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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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情報収集と最悪の想定

『なるほど、それで電話してきたわけだね?』


「はい、夜分遅くに申し訳ないんですけど・・・」


康太はその日の部活が終わった後いつも通り小百合の店にやってきていた。そこである程度時間が経過したのを確認してから小百合の兄弟子である幸彦に電話したのである。


彼にも仕事があることを想定して二十時ごろに電話をかけたが、どうやら彼は時間に余裕があったようでそこまで康太を邪険にはしなかった。


事情を話して夏に発生しやすい魔術的な事件の事について聞くと、幸彦は記憶を引っ張り出しているのか電話の向こう側で唸っている。


『夏休みの間の事件かぁ・・・大体は魔術の暴発だとか魔術の実験に関してのものが多いかな。大抵そういうのを企む人がいるもんなんだよ。あとは個人間での争いがそれなりの数やってくるかな』


「魔術の暴発って・・・そんなことあるんですか?」


『うん、具体的に言うと実際の魔術というより方陣術のそれに近いかな?特定の条件によって発動するようにセットした魔術が設定ミスが原因で暴発。それの対処とか対応とかに追われることが多いかもしれないね』


方陣術は発動する魔術の内容だけではなく、発動するまでのプロセスや発動の仕方などもセットできてしまう。


良くも悪くも多様さを見せる方陣術だが一歩その扱いを間違えると先に幸彦が挙げたような暴発に繋がるらしい。


要するに制御できているはずの術が制御下を離れて勝手に発動してしまうのだ。

それが単発的な魔術ならばまだいい。それが永続的に、特定の条件下で発動し続ける魔術となるとそれを解除するのは骨が折れるだろう。


「今まで起きた夏の事件で、わざわざ師匠に頼むような事ってありますかね?」


『んー・・・難しいね。ぶっちゃけ難易度だけで言えばわざわざさーちゃんに頼むような事じゃないさ。問題なのは人手が足りないこと。だから仕方なしにさーちゃんに頼むのかもしれないね。あるいはまた別の理由があるかだ』


「別の理由ですか?」


『さーちゃんは良くも悪くも協会に名が売れてる。しかも協会に対してはマイナスイメージも強いだろう。そう言うのを少しでもましにするために動いてる人がいるんじゃないかな?問題を解決させていいイメージを作ろうとしてる人が』


幸彦の言葉に康太は一人心当たりがあった。


日本支部の支部長。小百合とも知り合いであり、康太が小百合の弟子となる最終的な決定を下してしまった人物でもある。


康太の協会内における評価に関してある程度色を付けてくれており、何かと優遇してくれている人物でもある。


なるほど、彼が小百合のイメージを少しでも良くしようとしているのであれば頷ける話だ。わざわざ頼む必要のない仕事を頼んで解決させて評価を上げようとしているのだろう。


昔からの付き合いだからか、それともただ単に小百合に個人的な借りでもあるのか。どちらにせよ彼が何かしら手を引いているのは間違いないだろう。


「じゃあ夏に師匠の所に来る依頼ってそこまで難易度は高くないんですか?」


『さーちゃんにしてみれば難易度は低いだろうね。ただ数はそれなりに多いから忙しくなるかもしれないよ?大抵協会の門は使えるようだけど、やっぱりそれにも限界があるからね。ある程度は自分で移動しなきゃいけないし』


協会にある門、転移の魔術の応用によって作り出された便利な移動手段。だがその性能は万能のものではないのだ。


どこにでも行けるというわけでもないし、ある程度出るところは制限されてしまう。


協会のゲートを敷設した場所に限られ、どうしてもある一定の地域になってしまう。


かつて康太たちが向かった長野県の一角にその門を設置できなかったように、どうしても門がない場所というものは存在する。


問題が発生した場所に一番近い門へ移動すれば移動時間を短縮できるのは間違いないだろう。だがそれから移動しなければいけないことに変わりはないのだ。


『康太君からしたら魔術師になってからの初めての夏休みだからね、いろいろ不安なのはわかるけどそこまで身構えなくても大丈夫だよ。そんな面倒事なんてそうそう起きないんだから』


「そう言うもんでしょうか・・・なんか妙に面倒に巻き込まれるような気がしてて」


『まぁ今までの平和な人生に比べればそう思うのも仕方ないかもね。でもそれが魔術師としての日常さ。早いうちに慣れておいた方がいいと思うよ』


今まで康太は何不自由ない生活を送ってきた。命に関わる危機が迫っているわけでもなく、日常的に死が隣り合わせにあったわけでもない


喧嘩だって満足にしたことはなかったし、あったとしても口論くらいのもので殴り合いまで発展することはなかった。少なくとも康太の記憶の中にはない。


その平凡で何も問題のない日常に比べれば、確かに魔術師の日常は物騒で血なまぐさくて危険なものかもしれない。


だが康太はすでに魔術師なのだ。いつまでも一般人気分でいるということはできないし、そんなものを続けているわけにもいかない。


『とりあえず何か心配だったり聞きたいことがあったらまた連絡してよ。協会内での話とか状況とかなら教えられると思うから』


「わかりました。ありがとうございます、こんな夜遅くに」


『はっはっは、頼られるってのは悪い気はしないもんさ。それじゃあいい夏休みを。さーちゃんにもよろしくね』


幸彦は快活な笑いを電話の向こう側から響かせた後通話を切った。何とも頼りがいのある人物だと思いながら康太は一息つく。


話しやすい人物とはいえ小百合の兄弟子、失礼があってはいけないとやや緊張しながら話していただけにその表情からは安堵のそれが見て取れる。


「なんだ、電話していたのか」


「あぁ師匠。幸彦さんに夏休みにどんな面倒事が来るのかリサーチしてたんです」


「リサーチしたところで意味があるとは思えんがな・・・毎回やってくるもめ事は千差万別だ。変わらないのは叩き潰した方が早いという事だけだ」


小百合に話を持っていく以上、恐らく支部長もある程度小百合でもこなせる問題を選んでいるのだろう。小百合が一方的に叩き潰しても一見すれば問題解決するような問題ばかりをあてがうこともできるかもしれない。


