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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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社会における普通

「そう言えば師匠、俺こういう道具の仕入先ってまったく知らないんですけど、こういうのってどこが作ってるんです?」


「・・・どこが、というのは正確ではないな。こういうのはそれぞれ作る人間が決まっている。大企業などが大手を振って作っているわけではないんだぞ?」


「あそっか・・・え?じゃあ職人さんみたいなのが作ってるのを仕入れてるってことですか?」


この店にある魔術道具は当然だがほとんどが魔術師が使うためのものばかりだ。つまりは大企業や大型量販店のそれのように工場で大量生産するというわけにはいかないのである。


物によってはそれに近い製法で個人的に作れるということもあるかもしれないがほとんどのものは魔術師たちが自らの手で作ったものばかりらしい。


「まぁそう言う事だな。魔術師にもいろいろ種類がいる。それを作ることを専門にして代々続いてきた系列もある。私は・・・いや私の師匠はそう言った系列の人間に接触して流通ルートを確保したんだ。今度お前もつれていってやる」


「ちなみにやっぱそう言う人達って職人気質な感じですか?」


「そうだな・・・大抵の人間は専門職のそれに近いかもしれん。道具やらは職人気質なやつが多いが薬に関してはインテリなやつが多いな。どちらにせよ変人が多い」


それを師匠が言いますかといいかけたが、康太はとりあえずその言葉を口内で留める。口に出せば確実に拳が飛んできただろう。平和な雑談に暴力など似あわない、何より康太は殴られたくない。


「変人っていったって魔術師だって人間ですよね?そこまで変な人はいないんじゃないですか?普通に人として生活できてるわけですし」


「まぁそれは間違っていないんだがな・・・魔術師というのは良くも悪くも二面性を持っている。普段は真面目な公務員が魔術師の顔になると一気に残虐になる可能性だってあるんだ。正常な人間が狂気を隠し持っていても何ら不思議ではないだろう?」


私だって昔銀行で勤めていたしなと言いながら小百合は書類を書く手を止めて一息つこうとしていた。


康太はとりあえず台所から湯呑と急須、そしてせんべいを取り出して一息つけるだけの状態にしてやることにした。


仕事をしている人間をねぎらうのは当然だ。何より康太にだって師匠を敬うという気持ちがひとかけら程度はあるのだ。


「じゃあ普通の人でもまともかどうかなんてわからないと?」


「逆に聞くが、何故一般人は『普通の人』が多いと思う?いや正確には普通の人に見えると思う?」


「え?そりゃ・・・変な人だと白い目で見られるからですか?」


康太の言葉に小百合はその通りだと言いながら康太が入れた茶の入った湯呑を傾ける。


淹れたばかりのため熱いと思ったのだが小百合は特に気にした様子もなく口内に湯気の立つ茶を入れていった。


「現代社会に生きる上で他人とのコミュニケーションはまさに生命線と言ってもいい。逆に言えばそれができない人間は排斥されていく。良くも悪くも多くの人間を長らえさせているのはそう言ったコミュニケーションがあってこそ成り立つ社会の仕組みだ」


生き物というのは自らを、いや自分と同じ種を存続させるためにいろいろな手段を使う。


例えば多くの子供を残そうとしたり、同じ種族のもので固まって生活をしたり、時には他の生物を利用することでより効率よく生きようとしたり。


人間も一種の生き物であることに変わりはない。生き物がコロニーと呼ばれる群れを作るように、人間は多くの人々で集まり、関係を保ち、それぞれが何かしらの役割を担うという形をとって今の社会を形成した。


それは一人によって成り立つものではない。多くの人間によって成り立つものであり一人の意志によって変化するようなものでは決してない。


だからこそ今まで人間の社会というものは良くも悪くも存続してきた。多くの人間が介在しているからこそ動きにくい、変化しにくい、ある意味不変的なもの。だが決して同じではない矛盾を孕んだ社会。


そう言った社会になじむことができない者も当然出てくるだろう。だが人間をただの生き物としてとらえるならそれはそれで生きられない弱い種だったという言葉で片付けられるかもしれない。


だが人間というのは良くも悪くもただの生き物とは違う。何故ならただの生き物と違い意志を持ち言葉を持ち、高度な知識を有しているからだ。


大抵の種族は身体的な強さで強弱が決まるが、人間の場合は違う。特に今の社会においては偏に体の強さだけが本当の意味での『強さ』ではないのだ。


「人間というのは狡猾だ。その狡猾さは時に臆病さや慎重さになってそれぞれに作用する。例えば普段は真面目で普通の人間を演じると言った、ある意味『擬態』して生きている者もいるだろう」


擬態というのは特に虫などにみられる周囲へのカムフラージュの事だ。周囲の景色と同化するように自らの姿を作ることで外敵から身を守る。


人間以外の生き物の外見的な擬態と違い、人間は内面を、正確には外に見せる内面を偽装する。


それは容易なことではないかもしれないができないことはない。それに慣れてしまえさえすればいつでも内外を切り替えることができるだろう。それこそスイッチを切り替えるがごとく。


「一般人は自分を外敵から守るために、周りに見せる自分の本質を擬態する。そうしなければ自分が淘汰されると気づいているからだ。それに気づけなかった奴らは当然外敵からの攻撃を受ける。いや天敵というべきか?」


「・・・人間の天敵って?」


「人間以外にいるか?互いに競争し、潰し合い、食い物にする。これを天敵と言わずしてなんという」


時に協力することもあれど基本は他人同士。どうしても頼れない時や利害が不一致する際は敵同士。


そう言う意味では小百合のいう人間の天敵は人間というのは非常に正しく思えてくる。


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