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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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魔術師の事情

「なるほど、夏休みの魔術師の行動についてか・・・」


翌日、康太は文と共に久しぶりにエアリスの所に顔を出していた。久しぶりにエアリスの所に顔を出したという事もあって、彼女は快く迎えてくれた。試験中はほとんどこられなかったために彼女自身物足りなさを覚えていたのかもしれない。


そしてそんなエアリスに康太は昨日小百合と話したことを聞いていた。


夏休みにおいて魔術師たちがどのような行動をするのか。そして魔術師が休みを返上してまで活動するだけの理由があるのか。


康太の疑問に対してエアリスは妙に悩んでいた。彼女が一体どのような仕事をしているのかはさておき、彼女には明確に夏休みというものくらいあるだろう。半フリーターの小百合と違って。


「確かに魔術師は夏休みに精力的に活動する者が多い。魔術師のほとんどが社会人だからというのも理由の一つだろう。大々的に数日間連休を取れる機会というのはそうそうないことだからな」


「でもそれなら五月のゴールデンウィークとかもそれなりに長いんじゃないですか?」


「社会人にとってゴールデンウィークは休めるか休めないかがはっきり分かれるからな。むしろゴールデンウィークが掻き入れ時というところもある。もちろんそれは夏も同様だが夏に関しては休みを与えなければいけないというルールがある。そのおかげもあって休むものが多い。そうすると必然的に魔術師も活動できる時間が増える」


現在存在する魔術師で、実際に魔術師として活動しているもののほとんどは社会人だ。学生の魔術師ももちろんいるがそう言った魔術師は基本的にまだ未熟なものがほとんどで精力的に活動しているわけではない。


夏休みはそう言った自由時間のない社会人にとって魔術師として時間を確保できる貴重な日なのだ。


中には数か月以上前から夏休みに向けて調整や準備をしている者もいるだろう。


「じゃあやっぱり魔術師の活動が一番活発になるのは夏なんですか?」


「ん・・・一番というのは正確ではないな・・・実は一番忙しくなるのは年度が替わるときなんだ」


「え?どうして?」


「魔術師としての活動と言って良いかはわからないが、協会に所属している魔術師は年に一度必ず協会に一年の活動報告やらをしなければならない。日本中にいる魔術師が集まって報告をするんだ。人数の問題もあって数週間にわたって行われるがな」


「へぇ・・・あれ?でも師匠はそんなことやってなかったような・・・」


康太が魔術師になったのは今年の二月だ。年度が変わるときと言えば三月から四月にかけての事だが師匠である小百合はそんなことをしていなかったように思える。


というか協会に行っていたことがあったかも怪しい。


というか小百合がいちいちそう言った報告を協会にするとは思えない。もしかしたら代わりに真理にやらせていたのだろうかと自分の兄弟子の不憫さを思いながら複雑な表情をしていると、エアリスもそれを察したのか小さくため息をついて首を横に振る。


「あいつは少々特殊だ。あいつに敵が多いことは君も知っていると思うが、そのせいもあって魔術師が集まるときにあいつを呼ぶと確実に面倒なことになる。だからあいつだけスケジュールを変えているんだ」


「へぇ・・・師匠がそんな特別待遇を受けていたとは・・・」


「マイナス方面での待遇だ。決していいものではない。真似しようと思わないようにな」


「いや、真似しようと思ってできる事でもないと思いますけど・・・」


小百合の敵の多さは彼女自身の性格が起因しているように思う。その為真似しようと思ってできるものでもない。


というかあんな風に生きたいとも思わないしあれを真似しようとしたら多大なストレスがかかるだろう。そんなことにはなりたくなかった。


「あれ?でも俺年度が替わるときに報告とかしてませんよ?一応二月から魔術師になったんですし必要なんじゃ・・・?」


「弟子の管理は基本的に師匠がするものだ。君の場合はジョアがやっている可能性も否めないが、恐らく二人のどちらかがすでにやっているか・・・あるいは来年度に持ち越しになるだろう。実際君がやったことと言ったら修業くらいだろう?」


