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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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特性と感情

「悪かったわね康太。今日はいろいろうちの親が迷惑かけて」


その後いくつかの話題に花を咲かせた後、康太は文の家を後にしようとしていた。玄関までは文の両親が、玄関を出たところまで文が見送る中、文は申し訳なさそうにため息をついていた。


「気にすんなって。今回のことに関しては親としては知りたいことだってのはわかったからさ。それにお前の親にあったっていうのもある意味収穫だ」


「ん・・・そう言ってくれると助かるわ。今まで親しい友達とか作らなかったつけが回ってきたって感じね・・・こんなことになるならもうちょっと親しい友達作るべきだったかも・・・」


「まぁお前の場合魔術師だったからっていう事情もあるし仕方ない部分はあるんじゃないか?お前の交友関係に関しては知らんけど少なくとも作りにくい環境であったのは間違いないだろ」


子供のころから魔術師として暮らしていたという事もあって文は他人との距離感を作るのが絶妙に上手い。


仮に家にあげたところで心の深いところには決して踏み込ませない。そう言う距離を保つのが文独特の人間関係の構築の仕方なのだ。


浅く広くと言えば聞こえはいいが本当に親しい友達を作りにくいという意味ではマイナスイメージの方が強いように感じる。


「今回の話に関しては聞かなかったことにした方がいいのかしら?なんかいろいろ言ってたけど」


「ん?別にそんなことしなくてもいいぞ。嘘を言ったつもりはないし」


「・・・一応褒められてたってことでいいのよね?」


「あれを侮辱扱いするっていうのはちょっとさすがに酷いと思うけど・・・結構手放しに誉めてたつもりだぞ?」


特に気にした様子もない康太の態度に文は若干疑わしい瞳をぶつけているが康太は本心から文のことを評価したつもりだ。


もっともまだ言っていない言葉があることは事実だが嘘は言っていないので何もおかしいことはない。


それにわざわざ思ったことをすべて口に出す必要などないのだ。


沈黙は金という言葉があるように時には黙っていた方が円滑な人間関係を作り出すのである。


「そう言う文としてはどうなんだよ。俺の評価をちょっと聞いてみたいな」


「え?康太の評価?・・・そうねぇ・・・」


文は康太の全身をしっかりと見定めながら口元に手を当て悩み始める。外見からまずは康太のことを判断しようとしているのだろう。何度か頷きながら康太の各所に対してある程度の評価を下していた。


「髪型と顔に関しては普通にいいと思うわよ?服のセンスは・・・まぁまぁ・・・身長はもうちょっとほしいかな。体つきに関しては文句なしね。そのあたりはさすが陸上部ってところかしら」


「ふふん・・・この鍛え上げられた肉体に魅了されるがいい・・・!」


「はいはい・・・外見的には十分魅力的だと思うわよ?まぁ性格はちょっとある意味お察しだけど」


「なんだそりゃ。常識的でいい男だろ?」


「・・・あー・・・そうね、常識的ね」


何やら棒読みだったのは恐らく気のせいではないだろう。いつの間にか自分は常識的な人間ではなくなっているのかもしれないと康太は若干自分の中にある常識というものを疑い始めていた。