もっとも人手が足りない状況でそこまで器用なことができるかは甚だ疑問ではあるが。


「師匠・・・もう少し戦う以外の選択しないんですか?毎回毎回喧嘩腰じゃ敵が増えるばっかですよ」


「そんなことを言われてもな、その方が話が早いんだから仕方がない。魔術師というのは自分本位な人間ばかりだ。相手の都合なんていちいち聞いていたらいつまで経っても問題なんて解決しないぞ」


小百合のいう事もある意味もっともだ。問題が起きているという以上それぞれ、あるいはその魔術師は何かしらの目的や主張があって行動しているのだ。


第三者が介入し仲裁、あるいは中断を求めたところで止まるような聞き分けの良い魔術師がいるかは正直疑問である。


いや、そんな魔術師がいないからこそ小百合のような人間でも解決できるような状況になっているのだろう。


要するに力づくでの解決だ。


もしかしたら支部長はそれを目的としているのかもしれない。


小百合の評価を上げるだけではなく、目的を邪魔した対象を協会から小百合という一個人にすることで、ある種のスケープゴートにしているのかもしれない。


幸いにして、いや不運にして小百合は敵が多い。その敵が一人や二人増えたところで変わりはない。


協会という大きな組織に恨みを向けるよりも、小百合という一個人に恨みを募らせた方がまだ建設的だ。


そう考えると支部長が小百合に仕事を斡旋する背景が見えてくる。一石二鳥どころではない。三鳥、もしかしたら一石四鳥くらいの意味があるかもしれないのだ。


「それで勝てればいいですけど、もし勝てない相手に遭遇したらどうするんです?」


「私が勝てない相手などそうそういないぞ?私の師匠と兄弟子たち、そしてその知人が数名くらいだ」


「でももしですよ?師匠が戦っても勝てないような状況になったらどうするんです?師匠だって無敵じゃないんでしょ?」


いくら小百合が強いと言っても限界というものは存在する。


何故なら小百合は人間なのだ。どんなに努力しどんなに技術を修めどんな魔術を行使しようとその体が人間であることには変わりはない。


何人何十人何百人の魔術師に囲まれればいくら小百合とて勝ち目はないだろう。

結局のところそう言う事なのだ。一人の天才の力では複数人の凡人の力に劣る。どれだけ強力な魔術を使っても、攻略されてしまえば意味がない。


強力な兵器が一つだけあっても意味がないのと同じことだ。戦いとは数がいて初めて確実な勝利をものにできる。だが相手だって同じようなことを考える。数対数になれば当然数が多い方が、そして実力が高い方が、より連携できる方が勝つのは想像に難くない。


「無敵ではないのは相手も同じだ。それを理解したうえで突き崩す。今までそうしてきたしこれからもそうするだけだ。それにいざとなればお前達もいる」


それはつまり自分一人で戦うつもりはないという事だ。自分たちがはっきりと戦力に加えられているのだという事は若干迷惑にも思ったが、頼られているという考えをするのであればその言葉は若干嬉しくもあった。


どう反応したらいいのか困る言葉に康太は複雑そうな表情をしてから小さく長くため息を吐く。


「それって一緒に戦って一緒に死ねってことですか?」


「その逆だ。私を手伝って相手を潰せと言っている。お前だけならまだしも真理もいる。それにお前が動くとなれば同時に文も動くだろう。戦力としては十分すぎる」


同時に動くことができる戦力は数えられるだけでも四人。


小百合と真理、そして康太と文だ。


康太を魔術師としての一戦力に数えていいかは正直微妙なところだが、すでに実戦を経験し生き残っていることを加味すれば十分戦力に数えてもいいのかもしれない。


「それにもしもの時のことを考えて、夏の間は基本的に動くときは常に臨戦態勢だ。しっかり武装を整えていくからそのあたりは安心しろ」


「武装って・・・師匠が武器を使うってことですか?」


「そう言う事だ。すでにその準備は終えている」


今まで康太は小百合が戦ったところを見たことがない。いや正確に言えば実戦において小百合の戦いを見たことがないのだ。


今までの戦いの場では小百合は近くにいなかった。その為実戦において小百合がどのような戦い方をするのか全く知らない。


だが今まで行動していた中で小百合が武器をわかりやすく構えていたところを見たことがないように思える。


そう、彼女が最も得意とする刀剣の類に関しては特に。


「それでも不服というのなら・・・それはそれで仕方がない。最後の手段は考えてある。最低限、ことを終えることができる程度にはな」


「それって奥の手ってことですか?」


「そうだ。お前もいつか持つことになると思うが、私の持つ魔術の中にある『切り札』となる魔術だ。私も今まで実戦で一度しか使ったことがない」


それほどのものを使うことになる。小百合の言葉は康太を安心させるためのものだったのかもしれないが、その言葉は逆に康太を不安にさせていた。そんな魔術を使ったら周囲にいる自分たちもただでは済まないだろうなと、主に小百合の使う魔術に対しての不安だったのは言うまでもない。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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