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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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招いた理由

「・・・子供のころから魔術師ってのも考え物だな・・・そう言うことも考えなきゃいけないなんて」


「察しが早くて何よりだ。魔術師である自分と一般人である自分を区別するためには一番手っ取り早い対応だと思ってくれればいい。もうその必要はないかもしれないが・・・慣れてしまったものを今さら変えるというのも・・・な」


康太はここまで来て文の父親が言わんとしていることを理解し納得していた。


康太と違い文は幼いころから魔術師だった。幼いころから当たり前のように普通ではない状態だったのだ。


だが現代社会により容易になじむためには『普通』であることが望ましい。その為文の両親は家の中では普通に接し、特別な時のみ『魔術師』であるように教育したのだ。


自分が魔術師である以前にただの人間であるための教育。文にとって最初はなぜそのようなことをするのか理解できなかっただろう。だがこの教育は絶対と言って良い程に必要なものだったのだ。


そして長い間その生活を続けていたために今さらその環境を変えるまでもない。というより変えられるほど短い時間ではなかったのだ。


もうこれがこの家の当たり前になってしまっていて、もう変えようにも変えられない。変えたところでまたすぐに戻ってしまうだろう。


十年以上続けた習慣というのはそう言うものだ。結局最終的には慣れている方を優先してしまうのである。


「まぁそう言う事もあって君の事は大まかにしか聞いていない。娘も自分の交友関係というものは話したがらなくてね」


「当たり前でしょ・・・恥ずかしいもの」


「困った娘だ・・・私に話すことの何が恥ずかしいというのか」


「これが普通なの。むしろこういう風に普通に話してることの方が少数じゃないの?世の高校生の親としては」


康太は男だからあまりイメージできないが、女子というのは良くも悪くも男性に対していろいろ思うところがあるのだ。特にそれが思春期になってくるとその傾向は加速度的に増加する。


文も一応は思春期の女子高生。いくら魔術師であるとはいえ自分の父親に対して何も思わないわけではないのだ。


「そう言えばうちの姉貴も一時期反発してたな・・・『一緒の洗濯機で洗わないで』とか言ってた気がする」


「あぁやはりそう言うのはどこの家でもそうなのか・・・前に言われたときはなかなかに傷ついた・・・」


「やっぱ言ってたのか・・・文、そう言うのは言われる側は傷つくもんだぞ?言うんだとしてももうちょっとオブラートに包んでだな・・・」


「そんなもの仕方ないじゃないの。いい加減子離れしなさいっての」


「ふふ・・・ほらあなた、そう肩を落とさないで。この子もあなたのことを本当に嫌っているわけではないわよ?」


「ん・・・あぁ・・・わかってはいるんだがな・・・」


父親としては娘に毛嫌いされるというのは傷つくものだ。どうやらそれはどこの家でも共通であるらしい。


なんと言うか世のお父さんたちはもう少し報われてもいいのではないかと思える。


「そう言えばあんたってお姉さんいたんだっけ?真理さんじゃなくてでしょ?」


「あぁ、姉さんじゃなくて姉貴のほうな。実の姉はいろいろ酷いぞ?大学生で年末年始しか帰ってこないけど」


康太の姉は今大学に通うために一人暮らししている。実家のことを毛嫌いしているわけではないのだがよほど一人暮らしが快適なのだろう、夏休みになってもほとんど帰ってくることはない。


康太としてはその方がありがたいのだがもう少し両親に顔を見せてやってもいいのではないかと思えてならない。


「ちなみにどんな人?写真とかあるの?」


「姉貴の写真なんて撮るかよ・・・どんなって・・・まぁいろいろと酷いな。師匠とは別の意味で理不尽だ」


「ふぅん・・・まぁこの弟にしてその姉ありか・・・ある意味けっこう似た者同士なんじゃないの?」


「冗談言うなよ。こんなに常識的な人間とあんな理不尽な人間を一緒にするだなんてなんて風評被害だ。全く信じられない」


「とりあえずあんたは常識って言葉を辞書で調べておきなさい。少なくともあんたは常識的ではないと思うわ」


本人の自覚があるかどうかは定かではないが少なくとも康太はすでに一般的な人間とは異なる場所にいる。


その為彼自身がもつ常識というものも徐々にではあるが改変されつつある。

もちろん良い意味ではなく悪い意味で。


小百合の影響かそれとも今まで関わってきた事件の影響か、康太は徐々にではあるが攻撃的に、なおかつ過激な性格へと変わってきている。


いや性格というよりは考え方が変わってきているというべきだろうか。どちらにせよ康太は昔の康太とは違う存在になっているのだ。


「でも私も兄弟欲しかったな・・・いるならお兄ちゃんか弟が欲しかったわね」


「そっか、文は一人っ子か・・・うん、まぁ欲しいと思うのは自由だからな」


「なによその反応」


いたらいたでいなくなればいいのにとか考えるものだよと付け足しながら康太は夕食に箸を伸ばし続けていた。より物騒な方向へと変わっている康太の言葉に何やら重みを感じながら文はため息をついていた。