「総評すると、あんたは十分ましな人間よ。見る人が見たらちゃんと好きになってくれると思うわ」


「本当か?本当だな!?誰か俺に告白とかしてくれるか!?」


「何で自分から告白するって選択肢がないのよ・・・」


「男はな、女の子に告られるっていう夢があるんだよ!女にはわからんかもしれんがな!」


「女の子だって男の子に告白されたいくらいは思ってるわよ?まぁ見ず知らずの人間にされるのはちょっとあれだけど・・・」


「んー・・・俺は見ず知らずでもいいから女の子に告られたいわ。そのあたりやっぱ男女の考えの違いなのかな・・・?」


男と女の恋愛観は随分と違うというが、それが魔術師であろうと基本的には変わらないらしい。


少なくとも康太は誰でもいいから告白されたいと思っている。若干雑食性が強すぎる気がするがこの考えも間違ったものではないのである。


「・・・まぁ恋愛話は置いておいて・・・そいつの事も、悪かったわ。あんたをここに呼ぶのに考えなし過ぎた。ごめん」


「・・・あぁ、それも気にすることないって。お前が謝ることは何もないだろ。もし俺がお前と同じような立場だったら同じようにするだろうし」


文は今回の自分の行動の軽率さをかなり反省していた。いくら自分がある程度信頼しているとはいえ同盟相手をそこに何の考えもなしに呼び出すというのは明らかに危険な行為だったのだ。


それが康太であればなおの事である。ただでさえ最近若干不安定になっているというのにここにきてさらにその不安定さを露呈する形になってしまった。


これは自分の失態だと文は大いに反省し自分を戒めようとしていた。


康太本人がそれを気にしていないというのがまた彼女の自責の念を強めるのだ。これで康太が責めてくれたらどれだけ気が楽になっただろう。こういう時は康太の心の広さが疎ましく、いや羨ましく感じられた。















「ほう・・・そのようなことがあったのですか」


「えぇ・・・あいつもだいぶ大変だったみたいですよ」


翌日、康太と真理は例によって例のごとく、夏休みにやってきた面倒事、魔術師同士の問題を解決するために奔走していた。


もっとも奔走などと言っても実際は魔術師同士のいざこざを仲裁しているに過ぎない。戦闘が起きる程ヒートアップした問題など早々起きるはずもなく康太たちは互いの魔術師の言い分を聞いて何とか折衷案を出そうと頭を悩ませていたのだ。


そして今はその帰り、今回のことを魔術協会に報告するべく最寄りの教会に向かっている最中である。


「魔術師とはいえ人の親ですからね、そう言う事が気になるのも仕方のないことでしょう。特にビーの場合はちょっと事情が事情ですからね」


「・・・危ないやつを遠ざけておきたいっていうのはわかるのでそこまで気にしてませんけど。確かにこいつ危険ではありますし・・・」


康太は自分の体の中を指さしながら仮面越しではあるが苦笑してしまう。今まで二万人以上の死者を出した魔術なのだ。運用方法を間違わなければ便利かもしれないが一歩間違えばまた大きな被害を出すことに違いはない。


特に康太の場合、いや康太が宿している『Dの慟哭』の場合、康太が完全な制御権を得ているわけではない。そこがまた問題なのだ。


康太が完全に制御できるのならただの魔術であるために、康太がその使い方を間違わなければ何も問題ないのだが、この魔術は完全に康太の制御下にあるわけではないのだ。


康太が扱えるのはあくまで一部。それ以外の制御権は未だにデビットの残滓が握っている状況だ。


その為にいつまた暴走するかわからない。康太曰くその兆候はないらしいのだがそれもいつまで続くかわかったものではない。


暴走する前に、今のうちに術式ごと完全に破壊してしまったほうがいいのではないかという意見も協会内からは聞こえている。


無論康太としてはそれを聞くつもりは毛頭ないのだが。


「確かに私がベルさんの親でも、ビーの中にある魔術の確認をしようと思うでしょうね。何かの間違いで被害にあったら大変ですから」


「俺もそう思います。あと話はちょっと変わるんですけどベルがちょっと気になること言ってました」


「というと?どんな?」


「俺がこいつの感情に引っ張られてるんじゃないかって話です」


こいつの感情に引っ張られている。康太の言葉の意味が一瞬わからずに真理は首をかしげていたが、康太のいうこいつというのがデビットの残滓であるという事を理解することでようやく何がいいたいか察した様だった。


