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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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話しにくいこと

「で、この話はもう終わりなの?康太を呼び出した理由ってそれだけ?」


「ん・・・こちらとしてはそれでいいよ。まぁ最近有名になった魔術師に会ってみたかったっていう理由もあるんだがね」


「ふぅん・・・まぁ確かに康太は急に名前が売れ出したからね」


「この前の一件が一番大きいだろうけどな」


康太はこの四月から本格的に魔術師として活動しだした。文との戦闘に加え長野、静岡、そして鍛えられながら生活してきていざこざが多少ありながらも粛々と、そこまで目立つことなく過ごしてきた。


日本支部の支部長の計らいで評価点がやや上がりやすい傾向にあるがそれでも康太がこなした以外のことを手柄にしているわけではない。


今回のデビットの事件に関していえば対処などに関しては小百合の手柄だが、根本的な解決に関してはほとんどが康太の手柄だ。


そう考えるとこの評価は間違っているものではないのだが、多少過大評価のように思えなくもない。


「とにかく、私が君をこの場に呼んだ目的は達成したよ。もし気を悪くしたならすまなかったね」


「いえ気にしていませんから。親として心配だというのは十分理解できますし」


もし康太が文の親と同じ立場であったのなら同じようなことをしたかもしれない。今回に関しては文の父親の言葉は特に間違ったものでも行き過ぎたことでもない。


ただ康太がその事案に対して過剰に反応しすぎただけの事だ。今にして思えば確かに文の思う通り過剰に反応しすぎていたように感じられる。


本当にデビットから何らかの影響を受けていても不思議ではない。これはこれで面倒だなと思いながら康太はどうしたものかとため息をついていた。


感情がデビットのそれに左右される。それはつまりかつてのイギリスの神父様と感情がリンクしているようなものだ。


康太の場合そこまで善人というわけではないためにある程度の事は流すこともできたし気にしないこともできたが、もしかしたらこれからそういうわけにもいかなくなってくるかもしれない。


自分の中にいるのは基本善人だ。神を呪った経験があるとはいえそれは理不尽に対する怒りを燃やした結果だ。


もしこれから康太が何らかの理不尽に接触した場合、デビットの感じた怒りを自分も感じる可能性がある。


そうなってくると非常に面倒だ。今まで円滑に進めることができていた人間関係すら変えてしまいかねない。


何よりも一番心配だったのが自分の師匠である小百合と、その兄弟子である奏の二人の事だった。


自分の知り合いの中で『理不尽』という言葉が最も似あう二人。もしあの二人の暴挙が自分に向けられたときデビットがどのように反応するのか気がかりだったのだ。


もし怒りを放った場合自分もその怒りに釣られて小百合と奏に何かしてしまうのではないかと心配だったのだ。


自分が暴れたところで二人にとっては何の支障にもならないだろうがそれでも今までの比較的良好な人間関係を崩しかねないというのはあまり良いことではない。


「そう言えば母さんは?母さんも康太のこと見てみたいって言ってたわよね?理由は父さんと同じなの?」


「ん?私?私はただ単にいつも仲良くしてくれてる子を見てみたかったってだけよ?結構かっこいい子だしいい子じゃない」


魔術師的な考えで康太を呼んだ文の父親とは対極的に、文の母親は康太という一個人を見極めるために呼んだようだった。


そして大まかにではあるが康太のことを理解したのだろう。その上でなかなかの好印象を与えているようだった。


「ねぇ康太君、康太君から見てうちの文はどう思う?」


「どうって・・・良いやつだと思いますよ?いつも迷惑かけてもなんだかんだ何とかしてくれますし・・・すごい助かってます」


康太は思ったままを口にした。康太の文に対する好感度は決して低くない。自分が様々な迷惑をかけても文はなんだかんだ面倒を見てくれている。


魔術の事や勉強の事、いろんな場面で康太は文に世話になっている。そんな相手に対して好感度が低いはずがない。


感謝もしているし信頼もしている。康太は文になら背中を預けても問題ないと本心からそう思っていた。


だがどうやら文の母親としてはそう言う事を聞きたいわけではなかったようだ。


「んー・・・そうじゃなくてね・・・一人の女の子としてどうかなって」


その言葉を聞いた瞬間に文と文の父親が飲みかけていた茶を吹きだす。


本人を前にして一体何を聞こうとしているのか。文はむせ返りながら母親に対して反論しようとしているが咳が出てしまっているために言葉が上手く出てこない。どうやら文の父も同じような状況になってしまっているようだった。


