会ってほしい人
「あ、そうだ康太、あんた今日の夜暇?」
「ん?とりあえず魔術師としての活動はないけど・・・それがどうかしたか?」
夜の予定を聞かれて康太は最近の小百合たちとの会話を思い出す。特にこれと言って魔術師として活動することはなかったように記憶していた。
魔術師は基本的に夜に動く。夏休みといえどそのことに変わりはない。
文に誘われるという事が一体どういうことか想像はできなかったが普段はないような事だ。きっと多少面倒なことに変わりはないだろう。
「それで?今度は誰を倒せばいいんだ?」
「なんで喧嘩腰なのよ・・・そうじゃなくて、ちょっとあってほしい人がいるのよ」
「あってほしい人?」
「うん・・・なんて言うか・・・その・・・まぁぶっちゃけるとうちの親なんだけどさ・・・」
「・・・え?なに?俺お前と結婚でもするの?」
するわけないでしょバカと文があきれ顔で即答するのを聞きながら康太はこの状況を理解しかねていた。
文の両親が魔術師であるというのは康太もすでに知っている。だがその親が何故康太に今さら会おうとしているのか。
康太が文の同盟相手だというのは相手も知っているところだと思うが、このタイミングで会いたいというのは少々疑問が残る。
きっかけと言えばこの前の封印指定の関係かも知れないがそれにしたって何故会いたいなどと考えるのか。
今この場で康太のことを危険か否かを測ろうとしているのだろうかと康太は眉を顰めながら悩み始める。
「それで?前にもそんな事言ってた気がするけどなんで?同盟相手に不安でもあったか?」
「ん・・・そのあたり私もあまり聞かされてないからちょっと微妙なんだけどさ・・・たぶんあんたが協会内で有名になり始めてきたじゃない?それ関係だと思うのよね・・・」
「・・・要するに俺がどんな奴か見てみたいってことか?」
「たぶんね。それが私との同盟に関わる話なのか、それともただ単に好奇心なのかは分からないけど」
文の親といえど一人の人間であり魔術師だ。好奇心に打ち勝てるほどの強じんな心は持ち合わせていないのか、それとも持ち合わせていてなお文との関係性を正そうとしているのか。
もっとも関係性を正すと言っても康太と文はただの同盟関係であってそれ以上でもそれ以下でもないのだが。
「心象をよくしておいた方が後々干渉は少なく済みそうだな・・・菓子折りでも持っていくか?」
「なんでちょっと気合入れてるのよ・・・そこまでしなくていいわ。同級生が来るのにそこまで警戒する親もいないでしょうに」
「同級生だって魔術師だろ?っていうかお前んちの親って普通に仕事してんだよな?」
「そうよ?だから夜の方が都合がいいのよ。あんたにはちょっと申し訳ないけどね」
夜に予定を空けさせるというのは文としても多少迷惑かもしれないと思わなくもないのだ。
夏休みとはいえ夜中に高校生が外に出歩くことにいい印象を持つものはいないだろう。康太たちの場合は少々特殊な事情かも知れないが。
「だから夕飯はうちで食べていきなさい。うちの親もたぶん文句は言わないと思うし、いろいろ聞きたいこともあるだろうからさ」
「それは構わないけど・・・なんか妙に緊張するな・・・お前の両親って想像できないんだけど・・・」
「普通の親よ?そこまで変なところはないと思うし・・・まぁ魔術師だけど」
普通の定義についてやや議論したくなる発言だが、文にとっては親が魔術師というのは当たり前の事なのだろう。
康太の親は魔術師とか精霊術師ではないためにそう言った感性は持ち合わせてはいないがこれが魔術師にとっての普通なのだ。
そう考えると一般人と魔術師がどれだけ離れた場所にいるかがよくわかる。
「一応聞いておくけど会った瞬間に攻撃されたりとか食事に毒盛られたりとかそう言う事はないよな?」
「人の親をなんだと思ってるのよ。ちょっと警戒するのはわかるけどそのあたりは安心しなさい。もしそうなったら守ってあげるから」
「それは心強い・・・でもお前って親より強いのか?」
「・・・どうだろう・・・そのあたりはちょっと自信ないわ」
文もだいぶ強くなったという自覚はあるが、それでも両親に勝てるかと聞かれると微妙なところだった。
両親は自分と同じかそれ以上に優秀な魔術師だ。しかも自分と違って長く経験を積んでいる。
そんな相手と戦って勝てるかと聞かれると微妙なところである。
だが康太が一緒なら話は別だ。勝つことは難しくても撤退することくらいはできるだろうとにらんでいた。
実際親との戦闘がないかと聞かれると絶対にないとは言い切れなかった。
自分に対してはないかもしれないが親が康太を敵に回すという事はあり得なくもない話なのだ。
少なくとも可能性がゼロということは決してない。もしそうなったら自分は康太の味方をするべきだろうと文は意気込んでいた。
康太がどれだけ危険な存在になろうと、どれだけ有名になろうと自分は康太の同盟相手なのだ。簡単に見捨てたり切り捨てられるほど康太は小さな存在ではないのである。




