面倒事が増える夏
夏休みのその日、その住宅街には異音が響いていた。
日差しが照りつけ周囲に蝉の声が満ちる中でその異音は確実に平穏な日常を侵食している。
見る人間が見たらきっと青ざめるような光景、それを認識できているのは今のところ一人しかいない。
偶然居合わせた魔術師、彼はこの状況を少しでも何とかしようと魔術を発動し続けていた。
この近辺に一般人が入り込まないように結界を張り、なおかつこの音や光景を他者が認識できないように魔術を発動し続けている。
だがこれほどまでの広範囲をそう言った結界魔術で覆い続けるのは僅かにではあるが彼のスペックを超える行為だった。
同時に発動することに関しては問題なく維持できている。だがそれを維持するための魔力が僅かに足りないのだ。
全力で魔力を補給しても徐々にその総量は少なくなり続けている。協会に連絡してすぐに協力員を差し向けるという話だったが、すでに数十分はこの状態が続いている。
いっそのこと戦っている二人が、早々に決着がついてしまえばそれで事件は解決するのだろうが良くも悪くも二人の実力が拮抗していることもあってなかなか勝負がつかない。
このままでは魔術の存在が露呈してもおかしくない。これはもうだめかもしれないとあきらめかけた瞬間、自分のそばを駆け抜ける二人の影があった。
この場所には一般人が入り込めるはずがない、その事実を証明するかのようにその両名の顔には仮面がつけられていた。
「人避けの魔術は引き継ぎます。貴方は引き続き他の隠匿魔術の維持をお願いします」
不意に背後から聞こえてきた女性の声に、魔術師は安堵の息を吐く。間に合ったのかと。
そして戦っている二人の魔術師に向かっていった魔術師二人はそれぞれ武器を持って状況の制圧に向かっていた。
「ビー、そっちは任せる。私はこっちだ」
「了解、お気をつけて」
「誰に口をきいている。すぐ終わらせるぞ。相手の無事は問わん」
迷惑をかけた分徹底的に教育してやれと小百合らしい言葉を放ちながらその仮面の奥では眉間にしわを寄せているだろう。
こんな状況になってもまだ戦いを止めない魔術師としての自覚の欠如した人間を粛正するつもり満々のようだった。
そして康太も同じように考えている。なにせこんな急に呼び出されたのもあの二人のせいなのだ。
康太は再現の魔術を発動し空中に疑似的に足場を作りながら相手のいる屋根の上へと跳び上がる。
戦っていた魔術師は相手の方に集中していたのだろう、康太が現れているにもかかわらずその反応がだいぶ遅れたようだった。
そして康太と同時に現れた小百合の姿にも動揺しつつ反応しているようだったが、圧倒的に反応が遅い。
康太は一気に接近すると同時に槍を振り回しながら再現の魔術を発動する。
拳の大量再現『ラッシュ』そして槍自体を振うことによってその魔術師の脚部を傷つけながら相手を吹き飛ばしていた。
だが康太の攻撃はそこで止まらない。康太はさらに魔術を発動した。今まで使えなかった魔術、そう、ようやく実戦投入できるようになった魔術だ。
康太がまるで野球のバットのように思い切り腰を入れて槍を振り回すと、吹き飛ばされて康太とだいぶ距離が離れていた魔術師の頭部に強い衝撃が加わる。
まるで康太の振るった槍が遠くにいる魔術師にも届いたかのようだった。
康太が修得していた魔術は『遠隔動作』自らが行った動作を任意の座標に念動力として発動できる魔術である。
再現の魔術を別の位置でできるようになったと考えていいだろう。再現が動作をストックしておけるのに対してこの遠隔動作は動作のストックはできないが、現在行っている動作を特定の場所に念動力として発動することができる。殴る蹴ると言ったことだけではなく掴む、投げると言った行動も取れるなかなかに汎用性の高い魔術だ。
当然康太はそこで攻撃を終わらせるつもりはない。魔術師がある程度攻撃したところで止まらないのは今までの経験で既に十分以上に理解している。
康太は一枚の鉄板を取り出して魔術師めがけて投げつけると同時に先程発動したのと同じ遠隔動作の魔術を発動する。
片腕でその魔術師の胸ぐらをつかみ、もう片方の手で魔術師に投げつけた鉄板をとるとその腹部へと押し当てる。
そして遠隔動作の魔術を一度解除すると同時に蓄積の魔術を発動した。
鉄板に込められていた物理エネルギーが解放され、魔術師の腹部へとめり込むように直進し強烈な打撃を与えていた。
腹部にダメージを与えたことで顔が前に出た瞬間、康太は遠隔動作を用いてその顔面めがけて思い切り蹴りを放つ。
