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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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その光景

「・・・うわ・・・なにこれ・・・」


康太たちが目的地の町に到着した時の文の反応がこれである。


一見すれば何の変哲のない町であることがわかるのだが、そのところどころに魔術師らしき人物が立っているのがわかる。


監視カメラに映る可能性を考慮して全員が私服であるのだが、彼らの表情を見る限り物々しさを隠せていない。


何かしらの面倒事が起きているという事を察するには十分すぎる状況だった。


「酷いわね・・・ここまでとは予想してなかったわ・・・」


「そうか?人が大勢倒れてるとかそう言うわけじゃないし、思ってるよりずっといい状況じゃねえの?」


「・・・あぁそうか、あんたには見えないのね」


文の言葉に康太は一瞬眉を顰めるが、その言葉の意味を理解して状況が自分が思っているよりもずっと悪いという事を察する。


康太には見えなくて文には見えるもの。いや正確に言えば康太以外の魔術師には全員見えているものがあるのだろう。


「端的に言ってくれるか?お前にはどう見えてるんだ?」


「なんて言ったらいいのかしら・・・黒い霧・・・いえ瘴気みたいなのがところどころに飛んでる。見てて気持ちいい光景じゃないわね」


「黒い瘴気ねぇ・・・なんかすごい汚い印象だ」


康太には見えないが文たちにはこの街のところどころに黒い瘴気が漂っているように見えるのだ。


その瘴気こそ今回関わる封印指定百七十二号に関わる事柄なのだろうが、やはり魔術師としての五感に目覚めていないというのは非常に不便である。


「ていうかあんたもそろそろ見えるようになってもおかしくないんだけどね・・・魔術習ってからもう半年でしょ?」


「そうなんだよな、そろそろこういうのもちゃんと見えるようになりたいんだけど・・・どうなんです師匠。こういうのって大体どれくらいで見えるようになるんですか?」


魔術を覚えるのはそれなりに早いというのに魔術師としての五感が一向に目覚めないせいで康太はだいぶ不便な状態を続けている。


何でもかんでも見えればいいというものではないが、文たちが見えている光景を自分が見ることができないというのはなかなかに悔しいものだ。


「個人差としか言えないが、確かにやや遅いように感じるな。そろそろ見えるようになってもいいころだろう。一度そう言うものを集中的に見せるのもいいかもな」


「姉さんの時はどれくらいだったんですか?」


「私の時は・・・どうだったかな・・・確か四カ月くらい?だったと思いますよ。少なくとも半年は経ってないと思います」


康太はすでに魔術師になってから半年近く過ごしている。未熟であることには変わりないが魔術師としての経過時間を考えればやや遅いくらいだ。


もしかしたら何かきっかけでもなければいけないのだろうかと小百合が悩んでいる時、タクシーは緩やかに停車した。


どうやら目的地に到着したらしい。


そこはどこにでもありそうな公民館だった。どうやらすでに何人かの魔術師が被害者を連れてきているらしく中からは指示をしたり誰かが走り回ったりする音が聞こえてきている。


