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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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師匠の話

「昔はよく一緒に修業していたと言っただろう?あの二人には良くも悪くも世話になったものだ・・・特に・・・サリーさんにはな・・・あの人には武器の扱いを徹底的に仕込まれた・・・」


「あー・・・それは・・・なるほど・・・大変でしたね」


小百合と一緒に修業をしていたという時点で気づくべきだったかもしれない。かつて小百合は奏と幸彦と共に修業していた。つまりその時点で一緒にいたということは当然エアリスも二人の指導を受けたということになる。


「なに?その二人ってそんなにすごいの?」


「二人っていうより、一番弟子の人がすごいんだよ・・・週一で顔出しに行ってるけど、毎回毎回ぼっこぼこにやられる」


「週一で行っているのか?それは・・・本当に気の毒に・・・」


エアリスの苦虫を噛み潰したような表情に康太は乾いた笑いしか出せなかった。恐らく心の底から同情してくれているのだろう。その声と表情から昔の記憶を思い出していると同時に、それを週一で味わっている康太への同情心が彼女を襲っているのだ。


「丁度いい機会だから文、お前にも教えておく。あいつの兄弟子・・・『サリエラ・ディコル』には逆らうな。まず間違いなく敵う相手じゃない」


「・・・それって・・・師匠でも敵わないんですか?」


「恐らく足元にも及ばないだろう・・・あの人はあいつの師匠の魔術をすべて継承した天才だ。私たちが幼いころからすでにその頭角は現していたが・・・歳を重ねるごとにそれは如実に表れている」


「もう一人の方は?確かもう一人小百合さんには兄弟子がいるんですよね?」


「あの人は悪い人ではない。何かあれば助けてくれるかもしれないな。術師名は『クレイド・R・ルィバズ』協会の支部の中で時々仕事をしているのを見かけるかもしれん。暇なときにでも挨拶をしておけ」


二人とも敵に回さない方がいいという言葉に康太は苦笑してしまう。確かに二人はそれぞれ別の意味で敵に回さない方がいいだろう。


奏は単に実力やその危険性という意味で。


幸彦はその性格やコネなどから味方にしておいた方がいいという意味で。


どちらも敵にしない方がいいと言っていることは変わらないのにここまで意味合いが異なるのも珍しい。


だがエアリスがここまで二人を高く評価していたとは驚いた。


「ちなみに小百合さんのお師匠様は?やっぱりすごい人なんですよね?」


「あの人もあいつの兄弟弟子と同じように別格だ。少なくとも今この日本で・・・いや全世界の魔術師であの人に勝てるような人はそうそういないだろう。いや、あの人と比肩する人物がいるかどうかも怪しいものだ・・・」


少なくとも私はそのような魔術師は見たことがないなと言うエアリスの言葉に文は疑いの表情を、康太も若干ではあるが過大評価ではないかと思って複雑な顔をしていた。


実際に会ってみてその得体の知れなさにも似た何かを感じ取ってはいたが、智代がそれほどに恐ろしくも素晴らしい魔術師であるという印象は受けなかったのだ。


この辺りは実際に戦ったことのない、また戦っているところを見たことがない康太からすれば分からないことでもある。


「勝てないってのは・・・実力的な意味で、ですか?」


「そうだ。他の高名な魔術師は背後関係やその同盟関係、あるいは技術、知識、他にもいろんな意味で敵に回すといろいろ面倒なことになる方が多いが、あの人の場合は単純に実力的な問題だ。単独の戦闘能力であの人の右に出る魔術師は少なくとも見たことがない」


戦いにおいて優先されるのは何も戦闘能力だけではない。その為戦いを回避する理由にもいろいろあるのだ。


戦略的、あるいは文化的な理由から戦いを避けるというのは往々にしてあることだ。


例えば康太が以前会ったことのあるジャンジャック・コルトこと朝比奈がそれにあたる。


彼は卓越した方陣術の技術を持っている。そして彼の性格上敵が少なく味方が多い。その為彼は実力よりもその技術や味方の多さから敵にしない方がいい魔術師にカウントされる。


だが小百合の師匠はそう言った事情は一切存在しない。彼女の場合は単純に実力のみ、ただそれだけで敵にしてはいけない存在であると認識されているのだ。


「そんなにすごいんですか?パッと見ただのおばあちゃんでしたよ?」


「・・・パッと見、という事は君も底知れない何かは感じ取ったという事だろう?」


「・・・まぁ・・・それは・・・」


確かに康太は智代から底知れない何かを感じ取った。その瞳と存在感を感じ取りただの老婆ではないことを理解した。


確かにエアリスのいう事も間違っていないだろう。何より奏たちをあそこまで育て上げた人物だ。実力がないはずがない。


「でもそこまで凄い人なんて・・・なんかエピソードとかないんですか?」


「エピソード・・・そうだな・・・一時期日本支部は二つに分かれていてな。物理的にではなく勢力的に分かれていたんだが、その時両陣営の主力級を一人で殲滅したとか・・・」


「えと・・・どっちかの陣営に所属していたとかではなく?」


「あの人はそう言う面倒事は嫌がるタイプでな。協会に顔を出すたびにいちいち争い事を目にするのに嫌気がさしたらしく・・・それぞれの陣営がいがみ合ってるところに突っ込んでいって・・・」


「それで全員ぼっこぼこに・・・」


「私もその話は師匠から聞いただけだから実際に見てはいないが・・・それはもう恐ろしかったらしいぞ?」


日本支部の勢力が二つに分かれていたというのは康太も文も初耳だった。恐らくかなり前の事なのだろうが、当時の人間からすると智代は相当恐れられていただろう。


それぞれの勢力がどれほどの規模だったのかはわからないが、両陣営を一人で壊滅できるだけの実力があったというのはすさまじい。ワンマンアーミーとはよく言ったものである。


