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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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依頼の内容

『そろそろかかってくるころだとは思っていた。話は私の依頼の事で間違いないか?』


「そうです・・・夜分遅くにすいません・・・確認したいことがいくつかありまして・・・」


『こうして依頼を正式に受ける前に電話してきたという事は、その内容を大まかではあるが理解できたという事だな』


「・・・まぁ一応・・・ほとんどわからないことの方が多いですけど」


康太は文のメールを一時無視して奏に電話していた。その理由は先程記されていた依頼の大まかな概要である。


依頼の概要は『ある地点における一般人の護衛と対処』だ。つまり今回の依頼康太には自由にスケジュールを選択することができないという事でもある。


恐らくではあるが今回の依頼、一般人の誰かを魔術師であることを悟らせないようにしながら護衛するというものではないかと康太は睨んでいた。


そうなってくると康太は好きな時に護衛をするということは難しい。予想だがその護衛対象のスケジュールに合わせる形で行動しなければならないだろう。


そうなってくると一番に確認しなければいけないのはそのスケジュールだ。具体的に言ってしまえば依頼の期間である。


先も真理に告げたがこれからバイクの免許を取るための合宿に行くことになっているのだ。もしそれと被っているようだったらこの依頼は非常に受けにくくなってしまう。


もちろん奏の依頼とバイクの免許、優先順位は前者の方が高いのだがバイク免許の合宿だってただではない。あまり無理なスケジュールを立てるのは康太としても好ましくはないのである。


『ふむ・・・ではききたいことだけ聞くといい。私はその問いにのみ答えよう』


「ありがとうございます。まずは今回の依頼の期間について教えてください」


『今回の依頼は約三日間だ。今度の金曜日から日曜日までの三日間。何か問題があるか?』


「・・・いえ、その期間なら大丈夫です」


康太は自分の合宿の期間を思い出しながら頷いて安堵の息を吐く。


康太の合宿は来週の水曜からだ。少なくとも依頼が少し長引いたところで問題はないだろう。


「護衛対象は何人ですか?あと何から護衛するのかも聞いておきたいです」


答えられないのであればそれでもかまいませんと言いながら康太は思慮を重ねていた。


護衛という任務を受けるうえで護衛対象と、一体何から護衛するのかという点は聞いておきたい。


だがそれは直接依頼内容にもかかわってくる。依頼を受ける前からそのような内容が得られるとは思っていないからこそ、そしてこれがちょっとしたずるに近いことから康太は答えなくても構わないという選択肢を用意した。


そして奏もその意図を読み取ったのか難しそうな声を出して唸っている。


『むむ・・・私個人としてはお前になら話してもいいと思っているんだが・・・まぁそれだと今後に響くか・・・その質問に関しては答えかねる。だがヒントを与えるとすれば、私が出した依頼概要には護衛以外にも書いてあったはずだな』


「・・・はい・・・護衛と・・・対処と書かれていました」


この言葉が康太を混乱させているものの一つだ。正直な話護衛ならば話は早い。何かの脅威から護衛対象を守ればいいだけなのだから。


だが今回の依頼には護衛だけではなく対処という言葉も入っていた。それが一体どういう意味を持つのか康太にはいまいちよく理解できなかったのである。


『その意味をよく考えておくことだ。依頼を受ける受けないは正式な形で協会を通して私に伝えろ。そうしたらその話も含めて詳しくしてやる。当たり前だが早い方がこちらとしてもありがたい』


「わかりました・・・あと文の奴を連れていきたいと思ってるんですが・・・いいですか?」


『文・・・あぁあの子か・・・ふむ・・・構わんぞ。一人二人程度であればこちらも問題なく対処できる。助っ人に関してはお前に一任しよう。あまり大人数だとこちらとしても困るが、数人程度であれば好きにしていい』


