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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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鐘子家の食卓

「うわ!すごい美味しいですねこれ!味噌汁も出汁がきいててうまいし煮物もうまい・・・!文、お前毎日こんないいもの食べてるのか」


「あら嬉しいこと言ってくれるわね。お代わりいかが?」


「いただきます!」


「・・・あんたもうちょっと遠慮したらどうなの?」


「安心しろ、三杯目からはそっと出す」


「そう言う事じゃなくて・・・」


他人の家だというのにこの堂々とした立ち振る舞い。やはり康太は小百合の弟子だなと思い知りながら文はため息を吐く。


見ているこっちのほうが恥ずかしくなってくる光景だ。自分の両親と何の問題もなく話しているというのは娘としては若干気恥ずかしくもある。


「娘はなかなか誰かと打ち解けるという事がなくてなぁ・・・魔術師だからというのもあるんだろうが・・・いや君がいてくれてよかった」


「そうなんですか?結構部活の奴とかクラスの奴とかとは仲良くしてるっぽいですよ?」


「無論ある程度は仲良くするさ。だが自分の懐に入れることがないのだよ。こればかりは仕方がないと思っていたが・・・」


「あー・・・やっぱり子供のころから魔術師だとそう言うのもあるのかもしれませんね・・・」


「そう言えば君は割と最近魔術師になったのだったかな?」


「はい、今年の二月からです。まぁいろいろとありまして」


「そんなことまで話さなくていいわよ・・・あんたもうちょっと隠そうとかしないわけ?」


「どうせお前が話してるだろ?今さら隠すような事でもないし」


雑談交じりに自分の魔術師歴の薄さを暴露する康太の暴挙に文は頭痛さえしてくるが文の両親はそんな康太を割と好意的に見ているようだった。


それだけ文を信頼しているという証ではある。だが同時にやや軽率な感はあるが、それもまた康太の度量の一つだった。


仮にこの場でそれをばらし、何か面倒を突き付けられても対応する。それだけの考えを康太は持っている。


考えというよりは覚悟といったほうがいいだろうか。一見普通に接しているし美味しく食事を食べているがいつでも対応できるように最低限の警戒を文の両親に向けているのを文の両親は感じ取っていた。


要するにこういうことだ。文は信頼してるし頼りにしているが、あなたたちはまだ自分の信頼を勝ち取っているわけではないと。


一見軽率なように振る舞いながらも自分の置かれている立場を忘れていない。最低限するべきことはしながら文の立場を考えなるべく仲良くしようと試みている。


しかも魔術師として、なおかつ一個人として。


なるほどなかなかの曲者だと文の父は僅かに笑みを浮かべていた。


「君は何というか大胆不敵な男だね。さすがはあのデブリス・クラリスの弟子というべきだろうか?」


「師匠のことを引き合いに出されるとちょっと複雑ですけど・・・まぁそれなりに修羅場はくぐってますので・・・まだまだ未熟者ではありますが」


康太は確かに普通の魔術師ではできないような経験をしている。そう言う意味では他の魔術師よりも優れているかもしれないが生憎と康太は優秀とは言い難い。


まだ荒削りなところは多いし改善点も多い。その為自分のことを過大評価するなどという事は何を間違ってもできるはずがなかった。


「その君にうちの娘は負けたんだ。あまり自分のことを卑下するのはやめた方がいい。過度な謙遜は侮辱にもなりえる」


「そうでしょうか?まともな魔術師戦をすれば十回中十回文が勝ちますよ。俺がこいつに勝ったのはまともに戦おうとしなかっただけで」


「・・・まとも・・・とは魔術師らしく戦わないという事かな?」


「はい・・・っていうか文から詳細聞いてないんですか?」


「家では基本的に普通の家族として接しているからね。魔術師としての会話はほとんどと言っていいほどない。我が家の特徴だと思ってくれ。今は君がいるから特別だがね」


我が家の特徴と言われても康太は若干納得がいかなかった。もちろん普通の家族として接するのが悪いというわけではない。


だが日常的に魔術師として接すれば文も多くのことを学べるのではないかと思うのだ。


「・・・納得できていないという表情だね」


「えぇまぁ・・・毎日とは言わなくても普通に魔術の話をするくらいいいんじゃないですか?その方がいろいろ話せますし」


「ふむ・・・間違いではないが・・・常日頃魔術師でいるというのは良いこともあるが悪いこともある。特に一般人として生きる上ではね」


「・・・魔術師になりすぎるってことですか?」


魔術師になりすぎる。康太の言葉の意味がどのような意味を持っているのかその場の全員が理解していた。


この現代社会に紛れるためには多くの場所で一般人でいなければいけない。無論魔術師的な思考をしてもいいが魔術師としての行動はご法度だ。


常日頃、特に一番息を抜くような我が家の中でも魔術師として行動すると一般人としての境目が非常にあいまいになってしまう。


その為家の中では一般人として普通の家族を演じ、特殊な事情の時のみ魔術師になる。こうしたほうが一般人と魔術師のスイッチを作りやすいのだ。今でこそ大人として分別がつくが子供の時代からこういう事を徹底しておくことは将来役に立つことでもある。文の場合子供のころからそれを続け習慣となっているというだけなのかもしれない。


幸いにしてそれは良い方向に作用している。少なくとも日常生活において文は魔術師と一般人のスイッチを完全にコントロールできているのだから。


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