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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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相対する魔術師

「とりあえず今日は魔術師との接触はありませんでした。魔力は可能な限り振りまいてきましたけど・・・」


学校帰りに康太は小百合の所に寄っていた。


今日起きたこと、自分がやったことをある程度報告すると小百合は小さくため息をついていた。


「まぁ、一日で接触できるとも思っていなかったが・・・まぁ初日ならそんなものか・・・高校はどうだった?」


「・・・まぁ、元からの知り合いもいたので問題はないです。一応部活にも入ろうかと思ってますけど・・・」


「ふむ・・・まぁ私生活にまでは私も口出しはしない。好きにするといい」


高校で魔力を振りまくように言ったのは私生活への口出しではないのかと思ってしまうが、もう一人の魔術師とやらに関わるためには必要なことかもしれない。


というか康太としては別にもう一人の魔術師にわざわざ関わる必要もないのではないかと思えてしまう。


序列がどうのこうのと言っていたが、二か月前に魔術師になった康太からすればはっきり言って自分よりも劣った魔術師がいるとも思えないのだ。


普通に自分が下でもいいから平穏に暮らしたいものである。


無論そんなことが許されるような状況ではないことも十分に理解しているが。


「あの師匠・・・もしその魔術師が接触してきたとして・・・戦うことになるんですか?」


「そうなるだろうな。時と場所をどうするかはお前達が話し合う事だろうが・・・戦い方は教えただろう?」


「まぁ・・・そりゃそうですけど・・・」


この一ヶ月、康太は新たな魔術を修得すると同時にそれを応用した戦い方も徹底的に教え込まれていた。


ほとんど一方的な攻撃だったように思えなくもないが、少なくとも回避と自分の戦い方というものが少しだけ見えたような気がしなくもない。


だがやはりまだまだ素人に毛が生えたようなものだ。本物の魔術師に真正面から立ち向かえるとは思えなかった。


「何もパーフェクトゲームをしろとは言わん。お前の様な魔術師は恐らく『普通の魔術師』にとっては異端の存在になる。行動を予測させないことが一番重要になるだろうな。」


「要するに不意打ちしろってことですよねそれ・・・」


「相手の予想の裏を突く、そう言いかえればまだ聞こえはいいだろう?」


この一ヶ月教え込まれてきたことは、康太の兄弟子であるジョアこと佐伯真理からすればあり得ないような事だという。


普通の魔術師なら絶対に教えないようなことを小百合は自分に教え込んでいるらしい。


自分が魔術師としてまだまだ未熟であるからこそこのような対応をしているのかもしれないが、それにしたって兄弟子からあり得ないという言葉はききたくなかった。


二つの魔術しか使えない時点で真っ当な魔術師ではないかもしれないが、それでもかなりへこんだ一言である。


「とにかくお前はそのまま続けろ。そのうち向こうから接触してくるはずだ」


「わかりました・・・ところで相手の情報とかってないんですか?」


「あったところでお前はどうしようもないだろう?」


「いや・・・なんというか気構えだけはできるかなと・・・」


康太の言葉に小百合はどうしたものかと悩んでしまっていた。


あまり情報を与えすぎても康太のためにならないと考えているのだろうか。こちらとしては相手の情報がすべてあって初めて対等、いや情報があったとしてもまともに戦えるかどうかも分からないのだ。はっきり言ってわらでも掴むような気持である。


「そうだな・・・じゃあ一つだけお前に良いことを教えておいてやる」


「なんですか?相手の弱点とかですか?」


そんなもの教えるかバカ者と小百合は康太を嗜めながら温かい茶の入った湯呑を差し出してくれる。


こういう気づかいはできるのにどうしてこうも攻撃的なのかと康太は眉をひそめていた。


「じゃあなんです?外見とかですか?」


「いいや、相手の魔術師としてのランクだ。まぁ正確に言えば素質のランクといったほうがいいか」


素質のランク


それは康太も測定した魔術師として必要な三つの才能、供給口、貯蔵庫、放出口の総合値を表したものの事である。


ちなみに康太はC-。平均よりやや下の適正となっている。


「・・・俺より下・・・なんてことはないですよね。」


「当たり前だ。お前より格上の方が圧倒的に多いぞ。その中でも今回の相手は格別と言えるだろうな」


小百合は笑いながらそれを示した。


それは康太にとって絶望にも等しい値と言えるだろう。


「今回お前が相手にすることになる魔術師は、Aランク。つまり魔術師としてはかなり上等な存在になる。」


康太の記憶では、確か最高評価がS、その次がA+、その次がAだったはずだ。


魔術師のもつ素質のランクはS、A+、A、A-、B+、B、B-、C+、C、C-、D+、D、D-、Eという風になっている。康太は下から数えたほうが早い値なのであるそれに対して相手は上から三つ目


