校内探索
康太と青山はとりあえず校舎の中を確認しながらいろいろと歩いて回っていた。
この学校にある校舎はいくつかあるが、そのどれもが二階や三階部分で渡り廊下でつながっておりそれぞれ行き来することができるようになっている。
校舎は学生などが教室として使っているのが二棟、そしてそれ以外の特殊教室などが配置されているのが二棟。
そしてグラウンドに体育館、それ以外の特殊な運動を行う場所が複数にプール等々、それぞれが向かいやすい場所に配置されていた。
「こうしてみると案外広いもんだな」
「そうだな・・・実際歩いてみると結構・・・」
康太と青山は自分たちに関わりのありそうな場所をひたすら歩き続けていた。
食堂、図書室、グラウンド、各種特殊教室。
それぞれを歩く中で何人か同じように学校内を歩いている生徒を見かけることができた。恐らくは自分たちと同じ一年生だろう。
新しい学校に来た途端にそれを調べようとする。まるで新たな家にやってきた際に無意味に歩き回る猫のようだと思いながらも、康太たちは自分の思うがままに動き続けていた。
そんな中、数人の女子グループを見つけることができる。
その中でひときわ目立つその少女を、康太も青山も視界の中に入れていた。
長くしなやかな髪、平均よりも少し高い身長に長い肢体。整った顔立ちに少し吊り上がった瞳。まるでモデルではないかと思ってしまうほどの外見だ。
近くにいる女子たちもそれぞれ整った顔立ちをしているが、その中で彼女は群を抜いていた。
美貌という言葉は彼女のためにあるのではないかと思えるほどだった。
その少女とすれ違った瞬間、康太は魔力を軽く放出して見せる。
もしあの中に魔術師がいれば反応するだろうという考えだったのだが、その反応を見るより早く隣にいた青山が急に肩を寄せてくる。
「今の見たか?すっげーかわいかったな!」
「あぁびっくりした・・・うちのクラスの子じゃないよな?」
すれ違った女子たちに聞こえないように小声で話しながら康太と青山はちらりと背後を確認する。腰まで届きそうな長い髪は後ろから見ても相当目立っていた。
だが康太達が会ったことはない、恐らくは別のクラスなのだろう。
「別のクラスの子だろうな・・・よし明日からちょっと情報収集しておく。あの子の名前だけでもチェックしておかなきゃな」
「わかったら俺にも教えてくれ。まぁお近づきにはなれないだろうけど」
「そういうことわかってても言うなよ、夢のないやつだな」
実際、かわいい子というのはたいていが頭がいいか運動が得意なイケメンの彼女になるのが相場というものである。
自分達は良くも悪くも平凡だ。別に頭がいいわけでも運動が得意なわけでもない。
康太の場合は少々特殊だが。
「でもあぁいう子と付き合えたら最高じゃね?高校生になったんだし彼女くらい欲しいよな」
「それは心から同意する。彼女欲しいよなぁ・・・」
自分に彼女ができたとして、たぶん魔術関係のことを知っていない限り面倒なことになるだろうなと思いついてしまう。
ただでさえ未熟な魔術師である康太は休日は基本魔術の修業を行っていることがほとんどだ。誰かと付き合うようなことになったとしてもそれをないがしろにするわけにはいかない。
そうでなければ確実に小百合にボコボコにされるだろう。
そもそも自分に彼女ができるのかという心配があった。部活動をしていた時にマネージャーなどと話したことはあるし中学の頃は女友達も何人かいた、だが一人として恋愛感情に発展することはなかったのである。
なんというか、仲良くはなれるのだがそれ以上が発展しないのだ。
それこそ劇的な何かがない限り、自分に惚れるような人間がいるとは思えなかったのである。
「そもそもどうやれば彼女ってできるんだろうな?」
「なんだよそれ哲学か?仲良くなればできるだろ?」
「仲良くなるのはいいんだよ、恋愛感情に発展させるにはどうすんのって話だ」
「あー・・・確かに・・・やっぱ何かしらの原因があるだろうな。こうロマンチックな何かが」
やっぱりそうかなぁと康太は腕組みをしながらため息をつく。
魔術師であるとはいえそれ以前に自分は高校生だ、人並み以上に青春を謳歌したいという気持ちがあるのだ。
それが可能か不可能かはさておいて、可能な限り真っ当な高校生活を送りたいものである。
「お前のために大会で優勝するとかそう言うのがあればバッチリかな?」
「ベタだな・・・ありがちだけど・・・でもそう言うのがいいのかな?」
「わかんねえよ。お前女姉弟とかいないのか?」
「・・・姉が一人いるな・・・今大学生だけど。」
康太には姉が一人いる。現在大学二年生で一人暮らし中だ。その為年末年始以来会っていない。
あまりいい思い出はないために会いたいとも思えないが。
「ちなみにお前髪長いのと短いの、どっちが好きだ?」
「俺は断然長い方だな。ポニーテールとかにしてくれると最高」
「あ?最高なのはツインテールだろ」
なんだとこらと自分の好きな髪形で思わぬ対立が生まれたものの、それは人それぞれだという事で笑いながらその場は流されてしまう。
そんな中康太に向けて視線が送られていることにまだ気づいていなかった。