腹部と顔の連続攻撃を受けた魔術師は完全に意識を喪失したのかそのまま屋根の下へと落下していった。
屋根から落下していった魔術師を後ろに控えていた真理が回収すると同時にどうやら小百合も戦闘を終えたようで地面に魔術師を転がしながら大きくため息をついていた。
「上手く発動できていたようだが、随分と回りくどい使い方をしたものだな」
「ははは・・・これでもだいぶ頑張ったほうですよ?あとはもっと練度を高めるほかないですね」
先程康太が使った遠隔動作の魔術、これはただ発動するだけではなく座標をいちいち入力する必要があるのだ。
その為に特定の場所に必ず発動できるようになるまで康太はだいぶ苦労していた。発動はできるのに思うように使えない、これでは実戦では役に立たない。そう言う事もあって今まで使用を禁止されていたのだ。
だがこれで康太の実戦で使える魔術は分解、再現、蓄積、肉体強化、炸裂障壁、遠隔動作の六つになったことになる。
「すまない・・・助かった・・・」
「気にしないでくださいこちらとしても魔術の露呈は良い事態ではありません。それよりもありがとうございました。これまで押さえていてくれて」
「本当だったら止められれば良かったんだが・・・自分の実力不足だな・・・」
この場を隠匿し続けた魔術師はだいぶ疲労しているようだったが、それでもこの状況を隠すことができて良かったと考えているようだった。そしてその反面自分が隠すことしかできなかったという事実に歯がゆくも思っているようである。
これだけの時間魔術の存在を隠し続けたのだ。十分評価に値すると思うがどうやらそれでは満足できないらしい。
「だが相手の打倒よりも魔術の隠匿を優先するあたりまだましな判断だ。少なくともこのバカどもよりは」
「・・・それはそうかも・・・って・・・お前はデブリス・クラリス・・・!?なぜお前がここに・・・?」
「こいつらを止めるためにやってきたに決まってるだろう。今協会はただでさえ人が足りていない。私が駆り出されるのも仕方がないことだろうが」
どうやらこの場を止めていた魔術師は小百合のことを、というかデブリス・クラリスのことを知っていたのだろう。いや魔術協会の日本支部で小百合のことを知らない人間などもしかしたらいないのかもしれない。彼女の悪名はそれほどまでにとどろいているという事でもある。
それが喜んでいいことではないのは確かだが話が早いのもありがたい。
「とりあえず私たちはこいつを協会に連れていく。お前はこの後始末でもしていろ。その後は協会で詳しい事情聴取になるだろうから出頭するのを忘れるな」
「・・・お前がこうやってまともに行動していると裏があるのではないかと疑ってしまうな・・・」
「疑うなら勝手に疑え。ジョア、ビー、さっさと行くぞ」
完全に気絶している二人を引きずりながら康太たちは協会に向けて移動を始めた。どうやら魔術協会で専用の車を回していたのか、近くにはタクシーが一台待機していた。一応真理が万が一のことを考えて暗示をかけると最寄りの教会まで移動し、魔術協会の日本支部になんなく到着することができた。
小百合たちが戻ると何人かの魔術師が連れてこられた魔術師二人の治療に取り掛かった。
小百合の方は徹底して打撃を与えられている。顔もそうだが恐らく何本か骨が折れているだろうことは容易に想像できた。
康太の方はそこまで重症ではないにしろ全身に多く打撃を受け恐らく脳震盪を起こしているのだろう。放置していても命に別状はないかもしれないがそれにしたって酷い有り様であることに変わりはなかった。
「にしてもビーもだいぶ早く攻撃できるようになりましたね。あれほど早く魔術師を片付けられるとは思っていませんでしたよ」
「いや・・・今回はほぼ不意打ちでしたからね。一方的に攻撃できればそこまで難しくはないと思いますよ」
康太のいうように今回はほとんど不意打ちに近い攻撃だった。その為相手は全く警戒しておらず、その隙を突くことによって一方的に攻撃することができたのだ。
康太は攻撃力に関しては普通の魔術師に匹敵するものを持っている。なにせ今まで攻撃に関する魔術しか覚えていないのだ。しかも攻撃力の高いものから汎用性の高いものまでより取り見取り。はっきり言って攻撃だけなら他の魔術師にも引けを取らないだろう。
その康太が不意打ちを仕掛けることができる状況であれば相手の魔術師を一方的に攻撃することはそこまで難しくない。
