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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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性能チェック

康太がコンビニに行く感覚で何の感動もなくイギリスに向かい封印指定百七十二号を事実上の解決に導いてから数日、康太は連日連夜続く悪夢に悩まされていた。


それらはすべて先日見たあの光景に似通っていたが、その光景を見ているだけで康太は吐き気を催していた。


せっかく夜は休める貴重な時間だというのにその時間さえも苦痛に晒されることで康太は精神的にだいぶ疲労していた。


その結果数キロやせてしまったのは言うまでもない。食事に関しては問題ないのだが精神的な負担と時折吐いてしまっているためにもともとやせ形だった体はさらに痩せてきてしまっている。


日々の訓練のおかげで筋肉は維持できているのだが、どうにも体調がすぐれない。こんな状態が続いているのが良いはずもなく、家族にすら心配される始末である。


「・・・さすがにひどい有り様だな・・・」


「・・・まぁ・・・だいぶ慣れてきましたけどね・・・」


康太の顔色を見た小百合は特に気にした様子もなく訓練を始めようとしている。弟子がこれほどまでに苦しんでいるというのに師匠である小百合は全く心配してくれない。


「康太君、さすがに無理しなくていいんですよ?あれからまだ一週間くらいしか経ってないんですから・・・」


「いえ・・・でもこれだけはちゃんとやっておかないといけないですから・・・」


「・・・でも・・・」


心配してくれているのは兄弟子である真理だけだ。きっとこの場に奏がいたら小百合と同じように訓練を始めようとするだろう。


だがそれはいいのだ。別にそんなことはもう諦めている。今重要なのは康太の中に宿ったデビットと『Dの慟哭』の性能を正確に把握することだ。


「さて・・・では始めるか・・・まずは発動してみせろ?できるんだろう?」


「まぁ・・・それくらいなら・・・」


康太は今まで魔術を使っていた感覚とは全く別の方法で魔術を発動させた。

それはどちらかというと会話に近い。いや呼び出したと言ったほうがいいだろうか。


デビットの名を呼び、集中を高めていくと康太の体の中から黒い瘴気が湧きだしてくる。その瘴気は徐々に人の体の形を成していき、康太のやや後ろに位置した。


「ふむ・・・ではそれを私か真理に使ってみろ。遠慮はいらん」


「・・・わかりました!じゃあ日ごろの恨みも兼ねて師匠に!」


「・・・私はお前にそこまでひどいことをしたか?」


小百合の質問に答えることもなく康太はDの慟哭を発動する。すると黒い瘴気が小百合の下に向かって飛んでいき、その体の中に入っていく。


小百合の体の中に術式が入り込むと、彼女の魔力は徐々に吸い取られつつあった。そしてその代わりに魔力が康太の中に満ちていく。


「なるほど・・・魔力を吸われているな・・・反応はどうだ?」


「こっちに魔力が流れて来てます・・・うぷ・・・ちょっと出さないと吐きそう・・・!」


魔力が送られてくる瞬間、康太の許容量が限界に達し僅かに吐き気を催すが康太は即座に魔力を放出して事なきを得る。


他者の魔力を奪う。それがこの魔術の効果であることはすでに解明されている。問題はその性能とどれだけの精度を持っているかという点だ。


「ではこの状態のまま真理にかけてみろ。どう反応するか見たい」


「えー・・・姉さんには恨みないからやりたくないんですけど・・・」


「つべこべ言わずにやれ」


小百合の言葉に康太は不貞腐れながら、そして真理に謝罪しながら兄弟子である彼女に同じように黒い瘴気を向かわせる。


そして術式が彼女の中に入り込みその効果を発揮させると小百合の眉がわずかに動く。


「ん・・・?吸い取られる魔力の量が若干減ったな」


「え?そうなんですか?入ってくる量的には変わってませんけど・・・」


「・・・吸い取れる量に限界があるんじゃないですか?確か康太君が自分の意志で操れるのはこの魔術の一部みたいなことを言ってましたけど・・・」


「あー・・・そうかもしれないですね・・・こいつが乗り気になってくれないとたぶん全力は出せないかと・・・」


康太が今扱っているのはいうなれば『Dの慟哭』の劣化版のようなものだ。


康太が宿主としてその体を提供している代わりに康太自身が扱える力の片鱗とでも言えばいいだろうか。康太自身が扱う力としてはごくわずかなものだ。


「ふむ・・・だがお前の魔力の供給を助けるという意味ではなかなかに有用な魔術だな・・・次は距離を確認するか・・・どの程度まで吸い取れるのか・・・」


「じゃあ徐々に離れていきましょうか。あ、私ついでにコンビニ行ってきます。何か欲しいものはありますか?」


「あ、じゃあ俺チョコミントのアイスで」


「雪見大福」


「わかりました。それじゃ行ってきますね」


実験と称し、同時に買い物もしてくるという真理を見送りながら康太はため息を吐く。


未だ世間は夏休み。だというのに康太が抱えた負担は思ったよりずっと大きい。

今まで他人と一緒に暮らしたことさえないのにいつの間にか同じ体に自分以外の存在を許容しているのだ。


言ってしまえば激しく違和感がある。もどかしさと言えばいいか、それとも歯がゆさと言えばいいか。自分が自分じゃなくなっていくのを見ているしかできないような独特の感覚だ。