「そういや忘れてた・・・お二人は何で俺を呼んだんです?今日俺を呼んだのは何が目的だったんですか?」


夕食を食べ終わり、食後の茶を飲んでいるところで康太は思い出したかのようにそう聞いた。


何も夕食をごちそうするためだけに家に呼んだわけではない。文はあまり聞いていなかったようだが康太としては聞いておかなければならないことだった。


普通に文の友人として、同級生として招いたのであればそれはそれで問題はないが文は康太を『ブライトビー』として呼んだのだ。ただ世間話をするためだけに呼んだわけではないだろうという事は容易に想像できた。


「うむ・・・それでは本題に入ろうと思う。実は君に見せてほしいものがあってね、この家に招いたんだ」


「・・・見せてほしいもの?」


「単刀直入に言えば・・・『封印指定百七十二号』を見せてほしい」


その言葉に康太だけではなく文も目を見開いた。その言葉の意味を深く理解しているが故の反応である。


そしてその言葉の意味を、重さをこの世の誰よりも理解している康太は目を細めながら文の父親に対する視線を今までの穏やかなものとは一変させていた。


それは魔術師としての目だ。目の前の男が敵か否かを値踏みするだけの温度のない瞳。そして返答次第ではすぐにこの場を去ることになるだろうという事を理解したうえでの冷たい視線だ。


「・・・一応聞いておきますが・・・何故俺にそんなことを?」


「ちょっと小耳に挟んでね。君が封印指定百七十二号をその身に宿したと。一応この情報は秘匿されているようで調べても詳細は明かされはしなかったが・・・君があの魔術の件で協会本部に直接評価されたことを鑑みれば間違いはないだろうと思ってね」


「そう言う事を聞いてるんじゃありません。なぜあれを見たいなどと?」


この言葉に対する返答がどのようなものであるか、それによって今後の康太の対応が変わると言っても過言ではない。


先程までの夕食時ののどかな雰囲気とは一変し、康太は僅かに殺気さえも放ち始めている。


あの魔術を見たい。それがどういう意味を持っているのか文だってわかる。


ただの好奇心で見たいなどと言えるほどあの魔術が軽々しいものではないという事は彼女も分かる。


何故なら彼女は康太から、あの時康太が苦しんでいる間になにを見ていたのか口頭ではあるが聞いているのだ。


あの魔術によって死んだ者たちの死の間際の感覚。


二万人近い人間の死を体感した康太にとって、この魔術を見たいなどという好奇心を許容できるはずもない。


それは言ってみれば死者を冒涜しているようなものだ。特に康太の場合はそれを疑似的とはいえ実体験で感じ取った。


ただの好奇心で見たいというだけでも許容できないのに、その魔術を見ることによって何かを企んでいるというのであればもはや戦闘も辞さない。そう言うつもりでいるのだ。


「・・・父さん、さすがにそれは」


「文、私が話すべきことだ。お前は少し黙っていなさい」


父親のそのように言われたことで文としてはそれ以上を口をはさむことができなくなってしまっていた。


なにせ文はこの場に康太を招いただけ。その招いた理由も目的も両親だけが知っているのだ。


いわば文は今回の仲介役にはなったが当事者にはなっていない。本人同士の会話に口をはさむことができないのだ。


康太はじっと文の父親の目を見ている。その瞳は全くぶれていない。文はそんな康太のことを心配そうに眺めていた。


この件に関してはいまさら冗談だと言われても笑いごとにできない。康太はその重さを十分以上に、いや十分すぎる程に理解している。


自分が宿しているこの魔術は、デビットはあれに関わったことのない人間にそう易々と誰かに見せることができるようなものでもなければ見世物にできるわけでもない。


本当に信頼できる人間にならみせても構わないが、生憎と康太は文の両親を信頼してはいなかった。


文をここまで育て上げたという意味ではある意味真っ当な人間なのかもしれないが、康太自身が信頼するか否かはまた別問題だ。


「魔術師としては当然の反応だと思うがね。発見されてから数百年誰も解決できなかった『生きた魔術』その全容と本質を知りたいと思うのは」


「知ってどうするんです?あなたは、あなたたちは何を目的にこれを見たいと?」


康太は自らの体を指さしてさらに眼光を鋭くする。


まるで刃物のような視線だなと文の両親は思いながらどう反応したものかと若干言葉を詰まらせていた。


康太は本気だ。その気になれば次の瞬間に文の両親めがけて攻撃が飛んできても何ら不思議はない。


文もそのことを理解しているのだろう、何時でも魔術を発動できるように集中を高めていた。


言葉による解決ができるかどうか、康太が納得できる回答が出るか否か。それは次の文の父親の言葉にかかっていると見ていい。


まさかこんなことになるとは。文はいまさらながら康太をこの場に連れてきたことに後悔していた。連れてくるんじゃなかったと心の底から思っている。いくら身内とはいえ相手は魔術師なのだ。康太の立場を考えてもっと行動するべきだったと反省していた。


ブックマーク件数が1200件突破したのでお祝いで二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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