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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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魔術師の年齢

「師匠は・・・格上の魔術師と戦ったことってあるんですか?」


「当たり前だ。私の師匠は私以上に破天荒な人でな。何度もそう言う事をやらされた」


小百合以上に破天荒な人間。正直想像できなかったが小百合がここまで言うのだ、恐らく相当に厳しい人だったのだろう。


会ってみたいような会いたくないような、そんな矛盾した感情が浮かぶ中康太の表情からその感情を察したのか小百合は薄く笑っていた。


「安心しろ、私の師匠はそうそう私の前に現れることはない。一年に一度あるかないかだ。お前が会うような事にはならんだろうさ。会ってみたいなら話は別だがな」


「そ・・・そうですか・・・?それならいいんですけど・・・」


助かったような残念なような、そんな気がする中で康太はこれからどうするかを考えていた。


どのように戦うのかはなんとなく頭の中に浮かんでいる。今自分が取れる手段を考えた場合、当然できることは限られるがそれでも無力ではない。


魔術師がどのような戦い方をするのかは小百合だけではなく兄弟子の真理との訓練で体験している。


相手がどのように動くのかをあらかじめ理解できればそれなり以上に戦うことはできるかもわからない。


「相手はもう俺が格下だってことは知ってるんですよね?」


「まず間違いなくな」


「じゃあ格上だと自覚してる相手に対してどう戦うか、アドバイス的なものは無いんですか?」


康太の言葉に小百合は眉をひそめる。


自分が格上であると自覚しているものの戦いというのはたいていパターン化される。


万が一にも負けることがないように全力を尽くすタイプ。


自分なら負けることはないだろうと高をくくるタイプ。


そして相手がどの程度自分より格下なのかを確認するために慎重になるタイプ。


康太にとって最も厄介なのは一つ目の全力を尽くすタイプであり、一番ありがたいのが高を括るタイプだ。


要するに油断してくれると非常にありがたいという事である。


「そうだな・・・まず魔術師というのは基本的に相手の手の内を探ろうとする。」


「使える魔術を確認しようとするってことですか?」


「そう言う事だ。その時点からすでに戦いは始まっていると思え。如何に自分ができることを隠しながら相手の手の内を暴くか、格上相手では特にそれが重要になる」


魔術には必ず可能不可能というものが存在している。


そしてその可能不可能というのは魔術一つに対して必ず存在する物であって、複数の魔術を修得している魔術師であれば、不可能なことは限りなく少なくなっていくものだ。


一般的な魔術師が一体どれほどの魔術を修得しているかは不明だが、康太が修得している魔術は未だ二つのみ。不可能なことが多すぎる中でいかにそれを隠しながら相手の手を読み、有利な状況に持っていくことができるか。