「えー・・・まぁそうですね・・・」


初めて魔術協会に顔を出しに行ったときに盛大にやらかしているとは口が裂けても言えない。


何の物資だったのかは知らないが天井につるしてあった巨大なコンテナもどきを思い切りゴーレムめがけて叩き付けたことを康太はまだ覚えていた。


今にして思えばかなり無茶苦茶なことをしたなと今さらながら昔の自分の行動力に驚きを隠せなかった。


だが確かに康太が二月から三月にかけたやったことと言えばその程度だ。思えば魔術師として登録に行ったときに小百合が面倒事に巻き込まれた、というかほぼ一方的に絡まれたのはそういう事情があったのかもしれない。


どちらにせよ巻き込まれた側としては面倒なことこの上ないのだが。


「本来ならそう言った魔術師たちが集まる場所というのはある意味交流を持ついい機会だし、何よりいろいろな出会いの場でもある。積極的に利用するべきなのだろうが・・・君の場合は事情が事情だからな・・・」


「事情っていうか主に師匠の問題ですけどね」


康太は基本的に魔術協会の支部に自分から足を運ぶことはない。特にこれと言ってやることがないからというのもある。今は奏の所に行くという事もあって魔術協会にある門を使わせてもらっている程度だ。


だが小百合という問題児の弟子という時点であまりいい表情はされていないだろう。真理のように人脈を築くまでには恐らく何年もかかる。それまでは肩身の狭い生活を強いられそうだった。


「っと、話がずれたな。とにかく魔術師がそれぞれそれなりに忙しく動くのが夏休みだ。勤め先によってその日程は変わるだろうが八月から九月にかけては忙しくなるだろう。必然的に面倒に巻き込まれることも増えるだろうな」


「あぁ・・・だから師匠は二回は巻き込まれるって言ってたのか」


「あいつまたそんなことを・・・だが八月で二回ならまだいい方だろう。あいつは最近魔術師の活動は自粛しているようだしな」


「え?そうなんですか?」


毎日訓練してちゃぶ台のそばでダラダラする。それが小百合のライフスタイルだと思っていたのだがどうやらそうではないらしい。


最近魔術師としてやった活動と言えば商談くらいのものだ。今までの活動内容がデフォルトだと思っていたためにあれが魔術師として普通くらいに思っていたのである。


「以前のあいつ・・・特に君の兄弟子がある程度一人前になってからは精力的に活動していた。君が弟子になったから多少自重しているんだろう」


「そうだったんだ・・・多少は気を使ってくれてるのかな・・・?」


「もしかしたらただ単に仕事を終えた可能性もあるがな・・・どちらにせよ敵が多いことには変わりない。一ヶ月に数度ならあいつとしてはいい方だろう」


「前は一体どんなんだったんですか・・・」


最近小百合が面倒に巻き込まれる頻度が減ったのは偏に康太との訓練の事もあって基本あの店に引きこもっているのが一つの原因だったのだろう。


逆に言えば彼女が表に出る=面倒事に巻き込まれるという事でもある。


犬も歩けば棒に当たるではないが、小百合が外を歩けば面倒事がやってくるという事だ。


やっぱりあの人の面倒事を引き寄せる体質はすさまじいものがあるなと康太は戦慄しながら腕を組んでいた。


「それに八月となれば、恐らくあいつの所にも何かしら依頼が入るだろう。どんなものかはわからんが」


「依頼って・・・また商談とかですか?」


「いや、商談ではなくあいつの魔術師としての実力を買っての協会からの依頼だ。良くも悪くもあいつは実力だけはあるからな。魔術師が活動的に動けば当然問題も発生する。そう言った問題を解決するためにあいつの力が必要な場合があるんだ」


