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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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父親の思惑

「逆に聞くが、どんなことだと思う?君はその魔術をどのように使おうとする?」


「質問に質問で返すのはテストじゃ零点って知りませんか?質問してるのは俺だ。答えてください」


未だ丁寧な言葉を使っているが康太のボルテージはだいぶ上がっている。まるで隣に小百合がいるようだと文は康太の豹変ぶりに驚いていた。


否、それだけ康太にとってこの魔術の事は重要なことなのだ。冗談でも笑い話でも済まされないことなのだ。


余計なことは、少なくとも冗談の一つでもいうんじゃないぞと文は自分の父を軽く睨むと、彼は真っ直ぐと康太を見つめたまま目を細めていた。


「理由は三つ。一つ協会本部は解決したと公表していたが、私は納得していない。故にそれを身に着けている君が疑わしい。二つ、もし仮に君がそれを持っていたとしてもあれだけの被害を出した魔術だ。君がどの程度あれを操れているのか確認しなければならない。三つ、単純に君と同盟を組んでいる文が心配」


「・・・割と真っ当な理由ですね」


「恥ずかしながら、私も昔一度だけだが関わったことがある。あの時はひどい有り様だったがね・・・」


一度関わったことがある。それが封印指定百七十二号の事であり、恐らくは小百合たちが関わったそれと同じ事件であるという事は容易に想像できた。


あの時は被害に遭ったのが山中の小さな村だったという事もあり発見もずいぶんと遅れていた。その為に被害者の数も多く、その症状もだいぶ重いものだったのだとか。


「君と娘の同盟のことに関してこちらから干渉することはない。君が信頼に値する人間であるというのは大まかにではあるが察した。だが君の魔術は別だ。あれが暴走しないとも限らないのに娘を近くに置いておくことはできない」


「俺の師匠がデブリス・クラリスでも、ですか?」


「当然だ。むしろそれとこれとは話が別と言ってもいい。君は近くに医者がいるからと言って傷つけられることもいとわないなどというつもりかな?」


文の父親が言いたいことはわかる。たとえ早急に対処できたとしても『Dの慟哭』の被害を受けることには変わりないのだ。


魔力を吸われるだけが今のところの効果だがそれがいつ変化するかも、また隠された効果があるかもわからないのだ。


そんな状態で娘をその魔術の元凶に近づけるのは父親として憚られたのだろう。


だからこそ魔術師として康太を呼んでおきながらわざわざ家に招き入れたのだ。自分の家のルールと矛盾するかもしれないが、この状況においてはもっとも適切な会話の場所だったのだろう。


康太の人となりの確認と魔術の確認。これを両方やるという意味で機密性にも優れある程度話もしやすい。絶好の場所だったのだ。


「そっちの要求はわかりました。で?俺の魔術を見せろというのであればあなた方は何を俺にくれるんですか?」


「・・・やはり自分の手の内をそう簡単には見せてくれないか」


「当たり前です。信頼できる相手にはみせますがあなたたちはまだ信頼できません」


「文の実の親だとしても?」


「それとこれとは別問題です。文を信じていてもあなたたちに裏切られることは容易に想像できますから・・・何よりあなたは底が知れない」


康太は文の父親をまっすぐ見据えながら眉を顰める。


それはいったい何時頃感じた感覚だろうか。康太が文の父親と話していて不意に感じたのだ。


その感覚は今まで何度か味わったことがある感覚だ。圧倒的強者と対峙している時の感覚。それがどのような意味を持っているのかわからないほど康太はバカではない。


文の親という時点で優秀であるのはわかりきっていた。


恐らく今まで出会った魔術師の中でもかなり上位に入る実力を有していると考えていいだろう。


だが今問題なのは優秀であるか否かではなく信頼できるか否かなのだ。


むしろ相手が優秀であるという事は康太の警戒レベルを引き上げることにもつながっていた。


これだけの相手に対して警戒し慎重になるのは致し方のないことである。


「既に文にはみせたんですから、こいつから聞けばいいでしょう?それだけの情報は与えてます」


「・・・ほう?娘から伝わった情報なら知っても構わないと?」


「文が話すと決めて話したのなら、それは文が信頼したという事でもありますから。文は自分の親だからって理由だけで簡単に情報を話すようなことはないと思ってます。ある程度根拠がある時しか話しはしないでしょう」


ただ康太の経歴を話すのとはまたレベルが違う。康太が今有している魔術の重要性は文も理解しているのだ。


魔術協会に封印指定されるほどに危険な魔術。その詳細を聞こうとしているのだからある程度信頼できる相手にのみ話しておきたいというのは理解できる。


それではと話を一度区切って文の父親は実の娘である文に視線を向けた。


「文、君の口から教えてくれるかな?彼の持つ封印指定の魔術の詳細を」


その言葉を受けて文は一瞬口を開きかけるが、康太のあの姿を見ている文は一瞬迷うような表情をしてから口をつぐむ。


苦しみ悶え、そして多くの被害者を出したあの魔術。康太の使えるのがその片鱗だという事実を父親に、そして近くにいる母親に教えていいものか。

文はまず自分の中で考えることにした。


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