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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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黒い瘴気に導かれ

康太たちが協会の日本支部に到着したのは小百合が電話をかけてから一時間ほどたった後の事だった。


イギリスへの移動は本当にあっさり許可が出た。


その原因は小百合というのもあるが、日本支部支部長の強力な支援と、小百合が言う百七十二号の解決につながるかもしれないという言葉が大きかった。


無論何の対策もせずに門を使わせてくれるはずもなかった。協会の日本支部とイギリスの本部、そしてイギリス各地の門が通じている教会を一時的に人を立ち入らせなくした状態での門使用ということになり、康太たちが到着したころには日本支部の中には一見誰もいないように見えた。


「来たみたいだね・・・クラリス、本当に行けるのかい?」


康太たちの到着を待ちわびていたかのように支部長がゆっくりとこちらに歩み寄る。恐らく彼は今回のイギリス本部への対応で同行するのだろう。日本支部の厄介ごとと言われても過言ではない小百合達が行くよりもある程度立場のある人間が向かったほうがいいと考えたのだろう。


「やってみなければわからないが・・・とりあえずこいつは何かしらの存在を感じている。無駄な行動ではないだろう」


「・・・わかった・・・それじゃあ行こう。向こうには話を通してある」


大きな組織であるにもかかわらず、一時間程度でそう言った話が通せる辺り今回の件がいかに重要視されているかがわかる。


本来なら組織が大きくなればなるほど一つの行動に対して許可が求められるのだろうが、そのあたりは魔術師の集まり。本当に柔軟な対応を求められるという事を理解しているのだろう。


康太たち全員が門をくぐるとその先には日本支部と似たような光景が広がっていた。


いや正確に言えば日本支部がこの本部に似せているのだろう。内装や置かれている物品にわずかな違いはあれど構造や建物の大まかな雰囲気は似通っている。


康太たちがやってくると二人の魔術師が康太たちの元へとやってきた。そして英語で何やら話しかけてくる。あまりに流暢な英語だったために康太はその言葉をほとんど理解できなかった。


すると支部長が同じように英語で話しかける。恐らく今回は彼が通訳代わりになってくれるのだろう。


そんなことを考えていると康太の中の何かが唐突に騒ぎ始めた。騒ぐというよりは落ち着かない感覚になると言ったほうがいいかもしれない。


そしてある方向に自然と目を向けてしまった。


その先になにがあるというわけでもない、その先に誰が居るというわけでもない。ただ協会の壁があり、その壁のもっと向こうに何かがあると感じていた。


「了解が取れた・・・クラリス、とりあえず虱潰しにイギリス内の教会を回ってみようと思うけど」


「それ以外にないか・・・ん・・・いや・・・その必要はないかもしれん」


康太に声をかけようとしたが、当の本人がある一点の方向を見つめていることに小百合は気づいた。


そして眉をひそめて小さくため息を吐く。


「ビー、方角がわかるのか?」


「・・・はい・・・あっち・・・あっちに・・・いる・・・」


呼んでいる、呼ばれている。自分をそちらに誘導するかのような感覚に康太は素直に従っていた。


指さした方角になにがあるのかわからないが、小百合はその言葉を信じたようだった。そして支部長はその言葉の意味を理解し本部の魔術師に二、三告げて門の位置を調整してもらっていた。