「へぇ・・・師匠が必要ってことは・・・破壊活動ですか?」


「まぁ間違っていないが・・・その言い方は若干語弊があるような・・・」


小百合が他の魔術師よりも優れている点と言えば破壊に関係する魔術に精通しているという事だ。


智代から教わった破壊に関する魔術のほとんどを修得した小百合は、魔術師協会の日本支部の中で右に出るものはいないと言われるほどに破壊に特化している。


そう言う関係で小百合にしか破壊できないものを何とかするために協会は渋々小百合に頼むのだろう。


「でも魔術師がたくさん活動するってことは協会の人間もそれなりに動くんですよね?そう言う人達だけで対処できないんですか?」


「協会専属の魔術師と、それ以外の一般的な魔術師、どちらが多いかと言われると後者の方が圧倒的に多い。監督や監視くらいならできるだろうが解決となると難しいだろうな」


ほとんどの状況に言えることだが、何かをやろうとする場合人数が多ければ多い程汎用性や対応力が増えていく。


それはその状況に割ける人員という問題もあるだろうが、そこにいる人間の技術的な問題も含まれている。


人数が多い程有事の際は対応しやすいのだが、協会の人間の数は所属魔術数を大きく下回っているのだろう。


だからこそ専属の魔術師ではない小百合が駆り出されるような状況にもなってしまう。可能ならそう言う手は使いたくないだろうに、なかなかうまくいかないものだ。


「ってことはエアリスさんも仕事を任されたりするんですか?」


「あぁ、時間に余裕があるときは割と任されるな・・・もちろん私だって魔術師の一人だ。休日に活動をしたいという気持ちはあるからどちらかというとそっち優先になってしまうがな」


「へぇ・・・でも師匠がもし自分の方を優先するっていって協会からの依頼を断ったらどうするんです?」


「それはまずない。あいつは普段からして協会にいろいろと迷惑をかけているからな。そう言う時にでも清算をしておかないといろいろと面倒になる。何よりあいつ・・・支部長から直接話を通してくるからな」