康太は文の背を軽くさすってやりながらどう答えたものか迷っていた。


文のことは確かに好意的に見ている。だが女の子としてどうなのかと聞かれると返答に困ってしまう。


確かに感謝しているし信頼もしている。だがそれが一人の女の子として好きかどうかと聞かれると正直微妙なのだ。


ただ本人を前にしてそのことを正直に答えていいものかどうか、そう言う意味も含めて返答に困ってしまっていた。


「えっと・・・文、これはどう答えるべきだ・・・?」


「げほ・・・ごほ・・・!な・・・何であんたも答えようとしてんのよ!ていうか母さん!私ここにいるのになんて事聞いてるのよ!」


「えー?だって康太君かっこいいしあなたがここまで心を開いてる男の子って初めてだもの、親としては気になっちゃうじゃない?」


「だからって本人がいる前で聞く!?」


母親として娘の恋愛事情が気になるのは非常によくわかるが、文のいう通り本人がいる前で聞くような内容ではないように思う。


目の前に文がいるような状況でどう答えるべきなのか、そしてどんな反応をしたらいいのか康太は非常に困っていた。


文が今まで魔術師として生きてきたことで一般人の同世代や近い世代の人間をどこか遠ざけて来ていたのは話半分ではあるが聞いていた。だからこそ康太ほど親しくなった人間がいなかったのもまた事実なのだろう。


心を開いているというとまた意味が違ってくるかもしれないがここまで文に近づいた男子も今までいなかったのだ。だからこそそう言う目で見てしまうのも無理のないことかもしれないがだからと言ってこのタイミングでは明らかに答えにくい。


「で?どうなの康太君。うちの娘は君のお眼鏡にかなってるの?」


「答える必要ないわよ康太。こんなの答えられるわけないじゃないの」


この状況を板挟みというのだろうか、康太は苦笑いを浮かべながらどうしたものかとため息を吐きたいのをぐっと我慢しながら悩んでいた。


文の母親に聞かれたままに答えてもいいのだが、それはそれで文との確執を生みそうである。逆に答えなければ文の母親に対して若干悪い印象を与えるかもしれない。


ここは両者にとって悪印象を与えないような受け答えをするべきだ。


「まぁ文は普通に美人ですし、うちのクラスの男子からもすごい人気ですよ。特に陸上部の奴らなんて露骨に狙ってますし」


「あぁ・・・あんたの友達の二人?あのふたりはまぁ・・・確かにそんな感じよね」


「あら何よ文、そんなこと全然話してなかったじゃない」


「そんなこと話すまでもないでしょ」


「ふぅん・・・まぁその話はあとで聞くとして、康太君はどう思ってるの?」


上手く話を逸らせたかと思ったが残念ながらそのあたりは文の母親だ。物事の本質を上手くつかんだまま離さない。


せっかくうまいこと話を逸らせたかと思ったのだがどうしても康太がどう思っているかを聞きたいようだった。


「そりゃ文の事はいいやつだと思ってますよ。好きか嫌いかで言えば断然好きな部類に入ります」


「女の子としては?魅力的?」


「そりゃもう。すごく魅力的ですよ」


今まで言ったこともないような言葉をどんどん出している康太に文は恥ずかしそうに額に手を当てながら大きくため息をついている。


康太の言葉が自分の母親に言わされているものだということに気付いていてもこういう言葉を聞くのは恥ずかしいものなのだ。


「・・・ふぅん・・・反応を見る限り魅力的ではあるけど恋愛感情は持ってないって感じなのかしら?」


「まぁ・・・ぶっちゃけると・・・文はなんていうか高嶺の花って感じが強すぎてどうにも対等に見ることが難しいんですよね」


「・・・あんたそれって私達の同盟も対等に見てないってこと?」


「いや魔術師としては対等に見てるよ・・・実力的な話は置いておいて・・・問題なのはお前を女としてみた時だって。顔よしスタイルよし若干強気だけど気立てよし、そう言う相手を見て自分が釣り合うとか思うか?お前で言えば高身長高収入のイケメンと対峙してるようなもんだ」


「・・・恋愛に高収入とか関係なくない?本人が好きならそれでいいじゃないの」


「いやまぁそうなんだけどさ・・・なんて言うか条件っていうか・・・スペック的にさ・・・お前は自信もって言えるかもしれないけど俺はそこまでイケメンでも高身長でもないしさ・・・」


自分を客観的に見た時に相手と釣り合っているか否か。一般的な考えの持ち主であればそう言ったことを考えるのはおかしいことではない。


もっともそういうことを無視して相手のことを好きになることができる人間がいるのもまた確かである。


文の場合は後者で康太の場合は前者なのだ。


魔術師として対等に見ていても男女の関係を鑑みた時に対等であるとはとても思えなかった。


少なくともこれだけの美人と付き合えるとは康太も思っていない。半ばあきらめているという事もあってかこういうことを口に出すのも特に問題はなかった。


もっとも文の場合は最初の戦闘の時の衝撃が強すぎて出会って半年経った今でも女性としてみるのが難しくなっているというのがある。


「なるほど・・・確かにうちの娘は身内びいきにしてもきれいだとは思うけれど、それは康太君の気持ちとはまた別問題じゃない?やっぱりこういう事ははっきりとさせておいた方がいいと思うわ」


「母さんいい加減にして。康太を公開処刑にでもしたいわけ?そろそろやめないと私も本気で怒るわよ」


これ以上は康太が気の毒だと思ったのか文のストップによりこの話題は強制終了されることになった。


気を回してくれて有難い限りである。これ以上追い込まれると康太もどう逃げていいかわからなくなっていたところなのだ。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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