「いくぞ。ジョア、ついてこい。ビーとベルは中を見て被害者の状況を確認したら街全体を移動しながら被害者をこの場所まで誘導しろ」


「「「了解です」」」


まずは今の状況を確認しなければならない。康太たちが公民館の中に入ると一番広い部屋の中に何人もの人間が横になっていた。


いや横になっていたというよりは転がされていたと言ったほうがいいだろう。少なくとも休めるような状況ではない。適当にその場に置かれているだけのような状況だ。


その全ての人間が苦しそうに呻いている。だが中にはうめき声さえもあげられないほどに衰弱している者もいるようだ。


恐らく症状には個人差があるのだろう。魔力に関わることだから当然かもしれないがこれは確かに人命にかかわる。


「デブリス・クラリスだ、状況は?」


「お、おぉ・・・来たか。さすがにもうこれ以上はこの人達がもたない。早く対処してくれ」


「わかっている。ジョア、お前は症状がひどいものから順に対処を。私もすぐに回る」


「了解しました」


現在この場にいて対応できるのは恐らく小百合と真理だけだ。小百合はこの中で一番ひどい症状と思われる者の下へと向かいその顔にゆっくりと触れる。


「あんたの師匠の術式破壊ってどういうものなの?」


「俺も聞いたことしかないから詳しくは知らないけど・・・なんでも直接触れてないと発動できないとか・・・しかもきちんと破壊するのに時間かかるんだと」


「・・・これだけの数の人・・・一体いつ終わるのかしら・・・」


この場所に転がされている人の数は少なくとも数十人。もしかしたらもっといるかもしれない。


いや町で被害に遭っていてもまだ気づいていない人間を含めたらもっと増えるだろう。数百人、もしかしたら千人規模になるかもしれない。


そこまで大きな町ではないとはいえそれだけの人はいるのだ。


いくら被害者を一カ所に集めるとはいえ限度がある。可能な限り効率よく術式を破壊しなければ手遅れになる人間も出てくるだろう。


それだけは何とかして防がなければならなかった。


「いくわよビー、ここにいても私たちは何もできないわ」


「あ・・・あぁ、分かってる」


いつまでもこの光景を見ていてもしょうがない。康太もそのことは理解していた。だが先ほどまでの考えを康太は覆していた。


これは自分が思っているよりもずっと大変な状況なのかもしれないとこの時点で思い始めていたのだ。


「酷かったわね・・・見てられなかったわ」


「・・・苦しそうだったな、あれ全部魔術のせいなのか・・・」


「・・・表情もそうだけどね・・・あの部屋さっき言った瘴気で満ちてたわ。この辺りなんて比じゃないくらいの濃さだった・・・あぁいうのを禍々しいっていうのかしらね」


さっき言っていた瘴気。つまりあの場所には町中に点在している黒い瘴気が集中していたということになる。


そのことから康太はある程度状況を理解しつつあった。


「その瘴気は百七十二号そのものってことか?」


「そのものかどうかはわからないけど、少なくともその魔術を発動しちゃってる人が出してるのは間違いないでしょうね・・・あぁやって人に憑りついて魔力を吸い上げて増えて移る・・・まるで伝染病の類だわ」


伝染病というと確かにイメージがわくかもしれない。今文が見ているのは要するに病原菌を可視化しているようなものだ。


黒い瘴気が病原菌で、それに感染した人を一カ所に集めている。そしてそれ以上感染者が増えないように交通などを封鎖して徹底して事態の解決に当たる。


なるほど確かに伝染病のようだ。


「お前なら感染した人がわかるんだろ?その黒いのを出してる人がいたら即連行すりゃいいわけだ」


「簡単に言うけどね・・・まぁいいわ。もし倒れてる人とかいたらその時は運ぶの頼むわね。私はそれ以外の人を連れていくわ」


「了解。でもどうやって説得するんだ?」


「話なんてしていられないわよ。魔術で誘導するの。こればっかりは話をしている時間なんてないもの・・・」


今回の相手、という風に言って良いかはわからないが、この魔術は時間経過とともに増える上に感染した人の命そのものも危うくなってしまう。事情を説明している暇などないし何よりどのように事情を説明したらいいのかもわからない。


そうなってくると有無を言わさずにつれていったほうが早いのだ。


そしてどうやら他の魔術師も似たようなことをしているらしく、徐々に公民館に向かっていく人が増えているように思えた。


「他の人達もやってるみたいね・・・ほら行くわよ!私達だけ後れを取るわけにはいかないわ」


「了解。でも俺は見えないからお前頼りだな・・・どこから探すか」


「大抵こういう時に最初に見るべきなのは人の集まる場所よ。そこまで大きな町でもないから他の人が回ってる可能性があるけどそれでもやらないよりはましだわ」


康太たちが最初に赴いたのはこの町にあるスーパーだった。


食料品などが売っているという事もありそれなり以上に人が集まっている。感染しそうな人間の山というわけだ。


こういうところの中に入ると実際どのような状況なのかを理解できるだろうと文が足を踏み入れると、中に入った瞬間彼女は眉間にしわを寄せた。


「どうだ?どんな感じだ?」


「・・・これが見えてないあんたが恨めしく思うわよ・・・もうここの商品買いたくなくなるくらいひどいわ」


一体どれくらいひどいのかわからないが少なくともこの場所にも感染した人がいるという事だろう。


その人を探そうと康太たちがあるきまわっているとそこには何人か康太たちと同じように眉間にしわを寄せて周囲を探っている人物がいるのがわかる。


「状況はどうですか?」


文が魔力を放出しながら話しかけたことでどうやら同じ魔術師であると気づいたのか、そのうちの一人の男性は首を横に振ってため息を吐く。


「酷いものだ、この中の何人か、しかも従業員にも感染者がいる。人が集まる場所だからすぐにでも対処しなければ危険だろう。可能ならここそのものを封鎖したいくらいだ。いま被害にあった人を一カ所に集めて移動させようとしてる」


「なら一度に運び出しませんか?近くに車か何かあれば・・・車に運ぶまでの間であれば私が隠せます。肉体労働はこいつに任せてください」


「ん・・・数人で協力すれば何とかなるか・・・そうだな・・・さすがにこの場所を封鎖するわけにもいかないからな・・・」


スーパーというのは良くも悪くも人が集まる場所だ。普段であれば食品などを購入に来るだけの場所なのだが今回の状況によっては悪い意味しかない。


人が集まればそれだけ魔術の感染者が増えていく。それだけ手間が増えるというのもあるがただでさえ人が集まる場所だ、感染者が増えれば対処をする時間も増えるし被害も広がる。


しかもスーパーは基本的にどこのだれでも利用できるためにそれこそここから出ていった人がどこに行くかもわからないのだ。


今の時間はおよそ十四時。買い物を来る人間はこれから増えていく時間帯だ。この時間にこの店を閉めるのは明らかに不自然すぎる。いくら暗示の魔術を使っていたとしても誤魔化し切れる違和感ではなくなってしまうだろう。

年末なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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