支部長から直接。


康太はまだ数回しかあったことがないが小百合とエアリスは日本支部の支部長のことを昔からよく知っているようだった。


なるほど、知り合いから直接話を持ってくれば断りにくい上に個人的な交渉もできるという事だろう。


支部長と直接知り合いというのは良い意味でも悪い意味でもいろいろと都合をつけられるという事だ。


実際康太もいろんな意味で支部長には便宜を図ってもらっている。特に康太の評価に関しては色を付けてもらっている状況だ。


位の高い人間とのかかわりはいい意味でも悪い意味でもいろいろとできるという事でもある。


「・・・ちなみに師匠って協会の評価どれくらいなんですか?」


「マイナスだ。基本的にはな」


基本的にマイナス。やはり小百合はいろんな意味で問題児扱いなのだなと康太は眉をひそめる。今さらながら小百合の弟子になったことを若干後悔するほどである。


「ていうか康太、あんた今から夏休みの心配なんてしてるわけ?」


康太とエアリスが話している間魔導書を探していた文がゆっくりとこちらに戻ってくる。蔵書量が多いために探すのも一苦労なのだ。


最近は新しい魔術でも修得しようとしているのか、特に魔導書を探す時間が長い気がする。


「だって夏休みって言ったら一年で一番長い休みだろ?そりゃいろいろと気になるってもんだろ」


「まぁ気持ちはわかるけど・・・あんたの場合今から心配してたってたぶん何も変わらないわよ?結局小百合さんに振り回されて終わるって感じ」


「・・・否定できないのが嫌なところだな・・・」


文はまだ康太と、いや小百合と行動を共にしたのも数える程度だが、小百合の傍若無人っぷりは身に染みている。


彼女がどのような性格をしていてどのようなことを考えていて、どのような体質なのかもきちんと理解していた。


だからきっとこれからもずっと康太は小百合に振り回されることになるのだろうなと思ったのだ。そしてそれは良くも悪くも間違っていない。


「でもその場合はお前も道連れだ、夏休みに一人でのんびりできると思うなよ?」


「はぁ!?何で私が?あんたと同盟は確かに組んでるけど小百合さんがもってくる面倒事にまで巻き込まれるのはごめんよ?」


「ふははは・・・一人だけのんびりしているなんて誰が認めるものか・・・いろいろ理由を付けて絶対に巻き込んでやる・・・!」


「うっわサイテー・・・何でこんなのと同盟組んじゃったのかしら・・・」


康太と文がそんなやり取りをしているのをエアリスは遠い目をしながら眺めていた。それは何かを思い出すようで、懐かしむようで何とも複雑な表情をしている。


だが不意に二人に視線を戻すと薄く笑って見せた。


「ん?エアリスさん、どうかしましたか?やっぱ文を巻き込むのはよろしくないですか?」


「師匠からも何か言ってくださいよ、小百合さんの面倒にいちいち関わってたら身がもたないです」


「ん・・・いやなに、昔のことを思い出していただけだ。それよりも文、面倒事というのは確かに厄介ではあるがそれをこなした後には経験という形の財産になる。若いうちの苦労は買ってでもというだろう?」


「それは・・・そうかもしれませんけど・・・」


「それより、昔の事って?」


文は不満そうだったが康太はそのことよりもエアリスが昔のことを思い出しているということに興味を抱いていた。


彼女のしている複雑そうな表情からしてあまりいいことではないのかもしれないがそれでも気になってしまうことに変わりはない。


「・・・大したことじゃない・・・私も昔あのバカに何度も面倒事に付き合わされたというだけの話だ」


「・・・ひょっとして師匠にですか?」


「他に誰がいる?あいつとは昔からの付き合いだからな・・・何回も何回も面倒事を持ってきて強引に巻き込んで・・・そう言うところは昔から全く変わっていない・・・」


忌々しそうに眉間を押さえながらため息をつくエアリスを見た後康太と文は顔を見合わせてしまった。


やはり小百合とエアリスは昔からの知り合いなのだなと思いながらも、先程の康太と文のやり取りがかつての二人のやり取りと似ていたのだろう。


もしかしてもしかすると。そんな疑念が尽きない中康太はその疑念を口にした。


「もしかして俺と文の関係が師匠とエアリスさんのそれになりつつある?」


「・・・ひょっとしてこれからずっと面倒に巻き込まれ続けるの?」


「いやそれはないだろう。何より私はあいつとはお前達の年代よりも前からの付き合いだ。それにそもそもの原因があいつである以上、二人が一人前になればおのずとただの同盟関係になる。そのあたりは心配しなくていい」


康太と文の関係が将来的に小百合とエアリスのそれと似通うのではないかと心配していた二人だが、どうやらエアリス本人はそこまで心配はしていないようだった。


そう言われてみると確かに今までの面倒事は今のところすべて小百合が持ち込んだことだ。間接的に小百合が原因になったこともあるが、結局のところ小百合が問題となっていることに変わりはない。


康太が一人前になり、小百合との関係性が薄くなれば必然的に面倒が襲い掛かってくることも少なくなる可能性がある。そうなれば文と康太の関係も改善されていくだろう。


「でも師匠とエアリスさんって昔から仲悪かったんですよね?なのに何でそんなに長く一緒にいたんです?」


「話したことはなかったか?私の師匠とあいつの師匠は仲が良くてな・・・昔はよく一緒に修業したものだ・・・あまり思い出したくないがな・・・」


「へぇ・・・あぁそう言えばこの前師匠のお師匠様にあってきましたよ。あと師匠の兄弟弟子の方々とも」


「あぁそんな事言ってたわね。えっと、片方はまともで片方はえげつないんだっけ?」


「・・・あのお二方と会ったのか・・・そうか・・・それは気の毒に・・・」


「え?エアリスさんもあの二人のこと知ってるんですか?」


奏と幸彦のことをエアリスが知っていたという事は別段驚きはしなかった。


小百合の昔からの知り合いという事もあってある程度予想はできていたし、何よりきっとそのくらいなら知っているだろうなとは思っていたのだ。


エアリスは小百合の事は大抵知っている。敵対しているというより敵視しているからこそそう言った事情に詳しいのだ。


日曜日、そして誤字報告を五件分受けたので三回分投稿


怒涛の誤字ラッシュにちょっとビビってしまいました。こんなに誤字が来るのは久しぶりだなとちょっと感慨深かったり


これからもお楽しみいただければ幸いです

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