「その方角にあるのは大体四つか五つの教会らしい。とりあえずそっちに行ってみよう」


頼りになるのが康太の感覚というのが何とも怪しいものだが、支部長もそして小百合も康太の感覚を疑うことはなかった。


元より今まで解決できなかったのだ。仮にこれが失敗したとしても問題ない。ダメでもともとという事なのだ。


協会本部から地方の教会へと移動すると、康太の中の感覚がまた変わる。方角が変わり、どちらの方向にそれがいるのかを理解することができていた。


今度はあっち、まだこっちなどと抽象的な表現を続けることではあるが、確実にその距離は狭まっていた。


そしてある教会にたどり着いた後、康太たちは車での移動に切り替えていた。最寄りの教会が無くなったのだ。


これ以上は大きな移動はできない。その為康太の感覚頼りで車での移動で近づくことになった。


教会の外に出るという事もあり全員魔術師装束を外した状態で車に乗り込むことになる。


車は大きめのワゴン。康太、小百合、支部長、エアリス、文、そして協会本部の魔術師が二名付き添っていた。


運転は本部の魔術師が担当し、康太が指差す方向に向けて動けるようにハンドルを切り続けている。


近い、もう少し、あと少し。


自分の中の何かがそう告げるのを聞きながら、康太は自分の中にある術式をしっかりと感じながら車の中で真剣な表情をしていた。


やっと会えるかもしれない。神父、あの憎しみを抱えた男、デビットに。


もうすでに死んでいるだろう。どのような形での邂逅になるかはわからないが、康太にとって大きな転機になることは間違いなかった。


この魔術を解決することが何を意味するのかも分かっていない康太は、その事実を軽く見ていた。


「これ以上は進めないみたいだね・・・」


康太たちを乗せた車は道の終わりで立ち往生していた。ここから先は木々が鬱蒼と茂っており、車は立ち入ることができないようだった。


だが康太の感覚はまだ先だと告げている。まだこの先に何かがあると告げている。康太は誰よりも先に車から降りるとゆっくりと歩き始めた。


「ビー、まだ先か?」


「あと少し・・・もう少し先です・・・行きます」


「・・・わかった、エアリス、ベル、お前達は車で待っていろ、ビーには私たちが付き添う」


もし何かあった時の対処を任せる。そう言う意味で告げた小百合の言葉を彼女たちは正しく受け取ったようだった。


本部の魔術師一名、そして支部長と小百合、そして真理は車から降りて康太の後に続いて歩き始めた。


康太が歩く先には獣道すらない木々の群れが存在していた。康太は木々を払いのけながら進み続ける。


日本とイギリスの間に時差があるとはいえ、木々の間から入る光はすでにだいぶ弱くなっている。


だが康太はまるで道標があるかのように真っ直ぐ進んでいった。地形や木々による障害など無視するかのように、ただ真っ直ぐと。


一時間ほど歩いた後、康太が立ち止まったその場所にはほんのわずかではあるが人の手が入ったような跡があった。


具体的には石材があったのだ。


既に風化し、ほとんど原形もとどめていないようだったがそれでも大昔にここに誰かが住んでいたという事だけはわかる。本当に僅かな痕跡。


「・・・ここか・・・?」


「・・・ここです・・・でも・・・ここじゃない・・・」


矛盾したような言葉を述べながら、康太はしきりに地面を調べ始める。一体何を探しているのかとその場にいた全員が康太の様子を眺めていると、康太はそれを見つけ出す。


それは土と半ば同化していた地下への入り口だった。それが一体何を示すのか、その場の全員が即座に理解できた。


康太はわき目も降らずにその入り口を開き、地下へと降りていった。人に見つかることなく、数百年閉ざされていた地下。一体何があるのかもわからない、だが嫌な予感だけはする。そんな状況の為すぐに小百合と真理は康太の後に続いた。


入った瞬間に淀んだ空気が頬を撫でたのがわかる。空気が腐っているのではないかと思えるほどの匂いだ。だがそんなこと関係ないとでもいうかのように康太は進んでいく。


地下に降り立つとそこには全く光源がなかった。真理は即座に魔術で明かりを作り出し、周囲を照らすとその光景が康太たちの前に広がっていた。


石畳、そして石でできた壁と天井。壁には蝋燭が設置されていただろう痕跡がある。


そして何より小百合たちの目を引いたのはその場に埋め尽くされるように放置されている白骨体だ。


一つや二つではない。十、もしかしたら二十にも届くかもしれないほどの白骨の山。それらが所狭しと転がっている。


「これは・・・」


「・・・ジョア、ビーの後ろに続け」


小百合の言葉でようやく真理は康太がすでに先に進んでいるということに気が付いた。


足元に広がる白骨など康太には見えていない。康太が見ているのはその先にあるものだった。


白骨を踏まないように康太の後に続くと、康太がようやく歩を止め一つの白骨体の前で座り込む。


そしてそれを小百合たちが見た瞬間、すべて理解した。


その白骨体から発せられる黒い瘴気、まるで炎のように噴き出る黒い瘴気を見てすべてを理解する。


今まで見てきた黒い瘴気とはまた別物、どこか悍ましささえ感じる程の狂気に染まった黒い靄。


これが封印指定百七十二号の魔術の中心であると。


「こいつか?」


「・・・はい・・・あぁ・・・ようやく会えた・・・」


小百合が康太の後ろにつくと、康太の異変に気付くことができた。


康太は白骨を見ていない。黒い靄を吹きだしている白骨ではなく、黒い靄そのものを見ているように見えた。


そう、康太はすでに魔術師としての視覚に目覚めていた。


初めて見える光景にはじめこそ戸惑っていたものの、すでに落ち着いて座り込み、真っ直ぐとその黒い瘴気を眺めている。


見つかったのであれば話は早い、すぐにでも破壊しようかと小百合が前に出た瞬間、康太はそれを制止した。


「なんだ?」


「・・・ちょっとだけ話をさせてくれませんか?ちょっとでいいんで」


「・・・死体相手にか?」


「いえ、こいつ相手にです」


康太が話すのは白骨となった死体ではなく、この黒い靄。魔術そのものに話しかけるなど何を滑稽なと小百合は一瞬笑おうと思ったが、康太の目は真剣だ。


小百合は一歩下がり、康太の好きにさせることにした。この行動に何か意味があると思ったからだ。


「・・・初めましてデビット・・・ようやく会えたな」


今日で年始投稿は終わり!明日からは普通に投稿しますということで二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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