ。場合によっては親とか直接かかわりのある人間が教えるわね・・・そう言う意味ではあんたが非常識なのもなんか納得できるけど」


「おいおい酷いな。俺だってだいぶ常識的になってきてると思うぞ?日々成長してるんだよ」


「はいはいそうですね。とにかく師匠とか指導者がしっかりしてれば弟子もしっかりするものなの。まぁ真理さんみたいに師匠を反面教師にしてまともになりかけた人もいるけど」


文の妙な言い回しに康太は疑問符を飛ばしていた。康太にとって真理はまともな魔術師だし何より尊敬できる魔術師だ。


あんな師匠がいるというのに真っ当に育った稀有な例だと言ってもいい。稀有と言っても小百合の弟子は康太と真理しかいないわけだが。


真理のことをまともと言わなかったのは文が彼女のことをまともな魔術師だと思っていないからでもある。


確かに真理は小百合に比べると非常にまともだと言わざるを得ない。一見すればまともだし普通の魔術師だ。小百合の弟子という事もあって若干不憫な点はあるがそれを差し引いても十分ましだ。


だが文はその本質を知っている。知ってしまった。だからこそ彼女がまともだとは口が裂けても言えなかった。


どんなにまともそうに見えても小百合の弟子。やはりどこかしらおかしい点があるのだ。蛙の子は蛙ではないがやはりどこかしら似るものなのだ。


そして目の前にいる奏も真理と同じようにだいぶ普通ではない部類に入る魔術師だ。


彼女の場合常識的な部分と非常識的な部分がかなり明確に分かれている。


小百合と真理をちょうど半分半分にして若干攻撃的にしたイメージだろうか。


「だが文のいう通り、大体弟子というのは師匠の考え方や常識に似通うところがある。そう言う意味では魔術師内での暗黙の了解というものが通じないものだって当然出てくる。今回の妨害してくる輩がそうではないという確証はないな」


「魔術師相手であると考えておいて損はないってことですかね」


「そう言う気持ちでいろというだけだ。変に勘繰ると一般人にも変な目で見られる。そのあたりは注意しろ」


今回は魔術師だけがいる現場ではない。一般人も多くいる場所だ。そんな場所で魔術を使うのだから可能な限り怪しまれないようにするには普段通りでいるしかない。


「でも思えば俺一般人がいる中で魔術使ったことないかもです・・・普通の人にはほとんど見えませんよね?」


「ものによるな。無属性の魔術はほとんど見えないだろうが火や水といった魔術は一般人にも視覚できる。お前が使う魔術ならほとんどばれないだろう」


「まぁ康太の使うのってほとんど無属性だもんね。唯一使えるのも風属性だし」


「一般人にばれたところで文がいる。記憶消去くらいはできるだろう?」


「一応は・・・でもあんまり使いたくないですね」


康太と違って文は魔術を隠匿するための魔術を多く修得している。康太が使える暗示だけではなく記憶操作や消去などもある程度使うことができる。


そのあたりは康太と文の魔術師としての歴史の違いというべきか。康太が今後どうにかしなければいけない課題でもある。


「デビットの力使ってもばれないといいけど・・・そのあたりは大丈夫なんですかね?」


「大丈夫じゃない?今まであんたが精霊を見ることができなかったように普通の人には見えないと思うわよ?心配ならあんたのご両親に見せてみたら?」


「・・・そう言えばそうだな・・・たまにうちのなかでデビットが漏れてくるときあるけど特に問題ないし」


「漏れてくるって・・・それ大丈夫なの?てか何よもれてくるって」


「ん?いやこんな感じでさ、体の中からモワモワと」


康太は少しだけ体の中から黒い瘴気を発生させている。その瘴気はどこに向かうでもなく何をするでもなく康太の周りを少しだけ飛んでいるかと思えば何事もなかったように霧消していった。