「ありがとうございます。向こうにもそう伝えておきますね。一応俺としては依頼は受けるつもりなので」


『正式な形で伝えろと言ったはずだが?・・・まぁ受けてくれた方がこちらとしてもありがたいのは確かだが・・・』


自分のためを思って依頼をよこしてきたというのもあるのだろうが、恐らく奏自身にも何か康太に頼む理由があったのだ。


いやもしかしたらそれは康太でなくてもよかったのかもしれないが、良くも悪くも渡りに船だ。こちらとしても奏としても困ることはないのである。


「それに奏さんの依頼じゃ断れませんよ。いろいろお世話になっちゃってますし」


『子供が要らん気を回すな。嫌なことは嫌と言っていい・・・そう言ってくれるのは私としても嬉しくあるがな』


訓練の時とこうして話をしている時は本当に別人ではないかと思えるほどに理知的な対応だ。これが会社一つ経営している人物の切り替えの早さというものだろうかと康太は少しだけ意外に思っていた。


『ところで康太、一つ質問だがお前は歌はよく聞く方か?』


「歌ですか・・・?流行の曲とかはそれなりに・・・」


『聞く曲の種類は?』


「大体男のものが多いですかね・・・アップテンポなやつとかが多いです」


『ふむふむ・・・わかったありがとう。つまらないことを聞いたな』


「いえ全然いいですけど・・・」


一体今の質問に何の意味があったのだろうかと康太は首をかしげる。結局その日その質問の内容に関して理解することはできずじまいだった。


















「という事だ。お前にも協力してほしいんだよ」


奏との電話を終えた後に康太はこの話を文にもするべく電話をかけていた。先程までずっとメールが届き続けていたために起きていることはわかっている。


夜遅くに電話というのは申し訳なく思ったがこれも仕方のないことだ。可能な限り返事を早くするためには今のうちに話を済ませておく必要がある。


『いきなりメールで無茶苦茶いうかと思えば・・・えっと・・・今週末・・・?あぁもう・・・一応空いてるわ・・・』


「なら頼む!今度飯奢るから!」


『宿題写すレベルの報酬で手伝えってのはちょっとあれなんじゃないの?成功報酬はちゃんともらうわよ?』


「オッケーオッケー。報酬はちゃんと山分けするから。悪いな」


『・・・まぁあの人には私もお世話になったし、手伝う事自体は吝かじゃないわ。でも普通こんな急に話を持ってくる?』


「いや・・・それに関しては俺もさっき話を聞いたばっかだから。こればっかりはどうしようもない」


康太自身前々から話を聞いていたというのならまだしも先程初めて話を聞いたのだ。


もう少し早めに話を通しておいてほしかったのだがと思うが、康太が今の状況になったのがそもそも最近なのだ。急に話が来るのも仕方がないというものだろう。


『で?依頼の概要はメールで書いてあった通りなの?たしか一般人の護衛と対処・・・だっけ?』


「あぁ、それ以上の事は依頼を受けるって決めてからにしてほしいって。俺は依頼を受ける練習みたいなものだと思ってるけど・・・」


『まぁ間違ってないわね。今回は身内から身内への依頼だから多少融通利くけど、本来はこういうことはできないもの。ある程度本番に近づけないと練習にもならないからその判断は正しいわ』


てっきり身内だからもっと情報を引き出せとか言われると思っていただけに康太は少し拍子抜けしていた。


文も納得してくれているのであれば康太としてもありがたいし何より楽だ。文を説得する手間が省けるのだから。


『とりあえず私の方はオッケーよ。あんたの都合さえよければ明日にでもきちんと話し合いをするべきだと思うけど・・・』


「奏さん自身の都合もあるけどな・・・今日の内に協会に行って依頼を受けるって旨だけは伝えておこうと思うけど・・・話し合いがいつになるかはわからないぞ?」


学生であり夏休みの真っ最中の康太と文と違い、奏は一つの会社を束ねる社長なのだ。康太たちのようにいつでも時間を作ることができるわけではないのである。


それがたとえ依頼でも基本的に時間は奏の余裕ができた時ということになる。そうなるといつになるかは正直わからなかった。


もしかしたら依頼の前日に話を通される可能性だってある。そう考えると今のうちにいろいろと準備をしておいた方がいいかもしれない。


『にしても一般人相手か・・・正直面倒ね』


「やっぱそうなのか?一般人を相手にするって珍しいなとは思ってたけど・・・」


康太たち魔術師がわざわざ一般人を相手にしなければいけないというのは実は珍しいように思えた。


なにせ一般人は基本的に遠ざけておくべき対象だ。その一般人をわざわざ守るというのはそれなり以上の理由がある。


『基本的に私たちが魔術師だってばれちゃいけないからね。そのあたりを隠しながら上手く立ち回らなきゃいけないからちょっとだけ面倒よ?まぁできないことはないんだけどさ・・・魔術師相手に比べるとやっぱり隠匿性も重要になってくるから』