幸いなのは他の魔術を扱ったりすることに関しては何の影響もないということくらいだろうか。








「ふむ・・・なかなかいい数値が出たな」


結果的に康太が使える『Dの慟哭』の性能としてはそこまで悪いものとは言えないものだった。


射程距離約百メートル。吸い取れる魔力の量は十段階評価で二。複数人にかけることもできるがその分一個体から奪える魔力の量は減る。


魔力を吸い取ることができるという事を加味すれば、言い換えてしまえば康太の魔力供給の素質が二段階向上したのと同じである。


これは康太にとってかなり良い効果であると言えるだろう。


今までの倍の速さで魔力を補充することができると考えればかなりどころか相当なレベルアップだ。


もっとも二倍になっても文のそれに比べると足元にも及ばないわけだが。


「お前が使えるだけでこの量か・・・という事はそいつが本気になったらそれ以上の量を期待できるという事か?」


「たぶん・・・まだ試してないので何とも言えませんけど・・・」


「ていうか康太君はそれをどうやって操ってるんです?ただ魔術を操るのとは違うのでしょう?」


「はい・・・なんて言うか・・・こう・・・もわっとしたのを動かすイメージで・・・」


「・・・ごめんなさい、もう少し具体的にお願いします」


抽象的過ぎる表現にさすがの真理も理解が追いつかなかったのだろう。複雑そうな表情をしながら項垂れてしまっている。


だが実際康太もそれ以上の表現のしようがなかったのだ。なにせデビットの残滓が体の中に宿った瞬間に、その動かし方を頭が瞬時に理解してしまった。


教えられたとか覚えさせられたとかではなく情報が頭の中に直接流れ込んできたようなそんな感じなのだ。


実際その通りに動いてくれているから練習のしようもない。普通の魔術の訓練もこのくらい簡単に済んでくれればどれ程楽だっただろうかと思いながら康太は眉を顰める。


「まぁ自分の思い通りに動かせているなら何よりだ。魔術師戦においてはだいぶ楽になるだろうな。なにせ相手の魔力を奪いながら魔力回復もできるんだから」


「まぁ・・・そうですね。確かにかなり楽になるかもです」


小百合のいうように康太が入手したこの『Dの慟哭』はかなり強力な魔術だ。

なにせ相手の魔力を直接奪い自分のものにすることができるのだから。


今までのような短期決戦だけではなく多少なりとも長期戦ができるようになるかもしれない。


もっともそれも微々たる変化ではあるし、相手がいなければどうしようもないのだが。


「これからお前の戦いにおいて必須の術になるだろうが・・・もう一ついい魔術を教えておこう。これは覚えておいて損はない」


「そうなんですか?ちなみにどんな魔術です?」


「そうだな・・・どんどん威力が上がっていく魔術だ。まぁ過ごし方にもよるだろうが、私が使った場合基本的に大抵の人間なら一撃で気絶させられるだろう」


「おぉ!気絶って辺りが師匠なりの優しさがありますね。今まで物騒なのばっかりでしたからね」


「そうか?最悪廃人になるがそれでも優しいか?」


「前言撤回します。割とえげつない魔術ですね」


康太は今まで基本的に攻撃系統の魔術ばかりだったためにもう少しまともな魔術を覚えさせてほしいと思ったのだが、やはりというかなんというか、今回も小百合から教わるのは攻撃魔術だった。


これ以上攻撃面を強化しても仕方がないと思うのだが、攻撃は最大の防御という言葉があるように確かに攻撃は大切だ。


少なくとも現段階においては攻撃しかできることがないためにそれを突き詰めるしかないだろう。


今さら補助の魔術を覚えたところで焼け石に水。文たちのように大々的な結界魔術などを覚えられるようになるまで一体どれだけの時間がかかるやら。


だがもう少しで暗示の魔術は自分のものにできる。康太はそう確信していた。


少なくとも現段階での成功率はすでに九割だ。これだけの成功率でなおかつこのまま同じように使っていけるようになれば兄弟子の手間をとらせるようなこともなくなるだろう。


問題は記憶操作などの方だが、それはまたおいおい覚えていくほかない。


「とりあえず教えるが・・・これに関してはだいぶ危険な魔術だ。発動時は操作に注意しろ。特にお前の今の状態だと本当に廃人になりかねんからな。練習時は私か真理を被検体にするように」


「ってことは物理的な何かじゃないんですね?人にしか作用しない感じですか?」


「人というか生物に作用する魔術だ。発動時は触れないといけないが・・・まぁそのあたりはおいおい話しておく。今はとりあえず集中しろ。新しい力を手に入れた記念だ。さっさと物にしろ」


康太は小百合に背中を預け、その魔術の発動を待った。


だが小百合はいつまで経っても康太の背中に触れることがない。一体どうしたのだろうかと思っていると小百合は康太の前に一枚の紙をおいて見せた。


「・・・あの・・・?なんですこれ?」


「なにって術式が書かれた紙だ。お前はもう『見えている』んだろう?いちいち術式を流すような面倒なことをしていられるか」


小百合がそう言いながら見せるその紙には確かに何か妙な紋様が記されている。それは確かに術式の形に似ていた。恐らく新しく教わる術式なのだろう。


それを見ることができるという事がどういう意味を持っているのか、康太はいまさらながら理解した。


誤字報告五件分、評価者人数が140人突破したので二回分投稿


章の移り変わりはどうしても分割しなきゃいけないからちょい面倒ですね


ということで分割二回目の投稿です

これからもお楽しみいただければ幸いです

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