今回の戦いで求められるのはつまりそういうことだ。


「使い方は自分で考えろ。だがそれをできるだけの魔術をすでに教えているんだ。敗北は許さん。いいな?」


「まだ俺魔術師になってから二か月も経ってないんですけど・・・ちなみにふつうはいくつの頃から魔術師になるんですか?」


「早いものなら五歳くらいからだな。お前はかなり遅い方だ。」


康太は今十五歳だ。もし相手が五歳から魔術を習っているような人種だった場合約十年もの経験の差があることになる。


今回の相手がそうでないことを祈るばかりだが、小百合が言ったように魔術師というのは魔術をいかにうまく扱えるかという勝負でもある。


つまり多くの魔術を修得していたとしても、それを応用する術を持たなければ勝負はわからないという事である。


「ちなみに師匠は何時頃から魔術師に?」


「私か?私は八歳になった時だったな。真理も同じくらいの時だ。」


仮に小百合と同じように八歳の頃から習っていたとしても七年近い経験の差があるという事だ。はっきり言って康太の勝ち目がどんどん薄くなっているような気がする。


実戦経験ほぼゼロのド素人が勝てる相手だろうかと本格的に心配になってくるが、ネガティブになっていたも仕方がないと康太は意気込む。


相手がどんな魔術師かは知らないが、小百合や真理よりは弱いはずである。

なにせ自分と同い年なのだ。どれだけ経験を積んでいようと自分の師匠や兄弟子と比べればまだましな方である。


「さて・・・じゃあ今日の訓練から始めるぞ。覚悟はいいか?」


「え・・・あ、あの今日姉さんは・・・?」


「あいつは今日大学だ。残念だったな。しっかりと鍛えてやるから安心しろ」


兄弟子である真理がいないと小百合は嬉々として康太をいたぶってくるのだ。そう言う事が趣味なのかと思えるほどである。


しかも魔術師として必要かどうかも分からない肉弾戦まで組み込むあたり性格がいいとは言えない。


ただ単にいたぶっているだけに思えるから性質が悪い。


だがそれでもある種小百合も格上の魔術師なのだ。これから戦うことになるかもしれない同学年の魔術師への予行演習になるかもしれない。


そう意気込んで訓練に挑み、その数分後に叩き潰されたのはまた別の話である。

やっぱり勝つなんて無理じゃないかと弱気になってしまう原因の一端は小百合にあるのかもしれない。











翌日、康太は学校に通いながら魔力を振りまいていた。


先日の魔力の放出から少し趣向を変え、常に魔力を放出し常に魔力を補給するという状況を作っている。


魔力の微量放出というのはなかなかに難しかったが、慣れてしまえばなんてことはない。


康太の体は全力で魔力装填を行っても満タンにするのに時間がかかる。それに比べて魔力の全力放出は早ければ数十秒で空っぽになってしまうほどだ。


それで再び魔力を補充するのに一時間近くかかっているのでは効率が悪い。


そんなことをしていても見つかることはないと踏んだのだ。


全力供給と手加減した放出による出入のバランスをとれば延々と魔力を放出することができるというわけである。


さすがにそれを続けるのは最初は難しかったが一時間もやっていれば慣れるというものだ。あとは相手が自分のことを認識してくれればいいだけである。


もちろんいきなり狙われることを考えて魔力はほぼ満タンに近い状態を維持しておかなければならないだろう。


とはいえ同学年だけでも数百人いるのだ。詳しい数は確認していないがその中から一人だけいる魔術師を見つけるというのは案外難しいのではないかと思えてしまう。


例え魔力を放出していても見つけられる気がしなかった。


小百合曰く、魔術師として生活しているうちに五感が魔術師のそれに適したものに変化していくという事だったが、それが一体どういうことなのか康太は全く理解できていなかった。


魔術師になってからというもの、別に五感にこれと言って変化はない。何か特殊な感覚が生まれるわけでも未来予知ができるわけでも見えないはずのものが見えるわけでもない。


自分の魔術師としての適性の低さが問題なのだろうかと思ってしまうのだが、こればかりは時間によるものとしか言いようがないのだという。


何時になったら自分の感覚は魔術師のものに変化するのだろうかと思いながら魔力を垂れ流す中、康太は普通に高校生としての日常を送っていた。


「えー・・・それじゃあ各種委員会と係を決めてもらおうと思う。それぞれ書いておくからやりたい奴は挙手してくれ。」


そんな学校らしいことをしている中で、康太は特に何を思う事もなく魔力を放出し続けている。


さらに言えば他の人が挙手して委員会や係を決めている中でも康太は手をあげるつもりは毛頭なかった。


雑務などはひきつけるつもりはない。面倒なだけである。


そもそも現時点で相当面倒な事柄を押し付けられているのだ。これ以上面倒を抱えてなるものかと心に決めていた。


「なぁお前良かったのか?何の委員会にも入らなくて。」


「いいんだよめんどくさい。とりあえず部活だ部活。今日は部活見学しに行こうぜ。」


康太にとって学校とは半分部活のためにあるようなものだと思っている。

もちろん学業もそうなのだがやはり部活動というものは青春のわかりやすい見本のようなものなのだ。


部活をやっているかいないかで青春の輝きが数割違うと言っても過言ではないだろうとさえ思っているほどである。


「結局お前陸上部か?」


「そうだな、とりあえずは。お前は?」


「俺も陸上かな・・・とりあえず他にやりたいものもないし・・・」


青山もどうやら陸上部に入りたいようだった。康太としては早く仲良くなれる人物がいて有難い限りである。


部活動に早くなじむためには友人がいたほうがいい。特に同じクラスの友人がいればなおの事はなしが早くなるというものである。


「そう言えば昨日すれ違っためっちゃかわいい女の子の情報なんかあったか?」


「そうそう、隣のクラスみたいだぞ。名前はまだわからないけどな。」


「隣って・・・二?それとも四?」


「二組みたいだな。パッと見でも目立ってたぞ。」


女子の世界というものはよくわからないが、それなりに美人な人間というのはやはり目を引くものがあるのだろう。


しかも昨日の様子を見る限り社交的であることがうかがえる。いつかお近づきになれればと思う限りだが、たぶん自分にはその機会は永遠に巡ってこないだろうなと半ばあきらめていた。


これで自分が魔術師でなければと思うのだが、もはやいくら言っても無駄というものである。


そうこうしている間に二人は陸上部の部室にたどり着いた。先生から場所は聞いていたためにすぐにやってくることができたのは幸いだっただろう。


近くにはグラウンドがあり、ここで着替えてすぐに運動ができるようになっているようだった。


「すいません失礼します。部活見学したいんですけど・・・」


康太たちが中に入るとその中にはすでに何人かの部員が準備を始めていた。着替えを終えそれぞれが道具を出そうとしている最中だった。


どうやらタイミング的には最適だったようだ。


「部活見学?おぉいいよ、いくらでも見てって。」


先輩と思われる人物に誘われるまま、二人はその日部活の見学とどのようなことをやっているのかを確認していた。


そして康太はまだ気づいていなかった。自分を誰かが見ていることに。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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