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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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その問題

『何?今文も一緒なのか?』


「はいそうです・・・今ちょうどお昼を食べてて・・・」


一体どういった内容なのかはさておき、真理の表情からしてあまり良い話ではなさそうなのは康太と文にも十分に理解できていた。


可能なら巻き込まれたくないなと思っているのだが、そう簡単にはいかないし恐らく小百合は巻き込むつもり満々で電話してきたことだろう。


幸か不幸か康太たちは今魔術師としての道具一式を持っている状態だ。このまま協会に向かって小百合と合流しても何ら問題はない状況なのである。


「あの師匠・・・私たち先程一件片付けたばかりなんですけど・・・」


『それは知っている。だがこちらとしても人手が欲しい・・・というか手伝いがないと今回に関しては解決できん・・・いや解決すらできるかどうかも怪しくてな・・・』


小百合にしては妙に弱気な発言に真理はけげんな表情をしてしまう。今まで小百合には多くの面倒事が迫ってきた。その一端を真理も見て来たし関わってきた。


命に関わるようなこともあったし社会的に死ぬ可能性があるような状況だっていくらでもあった。そのどの状況でも小百合は毅然とした表情と態度で乗り越えてきたのだ。


少なくともこんな弱気な発言をする小百合は今まで見たことがない。こんな声も彼女は聞いたことがなかった。


「それで師匠・・・状況はその・・・あまり芳しくないんですか?」


『少なくとも確認できている限りでは・・・な。とりあえず協会に来い。状況も含めて詳しく説明する。二人も一緒に連れてこい、人手は多ければ多いほどありがたい』


「わかりました。とりあえずすぐに昼食を終わらせます。少しの間待っててください」


真理がそう言うのを確認すると康太と文はすぐに目の前にある自分の料理を平らげようと口に放り込んでいく。


状況はわからないが少なくとも急いで協会に向かわなければいけないような状況であるらしい。


状況が芳しくないようなことをにおわせている以上、可能な限り急いだ方がいいのは間違いなかった。


「姉さん、とりあえず師匠はなんて?」


「かなり大変な事態の様ですね、あの師匠が弱気でしたよ。人手が多い方がありがたいようなことも言っていました」


「小百合さんがですか?想像できないですね・・・」


傍若無人な小百合しか知らない康太と文からすればしおらしい、弱気な彼女など想像できるようなものではなかった。


例え魔術師が相手でも堂々と叩き潰す。面倒があったのなら根本から覆す。誰が巻き込まれようと知ったことではない。


そう言う無茶苦茶な行動を基本としている彼女が弱気になるという事は一体どれだけの問題だろうか。


町中でバイオハザードが起きてゾンビだらけになったところで問題なく行動しそうな小百合が弱気になるということがまず想像できない。


「師匠が弱気になるっていうのは私も初めての事です。今回ばかりはちょっとどうなるかわかりませんね・・・危険かもしれません」


「姉さんでも初見か・・・そうなるとだいぶやばいかもしれませんね」


「あのすいません、お腹痛くなって来たんで帰っていいですか?」


「大丈夫ですよ文さん、正露丸なら持っていますから後で差し上げます。食事が終わったら飲んでくださいね」


こんな所で逃がすわけにはいきませんよと暗にそう言いながら真理は懐から正露丸を取り出して見せる。


何でそんなものを常備しているのだろうかと問いただしたくなるが、真理の立場上胃痛を覚えることもあるだろう。


もしかしたら自分も将来的にそうなるのかもしれないなと思いながら文はもう逃げられないことを悟って大きくため息をついていた。


「状況は緊迫してるんですか?またどっかのバカが暴れてるとか?」


「でもそれくらいじゃあの人は怯まないでしょ・・・ひょっとして前にあった小百合さんのお師匠様関係とかですかね?」


「ん・・・否定はし切れませんが・・・とりあえず急いだ方がいいかもしれませんね。もしかしたら大規模な事件が起きているかもしれません」


大規模な事件と言われても康太たちは今までそう言った類の事件には関わったことがない。


「大規模・・・奏さんや幸彦さんの力も借りられれば何とかなるかな・・・?」


「可能ならそうしたいところでしょうが・・・両名共に忙しいでしょう。師匠もバカではありませんから何かしらの手は打つと思いますが・・・」


奏は自分の職業的な理由で、幸彦は他の面倒事に関わっていて恐らく手が離せない状況になっているだろう。


あの二人がいれば確かにかなり心強かったのだろうがそう簡単にはいかないというものだ。


何よりあの二人がいると小百合が妙な状態になる。なんというか借りてきた猫のようになるのだ。それはそれで面白いが緊迫した状況においてはあまり良い状態とは言えないのである。