「でも今日は鉄球は使いませんでしたね?あれは何か意味が?」
「あぁ・・・一応住宅街だったんで周囲の家への被害とあとは無駄な怪我をさせないってのがあります。今回使ったのはこれでして・・・」
康太は先程使ったのと同じ鉄板を取り出す。若干ではあるがフリスビーのような、片方に歪んだおわん型のような形をしているこの鉄板には片面に蓄積の魔術によって物理エネルギーを蓄積してある。
これを解放することによって鉄球のように相手の体にめり込むような、銃弾に近いダメージではなく拳に近い打撃ダメージを与えることができるのである。
もちろん鉄板であるが故に面積が広く、与えられるダメージには限りがあるが、それでも『手加減』に近いダメージを与えることはできる。
何より康太も蓄積の魔術を覚えてだいぶ日が経つ。どれくらいのエネルギーを蓄積すればどれくらいのダメージを与えられるかという事は徐々にではあるが確実に学習しつつあるのだ。
自分の持っている魔術を少しずつではあるが確実にものにしつつある。このままいけば一人前になるのもそう遠い話ではないだろうなと真理は思いながら仮面の奥で微笑みを浮かべていた。
「とりあえずあのバカの所に報告に行くぞ・・・まったく・・・今日の予定が完全に狂ってしまった・・・」
小百合としては何か予定を組んであったようなのだが恐らくは康太の訓練の事だろうと思いながら彼女の後に続いていく。
もしかしたらまだ何かあるのかもしれないと思いながら康太たちは小百合の後に続いて支部長室へと向かっていった。
この後、康太と真理は今回の件の事後処理の書類に追われることになる。
当然師匠である小百合がそんなことを手伝ってくれるはずもなく、後始末は弟子がやるというさも当然の小百合の対応に康太と真理は涙を流すこととなる。
予定が狂ったというが、正直こっちのほうが予定外だったと康太は大きくため息をついていた。
康太が思っていた以上に、夏休みというのは多忙を極めた。まだ夏休みが始まって、漸く八月の第一週に差し掛かろうとしているところだと言うに既に康太たちが駆り出された魔術師の面倒事は四件に上っていた。
毎度毎度小百合、真理、康太の三人で行動できるはずもなく、時には小百合だけ、あるいはエアリスや文と行動する時もあり、康太の夏休みにおける魔術師としての行動はかなり濃密なものになっていた。
今のところ戦闘一件、ごたごたが三件と、そのどれもで魔術師同士のいざこざが発生していた。
その日も康太は文と真理と一緒に魔術師同士の実験で駆り出されていた。
何でも片方が行おうとしている実験がもう片方の実験を大きく阻害しているのだとか。康太では詳しい魔術の実験の内容に関してわからないために文と真理にそのあたりを解析してもらいながら康太は二人の魔術師の言い分を聞いて何とか折衷案を出せないか思案していた。
「なるほど・・・確かにせっかく方陣術を仕込んだのに今さら移動するというのは難儀ですね・・・あれは建物そのものを利用して使うものって言ってましたよね?」
「あぁ、平面ではなく立体的に、この辺りの地形そのものを利用した方陣術だ。あぁ安心してくれ、とりあえず危険なことはないように協会からの許可も受け取っている」
「そのあたりはすでに確認済みです・・・そしてそちらの方の魔術では上方から地面に向けての魔術発動に当たりその術式が邪魔になってしまうと」
「そうよ、完全に阻害するわけではないけれど明らかに邪魔になるのは間違いないわ。立地的にこの辺りじゃないと高い場所から地面を見下ろすのって難しいし・・・何よりこの辺りが一番この魔術に適してるのよ」
理屈はわからないがどちらの魔術もこの場所を使う事で実験することが可能なのだという。その為にどちらかが退くという事も難しい。二人とも社会人であることも相まって日にちをずらすという事も難しそうだ。
発動したら一日から二日は経過観察をしたいらしく、折衷案を出そうにも状況は完全に行き詰ってしまっていた。
魔術の専門知識のない康太ではこの状況を変えるのはほぼ不可能だろう。しいて言えば後者の魔術師の術式の方がまだ移動できるというところか。前者の方はすでに方陣術を用意してしまっている。これだけの規模の魔術を用意するだけの労力を考えるとなかなかどっかに行けとは言いにくい。
「ていうか、事前に下見とかしなかったんですか?これだけの規模だと結構前から仕込んであったみたいだし・・・そう言うの気付かなかったんです?」
