表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

281/1515

デビットの残滓

全てが終わったのだろうか、小百合がそう判断して話しかけようとした瞬間、黒い瘴気の人影はゆっくりと康太の下に近づいていた。


その魔術の核はすでに白骨から離れている。そしてその意味を理解するよりも早く、黒い瘴気は康太の体の中に入っていった。


すると先程まで康太の体から出ていた瘴気は収まり、まったく何も見えなくなっていく。


康太は自分の体に触れ、そうか・・・そうだなと何度か呟いていた。


「ビー・・・大丈夫か?」


「・・・えぇ・・・大丈夫です・・・もう悪さすることはないでしょう・・・ってか師匠が俺の心配とからしくないですよ?」


「・・・たまに気遣ってやったらこれだ・・・まったく」


小百合は不快そうに眉間にしわを寄せたが、恐らく本心から康太のことを心配していたのだろう。もっとも普段の小百合の対応がおざなり過ぎて康太たちから見れば非常に違和感がある対応になってしまっているわけだが。


「ビー・・・体は平気ですか?魔力の方は・・・」


「えぇ、問題ありません。こいつも大人しくしてくれてます」


こいつという言葉が何を示しているのか、小百合と真理は気づいていた。


康太の体の中に入った黒い瘴気。そしてその意味を、二人、いやこの場にいる全員が理解していた。


「あの魔術は今度はお前を依代に選んだという事か?」


「そうみたいですね。いろいろやりたいことがあるみたいです」


先程まで封印指定百七十二号の核とでもいうべき部分はデビットの骨に宿っていた。だからこそ今まで末端の魔術の術式を破壊しても意味がなかったのだ。


だが先ほどのやり取りで何を思ったのか、デビットは、デビットの残滓は康太の中に宿ることを決めた。


それはつまり康太が先程の魔術の中心になるという事でもある。


「やりたいこととは?まさか全世界に被害を拡大するとかそう言う話か?」


「いえ・・・もっと単純です。『すべての不条理に死の報いを』・・・それと『救いを求めるものに救いの手を』」


「・・・まるで正義の味方か?」


「はは・・・まぁこいつ神父でしたし、そう言う考えは普通なんじゃないですかね?」


普通の神父は不条理に対して死の制裁を与えるようなことはしない。そう言う意味ではデビットは歪んでいる。


救いを求めるものへの救済は、恐らく彼の本質。歪んだ部分も、本質の部分も全て理解している康太だからこそ、恐らくこの魔術を許容することができたのだ。


「・・・こいつに意思はあるのか?」


「どうなんでしょう・・・?意識っていうのとはちょっと違います。なんていうか・・・本能だけっていうか・・・やりたいことだけっていうか・・・一定の考えしか持ってないっていうか・・・」


意識というにはあまりに希薄で、無意識というにははっきりしすぎている。本能というにはあまりに限定的で康太はこの状態を正しく言葉にできずにいた。


「・・・なるほど・・・たぶんですがそれは精霊のそれに近いんでしょうね」


「精霊って・・・確か上級のものにならないと意識がないんでしたっけ?こんな状態なんですか?」


「あくまで似ているというだけですよ。私はその人の声も感覚も分かりませんから何とも言えませんが・・・意思は聞こえてくるんでしょう?」


「・・・はい。大まかなものですけど」


「なら近いかもしれませんね。中級精霊に似たようなものだと考えればいいでしょう。まぁ少々厄介かもしれませんけれど」


康太の体の中に入ったデビットの残滓は、大まかな分類としては精霊に似たものになるのだろう。


だがその危険性は計り知れない。今まで何百年という時間をかけて被害をまき散らしてきたのだ。それが康太の中にあるという事実はそう易々と許容できるものではないのは明らかだろう。


「クラリス・・・終わったのかい?」


「あぁ、そのようだ・・・この後どうする?この魔術は私の弟子が取り込んだようだが」


「取り込んだって・・・消滅させたんじゃないのかい?さっきから瘴気はまったく見えないけれど」


康太の中から湧き出ていた瘴気が見えなくなったことから、後ろから支部長は康太が何らかの手段を講じて魔術そのものを消滅させたのではないかと思っているようだった。


体の中に取り込んだという割には体から瘴気が湧き出るようなことは無くなっている。この状態を維持すれば魔術を消滅したと言っても話が通るかもしれない。


「どう判断する?消滅したと言って報告するのもいい。逆に正直に話した方がいい場合もある。その判断はお前に任せよう」


「ん・・・後々の摩擦を生むなら今のうちに正直に話して検査なりしてもらったほうがいいと思うけれど・・・少し拘束されるかもしれないよ?ある程度調査も検査もしなきゃいけないから」


「危険ではないと判断されればそれでいい。協会としても危険な魔術を監視下に置けるというのは大きな利点だろう・・・無論それを利用しようとする連中が出てくることもあるかもしれんが」


康太が宿した魔術は良くも悪くも強大な威力と被害をもたらすものだ。それを利用しようとする者もいれば研究したいというものもいる。逆に根絶したいというものもいるだろう。協会内でも意見が割れることになり恐らく結果を待つ時間は相当長くなるだろう。


その間に康太が実績を積めばまず確実に消滅させられることは無くなる。康太にとって、そして小百合たちにとって悪くない条件はすでに揃っているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