巻き込まれる割合
「面倒が起きた場合、私はあんたと一緒に行動するけど、その時は上手くフォローしてよね?私まだ実戦経験ほとんどないんだから」
「はいはい・・・って言っても俺だってほとんどないってこと忘れるなよ?知識とか技術的な面はフォローしてくれ」
知識や技術では文の方が圧倒的に勝り、命がけの実戦経験は康太の方が多いのだ。
ここぞという時の胆力では康太の方が頼りになるかもしれないが、通常の戦いにおいては康太よりも多くの魔術を扱える文の方が頼りになるのである。
もっとも実戦は常に最良の状況を保って戦えるわけではない。そのあたりを彼女は理解しているのだ。
小百合との訓練ではまだほぼ一方的にやられる中で、康太はある程度抵抗できつつある。もちろんその抵抗も微々たるものだが。
なにせ康太は小百合やエアリスとの訓練だけではなく奏の所に行って訓練も始めているのだ。
実力的には半年ほど前に魔術と接触した少年とは思えないほどである。
「あんたのとこの師匠はどれくらい面倒に巻き込まれるって考えてるの?」
「二回か三回くらいだってさ。一ヶ月で巻き込まれる数としては多い方だろ。まぁ俺が弟子入りする前に比べると少ないらしいけど」
「あぁそう言えば師匠もそんな事言ってたわね・・・あの人でも最低限気を使ってるもんなのね」
康太が小百合の所に弟子入りしてから小百合は魔術師としての活動を控えているらしい。それまでは一ヶ月に数度程度は面倒事が舞い込んでいたらしいが、康太が弟子になってからはそう言うことはない。
彼女としても新しくできた弟子を守るという気持ちくらいはあるのだろう。そう言う事をもう少し表に出してくれるとこちらとしても察しやすいのだが如何ともしがたいものである。
「実際にどんな面倒が来るんだろうな・・・どっかに旅行もどきになるといいけど」
「えー・・・まぁそうなるかもだけど・・・私はこの近辺の方がありがたいわ」
「でもどうせ今回に関しては協会の門を使わせてもらえるっぽいし、その方が楽じゃないか?」
夏に小百合にやってくる面倒事は協会からの依頼が多い。そうなると彼女の力を借りるために協会は支援を惜しまないだろう。
もしなんだったら奏や幸彦に頼んで門を使わせてもらえるように頼んでもいい。いちいち既存の移動手段を使うというのは面倒極まるのだ。
「でも少なくともこの数日は面倒事は起こってほしくないわね。真理さんもテスト中だし、何より私も試合控えてるし」
「あぁそれは同意するわ。確かに姉さんがいるかいないかで安心感が全く違うからな。俺は今度の日曜に大会だけど、お前は?」
「私は今度の火曜日からよ。まだ地区大会だからそこまで大きなわけじゃないけど、とりあえずベストを尽くすわ」
今の時期はまだ大学生はテストの真っ最中だ。そんな中で面倒事が起きてしまった場合真理抜きで攻略しなければいけない。
小百合はさておき真理がいないというのはかなりの痛手だ。なにせ彼女程多くの魔術を保有し、なおかつ常識的な考えができる人物は康太の周りにはいないのだから。
「ところでお前の所の師匠は協力してくれないのか?やっぱうちの師匠がいるからって理由で無理か?」
「どうかしら・・・仕事の休みが重なればある程度手を貸してくれるかもしれないけど・・・でもまず間違いなく協力してくれないでしょうね・・・ていうかあんたの所の師匠と一緒にいる事さえ嫌がる可能性があるわ」
「あぁ、それはすぐ想像できるわ」
エアリスは本当に小百合を毛嫌いしている。そして小百合も同じようにエアリスを毛嫌いしている。
二人が同時に行動するなどということはまずないだろう。あったとしても敵同士として行動することになる。
まして協力などは絶対にありえないだろう。同じ空間に居る事さえ忌避するレベルで互いのことを嫌っているのに同じ問題を解決するために協力するなど想像もできなかった。
「でもさ、二人が協力しなかったら解決無理なレベルの面倒がやってきたら?」
「それは・・・うちの師匠の所にも協会から依頼が来ればあり得ない話じゃないけど・・・それでも相当の厄介ごとよ?少なくとも私達にできる事なんてなくなるレベルの話だわ。あの二人がいれば大抵のことは解決できるんだから」
文のこの評価は決して大げさなものではない。破壊に精通した小百合と、文にありとあらゆる魔術を教え込んだエアリス。二人がもし協力することがあればそれこそ解決できないような事件はないだろう。完全に互いを信頼した状態での協力に限られた話であるため現実的ではないにせよ、二人が協力しなければならない事件がやってくるなど想像もしたくない。
「今まで起きた事件とかって記録してあるよな?協会に行けば見れるかな?」
「見れると思うけど・・・そんなもの見てどうするのよ」
「いや、一応対策っていうかこういうことがあったぞ的なことがわかればある程度イメージしやすいじゃんか。どういう事件が起きやすいのかとかそう言う事」
「なるほどね・・・それだったら協会に関わってきた人に話を聞くのが一番かもね。専属の魔術師・・・に知り合いはいないし・・・師匠に頼まないとダメかな・・・」
協会に関わってきた人と聞いて康太はとある人物を思い出す。協会に協力して問題の解決などを行っていた人物は康太の身近に一人いる。幸いにして連絡先も確保しているのだ、話くらいは聞けるかもしれない。