「なるほどな。派手に暴れまわればいいってわけじゃなさそうだ」


文のいうように基本的に魔術師はその存在を隠している。一般人を相手にするということは当然その魔術の存在を露見させないようにしながら対応するという事である。


護衛にしろ、概要に書かれていた対処にしろばれないように行動しなければいけないというのは実にストレスがたまる。


もっとも魔術を使ったところで一般人にそれが正しく認識できるかは微妙なところなのだがそのあたりは置いておこう。


『そう言う意味では私よりもあんたの方がいろいろできるかもね。あんたの魔術無属性が主流だし』


「いやいや・・・攻撃ばっかの魔術でいったい何をどうしろっていうんだ

よ・・・基本的に工作活動はお前任せになると思うぞ?」


『そうかしら?あんただって割と魔術増えて来てるじゃない。多少の工作活動くらいならできるでしょ?』


「・・・まぁ・・・そうかもしれないけど・・・」


以前と違い確かに康太の所有している魔術は多くなってきている。小百合から教えられたものだけではなく、他にもいくつか魔術を修得しているのだ。


そのおかげもあって今康太は戦闘だけが能の特化型の魔術師ではない。


徐々にではあるがある程度の状況に適応できる万能型の魔術師になりつつあるのだ。


もっともオールラウンダーというにふさわしい文に比べると器用貧乏にもなっていないような貧相な万能だが、それもまた仕方のないことだろう。


なにせ康太の魔術師歴はようやく半年を迎えたところなのだ。十年以上魔術師として活動してきた文と比べる事自体がおこがましいのである。


康太も文もそのことを理解しているためにあえて口には出さないが、互いの力関係を互いに理解しているというのは同盟を組んでいるものとしてはありがたい状況だった。












文との電話もそこそこに康太は協会に正式に依頼を受けるという報告をしに行った。


康太だけで報告しに行ってもよかったのだが、ついでに小百合も報告書を提出しなければいけないらしく康太に付き添う形で協会に向かうことになる。


小百合は康太に書類を押し付けようとしていたがそれは真理が止めていた。さすがに書類くらい自分で出さないといけないというのはわかるが小百合は非常にめんどくさそうにしていたのは言うまでもない。