「私だっていろいろ忙しかったのよ。術式を組み立てるので精いっぱい。この場所はネットで探したから現地で見たのは今日が初めてなの」
社会人という事もあり平日はほとんど動けない。最悪休日でさえ働かなければいけないのが社会人というものだ。
本当なら実際に赴いていろいろと確認もしたかっただろうがそう言う事情があるのではこれ以上どうしようもない。
きっとこういう時小百合だったら『面倒くさいからお前ら二人とも術の実験中止しろ』とか無茶苦茶を言い出すのだろう。
こういう時に限っていない師匠を恨めしく思いながら康太は歯がゆそうに頭を掻きむしっていた。
「調べ終わったわよ。確かにこの規模じゃちょっと移動は難しいわね・・・」
方陣術の方を調べていた文は周囲に張り巡らせてある方陣術を見ながらため息を吐く。彼女としてもこれほど大規模な方陣術を実際に見るのは初めてなのだとか。
術式自体は協会に報告し正規の実験として取り扱っている安全なものという事もありそこまで驚くことではないらしいが問題はその規模だ。これだけの大きさの物を作るのも使うのもだいぶ骨だという事である。
「これだとやっぱり自由に動ける方に動いてもらうしかないと思うんだけど・・・」
「そんな!私今日と明日しか休み取れてないのよ!?今日発動できないとまともに経過観察もできないわ!」
「そのことなんですけど・・・こちらはどうですか?協会の門を使えばここから一時間程で到着できます。今協会の方に報告して門の使用許可は取れましたけど」
文の提案に対し今度は調べものをしていた真理が携帯を取り出して女性の魔術師の方に提示する。
そこにはこの場所と似通った、それでいて今のところ魔術師のいない場所、しかも協会の門を使えばそこまで遠くないという好立地な場所が提示されていた。
「どうでしょう?今回の実験はここにしては?条件はこの場所とほぼ同じ、高さはむしろこちらの方が高いくらいですが?」
「・・・ん・・・確かにここでもいいかもしれないけど・・・」
「早めに決断された方が良いかと思われます。すでに正午です。ここから移動するとして経過観察をするとなると早めの方がいいですよ。それにこの場所の近くには温泉などもあるそうですし」
「・・・わかったわ・・・それで手を打つ・・・あぁもう・・・すぐ移動しなきゃ」
女性の魔術師はすぐに荷物を整えて移動を始める。仲裁していたこちらへの礼も謝罪もなしに移動を始めるその姿は何ともせわしない。
そして取り残された男性魔術師と康太たちは大きくため息をついていた。
「ありがとうな、君らのおかげで助かったよ」
「いえいえ、荒事にならなくて何よりです。それでは協会へ報告をしますのでこちらにサインをいただけますか?」
真理の流れるような交渉術に康太と文は舌を巻きながらその様子を眺めていた。面倒事やその後始末に慣れているなぁと心の底から感心するばかりである。
「それにしても姉さん凄かったですね。なんかすごいやり手って感じでしたよ」
「いやぁ・・・まぁ師匠の後始末とかを結構やっていたので・・・それで慣れてしまっているんですよ・・・」
「にしても手際よかったですね。あんな風にパパッと解決できるなんてあこがれちゃいます」
「ありがとうございます。経験を積めば誰でもできる事ですよ」
康太たちは先程の一件が片付いた後協会に報告しに行き、小百合の店に戻る前に昼食をとるためファミレスに寄っていたのだ。
夏休みという事もあり自分たち以外にも学生らしき客はそれなり以上にいるが、康太たちもただの学生に変わりはない。一般的な夏休みの風景に混ざることで特に何の問題もなく昼食をとることができていた。
「でもあの短時間でよく別の場所を見つけられましたね?術式調べてからそこまで時間たってなかったのに」
「ん・・・まぁああいうのはコツがあるんですよ。術式自体も難しいものではありませんでしたから後はその条件にあてはまる地形があるかどうかを探すだけです。彼女が求める地形もある程度把握できていましたしね」
「その術式の理解と術者の思惑をすぐに反映できるのは凄いですね・・・さすがというかなんというか・・・そう言うのも後始末の中で学んでいったんですか?」
「そう・・・とは言いたくないんですが大体合ってます。あの人の弟子をやっていると必然的にいろいろと巻き込まれることが多いので経験と知識ばかり増えていくんですよ」
本当はよいことなのでしょうが・・・あまり誇りたくないところですと真理は呆れながら注文したパスタを頬張っていた。
