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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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戦い方の違い

「でも奏さんならこんな戦い方しなくても大抵の魔術師には勝てるんじゃないですか?すごい強いって康太が言ってましたけど」


「ふむ・・・確かにまともな戦い方をしても大抵の相手には負けんだろうな。事実それだけの実力はあるつもりだ」


自慢でも傲慢でもない。これは彼女が自分を客観的に評価しているものだ。事実彼女にはそれだけの実力がある。


慢心など一切ない。最近そう言った油断で康太相手に痛い目に遭わされているのだ。もはや彼女に慢心も油断も欠片もありはしなかった。


「だがな、一般的な戦い方というのはつまり、逆に言えば誰もが使うものだ。当然その攻略法もよく知られている。それに何より面白みがない」


「・・・面白みって・・・戦いにそう言うもの求めるんですか?」


「何を言うか。そう言った心象的なものは大事だぞ。自分が楽しめるか、あるいはいい気分で戦えるか、そう言ったもので調子というのが上がっていくことは多々あることだ」


調子というと非常に言い方が雑だが、確かに魔術師の戦いにおいて精神的なコンディションは大きな意味を持っている。


魔術を扱うのは自らの感覚と精神だ。それらの調子が落ちれば当然魔術だって精度が落ちる。


普段訓練でできていることができなくなることだってあるだろう。当たり前のように魔術が使えるだけの練度がなければ実戦で使うことができなくなるなどはよくある話だ。だからこそ小百合は康太に当たり前に魔術が使えるようになるまで訓練させているわけだが。


「自分の得意な戦い方というのも大事だが、自分の好みの戦い方というのを知っておいて損はない。そう言う戦い方をしていると自然と戦いやすくなるかもしれんな」


「得意な戦い方と好みの戦い方ってどう違うんですか?」


「まったく違う。得意なのは勝率に関わる方で好みなのは自分の調子に関わる方だ。相手との実力を鑑みてそのあたりは変えなければいけないが、その二つだけでも理解しておくといいだろう」


人によっては得意なものと好みなものが同じという事もあるがなと付け足しながら奏は横たわっている康太を軽く蹴っていい加減に起きるように言う。


康太もそろそろ回復したのか、よろよろと槍を杖代わりにして立ち上がっていた。


「まだ康太は修得している魔術も少ない。はっきり言って得意も何もないような状況だろうが、君はすでに魔術師としての基盤が出来上がっている。どのような戦い方が自分に向いているのか、そしてどのような戦いが自分の好みか、知っておいて損はない」


「はぁ・・・でもそう言うのってどうやって知れば・・・」


「簡単だ、戦っている時に戦いやすいのが得意な戦い方。一番楽しめればそれが好みの戦い方だ。まぁとにかく戦ってみるほかないだろうな」


そう言って奏は槍をおいて拳を軽く握って見せる。そしてその視線をまっすぐに文の方に向けていた。


「だがその前に、とりあえず先ほどの訓練のおさらいをするか。ピンポン玉と拳がどれだけ違うか理解させてやろう」


奏の言葉に文は身を強張らせていた。


先程までの訓練で文はだいぶピンポン玉の攻撃に関しては対応できるようになっていた。だが実際にはあれは人間の拳を想定したものなのだ。軽くはたいたくらいで叩き落とせるような攻撃を相手がしてくるはずがない。


ましてや康太を一方的に叩きのめすことのできるような使い手なのだ。生半可な攻撃をしてくるとは思えない。


文はとりあえず何時でも対応できるように身構えていた。ガードは高め、だが決して視界を制限しないように構える。


防御よりも回避を優先した構えであることは奏も理解できていた。


「さて・・・ではいくか・・・あまり早くやられてくれるなよ?」


その言葉を言い終えた瞬間、奏の拳が文の顔面めがけて襲い掛かる。先程のピンポン玉よりもずっと速いように感じられたが、文はその拳を自分の拳で受け流そうとする。


だが当然、ピンポン玉よりも重たい拳はそう簡単に軌道を逸らしてくれなかった。その為文はやや体勢を崩しながらもその拳を回避する。


するとその回避先を予測していたのか、もう一方の拳がフックに近い軌道で文の顔に襲い掛かる。


ここまではほぼ定石、文もほとんど予測できている動きだった。


腕を盾にするような形でフックを防ぎながらバックステップし、距離をとろうとするが奏もその動きを読んでいたのだろう。軽く前進し距離をつめながら再び拳での攻撃を繰り返していた。


文も徐々にではあるが拳の止め方、いなし方を学習しているのか最初の行程よりはだいぶ少ないモーションで攻撃を防げるようになっているようだった。


とにかく防御。


今の文の目標は気絶しないこと。倒されないこと。そして最後に常に冷静であり続ける事。


最初のピンポン玉の時もそうだったが、相手が少しでも予想外の動きをすると文は処理能力がだいぶ落ちる。


その為常に相手の動きを予測して行動する必要がある。


自分がこう動けば相手はこうしてくるだろうという事を一つ一つ予測して動かなければ体はそれについていかない。


拳を避け続けるという短い時間の中でそれをするのはなかなかにしんどかったが、それでも文は体と頭を動かし続ける。


その数分後、文は当然のように奏にノックアウトされてしまう。


だが今までとは違う点が一つ。文は最後まで冷静に対処できていたという点である。


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