そして書類を提出した翌日、康太と文は協会に呼び出されていた。


内容は勿論今度受けることになる奏の依頼に関してである。


協会内のある部屋を貸し切って用意されたブリーフィングの場には康太と文、そして奏と三人の様子を確認して書記をしている協会の魔術師が一人いる。


正式な形での依頼はこのように対応するのだなと康太は感心しながら仮面越しに奏の方を注視する。


当然ながら奏も魔術師装束を身に着けている。文もそうだがこの三人が魔術師として顔を合わせるのは実は初めてではないかと思っていた。


「では今回サリエラ・ディコルが依頼する内容についてのブリーフィングを始めます。まずは依頼内容からお願いします」


どうやら司会進行も書記を兼任している魔術師がするらしくまずは依頼主である奏の方に話を振っていた。


こういう手順で進行するのかとこの光景を覚えておこうと康太がまじまじとその様子を見ていると康太の机の前に書類が一枚置かれる。


そこにはあるイベントの詳細が記されていた。


「事前にある程度話していた通り、一般人の護衛と対処となる。今回お前達に行ってほしいのは要約してしまえばライブだ」


「ライブって・・・音楽とかのですか?」


「・・・あ、この人バラエティーとかで何度か見たことある・・・えっと・・・」


書類に同封されていた写真を見て文が何やら思い出そうとしている中、康太もその写真を覗き見る。


文が言っていたように何度かバラエティなどで見たことがある顔だ。だが実際にそれが誰なのかは思い出せない。


というか名前とどんなグループにいるのかが思い出せない。二人ともそこまでバラエティなどを見るタイプではないためにその人物の名前を思い出すことにすら苦労していた。


「わざわざライブの警護を俺たちに?そんなの普通の警備会社に頼めばいいんじゃないんですか?ていうかこれって」


「ストップよビー。とりあえず最後まで話を聞きましょう」


もしかして奏さんの会社の関係ですかと聞きかけたのを文が手で喉を掴んで止める。


仮面をつけているために口を押さえるわけにはいかないのはわかるのだが喉を押さえられたことで康太は若干むせてしまう。だが奏としてはどうやらありがたかったようで肩の荷を下ろしていた。


「説明を続けるぞ。今ちょうどこのアイドルのライブツアーが行われているんだが、少々込み入った事情があるのに加え今回の場所が若干厄介でな。お前達にはアイドルの護衛を含め、それに来る一般客への対応も頼みたい」


アイドルの護衛というのはまだわかる。いろいろと芸能活動をしていたら闇の部分に触れることもあるだろう。そう言う物騒な話からアイドルを守るという話はすぐに理解できるし納得できる。


だが一般客への対応というのが若干まだ理解しかねていた。


アイドルに必要以上に近づかないようにすればよいのだろうか。それとも握手会で引き剥がす役でもすればいいのだろうかと康太が考えていると資料を読み込んでいた文がなるほどねと小さくつぶやく。


「この辺りのマナの影響を考えているんですね?」


「話が早くて助かる。つまりはそう言う事だ」


「・・・え?なに?どういうこと?」


康太だけがいまだに話の流れも内容もつかめていない中、文は見ていた資料を康太に差し出して読ませる。


「今回のライブの場所、事前の調査でマナの状態が不安定になってるのよ。濃薄が極端になってるって言ったらわかるかしら?」


「・・・あー・・・なんかそんな感じになってるな・・・でもそれでどうして俺らの出番なんだ?」


康太は文が読んでいた資料に書かれている部分を読み解きながらマナが不安定であるというところまでは理解することができた。


だがそのくらいなら特に問題はないのではないかと思えてしまう。以前マナが極端に薄いところになら足を運んだことがあるがそう言う場所の一般人は特に問題なく生活していた。濃薄が極端だからと言って自分たちが一体何をすることがあるのだろうかと疑問符を飛ばしてしまう。


「マナの濃薄が激しいとその分マナは動こうとするんだけど、その過程で一般人が無意識のうちにマナを取り込んじゃうことがあるのよ。素質があればそのまま魔力に変換されて・・・運が悪いとそのままあの世行きね」


「・・・そんなことあり得るのか?」


「そう言う事が前にあったのよ・・・本当に極端な場所でマナの流れが激しい場所じゃないと起きないし、何より局所に留まり続けないと起きない現象だから。誰にでも起きるわけじゃないから本当に運に左右されるって感じね」


「・・・あー・・・ライブだとそうか・・・ずっと同じところにいるか」


普通に生活しているだけならいろんなところに移動するだろうし、何より長期的に見ればマナの濃薄もその動きも変化するのだが、数日という短期間に同じところに居続けるという条件が重なってしまっている。文の言っているような状況が起きないと断言できるような状況ではないだろう。


「説明は済んだか?つまりはそう言う事だ。私としてはブライトビーだけでも十分かと思ったが・・・ライリーベル、君も協力してくれると思っていいのだな?」


「はい。ビーだけだとちょっと面倒ですし、何より手伝えることもありそうでしたし」


確かに今回の内容だけならば康太だけでも最悪事足りるが、文の協力があればなおのことスムーズに事が運ぶだろう。


もしマナを取り込んでしまった人間が魔力への変換の素質を有していたら魔力を溜めこみ続けることになる。


許容量が限界を超えてしまえば当然体に直接影響するために魔力を強制的に排出する工程が必要になる。


そこで康太の持つ『Dの慟哭』の出番だ。魔力を吸い上げる魔術を使う事で一般人への危険を取り除くのが目的である。最悪の展開にならないために康太がある程度調整して魔術を使わなければならない。