一体どのような状況なのかもわからない中、すぐにでも食事を終わらせようと料理を口の中に放り込み続けていく。


これはこれで腹の具合が悪くなりそうだなと思いながらすべての料理を完食すると康太たちは支払いをすぐに終えて再び協会へととんぼ返りすることになる。


まさか一日に何回も協会に足を運ぶことになるとは思っていなかっただけに、通り道にしている教会の神父からは若干怪訝な表情をされたのは言うまでもない。


「お待たせしました。遅れてすいません」


「きたか・・・とりあえず状況を説明する。ついてこい」


康太たちが小百合の後に続いて移動するために門をくぐると、その先には支部長が待っていた。


すでに現地に一番近い教会にたどり着いたのだろう。状況が早すぎて康太たちは若干めまいがするが、そんな弱音を吐いている状況ではないのはすぐに理解できた。


なにせこの教会内だけでも十数人の魔術師が待機しているのだ。今まで康太たちが関わってきたどの状況よりも切迫しているという事を想像するのは容易であった。


「クラリス、来たか。状況は伝わっているね?」


「あぁ・・・まさか私の代でまた起きると思っていなかったがな・・・とりあえずこいつらを連れて対応に当たる。周りにいる奴らは使っていいのか?」


「あぁ、とりあえず手の空いている魔術師全員に声をかけたつもりだ。君の好きに使ってくれ・・・本当なら君のお師匠様に頼めればよかったんだが・・・」


「あの人はもうすでに現役を引退している身だ・・・一応必要な技術はすべて継承している。私でも代役くらいは務まる」


「すまない・・・こちらの対応は任せてくれ。可能な限り騒がれないように手を打つつもりだ」


「そうしてくれないと困る。なにせ規模が規模だからな・・・」


康太たちからすれば一体何の話をしているのかさっぱりなのだが、この口ぶりから察するに相当面倒なことが起きているという事はわかる。


今までにない緊迫具合に康太たちは僅かに冷や汗を流していた。


「あの・・・師匠・・・そろそろ説明を・・・」


「・・・あぁそうだったな。端的に言えば封印指定百七十二号が出現した」


封印指定。その言葉を聞いて文と真理はあからさまに驚いたようなそぶりをしたがそう言った事情に詳しくない康太は疑問符を飛ばすことしかできなかった。


小百合もそれ以上のことをこの場で説明するつもりはないらしく、まずは現地に向かう事を優先するつもりのようだった。


各自グループを作り、それぞれがそれぞれの手段で現地に向かう中、小百合、康太、真理、文の四人はタクシーを使って現地に向かうことにしていた。


タクシーの運転手に暗示の魔術をかけてこれから話すことを全く認識できないようにしたうえで小百合はようやく状況の説明をしてくれるようだった。


「とりあえずまず疑問から解消しておこうか。ビー、先の説明で分からないことは?」


「分からないことしかないです。そもそも封印指定って何ですか?」


名前からして既に中二臭い内容であることも、そして明らかに良い印象を受けないであろう表現という事もあってある程度予想はできていた。


「封印指定とは文字通り、魔術協会が封印しなければいけないと指定した事項のことを指す。それは時に人物であり現象であり魔術であり、まぁ要するに貴重だったり危険だったりするものだと思えばいい」


「・・・ひょっとして禁術的な話ですか?」


「察しがいいな。禁術の中のいくつかは魔術協会が封印指定をしたものも含まれている。俗世に触れることのないように文字通り封印する。今回発生したのはその封印指定の百七十二番目に指定された事項という事だ」


百七十二番目の封印指定というのがどれくらいすごいのかはわからないが、とりあえず康太は文と真理の方に視線を向ける。


タクシーの中という事もあって二人は仮面を外しており、その表情を見て取れるが少なくともあまり顔色がいいとは言い難かった。


「二人はその百七十二号について知ってるのか?」


「私は知らないわ。とりあえず封印指定ってのが相当面倒なことだってのはわかる。一般的な表現で言うなら国際的な指名手配をされてるようなものだと思えばいいわ。目撃証言だけで数百万貰えるレベルのね」


「・・・そりゃ凄いな・・・極悪人ってレベルじゃないぞ」


目撃証言だけで数百万貰えるというと一体どれだけの悪事を働けばそれほどの極悪人になれるのか康太は想像することもできなかった。


そんな事件に今から関わらなければいけないのかと今から気が重いが、康太と文が抱える不安に比べると、真理や小百合が抱えるそれは全く別物のように感じられた。


「・・・なるほど・・・確かに百七十二号が出たとなると解決は難しいかもしれませんね・・・というか本当に師匠だけで平気なんですか?」


「・・・問題ない・・・と言いたいが正直不安はある。可能なら師匠にも来てほしかったがこればかりは仕方がない。いや師匠がいても解決は難しいかもしれんな・・・」


智代がいても解決が難しいという状況に康太は先程までの認識をだいぶ改めていた。


もし相手が人であるなら智代がいれば恐らくおつりがくるレベルだ。なのに彼女がいても解決できないとなると相手が極悪人という単純な図式では成り立たないということがわかる。


一体どういうことなのだろうかと首を傾げているとその様子を見て真理が助け舟を出してくれる。


「その百七十二号というのはかなり前から協会内で問題になっていまして・・・誰も解決できたことがないんです・・・師匠の・・・智代さんでさえも・・・」


智代でさえも解決できなかったという事実に康太は眉をひそめてしまった。彼女にさえ解決できないのかという驚きと僅かな疑いを向けてしまうが今この場で彼女が嘘をついても仕方がないという事はわかっている。だから素直に聞くことにした。


「その百七十二号っていったいどんな相手なんですか?あの人よりすごいって・・・」


「・・・端的に言えば、あれは人じゃない。魔術・・・いや、一種の現象というべきなのかもしれないな」


小百合の言葉に康太と文はさらに疑問符を浮かべてしまう。一体どういうことなのだろうかと混乱してきてしまうほどだ。


年末なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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