小百合の弟子という時点で確かにいろいろな面倒事に巻き込まれることになる。主に彼女の人間関係、いや魔術師としての関係についての話になるのだが、今までの小百合の素行からも分かる通り彼女は敵が多い。
少し出かければ襲撃されその後始末をさせられる。ちょっと用事があれば面倒事が発生してその後始末をさせられる。小百合の兄弟弟子に引き合わせられればその兄弟弟子からも面倒に引き合わせられて何かやらされる。
今まで真理はそんな状況を一人でこなしてきたのだ。経験も知識も豊富になるというものである。
どちらかというとそうならざるを得なかったという面もあるのだろう。いつの間にかそうなっていたという表現も否定しきれないのだが。
「でも今年の夏はなんだかいざこざが多いように思いますね。少なくとも去年よりも師匠や私たちが駆り出される数が増えてる気がします」
「あ、やっぱり多いんですか?まだ八月に入って少ししか経ってないのに四件目ですからね・・・今まではどうだったんだ?文とかは駆り出されることあったのか?」
「私も今年に入ってからよ。それまでは師匠が動いてたからね。高校に入るまではじっくり実力を付けさせるのが私の師匠の方針だったのよ」
「やっぱりエアリスさんはうちの師匠とは大違いだな・・・」
自分の師匠との違いをかみしめながら康太も自分が頼んだドリアを口に入れていく。ファミレスの定番メニューというやつだ。康太としてはそこまで動いていないためにあまり多大な栄養補給が必要ないのである。
「そういやエアリスさんはどうしてるんだ?前一回手伝ったけど」
「結構忙しそうにしてるわ。私が高校に入ったからっていうのもあるんだろうけどね。倉敷のやつを助手扱いして連れ回してる」
「あっはっは・・・まぁあいつとしてもいい経験じゃないか?」
以前戦ったトゥトゥエル・バーツこと倉敷和仁はもはやエアリスの助手兼手下のような関係に満足してしまっているのか、それが当たり前のような感じがしてしまっている。
彼女の命令はほぼ絶対のために従うしかないという状況なのだろう。
「あの人も結構やるなぁ・・・そう言うところはうちの師匠と似てるかな?」
「でもまだ甘い方ですよ。戦闘経験というのはあって困るものではありませんがあの人は実戦方式で学ばせることは案外少ないですからね。私たちの場合もこの前の一回しか戦う事がありませんでしたから、これからもっと面倒なことになりますよ」
「それって経験則ですか?それとも勘ですか?」
「どちらかというと私の勘です・・・たぶんですけどそろそろ師匠辺りから電話が来るんじゃないですかね・・・?」
そう言いながら真理はテーブルの上に自分の携帯を置く。
これでもし本当に電話がかかってきたら驚くところだが、さすがにそんなことはないようで三人は苦笑してしまっていた。
だがこれよりもっと面倒なことが来そうな予感がする。それは康太の中にもある予感だった。
今までは何とか話し合いでも解決できるレベルだった。小百合の下にやってくる面倒事がそんな生易しいものばかりであるはずがないのだ。
「でも確かにもっと面倒なのがやってくると思ってましたよ。幸彦さんとかも忙しそうにしてるわけですし・・・俺らの方に来ても不思議じゃないですよね」
康太が自分の携帯をいじりながらそんなことを言っているとやめてよねと言いながらも文も自分の携帯を取り出していた。
もしかしたら本当に自分たちの所に何か連絡が来るのではないかと思ってしまったのだ。
いつ来てもおかしくないだけに少しだけ心臓に悪いのだが、こうして何も反応がないところを見るととりあえず今は大丈夫だという事だろう。
「まぁそうそう私の勘が当たることはありませんよ。年に数回あるかないかですからね。そこまで心配する必要は」
ないですよといいかけた瞬間、真理の携帯が大きく震えだす。それが着信を知らせるものであるということに三人とも気付くことができていた。
そしてその相手の名前の表示を見て三人とも表情を曇らせる。
「・・・面倒事に一票」
「同じく・・・」
「・・・どうしてこういう時に限って当たるんですかね・・・」
携帯に表示された名前は康太と真理の師匠でもある小百合。そして彼女がわざわざ電話をかけてきた理由。それだけで嫌な予感がするのは仕方のないことだろう。
真理曰く年に数度しか当たらない勘はこの時見事に的中することになる。
年末年始+誤字報告十件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




