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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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文の答え

康太は自分が話したのならそれは信頼の証だと言っていた。それは一個人としてもそうだし魔術師としても信頼できるという確証があった場合に限られる。


自分に対しての両親は確かに信頼できる。人としても魔術師としても。それだけの歳月を過ごしてきたしなおかつ自分自身そうであってほしいと願っている。

だが康太にとっての両親はどうだろうか。


康太は自分を信頼してくれている。自分が無配慮な信頼などせず客観的な判断の下思考し行動に移すことを理解してくれているのだ。


だからこそ康太は自分では話さない。自分自身は文の両親をそこまで信頼していないが故だ。


これは彼自身が文の両親のことをほとんど知らないからという事もあるのだろう。知らない人間が判断するよりもよく知っている人間が判断するべきだと考えているのだ。


これもまた間違った判断とは言い難い。もし文が同じ立場だったらやはり同じような采配をしたかもしれないからである。


だが実際にこういう場面に出くわして、文は思考を巡らせて今さらながらに気付いてしまった。


自分は両親のことをどれだけ知っているか、そしてどれだけ知らないかという事を。


普段の生活において、性格面に関しては恐らくそれなりに、少なくとも他人よりはよく知っていると思う。だが一人の人間として、そして魔術師としてどれだけ知っているかと聞かれると正直微妙なところなのだ。


赤の他人としてどれだけ両親のことを知ることができているか。若干矛盾が生じている言い回しだが、血縁や今までの親子関係を全く無視して目の前にいる一人の男性をどのように判断すればいいのか。


そこまで考えたところ、文は結論を出す。


「・・・ごめん父さん。こいつの魔術については話せない」


文が出した結論は黙秘だった。その結論に至ったのは康太と文、そして文の両親の関係性が原因だった。


「・・・それは私が信用ならないという事かな?」


「正直それもある。私は魔術師としての父さんを良く知らない。何より康太が話さないって決めたのにはそれなりに訳があると思うの。私自身父さんたちには話さない方がいいと思ってる」


話さない方がいいと思っている。文にしては珍しく主観的なものの言い方だった。


こういう場合文はよく客観的な意見を出す。そこに主観性はなく客観的なデータや情報をもとに言葉を作っていく。


だがこの場で彼女はいいと思うという随分と抽象的な言い方をしていた。これは若干ながら珍しいことだった。


だが文が感じている両親への不信感というのもまた事実だ。


なにせ文は本当に自分の両親がどのような魔術師としての活動をしているのかを深く知らないのだ。


大まかにどのようなことをしたとかは人づてに聞くことはできる。だが何を思って何を感じてどのように行動したのか詳細はほとんど知らないのだ。


文は一般人としての両親はよく知っている。だが魔術師としての両親の事はよくわからないのだ。


だからこそ話さない方が安全だろうと判断したのである。


「・・・彼は信頼できないから、と言っていたが?そうではないのかな?」


「信頼っていう言葉だけで片付けられるものだけじゃないと思う。付き合いの長さとかだけで測れるものでもないし・・・それに・・・」


「・・・それに?」


言葉を切って文は一瞬康太の方を見る。康太は相変わらず文の父の方に目を向けている。睨んでいるとまではいかないまでも真っ直ぐに注がれるその目は明らかに警戒している瞳だった。


「こいつの不利益になる可能性がある以上、私はそれを口にすることはできない。私はこいつの相方だから」


文は自分の父と母、そして康太がどちらがより信頼できるかを秤にかけた。

結果康太の方が信頼できると感じたのだ。


これがただの親子関係であったのなら間違いなく天秤の秤は康太を持ち上げただろう。だがこの親子の関係はただの家族関係というだけではなく魔術師同士というある意味家族よりも深く面倒なしがらみが作られているのだ。


「ふふふ・・・娘からはあまり良く思われていないようね」


「まったく残念だ。まさか今年からの付き合いの同級生に信頼度で負けるとは・・・」


「・・・まぁ魔術師としては康太と一緒に行動した時間の方が長いし・・・父さん達よりは康太の方が信頼できるわ」


いろんな意味でねと言いながら文は小さくため息を吐く。


康太のことを信頼している。それは文が決めたことだ。康太が文を信頼しているように文は康太を信頼している。


なんというか康太は背中を預けても問題ないと思えるような人間で、一生懸命に何かができる人間なのだ。だからこそ文は康太を信じている。


対して両親はどこか胡散臭い。もちろん人間としては尊敬しているが魔術師としてはどこか後ろめたさが拭えない。


二人の実力が高いことを理解しているからこそそう思うのかもしれない。二人の実態を知らないからこそそう思うのかもしれない。


ただの魔術師としての関係になった時、あまり知らない相手に自分の懐ともいえる魔術の内容を教えるバカはいない。それが同盟相手のそれなら慎重になって当然だ。


「わかった・・・こちらから無理に問いただすのはやめよう。娘がこれだけ言っているんだ。私もこれ以上は口を出すまい」


「そうしてくれるとこっちとしても助かるわ。何より康太の方もこの魔術に関しては軽々しく口にしたくないみたいだしね」


文はそう言いながら康太の方を見ていた。先程まではなっていた敵意や殺意はだいぶ治まっている。目の前の男が自分の魔術を暴こうとしているという認識を変えつつあるのだろう。