「引っ張られる・・・というと・・・精霊の干渉のようなものですか?なぜベルさんがそんなことを?」


「いやなんか昨日のやり取りを見てて思ったらしいんです。精霊のそれと同じように俺自身の感情がこいつの感情に引っ張られてるんじゃないかって」


精霊を身に宿していると、その精霊の持つ感情と同調してしまう事がある。


以前文がそうなったことがあるように、昨日の康太にも似たような兆候が見られたのだと文は考えていた。


そしてそのことを聞いた真理は考えるようなそぶりをしながらなにやら唸っている。


「んー・・・前に精霊っぽい何かであるとは言った覚えがありますが・・・そこまで似るものでしょうか・・・?」


「精霊を入れたことはないのでよくわかりませんけど、実際どんな感じなんですか?」


「そうですね・・・精霊は基本的に自我が希薄で強力なものでも子供程度の自我しか持たず弱いものではある程度の感情しかないというのはご存知ですか?」


「はい、それは前に聞いたことがあります」


文に聞いたのだったか、それとも真理に聞いたのだったかまでは忘れたが実際の精霊はそこまで頭がいいわけではないらしい。


自我や意識といったものはほとんどなく、あるのは感情のみ。子供をさらに子供らしくしたようなものだ。


「精霊を体の中に入れていると大抵は感情の波が出てきます。具体的には言えませんがなんというかこう・・・体の内から湧き上がるような感覚があります」


「湧き上がる・・・」


「怒りでも悲しみでも喜びでも、どんな感情であろうと体のどこかしらから湧いて出てくるような感じです。感情の感じ方は人それぞれなんでしょうけど少なくとも私はそう感じました。精霊の感情に引っ張られるというよりは自分の感情と誤認すると言ったほうが正確かもしれません」


「へぇ・・・自分のと間違える・・・」


説明する人間によってこれ程内容と解釈が変わるものなのだなと康太は目を丸くしていた。


文の言っていた説明とは少し違う。自分の感情と誤認するというのは新しい考え方かもしれない。


思えば確かにあの時に感じた苛立ち、というより腹立たしさは体の内側から湧き上がるような感覚だった。


あの時はただ文の父親が言っていることが『自分自身腹立たしく感じている』のだと思っていたのだが、なるほどそう考えると康太はデビットの感情を自分の感情だと誤認していたのかもわからない。


今にして思えばそこまで腹立たしく思うような内容でもないために、康太は自分があの時どのような状況だったのかをようやく客観的にとらえることができるようになっていた。


「ですがまさかそこまで精霊に近いものだとは・・・そうなってくるとビーにも精霊との付き合い方を教えたほうがいいのかもわかりませんね」


「精霊との付き合い方って・・・こいつにも役に立ちますかね?」


「たぶんですが役に立ちます。少なくとも感情の誤認が起きる程度には同質的な存在であるのですから、とりあえずそのあたりを軽く説明しておきましょうか」


真理はそう言いながら自分の体の中から光る球体を取り出す。光る球体というよりは発光体を取り出したと言ったほうが正確かもしれない。


それが精霊であると気づくのに時間は必要なかった。


「精霊というのは先程も言った通り大抵が自我のない感情のみの存在です。そう言った者たちと契約を結びマナの供給や放出、蓄積の手伝いをしてもらうのが精霊術の基本になります。ここまではいいですね?」


「はい、そのくらいは覚えてます」


精霊術の基本。要するにマナを用いた魔力の生成が自分一人でできない場合に行われる精霊術師たちが行う基本中の基本だ。


これがないと精霊術師は術を発動できない。そして精霊に手伝ってもらう代りに当然ながらデメリットも存在する。


魔術師の場合は精霊が居なくても発動はできるが補助的な意味合いで精霊を連れることも珍しいことではないという。


「よろしい。では次の話に進みます。精霊たちには属性があり、各属性には相性がある。そしてそれは精霊たちの相性にも直結します。これがどういうことかわかりますか?」


「えと・・・精霊同士がけんかするとか?」


「ご名答です。大抵の精霊には好き嫌いはあります。それは環境であったり同じ精霊であったり、時には特定の個人に対してだったりしますがその種類は千差万別。人間と同じように細かい好みの違いが出てきます」


