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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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遭遇

「あれ?ビーじゃないか。どうしてここに?」


康太と文が支部長の元から戻っている道中、康太のききなれた声が聞こえてくる。振り向くとそこには魔術師装束を身に着けた幸彦の姿があった。


「あ・・・バズさん。どうしてここに・・・ってお仕事か」


「そう、夏だから忙しくなってきてね。回される仕事も多くてちょっと困ってるところだよ。いやぁまいったまいった」


幸彦は協会の仕事を比較的多く受けている。魔術師同士のいざこざを解決するようなことをしているために夏休みとなるとその仕事もだいぶ多くなるのだろう。その手には依頼書なのか書類の束が収まったファイルがある。


そして幸彦は康太の横にいる文の存在に気付くと僅かにきょとんとする。そしてそれは文も同じだった。この人は誰だろうかと小首をかしげている。


「えっと・・・ビー、この人は?」


「ビー、この人誰?」


「あー・・・そう言えば紹介してなかったか・・・とりあえずバズさん、こいつは俺と同盟組んでるライリーベルです。エアリス・ロゥのお弟子さんですね。ベル、この人は師匠の兄弟子の・・・えっと・・・」


「クレイド・R・ルィバズだよ。そうか、君がビーの言っていた子か」


幸彦の術師名をフルで覚えていなかった康太に代わって本人が自己紹介すると同時に文に手を差し出して握手を求める。


「初めまして、ライリーベルです・・・一体どんなことを言われてるんだか」


「すごくよく褒めてるよ。実力もあるし頼りになる魔術師だってね」


「・・・そこまで手放しでほめられると・・・恥ずかしいですね」


本人から直接ではなく誰かから聞いた話というのはどうしても真実味を帯びてしまう。康太も小百合もなぜ直接褒めないのだろうかと思ってしまうが、そのあたりは師と弟子は似るという事なのだろうか。


少しは真理を見習ってほしいと思いながら文は差し出された手を握り返す。


この人が小百合の兄弟子。そう思いながらその全身をくまなく観察する。


一見しただけでその体が隅々に至るまで鍛え上げられているということに気付くのに時間は必要なかった。


なにせ魔術師の外套を身に着けているにもかかわらずその筋肉がありありと自己主張しているのだ。


武闘派の魔術師であるとイメージできる、まさに戦いに生きている人物だという印象を受ける。だからこそこの紳士的な反応は少し意外だった。


「それにしても二人はどうしてここに?何か用事でもあったのかい?」


「あぁ・・・実は師匠の夏の予定表を出しに来まして。普段はいらないんですけどこの夏だけは特別らしくて」


「あぁなるほどね。確かに夏はある程度忙しくなるからなぁ・・・それにクララは協会には来たがらないし・・・あれ?ジョアは?彼女なら良く協会に来るだろうに」


「姉さんは今大学のテスト期間で忙しいんですよ。それで俺が駆り出されたんです・・・あとついでになんか俺に用件があったみたいで」


康太はそう言って先程支部長から渡された装備に関する書類の入った封筒を幸彦に見せる。するとなるほどねと言いながら幸彦は笑って見せた。いや仮面をつけているためにその表情はわからないが声音から彼が笑っているのだという事を察することができた。


「あの人が気を回したってことかな?いやまったく・・・どうやら本当にビーのことを気に入ったみたいだね」


「気に入ってくれるのはありがたいんですけど・・・すごく申し訳なくて・・・あとでちょっと電話するつもりです」


「そうするといいよ。それで君の方は?エアリスだったら別にここに来ることをそこまで嫌がらないだろうに」


「あ・・・実はちょっと私にも所用があったらしくて。その件で呼び出しついでにってことだったらしいです。ほとんど私事でしたけど」


「なるほどね。二人とも妙に気を回したのかな?どちらにしろなんというか・・・昔から行動が被るなぁあの二人は」


あの二人というのが小百合とエアリスのことを言っているのだというのは康太と文はすぐに理解した。


思えば幸彦は昔から二人のことを知っているのだ。あの二人が昔からの付き合いなのであれば幸彦がそれを知っているのも当然の事だろう。


「あの・・・クレイドさん」


「バズでいいよ、そっちの方が呼ばれ慣れてるし」


「じゃあ・・・バズさん、昔の師匠ってどんな感じだったんですか?私よく知らなくて」


「君のお師匠様はね・・・頭が良くて理知的で、とても優しい子だったよ。うちのクララとはよくケンカしてたけど・・・それでもあれはあれで仲がいいんだと僕は思ってるよ」


喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、あの二人に関してはそれは当てはまらないのではないかと思えてしまう。


小百合とエアリスは互いに互いのことを忌避している。犬猿の仲と言っても差し支えないほどの間柄だ。


「今はすっかり大人しくなってるけど、それでも昔はクララと一緒にやんちゃしたりしたものさ。懐かしいなぁ。僕たちも師匠もあの二人には手を焼いたものだよ」


自分達の知らない師匠の一面というものを知って文はへぇと感慨深そうにつぶやいていた。


確かに今のエアリスからは想像できない一面だ。てっきり昔は本を読んでいるのが好きな大人しい文学系少女だと思っていた。


だが実際は小百合と一緒に行動するほどに活発な性格だったのだろう。

人間どうなるかわからないというのはまさにこのことだ。


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