今までの康太は絶対にこういう反応をしなかっただろう。自分の魔術を教えろと言われたら少しためらいながらも教えるくらいの事はしたはずだ。


それが敵になる相手にだったら教えなかったかもしれないが文の両親という事なら教えるのもそこまで強く拒絶はしなかっただろう。


だがこの反応、ただ康太がこの魔術に深く思い入れがあるからというただそれだけが理由とは思えなかった。


そこで文はふと思い出す、いや思いつき康太の首を掴んで自分の方に引き寄せる。


「ねぇ康太・・・あんた今あいつががどう考えてるとかわかる?」


「あいつって・・・デビットの事か?」


「そう、あいつ今どうしてるの?」


急に両親に背を向けて小声で話しかけてきたため両親には聞かれたくない内容なのだなと察するのは簡単だったが、唐突に康太の中にいるであろうデビットの事を聞かれて康太は目を白黒させていた。


とりあえず文の質問に答えるべく康太は自分の中にいるデビットの感覚を探り出す。


目を閉じて集中すると康太の中にいるデビットの存在を確認することができる。平時の時のそれに比べてややざわついているくらいだろうか。それ以外は特に変化はない。


「今は・・・ちょっとざわざわしてるけどそれ以外は特に何も・・・なんでだ?」


「・・・前に私と精霊の感情の話したの覚えてる?」


「・・・えっと・・・確かあれだろ?精霊の感情に若干引っ張られるってやつ・・・だったっけか?」


「大体合ってるわ・・・さっきのあんたの状態、もしかしたらそれと同じなのかなって思って」


四月にマナを急激に集めようとした魔術師がいた。方陣術に精霊を直接組み込む形で行われたその術は精霊の存在そのものを非常に危険な状態にするものだった。


その為文の中にいた精霊は大いに怒りを覚えた。その結果その精霊たちの感情が文に流れ込み文自身も怒りを覚えた。正確にはそう錯覚しただけなのだが。

今回の康太も同じなのではないかと文は考えているのだ。


ただ魔術の詳細を拒否するだけなら、あそこまで強い敵意と殺意を向ける必要はなかったように思うのだ。


今までの康太だったらうまいこと受け流したり軽く拒否することもできたはずだ。康太自身この魔術に対して真剣になっているというのもあるのだろうが明らかに過剰な反応だったように思えるのだ。


そしてその原因がデビットにあるのではないかと文は睨んだのだ。


「えっと・・・俺がデビットの感情に引っ張られてるかもってことか?」


「確証はないけどね、可能性はあると思う。そもそもそいつに感情があるのかも怪しいところだけど・・・精霊に似た何かならそれを宿してるあんたが影響を受けても何もおかしくないわ」


デビットの存在そのものがどのようなものなのか、はっきりと定義することはできないが『精霊に近しい何か』であるようなことを真理が言っていた。


その言葉が正しいかどうかはさておいて実際にそれを宿している康太に対して何らかの影響があっても何もおかしくない。


実際に康太はデビットの力の片鱗を操ることができている。こちらからだけ干渉できる力などと都合の良いものならばよいのだろうが、恐らくそんなことはあり得ない。


こちらから干渉できているのであれば、同じようにあちらからも干渉できると考えて然るべきである。


今まで深く考えてこなかったがそう言った影響に関しても調べたほうがいいのではないかと文は若干ではあるが康太のことが心配になっていた。


「・・・あんたさ・・・そいつをいれてからなんか影響とかないの?魔力が妙に吸われるとか・・・疲れるとか肩がこるとか・・・そういうの」


「ん・・・とりあえずそう言うのはないかな・・・中に何かいるってのはちょっと妙な感覚だけどそこまで気にするような事でもないし・・・ただ・・・」


「・・・ただ・・・なによ」


康太は言おうかどうしようか迷っていた。


康太は最近毎日悪夢を見ている。それはあの三日間見続けた死につづける経験のほんの一部。そしてその時に体感した人々の想いだ。


『死にたくない』『苦しい』『助けて』


そう言った救済を求める声が延々と聞こえ、同時に苦しみも襲い掛かってくる。

だがその感覚はすべて夢のせいであり気のせいなのだ。康太の魔術師としての起源がそうさせているわけではない。


恐らくあの強烈な三日間を脳が処理しきれずに夢として見せているだけだ。


もしデビットがこれを見せているのであれば少々問題だが、そこまで大変なことでもない。何度か夜に吐いた程度で体調にもそこまで影響はしていない。だから、康太は快活に笑って見せた。


「やっぱ一人の時間がないってのはあれだな、いつも誰かに見られてる感じあるからちょっと落ち着かないくらいだ」


「・・・そう・・・まぁ精霊を入れたばかりの時も似たようなことがあるからね」


康太の言葉を受けて文はそう言いながらため息をついた。康太が何かを隠しているということには気づいていた。康太が言わないのであればこれ以上聞かない方がいいという事なのだ。だから文はそれ以上聞かず一抹の不安を抱えたまま康太の頭を解放していた。


土曜日なので二回分投稿


ちょっと予定があって今日の分は予約投稿です。反応が遅れるかもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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[一言] ネジ飛んでるってこういう事なのか?
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