感情があるという時点で好き嫌いというものは絶対的に存在してしまう。精霊の場合その傾向が顕著に表れる。


人間のように自我や理性があれば多少嫌いでも我慢できるのだろうが、術師が引き連れるような精霊だとそう言ったものが存在せず思ったままに、感じたままに好き嫌いを主張してしまう。


その為相性が悪い精霊同士を同じ空間に入れておくと当然喧嘩が勃発するのだ。


「複数の属性の精霊を同時に引き連れるのが難しいのはそれが原因ですね。互いに相性が悪かったり片方が一方的に嫌っているだけでもう一緒にしておくことはできませんから」


「・・・喧嘩してても無理矢理体の中に入れてるとかしたらどうなるんですか?」


「んー・・・すごく大変なことになりますよ?感情的にもそうですしマナや魔力的にもハチャメチャです。まともに術を発動することも難しくなるでしょうね」


精霊術師のデメリットは引き連れている精霊の属性の術しか使えなくなるという点だ。これは今真理が説明したように複数の属性の精霊を同時に引き連れることができないからこそ明確なデメリットとなってしまうのである。


単一の属性しか使えないというのは戦闘においてもそれ以外においても活動内容がだいぶ狭まる。


稀に複数の属性の精霊を引き連れている精霊術師もいるらしいのだがそう上手い話はなかなかないらしい。


「とにかくそう言う事もあって精霊の好き嫌いというのは術師の特性そのものに直接影響してきます。ここまではいいですか?」


「わかりました。それでその精霊との付き合い方ってのは何なんですか?」


「まぁわかりやすく言ってしまえば自分が連れる精霊の好みを把握することですね。どんなことでも構いません。もっとも把握するまでだいぶ時間がかかるとは思いますが」


先程までの感情の説明から察するに、自分が好みであるかそれとも内包している精霊の好みなのかを把握するのはかなり苦労するだろう。


なにせ自分の感情であるかのように誤認してしまうのだ。康太のような思春期の少年だったらただ単に好みが変わっただけかと勘違いを起こしそうなものである。


「でも好みを把握するだけでそんなに変わるものですか?」


「変わります。まず自分の感情がどのようなものであるのかを明確にすることができます。その為に先日ビーがあったような不自然な感情の起伏に対して冷静に対処することができるでしょう。これは割と重要なことですよ?」


自分自身の感情をしっかりと見つめなおす。精霊の好みを把握するという事はそう言ったことにもつながるのだという。


確かに不意に感情に起伏が生まれても、精霊たちの好みを知っていなかった場合ただの気まぐれかと誤認してしまう可能性がある。


それに対してある程度好みを把握しておけばこの感情は精霊が起こしているものであるとしっかりと認識することができる。


自分の感情を客観的に把握することでより冷静に、正しい判断を下せるようになるという事である。


「それってこいつにも適用されますかね?」


「たぶん・・・いえ間違いなく適用されるでしょう。判断に時間はかかるでしょうがどのタイミングでどのような感情が湧いたかというのをメモしておくと把握しやすいかもしれません。その時々では判断できなくても後々考えてみるとあれはおかしいなどと思う事もありますからね」


先程康太が真理の説明を聞いてそう言えばと思ったように、後々考えてみることでその状況を冷静に判断することができるようになるという事はよくあることだ。


特に今回のような感情の把握などに関していえばこれほどの方法もないだろう。

他人にそれを把握させるよりも自分で把握したほうがよりわかりやすく、覚えやすくなるのもまたこの方法の良いところである。


誤字報告十件分受けたので三回分投稿


風邪をひきました。この時期風邪は色々とアレなのでみなさまもお気をつけください。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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