はっきり言って勝負になるような相手ではない。


三輪車が自動車に勝てと言われているようなものだ。最初から勝ち目がないのではないかとさえ思えてしまう。


そんな相手に対して叩き潰せというあたり、小百合はどこか頭のネジが吹き飛んでいるのではないかと思えてしまう。


「・・・Aランクって・・・俺よりいくつ上ですか?」


「お前がC-だから・・・七つ上だな。相当格上だ」


特に気にした様子もなくそう告げた小百合に康太はちゃぶ台に頭を突っ伏してしまっていた。


自分の魔術師としてのランクが低いということは十分理解していたが、七つも格上の存在とやらなければいけないという時点でもはや勝機は無いのではないかと思えてしまう。


だが相手が格上であるという事は最初から予想していたことだ。それを叩き潰せという事は小百合には何か策があるのだろう。


むしろ何も考えずに自分を戦わせようとしているのであれば本格的に抗議することも辞さないような状況だ。


「ちなみに・・・なんか勝算があってやらせてるんですよね?格上相手に対する秘策とか」


「そんなものあったとしても教えるわけがないだろう。私が戦うんじゃなくてお前が戦うんだ。そのくらい自分で考えろ」


これは後で確実に兄弟子の真理に報告しようと思いながら、実際の所康太はなんとなくこう反応されることはわかっていた。


小百合は基本師匠としてそこまで優しいタイプではない。死にかけるような目に何度あったことか。今さら小百合に師匠として、いやそもそも人としてのやさしさ自体期待などしていないのだ。


だがあてがわれている以上何かしらの勝算は掴みたいところである。何も得られずに戦いに臨むなどという事ははっきり言って避けたい。


「ちなみに、そのランクってどういうものであればあるほどランクが高いんですか?」


「ふむ・・・基本的に魔術師として『安定しているもの』ほどランクは高い。三つの素質のバランスがいい程高いランクになると言えばわかりやすいか?」


魔術師に必要な三つの素質。マナを吸収する供給口、マナを魔力に変え体内に留める貯蔵庫、魔力を体外へと放出する放出口。この三つの素質があって初めて魔術師となることができる。


つまりそのバランスがよければよい程、そしてなおかつそれぞれの素質が優秀であればあるほどランクが高いのだろう。


「・・・俺のは確か凄いアンバランスなんでしたっけ?」


「そうだ、お前は放出口と貯蔵庫はそれなり以上のものなのに対し供給口があまりにも弱すぎる。バランスが悪い、安定していないという意味でC-の評価という事だ」


自分の魔力の補充に時間がかかるというのはよく自覚している。魔力を満タンにするのにかなり時間がかかってしまうのだ。


安定していないという意味では確かにその通りだ。何より自分でもアンバランスなのは自覚している。


「じゃあ、Aランクの魔術師ってどんな素質の奴らなんですか?」


「そうだな・・・前にお前の素質を十段階で表しただろう?それで言えば全体的に八から十の値といったところか。魔術師の素質としては十分一流の部類だな」


一流


さしずめAランクが一流という事はBランクが二流、Cランクは三流といったところか。


さらにその上のSランクがいるという事を考えたくも無くなる事実ではあるものの、ますます勝算がないように思えてしまう。


一流の魔術師に対してこの間魔術師になったばかりのほぼ素人の三流魔術師(笑)状態の自分がまともに戦って勝てるとも思えなかった。


「あの・・・さすがに勝てないような気がしてきたんですけど・・・」


「何を言うか。お前は私の弟子だぞ。その程度問題ない」


「一体何の根拠があってそんなことを・・・」


相手が格上の場合、弱点を突いたり相性の良い状態でなければ普通は勝てない。地力での勝負になったらまず間違いなく話にならないのだ。


ここまで康太の勝利を信じてくれるのは嬉しくもあるが、はっきり言って無謀だとしか言いようがない。


「何か勘違いしているようだから言っておくが、この魔術師の素質のランクというのはあくまで素質でしかない。魔術師というものに対する適性でしかないんだ」


「・・・はぁ・・・それはわかりますけど・・・」


適性が高ければその分強くなれるのではないのかと康太が考えている中、小百合は康太の額に指をあてる。


「素質というのは才能ではない、あくまで可能性だ。魔術師の戦いにおいて最も重要なのは素質の優劣ではなく、いかに魔術を上手く扱えるかだ。たとえ相手がミサイルを、自分が拳銃を持っていたとしても、結局のところそれをどう扱えるかで勝敗は決まる」


「・・・つまり相手が格上でも魔術の扱い方によっては勝てると・・・そう言う事ですか?」


そう言う事だと小百合は自信満々に言ってのける。


一体何を根拠にと言いたくなるが、実際その通りなのかもしれない。小百合のたとえで言えば今回の場合はまさに武器兵器のそれだ。


相手は自分より強力な武器を持っている。そして自分は相手より劣った武器を持っている。


その武器を正しく扱えれば、相手よりもうまく扱えれば勝つ可能性は十分にあり得る。


素質というのはあくまで『どれくらい優れた魔術師になれるか』という指標でしかない。実際に魔術を扱うのは個人の問題だ。魔術師としての能力を完全に数値化できない以上、必ず穴は存在する。


「お前はまだまだ魔術師としては未熟だが、バカではない。どうすれば勝てるのか、どうすれば有利な状況を作れるのか、常に考えろ。もうお前にはそれができるだけの魔術を教えたはずだ」


小百合の言葉に康太は自分の手を軽く握りしめる。どうすれば勝てるのかを考える。考えたうえで実践する。それは容易ではない。それは十分にわかっている。


だが、ほんの少しだけ、本当に小さい、針の穴のような小さな光だが、勝機が見えたような気がした。


評価者人数が45人突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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[気になる点] 供給口をでかくすることはできないの?
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