その時に文のサポートがあればなおのこと容易になおかつ効率的に対処することができるだろう。


文の持つ魔力探知の魔術を使えば個人が内包している魔力量を察知することができる。魔力量が増えている一般人めがけて『Dの慟哭』を使えば無駄な使用を抑えることができるだろう。


確かにこれは康太と『Dの慟哭』の試金石には丁度いい依頼と言える。難易度自体もそこまで高いものではない。一般人に対して魔術の存在がばれないようにすればいいだけの話だ。それくらいなら今の康太にでも十分可能である。


「ちなみにそのアイドルの護衛というのは相手にばれてはいけないんですか?ある程度遠くから見守る感じの方がいいですかね?」


「可能ならその方がいいだろうな。向こうも護衛となると身を強張らせるだろう。大事な時期に余計な不安要素を入れるわけにはいかない」


ライブツアーの真っ最中という事もあって心身ともに不安定になっている時期だ。そんな時期に護衛を付けるなんてことを言われたら不安をあおってしまうだろう。


これは奏なりの気づかいなのか、それとも魔術師の存在を説明することができないからその存在を明かさないのか、どちらかは判断できなかった。


「私達は当日どのように現場にいればいいですか?今からだとライブチケットなんて取れないですからかなり遠くから様子を窺うことになるかもなんですけど・・・」


「それなら安心しろ、こちらでそう言うものは手配する。三日間の滞在先もこちらで用意してある。お前達がやるのは仕事だけだ」


「そうですか・・・なんというか手際良いですね」


「それなりにはな・・・詳しい話などはまた今度にしよう。今日はこの辺りでお開きだ。何か質問などはあるか」


まだ聞きたいことは正直に言えばあった。なぜ護衛を付けるのかというその理由について疑問は残っている。


ただのアイドルとはいえ魔術師の護衛を付ける程の事だろうかと思えてしまうのだ。だが奏がわざわざ康太にそう言う事を頼むのだから何かしらの意味があると考えるのが自然である。


このような他の人間に記録されている状況では奏も話すことができないだろう。それなら奏の所に直接赴いて聞いた方が彼女としてもありがたいだろうと判断して康太は沈黙を貫いた。


そして文も同じ考えだったのだろうか、特に聞くこともなく書類の方に目を通しながら問題ありませんと告げていた。


こういう時に頭の回転が速い人間が近くにいると助かる。


「よし、では今日はこれでお開きだ。ここの後片付けは任せるぞ。二人には後でチケットなどを渡すから私についてきてくれるか?」


「わかりました、ご一緒します」


「お供します」


書記の魔術師にこの場の片づけを任せ、依頼の資料をすべて持って康太たちは協会の一室から出るとどんどん進んでいく奏の後に続いていった。


要するにこの後話をするからついて来いという事だ。チケットを出しにしてうまいこと二人を連れ出すあたりさすがというほかない。


「ビーはこういう場は初めてだったな?」


「はい・・・なんか他の魔術師に見られてるってなるとちょっと落ち着かないですね・・・」


「まぁこれからそう言う事もあるだろう。ある程度慣れておいて損はない。今回の対応はなかなか良かったぞ。もう少し魔術師的な常識を入れておくことは必要だろうがな」


「はい・・・精進します」


「ベル、君がいてくれて助かった。ビーだけでは至らぬところもあるだろう。支えてやってくれると助かる」


「支えるなんて大げさな。飽くまでサポートですよ。それに康太に話を通された時点で断れなかったですし」


康太だけがこの場にいた場合いろいろと話の流れがおかしい方向に行っていたかもしれない。文がこの場にいたことで話をうまく修正することができていたのを奏は理解しているのだ。


無論康太もそのことは理解している。だからこそ文には本当に感謝していた。


「この後どうするんです?いつもの場所行きますか?」


「いや・・・そろそろ時間も時間だ、食事でもしながら話をすることにしよう。ついてこい」


また高級料理だろうかと康太と文は嬉しさと気まずさが同居しながらも奏の後についていった。


こういう事にも慣れておいて損はないだろうなと自分に言い聞かせながらレストランの空気に耐えなければいけない時間が始まるのだと覚悟を決めていた。


土曜日、誤字報告五件分、評価者人数145人突破したので合計四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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