一見すると康太が禍々しい何かをしようとしているように見えるが実際はそうでもないらしい。


たまにこうやって漏れることがあるらしいのだが康太自身デビットが何をしようとしているのかまでは把握できないのだとか。


「そう言えば康太、聞いていなかったがその魔術はどれくらいの人間を巻き込めるんだ?場合によってはチケットの場所も変更したほうがいいだろう」


「ん・・・一応射程距離としては百メートルくらいですかね。何人まで巻き込めるかはちょっと試したことないです」


「百メートルか・・・まぁ魔術として十分と言えば十分だが・・・今回の対応としては若干不足気味だな」


通常百メートルというと相当の範囲をカバーできることになる。少なくとも普通に戦闘を行うのであれば十分すぎる範囲であると言えるだろう。


だが今回カバーしなければいけないのはライブ会場だ。その広さはかなりのものである。


しかも資料によると今回の会場は屋外だ。広がっている観客たちにまんべんなく魔術をかけるのであればその中心地にいるしかないかもしれない。いやもしかしたら中心部にいても末端までは届かない可能性がある。


もっとも今回対象としているのは運悪くマナを取り込んでしまった人間だけだ。全員が全員対象というわけではないためにそこまで苦労はしないだろうと思っていた。


「ところで今回は俺の事情もあって俺にこの件を持ってきましたけど、本来どうするつもりだったんですか?魔力を吸う魔術くらいだったら他の術師も使えそうな気がしますけど」


「あぁ、魔力を吸う魔術自体はそこまで珍しいものではない。だがお前の持っているそれに比べると若干不便だな。広い会場をカバーするのであればそれなりに数を用意しなければならなかっただろう」


「へぇ・・・ちなみに一般的な魔力吸収の魔術ってどんな感じなんですか?」


「基本的に触れている間に魔力を吸い取ることができたり、性能がいいものでも数メートルが限界だ。しかも使っている間自分も魔力を消費する。精度が高くないと吸う魔力よりも使う魔力の方が多くなるだろうな」


康太の『Dの慟哭』とは異なる魔力吸収の魔術は確かに存在する。だがそれが魔術であるという時点で当然魔力を消費してしまう。


効率よく魔力を吸いとならない限り吸収が消費を上回ることはない。その為に非常に使い勝手が悪い魔術と言える。


その効果範囲も狭く実戦的な魔術とは言い難い。どちらかというと補助的な役回りの魔術だと言えるだろう。


「そうなんですか。じゃあこれってだいぶいい魔術ですかね?」


「いい魔術・・・というのは一応否定はしないが、誰にでも扱えるものではないという事を考慮すると手放しに評価することもできんな。今のところお前にしか使えないんだろう?」


「・・・たぶん、そうだと思います」


こういうのは何だが康太自身なぜこの『Dの慟哭』を操ることができるのかわかっていないのだ。


あの時、デビットの骨の前で康太はデビットの残滓と話をした。いや話をしたと思っているだけで独り言に近かった。


そんな独白にも近い言葉を並べ、これ以上どうしようもないと思ったとき、何故かデビットは自分の中に入ってきた。


そして何がどうしてこうなったのか、何故康太を選んだのか、それは不明だが康太はこの魔術を操ることができるようになっていた。


何がデビットに康太を選ばせたのかはわからない。デビットの目的がわかっても何故康太を選んだのかが不明なのだ。


「これは私の持論だが・・・良い魔術というのは誰にでも使えて、なおかつ効果が高く、汎用性がある魔術のことを指す。武器や道具と同じで多くのものが多くの場面で使えてこそ良いものであると言える。特定の誰かしか使えないようなものははっきり言ってよいものとは言えんな」


「あー・・・兵器とか武器と同じですね。どっかの評論家が言ってたな・・・」


「武器は量産され数をそろえてこそ・・・だったか?否定はしないが・・・まぁ似たようなものか・・・」


康太たちはこの後も魔術や今回の依頼についての話に花を咲かせていた。ここが個室でなければ一般人には聞かせられない内容だっただけに、少しだけ盛り上がってしまったのは言うまでもない。


日曜日、誤字報告十件分受けたので合計四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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