「でもよくよく考えると師匠とかを育てた人ですもんね・・・そりゃ強いわけだ・・・」


「私の師匠もそれなりに強いんだが・・・あの人でも十分もつかどうかというところらしい・・・恐ろしい人だよ」


エアリスの表情ははっきり言って顔色が悪いと言ってもいいレベルの状態になりつつある。これ以上小百合ファミリーの話をすると彼女の体調に関わると感じた康太は強引ながらに話を変えることにした。


「そう言えばエアリスさんのお師匠様ってどんな人なんですか?今まで何も聞いたことありませんでしたけど」


「話したことはなかったか・・・先も言ったが私の師匠はあいつの師匠である『アマリアヤメ』と旧知の仲でな。あの人ほど武闘派というわけではないが、知識に関しては勝るとも劣らない。何よりあの人は争い事は不向きでな」


「あぁ・・・そう言えばうちの方はめっちゃ好戦的でしたね・・・よくそんな人と仲良くなれましたね・・・」


「真逆の人間に惹かれるという事なのかもしれないな。私の師匠は知識に長け、あいつの師匠は戦いに長けていた。その為二人が組んで行動した際は負けなしだったという・・・」


「へぇ・・・今は何をしてるんです?」


「そちらと同様すでに隠居している。まぁあの人の事だ、海外旅行などを楽しんでいるだろうな」


智代が実家で穏やかな暮らしをしているのとは対照的に、どうやらエアリスの師匠は随分と行動的な人物のようだ。


海外旅行などという行動をとれるだけ元気があるというのはよいことなのだろうが、先程の紹介文とは随分と異なる一面な気がする。


「文は?その人に会ったことあるのか?」


「一度だけね、しかも子供の頃よ?確か小学校の六年の時だったかな・・・?それ以来ずっとあってないわ」


「まぁあの人の行き先は私にもわからないからな・・・私も数年会っていない。たまに電話をよこすあたり生きてはいるのだがな・・・」


「・・・会ってみたいような会ってみたくないような・・・」


康太としてはエアリスの師匠というものに興味があったが、その人が今どこにいるのかわからないのでは仕方がない。


それよりも智代の旧知の仲であるというのが気になった。


「昔からの知り合いだったってことは、師匠もその人のことは知ってるんですか?」


「あぁ知っているぞ・・・まぁあいつは師匠のことを苦手としていたがな」


「へぇ・・・そうなんですか?」


「あいつは直接愛情を向けられるのが苦手だろう?私の師匠は・・・なんというか、本当に私達を良く指導してくれた。本当に・・・良くも悪くも大事にしてくれたよ」


智代たちが厳しく、そして強烈な指導をするのとは裏腹に、エアリスの師匠は非常に優しく、穏やかに小百合とエアリスの二人に接したらしい。


それこそ、実の娘と同じか、それ以上に。


それがどういう意味を持つのか、小百合はうまく理解できなかったのだ。


師匠とは厳しくあるもの。指導とは苦しいもの。修業とは酷なもの。


そう言う認識でいた小百合にとって、エアリスの師匠の指導は異質すぎるものだっただろう。


かつて康太が小百合の指導こそが当たり前だと思っていたように、小百合もまた智代たちの指導が当たり前だと思っていたのだ。


康太はまだ先入観の薄い状態でエアリスという存在に出会えたからまだいい。だが小百合は出会い、なおかつ指導を受け考え方を改めるには少々遅すぎた。


だからこそ、エアリスの師匠のする穏やかかつ優しい指導がどうしても受け入れられなかった。いや納得できなかったと言ったほうが正しい。


その為、小百合はエアリスの師匠を苦手としていたのだとか。


「協会内での師匠の立場はあいつの師匠と似たようなものだが・・・どちらかというと師匠は穏健派、争いを好まないために情報によって味方を増やしていた。そう言う意味では何もかもそちらとは異なるな」


「うちの血統は武力派、エアリスさんの所は知略派。なんというかわかりやすいけど・・・っていうかそこまで長い付き合いでしかもそれぞれ交流があったとは・・・」


「・・・私たちが今こうしてるのもなんだか納得な感じですね」


「因果というべきか・・・それとも縁とでもいえばいいのか。確かに何かしらの意図は感じられるな。だが勘違いするな。今の関係を作り出したのは他でもないお前達だ。どこの誰のせいでも、誰かの思惑でもない」


エアリスの言葉を受け、康太と文は互いの顔を見合わせる。


康太が文と同盟を組んだのはその場の流れと彼女なら信頼できると感じたからだ。そこに何者かの介入はない。ただ単に康太の気分と言い換えてもいいだろう。


文が康太と同盟を組んだのは、自分の成長のためと康太が信頼できる人物だと確信を持ったからだ。自分で考えて自分で決めたこと、誰かにそそのかされたわけでも、誰かに助言されたわけでもない。


「それで、エアリスさんの師匠の術師名って何なんですか?もし会う事があったら挨拶くらいしておきたいんですけど」


「あぁ忘れていた、そうだな、会う事があったら少し昔話でも聞いてやってくれ。その方があの人も喜ぶだろう」


出会えるかどうかはわからないがなと付け足しながら、エアリスはその名前を口にした、自分の師匠であり、智代の旧知の仲でもあるその人物の術師名を。


「あの人の術師名は『カガノリノメ』だ。出会えたらよろしく言っておいてくれ」


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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